日本のドラマで初めて腫瘍内科にスポットを当てたフジテレビ『アライブ がん専門医のカルテ』が現在、毎週木曜日22時から放送中。
腫瘍内科とは、2人に1人が生涯のうちにかかると言われているがんに特化した診療科で、すべてのがんを扱うスペシャリスト。腫瘍内科と外科の2人の女性医師を中心に、がん治療の最前線で闘う医師と患者、その家族の姿を真摯に描き、話題を呼んでいる。
9話の放送を終え、最終回まであと2回と迫る中、太田大プロデューサーをインタビュー。出演者の撮影現場での様子からこの作品への思い、これまでの反響、そして作品を通して伝えたいことを聞いた。
エンターテイメントとして、リアルを求めながらも視聴者の方に伝えたいことを意識して制作
――まずは、ドラマに対する反響をお聞かせください。
大変ありがたいことに、「とてもリアルに基づいた描写をしているね」というお褒めの言葉を多くいただいています。今作は、医療監修の先生方が常時5~6名(※)入ってくださっていることもあると思いますが、医療従事者と思われる方のSNSを見ていても「ビックリするほど現実に基づいているね」というような感想が多い印象です。
そして、番組の公式サイトには、がんで闘病中の方や経験者の方から多くコメントをいただいています。がんサバイバーの方が集える掲示板のような存在になっているのなら、我々にとってはとてもうれしいこと。コメント欄では「自分の闘病を思い出してツラくもなるけど、最後には勇気をもらえる」といった言葉を多くいただいています。
※全体の医療監修として1名、腫瘍内科企画協力として1名、腫瘍内科監修として3名の医師の他、ストーリーによって他の科の専門医が監修に入っている。
――リアルな部分を大事に制作しているからこその意見が多いということですね。
そうですね。ただ、リアルだけを求めてもドキュメンタリーには敵わないですし、そもそもドキュメンタリーではなく、ドラマというエンターテイメントを作っていますので、リアルを求めながらも、視聴者の方に何を伝えたいかを意識して制作しています。そんな中で、好意的なご意見を多くいただいているのでありがたいですね。
――今作を制作していく中で“気づき”はありましたか?
最初に髙野舞監督と企画を立ててから、先生方にいろいろと取材をして勉強をしていくうちに、がんという病気に対して学んだことが多くありました。
以前は「がんにかかってしまった」「長く入院する」という印象だったと思いますが、今は「共生する病気」という考え方に変わってきています。
最初の段階でその気づきをいただけたので、ゲストで登場する患者さんに関しては、「がんを罹患したショックを描く物語」ではなく、「がんとどう共に生きていくかを考える物語」を描こうと、髙野監督と話し合い、決めていました。1話からその思いに基づいて描いています。
民代の生き様を描くことで本当に伝えたかったこととは…
――患者さんを描く部分で言うと、民代(高畑淳子)の存在はドラマの中でも大きかったように思います。
当初から監督陣と脚本家の倉光泰子さんと、このドラマのどこかしらできちんと“看取り”を描こうという話をしていました。
ゲストで描こうと考えた時期もあります。でも、1話からずっと人生を見てきた民代さんのほうが、ドラマを見てくださる方も感情移入しやすいだろうと考えるようになりました。
もちろん、レギュラーのキャラクターの最期を描くことがショックに繋がってしまわないかという懸念もありました。しかし、それは逃げでしかないかなと思い直し、民代さんで看取りを描くことに決めました。
ただ、「亡くなって悲しい」という感情にはしたくなくて、みんなで人生を祝う形で終わらせたかったので、9話の描き方になっています。
闘病中の方や、死を恐れる方のお気持ちは、その立場にならないと到底計り知ることができません。ですが、ドラマの中で民代さんの人生を描いた時に「あんなふうに人生をまっとうできるなら、何も恐れることはないかもしれない」と、少しでも思っていただけるキッカケになっていたらいいな、と思います。
――8話で民代さんが旅行に行ってしまった時は、驚きました。
「私は旅立つのよ」という姿はカッコよかったし、あのまま終わらせることもできましたが、民代さんのやりたかったことをやり切ろうとする姿を描きたかったんですよね。
