次世代の歌舞伎界を担う俳優のひとりとして、将来が期待される中村橋之助。八代目中村芝翫の長男として生まれ、昨年はドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)に出演するなどジャンルを超えて、精力的に活動を行っている。

歌舞伎俳優としての思い、そして、橋之助を夢中にしてやまないあるモノへの憧れなど、24歳の素顔に迫った。

祖父や勘三郎の叔父の死で、歌舞伎俳優として生きていくことを決意しまし た

――橋之助さんは5歳で初めて舞台に立たれたそうですが、幼少期の思い出について聞かせてください。

父が出演している歌舞伎座へ行き、楽屋で先輩方に遊んでいただくことが当時は一番楽しかったんですが、そんな先輩方がいざ本番となり、舞台に立たれるととてもカッコいいんですよ。そんなところから歌舞伎を好きになっていきました。

――歌舞伎俳優としてやっていこうと決断をされたのはいつ頃ですか?

中3から高1にかけてです。2011年10月に祖父である先代の芝翫が亡くなりまして、翌11月には浅草で平成中村座のロングラン公演が始まりました。そこで初めて大人のお役をさせていただき、平成中村座チームのお芝居に対する向き合い方、チームの結束力を肌で感じて、父のようになりたいという気持ちが強くなったんです。

亡くなる前に祖父は病室で僕の手を取り、役者としてどう生きていくのかという話をしてくれまして、その時に祖父が泣いているのを初めて見たんです。翌年の12月には(中村)勘三郎の叔父も亡くなってしまい、僕はもっともっと歌舞伎の勉強をしなくてはと強く思いました。

――当時の平成中村座ロングラン公演を観劇しましたが、勘三郎さんをはじめ、皆さんの「中村座を盛り立てよう」という気迫のようなものを感じました。

歌舞伎には打ち上げがないんですが、勘三郎の叔父は初日と楽日に必ず食事に連れていってくれて、「今月、国生(橋之助の本名・くにお)はあそこがよかったよ。でも、あそこはもっと勉強をしないといけない」などとアドバイスをしてくれ、さらに「早く歌舞伎界の、そして、中村座の戦力になってくれよ」と僕のことを気にかけてくれていました。

嬉しかったのは、昨年11月に平成中村座の小倉城公演がありまして、そこで僕は「小笠原騒動」という演目に出演したんですが、前回、父がやった役を勘九郎の兄がやって、勘九郎の兄がやった役を僕がやらせていただいたんです。少しずつ戦力になれてきてるのかなって感激しましたね。

――橋之助さんが舞台に立つうえでのモチベーションとなっているものは何ですか?

僕は勘九郎の兄が大好きで、勘九郎の兄や父の芝居を見てはあんなふうになりたい、そして、先輩方がやっているお役を演じたいという思いが原動力となっています。

僕自身は古典が一番好きなんですけど、24歳では年齢的にまだまだ回ってこないお役もありまして、いざ、そのお役を演じるとなった時に自分がどれだけ引き出しを提示できるかは日々の勉強しだいなので、先輩のお芝居を見ることも意識しています。

――最近は「ONE PIECE」や「風の谷のナウシカ」などコミックやアニメの名作が歌舞伎作品として上演されていますが、そのあたりへの興味は…?

「コクーン歌舞伎」であったり、勘三郎の叔父やうちの父がやっていたような、古典にあるものを脚色で現代風にみせるというものに子どもの頃からふれてきたので、そんな作品で自分も勉強してみたいという思いがあります。

弟の福之助が「スーパー歌舞伎Ⅱ 新版オグリ」に出演したんですが、古典を勉強している時とはまた違った発見もあるようで、楽しんでいるみたいです。僕も機会があれば、ぜひ呼んでいただきたいですね。

宝塚は僕にとって“レノアハピネス”。半径30㎝の幸せなんです♡

名門・成駒屋の家に生まれ、さらに、中村家の長男として歌舞伎に対する真摯な姿勢を存分にのぞかせた橋之助だが、現在ハマっているものについて話題を振ったところ、態度も表情も一変。瞳をキラキラと輝かせながら、大きなジェスチャーを交えて、魅力を力説してくれた。

――橋之助さんが眼福だと感じるものは何ですか?

宝塚(歌劇団)です。ハマり出してまだ2年ほどなんですが、特にショーが好きで、眼福なのはなんといってもパレードですね。

――ブログでも拝見しましたが、相当ハマってるようですね。

(前のめりになり)、宝塚は“レノアハピネス”なんですよ。柔軟剤のCM、わかります?シャボン玉みたいなものに包まれて、すれ違った時にフワン…みたいな(笑)。あれなんです。レノアハピネスの空間にいられることが楽しくて、トリコになっています。

――ちなみに御贔屓は?

