女子テニスの元世界ランキング1位、ロシアのマリア・シャラポワ選手(32)が、26日、現役引退を表明した。

モデルも務めたその美貌と、1メートル88センチの長身を生かした華麗なプレーから、「妖精」「女神」と称され脚光を浴びた。だが一方で、長年肩の痛みに悩まされ、2016年にはドーピング違反により1年3ヵ月に及ぶ資格停止処分に。17年4月に復帰後は、ケガに苦しんでいた。

14歳でプロデビューし、2004年には17歳の若さでウィンブルドン選手権を制して四大大会初優勝。2005年には、ロシアの女子選手として初めて世界ランキング1位となり、四大大会で5度の優勝を飾った。

フジテレビュー!!では、「Number web」での執筆など、1999年以降のすべてのグランドスラムを取材し、長年に渡ってシャラポワ選手を取材してきた、テニスライター・山口奈緒美さんに、その素顔に迫るべく話を聞いた。

2020年2月11日、ニューヨークで撮影されたシャラポワ選手 (Photo by Jose Perez/Bauer-Griffin/GC Images)

美貌を称えられるだけでは満足しなかった、生まれ持ってのファイター気質

2004年、ウィンブルドン初制覇を果たし、同年のジャパンオープン(優勝)に出場するために来日したとき、日本は大フィーバーに。容姿端麗なシャラポワ選手はどこにいても目を引いたが、その頃「コートの中でメールをしている」ことが話題になった。

実はこれ、携帯電話会社と3年5億円という契約をしたシャラポワ選手のパフォーマンスだったという。

「今でこそ、大坂なおみ選手が契約するブランドのヘッドフォンをして登場したり、スポンサードを受けている企業の商品をさりげなくアピールすることは一般的となっていますが、とにかくシャラポワがやるとインパクトが強かったですね。何をやっても画になる人だったので」と山口さん。

また「生まれつきのファイター」と本人が語っていたように、シャラポワ選手といえば、コート上で雄たけびをあげる姿も印象的。

山口さんは、「あの美貌とうなり声のギャップですよね(笑)。プレースタイルの激しさ、『絶対に最後まであきらめない』というファイティングスピリットは、誰よりも持っていたと思います。普通、あれだけ綺麗だと、ちやほやされて肝心のテニスがダメになっちゃうものなんですが」と語る。

シャラポワ選手は、ただその美貌を称えられるだけでは満足しなかった。 彼女の両親は、シャラポワを妊娠中、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故から逃げるため、シベリアに移住。

父ユーリさんは仕事を求め転々とし、7歳でテニスのために米国に移住した際の所持金は、700ドルだったことは有名な話。当初、母エレナさんとは、離れ離れの生活だった。

山口さんは「東側の国では『スポーツの才能は、西へのパスポート』と言われていた時代に、シャラポワは、テニスのクリニックでマルチナ・ナブラチロワに見出されアメリカ行きを勧められ、家族の夢も背負って渡米した。そういう生い立ちもあって、『ナンバーワンになりたい』という強い気持ちは、子どもの頃からずっと持ち続けていたと思いますね」と語る。

さらに、 スター選手になっていく中で、同郷の選手とでさえ、それほど一緒にいる姿を見せなかったという。「選手間での友だち付き合いを、自分の方からしていくタイプではなかったようですね。闘争心も激しかったですし」と、14歳からシャラポワ選手を見ているという山口さんは振り返る。

それでも「ものすごい忙しさの中でも、メディアに対しては、とても真摯(しんし)で、嫌なことを聞かれてもうまくジョークで返したり、一生懸命対応してくれた」と明かす。

テニス界屈指のスター選手となり、周囲の環境が変化していく中でも、シャラポワ選手は、“変わらない自分”も持ち合わせていたという。その証が、4際のときに両親からからプレゼントされ、以来ずっとつけているというペンダント(下のInstagramの写真でも着用)だ。

山口さんが「見た目よりも、中身はずっと地味な人だったのかもしれません」と語るように、シャラポワ選手の中に、環境が変わっても決して“染まらない何か”を見た人は多いかもしれない。

「 あんまり恋愛で幸せそうなイメージがない(笑)。今後は女性としての幸せを」

今回の引退表明を受けて、山口さんはシャラポワ選手について「強さ、華やかさ、美しさ…プロの女子アスリートの理想を全部まとめたみたいな(笑)。面白い人でした。ああいう容姿でありながら、あの激しさ。プレーがやっぱり面白かった。だからこそ頂点に立てたんだと思います」としみじみと話す。

また、シャラポワ選手は、以前から「子どもがほしい。家族を作るのが夢だ」と語っていたそう。

山口さんは「あんまり恋愛で幸せそうなイメージがない(笑)。ここまでテニスプレーヤーとして花開いたので、これからは女性として。プロデュースしているスイーツブランド( 「SUGARPOVA(シュガポワ)」 )もありますし、ファッションモデルであり、チャリティにも関心が高い…そんな彼女のまた新しい顏を見てみたいですね」とエールを送った。

シャラポワ選手は、引退報道のあと、自身のインスタグラムを更新した。

そこで「テニスは自分自身を試し、自分の成長をはかるための手段でもあった。だから、次のステージ、次の山に何を選ぶにせよ、わたしは前進し、登り続ける。そして成長し続ける(抜粋)」と綴っている。