きっと、彼女のようにやりたいことをやり尽くすことは、みんなができるわけじゃない。あんなに常に前向きに生きることは簡単なことではないと思いますし。でも、その生き様に希望を感じていただけるかなと思ったので、彼女の最期までを描きました。ポジティブな方向に受け取ってもらえていたらうれしいです。
――莉子(小川紗良)が葛藤を経て、今後どうなっていくのかも気になるところですね。
莉子というキャラクターは、見ている方がもしがんになってしまったら…という時の“How to”部分を担ってもらうために登場させています。がんに対する知識がない中で突然告知されて、そこからどう向き合っていけばいいのかということを描くために、全編を通して出ていただこうというのが始まりでした。
莉子ちゃんは、劇中で一番成長を遂げるキャラクター。9話でフリーペーパーの編集長でがん患者の小山内静(山田真歩)と出会いましたが、これがキッカケで彼女は“生きがい”を見つけます。
がんにかかったことで、図らずも進むべき道が見えてくる。彼女が周りに支えられながら希望や強さを手にして生きていく姿を最後まで描いていきたいと思っています。
木下の“理想の上司”役は最後まで続くのか…
――物語も撮影も終盤ではありますが、心を演じる松下奈緒さんと薫を演じる木村佳乃さんは、どのように撮影に臨まれていますか?
迷いがなく、突き進んでいらっしゃいますね。撮影に入る前も入ってからも、お2人とは常にお話をさせていただいていました。お2人がそれぞれのキャラクターをご自身にしっかり落とし込んでいらっしゃいますし、前進あるのみです。
――腫瘍内科の面々も話数を重ねるごとにチームワークが増しているように見えます。
医局では、カンファレンスをしているシーンと、仕事の合間の医局員たちの何気ない会話をしているシーンの大きく分けて2種類があります。
後者は、ドラマの中で、心の自宅での京太郎(北大路欣也)と漣(桑名愛斗)のほっこりしたシーンと同じ意味を持つシーンですから、キャストの皆さんも自然と心を通わせているのではないでしょうか。
とくに、藤井隆さんと木下ほうかさんがムードメーカーになってくださっています。
――木下さんと言えば、放送前の完成披露試写会の際に「最後まで理想の上司のままでいられるか…」と、自身がよく悪役を演じられることを自虐されていましたがどうなるのでしょう?
実は、あの舞台挨拶のあとに木下さんに確認したんです。「やはり、悪役のほうがいいですか?」と。「押すな、押すな(本当は押して)」の発言なのかと思いまして(笑)。そうしたら、「振りじゃないから(笑)」とおっしゃられて。もちろん、悪役にするつもりはもともとまったくありませんでしたが、最後まで“理想の上司”として皆さんを見守っていただきたいという思いを強めました。
木下さんは言葉遣いや物腰が柔らかくて、温かい方。だから、“いい人”を演じていただくと、よりステキだなと感じています。
そんな木下さんが演じている阿久津部長は、このドラマの企画段階から協力してくださっている先生をモデルにしました。日本で腫瘍内科を発展させる運動をされている先生方のお1人で、ご本人同士も現場でお会いいただいていますが、木下さんは見事にトレースし、そこにオリジナリティーも加えてくださっています。
――最終回まであと2回となりました。今改めて伝えたいことなど、最後にお聞かせください。
「人生をまっとうする」「生きること」はどういうことなのか。最初に監督・脚本家とともに決めたこの企画の意図であり、ドラマタイトルの『アライブ』に込めた意味を、引き続き最後まで伝えていければと思っています。
9話に民代さんの「キャンサーギフト(がんになって得たもの)っていう言葉が嫌い。本当はがんにはなりたくなかった」というセリフがあります。でも、そんな言い方をしながら、「がんになったから得られたものもあった」と、心先生と薫先生との出会いを語っています。
病気にならないで済むなら、ならないほうがいい。でも、もしなった時に絶望ではない選択肢があるということが提示できたのであれば、このドラマを制作・放送した意義があったのかなと思います。そこを感じていただければありがたく思います。