月組の珠城りょうさんと雪組の真彩希帆さんが好きなんですけど、真彩さんが10月に、珠城さんが来年2月に退団することが発表になったばかりでショックなんです。僕、初めてなんですよ。好きになった人が退団をするという経験。現実を受け入れられません…。

真彩さんの退団が発表されたのが2月17日の夜で、僕はその日、ナイターゴルフに行っていたんですが、スマホの通知でニュースを知って、膝から崩れ落ちたんです。ナイターゴルフって芝がビチョビチョなんですけど、緑色のズボンの膝が濃紺みたいな色になって、その後はゴルフどころじゃありませんでした。

車の中でも普段は必ず宝塚の音源を聴いてるんですが、2日ぐらい雪組を聴けませんでした。5日ぐらい経ってようやく退団会見のレポートを読みまして…ちょっと……イヤだなぁって…。

僕がそうやって落ち込んでいたら、友達が「宝塚を辞めたら、共演の可能性もあるよ」と言ってくれて、そういう考え方もありだなと。でも、僕、本当に好きな人には会いたくないんですよ。客席で観ていたいんです。

――劇場で男性の姿はかなり目立つと思うのですが…。

キャトルレーヴというグッズのショップがあるんですが、そこは天国なんですよ。レジで並んでいて、他の客様が「橋之助さん、宝塚お好きなんですね」と声をかけてくださるのはいいんですが、僕がブロマイドやDVDを持って並んでる時に、後ろのマダムから「あれ、橋之助よ。めっちゃ買ってる」とヒソヒソ言われるのが、このうえなく恥ずかしい。

でも、最近はここまで僕は好きなんだぞ、と開き直るようになってきました。だから、もうお茶会に行っても大丈夫なんじゃないかと。僕のまわりには宝塚好きがまったくいないので、Instagramを始めようかと思ってるんです。舞台の感想をお話したり、“ヅカ友”を作りたいなって。

――宝塚が歌舞伎のほうに影響してくることも?

僕は宝塚劇場の玄関を開ける前に花壇のところに橋之助を置いて、国生として観劇し、“乙女”を楽しんでいるんです。でも、母(三田寛子)から最近言われました。「ちょっと(宝塚の)テイストが入ってきてるから気をつけなさい」って。現代チックに近い作品に出演している時、目元にWラインを入れたのがバレてたみたいです(笑)。

年初めには「新春浅草歌舞伎」で「花の蘭平」という演目に出演したんですが、紐が伸びた烏帽子を持って、馬に見立てて踊る場面があったんですね。「シャンシャン(宝塚のフィナーレで持つ小道具)だ!」としか思えなくて、テンション上がりっぱなしでした(笑)。

宝塚が僕に与えてくれる幸福感を、歌舞伎のお客様にもお届けしたい

意外な素顔を見せてくれた橋之助には今後も続々、大舞台が控えているほか、大好きなミュージカルにも「興味はありますが、まずはボイストレーニングなど稽古を積んでから」と出演への意欲をのぞかせる。

少年の顔から精悍な青年の顔つきへ――。橋之助はこれから大好きな宝塚の大階段ならぬ、歌舞伎界の大階段を上っていくのだろう。

――橋之助さんの性格が徐々に伝わってきたところで、ご自身を自己分析するなら?

運動が大好きで、休日は家にいることがもったいないので外出します。何かにハマったらそれしか見えなくて、宝塚の前はアイドルに夢中になっていました。まわりから言われるのは「The 長男」みたいな性格だよねって。行動的で、好きなものはとことん突きつめる系男子です。

――お父様が主演されたNHK大河ドラマ『毛利元就』(97年)は三本の矢のお話が有名ですが、実際の中村三兄弟はどんな感じなんでしょう?

次男と僕は2歳しか違わないので子どもの頃は取っ組み合いのケンカもしましたけど、今でも時間があれば公園へ行ってキャッチボールをしています。三男は上の2人と違ってインドア派ですが、何かあったら3人で会議をしたり、地方公演で会えない時はグループLINEで会話をしたり、三本の矢のごとく結束は固いと思います。

――歌舞伎俳優として大事にしているのはどんなことですか?

最も大事なことはやはり、公演を観に来てよかったとお客様に思っていただけるように努めることですね。自分が楽しそうに演じていたら、お客様もそれを感じとって楽しい気持ちになってくださるでしょうし、気持ちよく踊っていればお客様にも気持ちよさが伝わる。

逆に、苦手な役や、この場面はちょっと自信がないなと思いながら舞台に立っていると、お客様にも不安が伝わってしまうと思うので、舞台に立つ時は気持ちよく、お稽古でやってきたことに自信を持って100%出そうと考えています。

――今後の目標を聞かせてください。

ホームグラウンドは歌舞伎なので、父や勘九郎の兄のような役者になり、歌舞伎界の戦力に、そして、成駒屋の一員として恥ずかしくない役者になることが目標です。男くさいレノアハピネスが出せるような役者になりたいです。

僕自身が宝塚を観てこれだけ幸せな気持ちを味わっているので、大好きな珠城さんや真彩さんが僕に与えてくださる幸福感を、歌舞伎のお客様にも与えられるような役者になれるよう、精進していきたいと思います。

撮影:河井彩美 ヘアメイク:伊東宏泰