なんだ、そこにいるじゃないか。そんな感想を持った人もいるのではないだろうか。
『THANK YOU YUSUKE CHIBA,I LOVE YOU BABY』は、昨年11月26日に逝去したチバユウスケの追悼番組であり、チバが出演した1996~2022年のフジテレビの音楽番組、公開収録番組、ドキュメンタリーに加えて、フェスでの出演シーンを選りすぐって編集したアーカイブス決定版だ。
36時間に及ぶ放送リストを見た時に、こんなに多くの音楽番組に出演していたのかと驚いた。
かつて筆者が音楽をやる意義について、チバに質問した際に、「わかるヤツがわかればいい」と語っていたことがある。しかし、この発言は自分たちの音楽を広める意志がないということではないだろう。
彼らが積極的に音楽番組に出演したのは、自分たちを知らない層に、自分たちの音楽と“出会う機会”を提供したいという意向があったと思うのだ。『TOKYO SESSION-ROCKIN’GAMBLER-第二夜』(2016年)の中でも、「フェスで前後の出演者は気になるか?」との質問に対して、チバがこう発言している。
「オレらの前がDREAMS COME TRUEのステージだったらいいなと思う。だってたくさんの連中がいるわけでしょ。その中の数パーセントは持っていけるかなって」
チバが奏でていたのは万人受けする音楽ではないかもしれない。だが、響く人間には響いて、その人間の人生を変えてしまうほどのパワーと影響力を備えていたと思うのだ。
おそらくチバは、自分たちの音楽が、どこかの誰かに届くと信じてステージに立っていたのではないだろうか。「売れたい」ということではない。必要とする人間に「届けたい」ということだ。
このアーカイブスの良さは、チバの音楽活動を点ではなくて、線で捉えられるところにあるだろう。THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(以下、TMGE)、ROSSO、The Birthdayというバンドの流れが有機的に結びついていることがわかるからだ。
TMGEのラストシングル「エレクトリック・サーカス」には<その先に散る><その先に行く>というフレーズがある。チバにとっての“その先”とはROSSOやThe Birthdayだったのだろう。
『69★TRIBE』(2006年)でのインタビューで、チバが、バンド活動をガラパゴス諸島に生息するイグアナにたとえて説明するシーンがある。もともとウミイグアナとリクイグアナの2種類が生息していたが、地球温暖化の影響でウミイグアナのエサである海藻が減少し、生き残るために2種類のイグアナが交配し、新種のイグアナが生まれたという内容だ。
「交配で生まれた新種のイグアナは、サボテンに登ってサボテンを食べられるんだってよ。すごいよね」とチバ。このイグアナのたとえは、チバのバンド活動にも通じるものだろう。生物がサバイブするために進化するように、チバはその時々で最高の音楽を追求して、新たなバンドを結成してきたのではないだろうか。