日本の連ドラ初となる病院薬剤師が主人公の医療ドラマ 『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』 。石原さとみ演じる病院薬剤師の葵(あおい)みどりが、患者一人ひとりに親身に向き合い、奮闘する姿を描く。
現在、第4話までが放送され、大げさではないのに感動的なストーリーと人々の心の機微を丁寧に映し出す演出が大きな話題に。
SNSでも「心が温かくなって気づくと涙が出てる」「やりたいことが見つからなかったけど、薬剤師になりたいと思った」「見ていていい気分になるドラマは久々」「キャスト、スタッフがいい作品を作ろうとしているのが感じられる」「薬剤部のチームワーク、絆に感動する」といった声が散見。
石原も「ほんとこのドラマ泣ける…読んでも演じても鑑賞しても温かい涙がでる。不思議です。ありがたいです。全ての方に感謝です」(ドラマ公式Twitterより) と投稿するなど、あたたかい感動の輪が広がっている。
そんな中、本作を手掛ける野田悠介プロデューサーにインタビュー。コロナ禍におけるドラマ作り、現在の現場での雰囲気、 中盤以降の見どころについても聞いた。
<野田悠介プロデューサー インタビュー>
――この作品は、連ドラとして初めて薬剤師を主人公にしたドラマです。そもそも、ドラマ化しようとしたきっかけは?
医療ドラマは見るのも好きですし、『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』『グッド・ドクター』『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』といったドラマを演出することもあった中で、友人が「こんな漫画があるよ」と(原作漫画を)教えてくれたんです。
それまで薬剤師というワードを使ったことも、ドラマに登場させたこともなかったので、原作を読んで、裏側でこういう仕事をしていたのか、と驚きと発見があって興味をひかれました。知らない世界を知ることができたのがすごく面白かったので、そこを取り上げたいと思いました。
――ドラマが放送されてどんな反響がありましたか?
幅広い年齢層から反響をいただいているのですが、特に10代、20代の若い層に見ていただいているのはありがたいことだと思っていまして。病院とは遠いと思う世代でも、病院にお世話になったり入院したりしたときに、ひとつの選択肢として薬剤師さんに相談できる、と感じていただいているようで、そこをとっても薬剤師のドラマを作ってよかったな、と思っています。
あとは、実際に入院し薬剤師さんと関わられた方々から「こんなことをしていただいた」といった声も多いですね。薬剤師さんからも、みどり(石原さとみ)みたいになりたかった自分を思い出した、刈谷(桜井ユキ)に憧れるといった反響があり、興味を持っていただけもいるのかな、伝わっていたらいいな、と思います。
――新型コロナウイルスの影響で、撮影が2ヵ月ほど中断しました。その間のご苦労と撮影再開時のことを教えていただけますか?
中断していた間は、「葵みどりのお薬講座」を作ったり、スタッフとはオンラインで打ち合わせをしたりしていました。キャスト陣とは、まずは感染しないことといった、皆さんが注意されていることを再度確認しあって、「再開した時にはこんなふうにしたいよね」という話をしていました。
そういったこともあって、2ヵ月ぶりに再開したときも、あまり久しぶりな感じはなくて、むしろキャストの皆さんも仲の良さが強まっているんじゃないかと思いました。コロナに対してどうしよう、というより、撮影していくためにみんなでどうしていけばいいのかを考え、ひとつの方向に向かっていったという印象が強かったですね。
ほかの現場もそうですけど、距離を取ったり、フェイスシールドをしたり、換気・消毒をしながらという、不慣れなことが続く中で、見えないストレスの蓄積は計り知れないと思うんですけど、それを各部のチーフがうまく集約し、導くことができたので、今もなお、さまざまな対策をしながらですけど、前よりも慣れてきている部分はあります。それは気が緩んでいるということではなく、各々が高いプロ意識を持ってやっているので、もちろん、苦労はあるんですけど、そこまで深刻にとらえてない感じではあります。
――それでも、スケジュールの立て直しなど、大変なご苦労があったのではないですか?
「起きないことは何もない」といいますか、どんな現場でも必ず何か(トラブルは)起こるものなので、大丈夫ではないですが、大丈夫です、っていう感じですかね(笑)。
以前、付いていたプロデューサーの先輩に相談に乗ってもらったのと、あとは、(東日本大)震災のときも撮影をしていたので、そのときに先輩がどう動いていたかを思い返しながら、自分は何をすべきか、を考えながらやっていました。
パニックに陥っても解決はしないので、決断すべきところでは決断して。今振り返ったら、違う判断もあったかもしれない、と思うこともありますが。
――今回、『アンサング・シンデレラ』を作るうえでこだわったのはどんなことですか?
