尼神インター・渚が、映画初出演にして初主演を果たした映画「たまの映像詩集 渚のバイセコー」が、11月12日(金)に公開される。
本作は、岡山県玉野市と吉本興業がタッグを組み、玉野市の魅力発信を映画によって実現させた3話のオムニバスからなる短編集だ。
渚が主演を務めるのは、街のシンボルである“競輪”と“自転車”が紡ぎ出す、不思議な温かさをまとった本作の表題作でもある第2話「渚のバイセコー」。
少しファンタジー色もあるユニークな本作について、玉野市の印象や撮影時のエピソード、演じることへの思いなどについて渚に聞いた。
<尼神インター・渚 インタビュー>
――映画初出演、初主演となった本作のオファーを受けたときの感想はいかがでしたか?
正直、「いや、そんな背負われへんで」と思いました。岡山出身でもないし、「なんで呼ばれたんやろ?」って思いましたし、「渚のバイセコー」っていうタイトルを聞いて、「役名も渚です」って言われたから、けっこう私が背負ってるなと思ったんですよ、この映画を。ちょっとプレッシャーすごいぞ、と。だから、最初は「お断りしてください」って言ったんです。
もちろん、うまく玉野をPRできたらいいけど、もともと別にPRとかが上手いわけじゃないから…。自分の地元やったら、地元の人が「渚も尼崎出身やし、まぁまぁええわ」って大目に見てくれるとこあると思うんですけど、違う地域の人に自分の地域をPRされるって、ちょっとハードル高くなると思うんですよ。
「ほんまにこいつできるんか?」っていう目で見られると思うからプレッシャーもデカいし、演技もできひんし、作品に傷つけたらイヤやなっていうのがあったから、最初はお断りしました。だけど、監督さんから「演技にはそんなにこだわってない」みたいなことを言われて。もちろん、こだわってなくはないと思うんですけど、とにかく“渚で”っていう感じやったんですよ。
監督からのアドバイスに「ちょっと無理やな、って。だから難しく考えんとこうと思いました」
――そこまで言ってもらってどうしたのですか?
マネージャーさんに「『演技はできません』って言ってください」って言ったんですよ。「セリフも覚えられへんし、演技もできひんから無理です、っていうのを伝えてください」って。で、「それでもいいっていうんやったらやりますけど、どうですか?」って、なぜかこっちが上からいって(笑)。
ほんなら、セリフもないし、自由にやってくださいみたいなスタンスやったから、「そっちがそんなに言うんやったらもう知らんで?」って開き直ってやらせてもらいました。
――実は、「渚のバイセコー」の“渚”は、玉野出身の大島渚監督に由来するそうですね。本作の蔦哲一朗監督が大島監督を敬愛していて…ということだそうですが、蔦監督からお聞きではなかったですか?
監督は私にそんな話を一切しないんです。もしかしたら、監督は言ってたのに私が聞いてなかっただけかもしれないですけど(笑)。とにかくプレッシャーを感じたくなかったし、「こういう思いでオファーしました」とか言われるとしんどくなってくるから、あんまりそういうことは考えないようにしてました。
――渚さんは漁師役を演じましたが、役作りはしましたか?
してないです。そんな器用じゃないので、そのまんまです。最初にお会いしたとき、監督に「私、演技とかマジできないので、その都度、気になったことは言ってください」ってお願いしたんです。
そしたら監督が、「渚という人物はすごく自転車が好きなので、自転車を愛してください。自分の恋人や、好きな人と接するように自転車に接してください」ってアドバイスしてくださったんですけど、まったく意味わからんくて。「ちょっと無理やな」と思って。だから難しく考えんとこうと思いました。
――では、どんなことを意識していましたか?
「自然な感じでやろう」というのはずっと思っていました。撮影は3日間あったんですけど、最終日に監督から「徐々に自然な感じになってきてすごくよかったです」って言われたんです。でも、そのときも、「それはそっちが勝手に思ってるだけで、こっちは最初から楽しくやってるで」ぐらいの気持ちというか(笑)。
私、結構ひねくれてるから「よかったですよ」って褒められると、「え、そうかな?」って思っちゃうんですよね。監督からすれば、やりやすいように乗せてくれてるだけやと思うんですけど。でも、言われたことを気にするとまたやりにくくなるから、そこは「へえ」ぐらいの感じというか、リアクションをとらないようにしてました。
カメラが回っていることを意識せず「ずっと同じテンションでやってました」
――実際のところ、撮影は緊張せずに楽しんでできましたか?
楽しんでやることしか考えてなかったです。だから「よーい、スタート!」でピリッとするのも意味わからへんっていうか、そのスイッチの入れ方がようわからんから、「よーい、スタート!」って言われてもこっちは知らんで、っていう感じで、私はずっと一緒というか。「別に今、カメラ回ってても回ってなくてもどっちでもいいわ」くらいの感じで、ずっと同じテンションでやってましたね。
――ちょっとドキュメンタリーに近いような感じですか?
そうかもしれないですね。私は楽しくやりたかったから、たとえば自転車に乗ってるシーンだとスタッフさんと離れて並走なんかもするから、スタッフさん同士トランシーバーを持ってたんですよ。それを、途中から私がトランシーバーでスタッフさんの名前を呼ぶとか、勝手にそういう遊びもしてましたね。スタッフさんはムカついてたりしてたかもしれへんけど(笑)。
みなさん気を遣ってくださってたから怒られることはなかったですけど、戸惑ってはいましたね。それで、そのリアクションを私は楽しんでる、みたいな。
――自転車を思いきり漕ぐシーンはいかがでしたか?
