視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出す新感覚ドキュメント『7RULES(セブンルール)』。
5月26日放送回では、漫画家・鳥飼茜に密着。現在連載中の「サターンリターン」をはじめとし、「地獄のガールフレンド」や「先生の白い嘘」など、リアルな描写で読者の心をえぐる話題作を続々生み出している彼女のセブンルールとは。
ルール①:1ページ5コマ以内で描く
俳優の演技を見る時も、顔がよく動く人を見ているほうが楽しいと話し、「顔が動かないキャラクターは描きたくない」と断言するほど“表情”を大切にする鳥飼。
「絵だから(実際の)人と同じではないけど、ある程度は動ける。鼻の穴も膨らませられるし、いっぱい目も開けるし、細めたりもできるし」と語り、登場人物のリアルな表情を生かすため、大きなコマ割りを意識し、1ページあたり最大でも5コマに収めているという。
ルール②:アシスタントにはざっくり指示する
アシスタントが担う背景作画の指示は、「不動産屋さん」「(登場人物の)デスク」と大まかな状況説明に写真を添えるだけ。時には、「会議」などと文字だけが書かれたネーム(漫画の構成を大まかに表した状態の原稿)を渡すこともあるそう。
そこには、アシスタントたちの能力や想像力に期待を抱く鳥飼の思いが。「(アシスタント)みんなそれぞれ、私の知らない能力がある。私が思いつかなかったものを足してくることもあって、そういうのを見るのが面白いから、わざと指示をゆるくしているのかもしれない」という。
しかし、リモートワークで作業を進めている現在は、意思の疎通が難しくなり、普段よりも“細かい”指示出しに努めているとのこと。
ルール③:1日2回 笑顔の練習をする
朝晩の2回、鏡の前に立ち、手で頬を引き上げるようにして笑顔の練習をする鳥飼は、機嫌が良さそうに振る舞うのが礼儀だと話す。「気をつけていないと、めちゃくちゃ怖い顔になってる。ある程度歳をとると、不機嫌っぽい顔はシャレにならないので、なるべく笑顔でやっております」と、笑って見せた。
ルール④:土曜の夜は3人分の夕食を作る
10年前に離婚した彼女は、土日のみを11歳の息子とともに過ごす。離婚当初は一緒に暮らしていた息子だが、引越しをきっかけに転校をしなくて済むように、平日は元夫の家で、週末は鳥飼の自宅で過ごすようになったそう。
そして、2年前に再婚した夫で漫画家の浅野いにおは、自宅近くの作業場をメインに生活していて、毎日顔を合わせることはない。「一緒にいたら絶対に仲悪くなるから、できれば家族と一緒にいたくない」と話す浅野が自宅に帰るのは週に2、3回ほど。帰ってくる場合を考慮して3人分の夕食を用意するのが、毎週土曜日の決まりごとだ。
夫が帰って来れば、夕食を3人で囲み、週末だけの大切なひと時を過ごす。
ルール⑤:作画はシーンに合う1曲をループ再生
作画作業中、おもむろにイヤホンをつけ、音楽を探し始めた鳥飼。ポップでもなく、しんみりでもない、男同士の会話のシーンを描写するお供に選んだBGMは、GEZANの「DNA」。テンションを固定するため、作画の際はそのシーンに合う音楽を、繰り返し聴きながら作業するのだという。
ルール⑥:パソコンで描かない
作画が終わり、塗りの作業に入った鳥飼が取り出したのはグレーのカラーマーカー。髪色や影など、グレーの階調を描く際に使用される「スクリーントーン」(さまざまなパターンが印刷されたシール状の画材)は高価なため、代わりにグレーのマーカーで塗ることにしたそう。
パソコンでの作業であれば「デジタルトーン」というツールもあり、現在はそれを利用する漫画家も少なくないが、「灰色で塗ると、描いていて楽しい。どうしてもデジタルでは嫌なんですよね」と話す彼女はいまだにアナログの作業を続けている。
「パソコンで描くのが合理的だっていうのは分かっているけど、漫画を描くこと自体が合理的ではない博打(ばくち)みたいな仕事。自分が楽しんでやるのは絶対に捨てない、それが読む人への誠実さだと思っていて」といい、紙に漫画を描き上げていくことが好きだと語った。
ルール⑦:過去の自分を総動員して漫画を描く
週刊「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中の作品「サターンリターン」は、鳥飼が友人を自殺で亡くした経験から生まれた物語だという。
「自分の全部の時間を、その漫画に全部出していい。それじゃないともうやる意味がないと思っている」と話す彼女は、なぜそれほどまでに自分をさらけ出すのか。
「サターンリターン」に登場する「自分なんかいてもいなくても同じみたいな気がしておかしくなりそうなの」というセリフは、昨年、彼女が実際に抱き苦しめられていた思い。「勝手に『好き』なのはソッチの都合でしょ?」というセリフは、彼女が夫から言われた言葉。彼女自身の不安や怒り、さまざまな思いが作品に込められている。
自分の漫画が困難に立ち向かう誰かの力になれるよう、現実から目をそらさず、作品に思いを総動員するのだ。「現実逃避の漫画はいっぱいある。それは私のじゃないやつを読めばいいから。(私は)見たくないものを描かなきゃ」という思いが漫画家・鳥飼を駆り立てている。
次回、6月2日(火)の『7RULES(セブンルール)は、水中写真家・高橋怜子に密着。世界的写真コンテストで日本人初の快挙を成し遂げるなど、注目の写真家が自身に課す7つのルールとは?