新型コロナウイルス感染拡大による影響で、社会人一年目のみなさんの中には、入社式や新入社員研修など満足に経験できていない人が多いことだろう。

SNSでは、リモート入社式やオンライン研修、また新入社員同士でダンスリレー動画をアップした事例などが見られ、それぞれが工夫をしながら新生活に順応しようとしている様子がうかがえる。

しかし、政府による緊急事態宣言はさらに延長された。時期はすでに5月を迎え、新入社員はいつ“社会人デビュー”できるのか。

東日本大震災当時の全国の新入社員に読まれた「教科書」が再びヒット

そんな中、9年前に発売された書籍が再び注目を集めている。「入社1年目の教科書」(2011年・ダイヤモンド社刊)だ。

著者は「ライフネット生命保険会社」創業者の岩瀬大輔氏。社会人として必要な【50の指針】を説いている。

現在、今年度入社の新入社員向けの課題図書として配布する企業が急増しており、対昨年比で2.5倍以上の売上を記録しているという。

発売されたのは、東日本大震災が発生した直後。このときも、多くの企業が自宅待機を余儀なくされた新入社員に配布すべく、この本をまとめ買いをしたことがヒットの一因となったという。

「新入社員に読ませたい」そんな思いにさせるこの本は、一体どんな内容なのか?本書の冒頭は、社会人として心得ておきたい【仕事の3つの原則】から始まり、続けて岩瀬氏が自身の経験と考察を交えた【50の指針】が示されている。

【仕事の3つの原則】は、以下のとおり。

原則1「頼まれたことは、必ずやりきる」

新人のうちは、頭が良いとか優秀だとかはどうでもいい。必ずしも完璧でなくとも、頼んだことをとりあえず最後までやってくれる人には、また仕事を依頼しようと考えるものだ。

原則2「50点で構わないから早く出せ」

カンニングしてはいけない学校の試験とは違い、人の力を使うことは悪ではない。上司への提出は“ゴール”ではなく、むしろ最初の“フィードバック”をもらう機会だ。

原則3「つまらない仕事はない」

イチロー選手のように、世間で“一流”と呼ばれる本当の天才は、誰よりも基礎を練習する。一見単調な仕事でも、その意味と目的を知れば、面白くすることができる。もしコピー取りを頼まれたら、その資料を全部読んでしまうことで自分の知らない案件の情報に触れることだってできる。

新入社員だけでなく、先輩社会人読者からも寄せられた反響

SNSや書籍のレビューサイト上には、「入社1年目の教科書」の読者とみられるユーザーから多くの感想が寄せられている。

新入社員とみられるユーザーだけでなく、若手社員や、企業の人事部員、転職組、中には社会人歴20年以上を名乗る“ベテラン社員”などからのコメントも寄せられており、多くの“先輩”社会人も本書を手に取っていることがわかった。

「(必ずやりきることで)最初に信頼されるかが一番大事!」

「え?100点になるまで提出してはいけないんじゃないの?そこからハマっていきました」

「自分の立場が会社内のどの位置にあるかを理解する。そうすれば、仕事へのモチベーションも上がる」

誰しも出来そうでできない?社会人の【50の指針】

さらに、岩瀬氏の示す【50の指針】には、新社会人が主体性を持って世の中の時流を素早くつかみながら行動してほしいという岩瀬氏の強い思いが伝わってくる。

その中から、いくつか要旨とともに紹介すると、

「予習・本番・復習は3対3対3」

結論や方向性が曖昧なまま仕事をするのは、時間がもったいない。個人個人で行う事前準備(予習)も、皆で討論する打ち合わせや会議(本番)も、そこで得られた合意の共有(復習)も、すべてが同じ比率で重要だ。

「世界史ではなく、塩の勉強をせよ」

学生時代の勉強とは異なり、“総論”を漠然と網羅して勉強することに、あまり意味はない。仕事の完成度を高めるために、学ぶべき焦点をできるだけ絞り、本当に必要なことだけを勉強するのが社会人にとっての勉強の仕方だ。

「質問はメモを見せながら」

相手に言いたい言葉が紙に残されることで、思考も残る。緊張のあまり言葉が出てこないときも、この“紙に書く”という行為をつうじて、質問内容を確実に相手に伝えることができるのだ。

