新型コロナウイルス感染拡大にともない、自宅で過ごす時間が長くなっている中、“心の持ちよう”に悩んでいる方も多いのではないだろうか。

フジテレビュー!!では、健康心理学の専門家である竹中晃二先生(早稲田大学人間科学学術院・教授)に話を聞いた。

――長く自粛生活を強いられている中、ストレスを抱えている人が多くなっていると思いますがいかがでしょうか?

新型コロナウイルス感染の収束の見通しがなかなか見えない中、ただ自粛しよう、負けるな、頑張れだけだと長続きしません。大切なのは、「こういう生活にうまく付き合っていく」ことだと思います。当面はこうした生活が続く中で、状況は刻々と代わり、その変化に合わせて行く必要があります。何もしないで閉じこもって何も改善しないままでいると、私たちのこころは負の螺旋階段を降りていくことになります。

――「うまく付き合う」ためにはどうすれば良いのでしょうか?

気分が落ち込んでいるから何もしないのではなく、何かをして、気分に報酬をあげてやる気をだしていく。これは「行動活性化」といいます。

今回、「自粛」ありきではなく、その前に「自制」だというポスターを学会ワーキンググループや研究室のホームページに掲載したところ、多くの方に共感していただき、ポスターの利用について依頼がありました。

――「自粛」ではなく「自制」というと?

パチンコに行きたい、でも「何も考えずに行ってしまう人」と「ちょっとやめといたほうがいいけれどもと思いながらも行ってしまう人」、「こんなときだから行かないほうがよいと考える人」――何が違うのでしょうか。

もちろん背景にギャンブル依存が考えられますが、それは自制心、もっと言えば、そのような訓練ができてこなかった人と、そういうスキルを持っている人の違いといえるのではないでしょうか。

ですから私は、ただ「我慢」するのではなく「自制」がキーワードだと考えています。

「自粛」「我慢」ではなく「自制」。一体どうすれば?

――自制しようと思っても、簡単にできない人はどうしたらよいでしょうか?

先ほどの“パチンコに行きたい人”の場合、興味の焦点をパチンコからそらすこと、つまり違う活動に入れ替えてみることができます。例えば、パチンコに行く代わりに、洗車する、植物の手入れをする…自分の小さな充実感や開放感を得て、行動パターンを変えてみればいいのです。

とても難しいことのように感じるかもしれませんが、私たちは何から何まで自分でコントロールできるわけではありません。「こころのABC活動」を利用して、当面のストレスの方向性を逸らすことになるのです。

Act(アクト)Belong(ビロング)Challenge(チャレンジ)

「こころのABC活動」について竹中先生に詳しく聞くと、

Act(アクト)

例:自宅や近くの公園でストレッチ、深呼吸をする。好きな音楽を聴く など

Belong(ビロング)

例:懐かしい友人や、同じ趣味の人に「どうしてる?」と連絡してみる など

Challenge(チャレンジ)

例:新しい習い事をオンラインで始める など

※この行動例は、本来であれば、Act(アクト):カラオケを楽しむ、Belong(ビロング):料理教室に参加する、Challenge(チャレンジ):ボランティアで高齢者のお世話をする、など「3密」になることも含まれるが、ここでは、現在求められている生活に合ったものを挙げている。

「こころのABC活動」は、その人の自発的、能動的な行動をすると「報酬がある」という考え方に基づいている。例えば、「やる気がしないから朝起きない」のではなく、「とりあえず決まった時間に起きて、カーテンを開けて外の空気を入れる」ことで、ちょっとした報酬(「外の景色がきれい」「気持ちがいい」)を得る。「こころのABC活動」は、その行動と報酬の組み合わせの数を増やしていくことで、やる気を生み出していくということだ。

手洗い時からレッツトライ!「ふぅー」とスッキリ

皆さんが日々習慣的に行っている「手洗い」についても、「こころのABC活動」の中で考えることができる。手洗いの際、自身がリラックスできる方法(深呼吸、背伸び、ストレッチ、その場で足踏みなど)をルーティーンとして組み合わせることで、手を洗うたびに毎回リラックスし不安を和らげ、メンタルヘルスの不調を予防できるようになるという。竹中先生は、こんなポスターを作り、現在、新型コロナウイルスと戦う医療の現場に貼っていただくように依頼しているという。

手洗いの際に深呼吸。これだったら、私たちでも今すぐに始められそうだ。

竹中先生は最後にこう締めくくった。

「コロナ禍の中、私たちは、他人にどう思われているかを意識して行動するのではなく、自分でどうしたらよいかを考えながら行動することが求められていると思います。それが、自制心、すなわちセルフ・コントロールです。

学生にもよく言うのですが、他人の評価だけに添うよりも、自分が制御できることに目を向けようと言ってます。自制とはそういうことかと。「こころのABC活動」についても、自分のできることに目を向ける、そんなふうに理解、実践していただければと思っています」