楽しかったです。天気がよくてすごく気持ちよくて、自然も豊かで、山が見えたり海が見えたり、田んぼ道もあったりして、ずっと景色が綺麗なんですよ。だからイヤな気持ちにならないというか。
岡山県・玉野のロケ地が大好き「ほんまにええとこ。撮影後、プライベートで旅行にも行ったくらい」
――特にお気に入りの場所といえば?
王子が岳かなぁ。ほんまにどこもよかったんですけど、王子が岳の撮影では、海とパラグライダーと私と自転車が映るシーンがあって、そのシーンは地元の方々が協力してくださったんですよ。パラグライダーを操縦してくださる方も、その人に「今お願いします!」ってトランシーバーで指示出す人も地元の方々で。そういう、みんなで協力して撮っている感じが好きやったんです。
いちばん最後に撮ったのがそこのシーンだったんですけど、クランクアップしたとき、市の職員の方が花束を持ってきてくれはって。そのときトランシーバーのおじちゃんが私の隣りにいて、私よりメインで真ん中におったから、「え?おっちゃんメインになってないか?」みたいな、その状況も面白くて(笑)。そんな、街の人と交流している空気感が楽しかったというのもあって、王子が岳がいちばん思い出に残ってますね。
ほんまにいいとこやったんで、撮影後、プライベートで旅行にも行ったぐらい。それぐらい玉野が素敵な街やったということは伝えたいです。
――父親役がジミー大西さんでしたが、ジミーさんと共演されていかがでしたか?
台本上、私はセリフがなくて、ジミーさんは2言あったんですよ。で、撮影現場に向かう途中に一緒に車に乗ってたら、急にジミーさんから「渚は彼氏とかいてんの?」って聞かれたから、「私ですか?彼氏いてないですよ」って言ったら「違う違う。セリフセリフ」って言われて…。ややこしいんですよ。
ジミーさんはセリフ合わせをしたくてそう言ったんですけど、私は自分(の名前)も渚やから、普通に聞かれたと思ったんです。で、「ああ、セリフですか、すいません」って。
で、「渚はいい人とかいるんか?」みたいなセリフのあと、私のセリフはないんですよ。台本には「…」って書いてあって、父親を無視するみたいなシーンなんですけど、そのあとに父親が「まあ、俺もそんな若くないから、早く結婚して孫の顔見せてくれよ」みたいなセリフを言うんですね。
でもジミーさん、「渚はいい人とかいるんか?」のあとに、私が何かを言わないとそのセリフが出てこないみたいなんですよ。
――でも、セリフはないんですよね?
ないんですよ。でもジミーさんは、なんかないと次のセリフが言われへんから、「で、おまえがなんか言うやろ?」って勝手にブツブツ言って、「で、オレがこうやって言う」とか言って。でも、何回練習してもやっぱり2言めが出てこないんですよ。そしたらジミーさん「このセリフ、なくすわ」って言い出して。「いや、勝手なことするなよ」と思ったんですけど(笑)。でも、本番ではちゃんと言ってはったんです。
それを言わないとたぶん意味がわからへんし、2言しかないセリフのひとつをなくすって結構デカいし、そもそもセリフが少ないから間が持たんというかね(笑)。
――今回の撮影を経て、今後もまた女優業をやってみたいですか?
えっと、やってみたくないです(笑)。今後はオファーをいただいてもやらないと思います。これもご縁があってやらせていただいただけで、自らマネージャーさんに「演技やりたいからお仕事とってきてください」とかお願いしたわけでもないですし、やっぱり演技はできないので。
――では最後に、作品の見どころを兼ねて読者にメッセージをお願いします。
見どころはやっぱり、第1話(「美しき競輪」)では現役の競輪選手の三宅伸さんが演技をされているところです。あと、第3話(「氷と油」)に関しては、出ている芸人さんも演技ができる人たちばっかりなんで、すごく見やすいと思います。で、第2話(「渚のバイセコー」)は、セリフがほとんどないんですよ。たぶん玉野の景色や玉野のよさを見てほしいからだと思うんですけど、画をよく見せるためにカメラもこだわってるんです。
だから、1話と3話は会話のやりとりとか人間の温かみを特に見てほしいんですけど、2話に関しては映像を見てほしい。あと、ファンタジーの要素も入ってるから、ちょっと不思議というか、見ていただくと心が穏やかになると思います。そういう意味では2話だけテイストが他と全然違いますね。やっぱり大きな画面で見れば見るほど臨場感があると思うので、大きなスクリーンで見てほしいなあと思います。
<動画メッセージ>
取材・文:落合由希
映画「たまの映像詩集 渚のバイセコー」は、11月12日(金)シネマ・ロサほか全国ロードショー
監督:蔦哲一朗
出演:三宅伸((一社)日本競輪選手会岡山支部所属)、渚(尼神インター)、ゆりやんレトリィバァ、江西あきよし、ネゴシックス、ハロー植田、鈴井優、ジミー大西、鈴木もぐら(空気階段)、水川かたまり(空気階段)、園都
制作・配給:吉本興業
Ⓒ2021 たまの映像詩集「渚のバイセコー」
最新情報は、映画「たまの映像詩集 渚のバイセコー」公式サイトまで。