いろいろなキャラクターがいる中で、みんなが自分なりの正義みたいなのを持っています。それが正しいかどうかは二の次ですけど…。みどりと刈谷はまったくやり方は違うけど、患者さんのためというのは変わらないという。
それがうまいバランスで萬津総合病院が成り立っているという形に見せたいと思っていて。あまりベタベタしたチームワークじゃないけど、どこかで支え合っているというバランスは、台本上でも、演出上でも特に注意している、こだわっている部分です。
――エンドロールはいかがですか?毎話、ゲストで登場する患者さんのその後を描く手法が新しく話題になっています。
通常だったら、みどりが患者さんと会って話をするというようなエンドロールになると思うんですけど、みどりは登場せずに、患者さんがどういう人生を歩んだのか、亡くなった方ならエンディングノートみたいな形で描いて、そこに、みどりのハンコや薬袋が添えられるくらいがこのドラマに合っているんじゃないかと思いました。
――野田さんのアイデアですか?
はい。悩んだのは、なかなか見たことがないものにできる反面、その回にしか出てこない患者さんをエンドロールでフォーカスするのはリスクもあるんじゃないか、ということ。でもこれが、初プロデュースの強みだと思うんですけど、失敗したとしても何かチャレンジしたいなと思い、ああいうエンドロールを組んでみました。
――撮影も本編と同じ監督がされているのですか?
そうです。あれだけでもなかなか大変なのですが(笑)、新しい試みとして感じていただけるならよかったです。
――石原さとみさんをはじめとした現場の雰囲気はいかがですか?
石原さんは、あまりオンとオフの切り替えをしてないというか、セットに入って撮影をして、セットを出てもそんなに変わらない。それが伝わってか、みんなも変わらないんですよね。皆さん、すごくすんなり役に入っていてすんなり戻ってくるっていうのが、自然体でやってもらえているなって。
それが石原さんが作り出す空気感だったり、居心地の良さなのかなと思っているので、気を遣わないチームワーク感というのは、本編の映像の中でも出ているんじゃないかと。
話さないといけない、とかいうことを一切思っていないので、黙ってるときは黙ってるし、しゃべるときはしゃべるし、沈黙が居心地悪くない感じというのがいいなと思います。
――石原さんをはじめ、みなさんの新しい一面が見られる作品だと感じますが、野田さんの想像を超えたキャストはいますか?
より見たことがないというのであれば、真矢ミキさんが演じる販田のキャラクターでしょうか。西野(七瀬)さんの相原くるみも、今の時代だったらああいう子がいてもいいなと思う反面、上司の販田が(薬剤部で)一番弱い立場というのが、今ああいう構図も多くなってきているのかなとも思いますし。そこで、今までカッコいい女性を演じている印象が強い真矢さんが、どういうチャーミングさを出して演じてくださるか期待していましたが、チャーミングかつすごくコミカルに演じてくださっていると感じます。
販田の口癖の「わかる」も、キャラクターに落とし込んで演じてくださっていて、今まで見たことがない真矢さんをお届けできているのかな、と感じますし、僕自身も拝見するのが楽しみです。
――セリフは台本通りでも、ニュアンスは演じる人によりますからね。
そうですね。販田にどういう要素を加えていったらいいのか、現場でご本人、監督と相談しながら作り上げていきました。真矢さんは、セットの外でも販田のように「わかるー」とよくおっしゃるので、もうキャラクターとして落とし込まれているな、と(笑)。すごく微笑ましい光景です。
――ドラマもそろそろ中盤です。今後の注目のポイントを教えてください。
続きで描く4話、5話は、原作の中でも反響が大きかったエピソードで、4話のラスト、5話のラストが違ったエンディングの迎え方をするのが見どころのひとつです。6話以降、くるみが薬剤師として初めての患者を任されたり、入院患者の心春(穂志もえか)の話が出てきたりもします。
小野塚(成田凌)は、みどりと接するうちに自分が本当は何をやりたいのかという決意が固まっていき、一歩を踏み出していくことになります。あとは、瀬野(田中圭)に何かがあります…。7話、8話を注目していただければ。
――最後に改めて視聴者の皆さんにメッセージをお願いできますか?
駆け抜けていくのではなく、とりあえず一歩だけでも踏み出せたらいいな、周りに誰かがいてくれたらいいよね、ということが伝わればいいなと思っています。
今回でいうと2話またぎのエピソードがないなかで、4話、5話は続きの長編のストーリーになっているので、これを見ていただいて、今何かを抱えていらっしゃる方が、少しでも前に一歩でも踏み出そうと思っていただけたらうれしいですし、そう感じていただけるような作品になっているんじゃないかと思うので、ぜひ見ていただけるとありがたいです。