この【指針】についても読者から多くの反応が見られ、

「“予習・本番・復習は3対3対3”。0:10:0の人、多いですよね」

「“塩の歴史を学ぶこと”いいかも!!理にかなってる」

「“質問はメモを見せながら”。確かにこれができると、論点がブレずに時間を必要以上に浪費しない」

といった感想が。さらに、本の中で刺さった指針を箇条書きにして書き出し、自分なりの“アクション宣言”を発表する投稿も多数見られた。

一方で、

「内容自体は正しいことを言っていると思うけど、今の若者には合わない」

「書いていることは素晴らしいしタメになるけど、正直ここまでは…」

というネガティブな意見も。しかし、こうした賛否両論の声が上がること自体が、話題となっているゆえんだろう。

ここで、読者のコメントをもう一つご紹介したい。

「この本に書いてあることを全て実践、というのは難しいかもしれないが、成果を残す人はここまでやりきっているのだと、スタンダードの高さを感じる」

タイトルこそ「入社1年目の教科書」ではあるが、このたった50しかないベーシックな【指針】を、すべて完璧に実行できている社会人がどれほどいるだろうか。

本書には、新社会人でも容易にできるはずのことが書かれている。

だが、「でも、できていない」「節目節目で読み返したい」などといったコメントを投稿する先輩社会人も意外と多いほどには、社会人としての“基礎”が凝縮されているのだ。

今回、フジテレビュー!!では、著者の岩瀬氏を取材し、現在自分のおかれている状況に不安を感じているであろう新入社員に向けたメッセージを寄せていただいた。

<岩瀬大輔氏 メッセージ>

新入社員のみなさん、入社おめでとうございます。本当は新しい職場で過ごすはずの社会人としてのスタートが、自宅待機という形で始まってしまった、という方も多いと思います。

みなさんはもちろんですが、会社の人たち、たとえば研修を担当する先輩や上司の方たちも今までにない環境下で、どうやってみなさんを新しい仲間としてお迎えするのか、日々考え、試行錯誤しているところだと思います。

そういった意味では、戸惑っているのはみなさんだけでなく、10年20年と仕事をしている先輩たち、ベテラン社員も同じだと思います。

しかし、変化の時代はチャンスです。環境は変えられなくても、自分自身の取り組む姿勢は変えることができます。みなさんが自由になる時間は増えます。在宅勤務であれば、少なくとも通勤時間分は増えます。片道1時間であれば2時間、毎日自分の時間ができるとも言えます。この時間を有意義に使いましょう。

会社から出されている課題に取り組むこと以外にも、テレビのネット配信や電子書籍などで、どんどんインプットしましょう。動画であれば、TED Talksのような世界の著名人によるプレゼンテーションを見るのもおおすめ。テレビ番組であれば、社会・経済・ビジネスなどをテーマにしたドキュメンタリーなどもいいでしょう。

書籍は、宅配も利用できますし、電子書籍という形で手軽に読むこともできます。書籍「入社1年目の教科書」は、「ビジネスパーソンとしての心構えやビジネスの基本動作について書かれているので、今読んでおいてよかった」といった感想を、新入社員の方から最近いただきました。

インプットも大切です。しかし、「入社1年目の教科書」でもお伝えしていますが、仕事はアウトプットがゴールです。ぜひインプットしたことを、他の人たちとシェアしてみてください。

在宅勤務であれば、会社の先輩や、ゼミやサークルなどの先輩、他社の先輩たちにも時間をもらって、zoomなどを使ってオンライン上で社会人としての心構えについて話をする機会を持つといいと思います。

岩瀬氏が自身の入社1年目を振り返って思うこと

今は、テクノロジーの発展により、誰もが膨大な情報にアクセスできる時代です。私が新入社員だった20年以上前は、そのような環境ではありませんでした。もしもあの頃、今回のような事態で自宅待機だったら、どれほど彩りのない時間だったかわかりません。

事態がある程度正常化して、従来のように仕事ができる環境が整うまでの間を、どう使って良いスタートを切れるのかは、みなさん次第です。みなさんのキャリアの一歩は踏み出されました。この時期をいかに過ごすかで、これからのご自身の成長スピードも変わってくることでしょう。

あせらず、一歩ずつ、自分のできることを積み重ねていってください。あと、お体も大切に過ごしてください。

いつか外出自粛要請が解除され、やっと“実地”でのスタートダッシュを切るとき、この本が、新入社員の遅めの門出を大きく後押ししてくれるだろう。

岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)  プロフィール>

ライフネット生命保険株式会社創業者。1976年埼玉県生まれ。1997年司法試験合格。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストンコンサルティンググループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学し、日本人では4人目となる上位5%の成績で修了。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長に就任。著書は50万部を突破している「入社1年目の教科書」、「入社1年目の教科書 ワークブック」(共にダイヤモンド社)、「ハーバードMBA留学記─資本主義の士官学校にて」(日経BP社)など多数。