テレビマンの仕事の極意と、彼らの素顔に迫る「テレビマンって実は」。
今回は、『めざまし8』キャスターやスポーツ実況などで幅広く活躍する倉田大誠アナウンサーが登場。
倉田アナと言えば、今年の東京五輪スケートボード男女ストリートの実況で発した「13歳、真夏の大冒険」という言葉がキャッチーだと話題に。入社17年目の今、アナウンサーとして、そして会社員としてどんなことを考えているのか。
全4回連載の第3回目では、ターニングポイントになった出来事や、「地獄のようだった」と語るバラエティ番組でのエピソードを聞いた。
<【第2回】ジャニーズに応募し続けた少年時代「もともとアナウンサー志望ではなかった」>
自分はいかに世間を知らないか、思い知らされた
――ドラマ制作希望のはずが、試しに受けたアナウンサー試験でまさかの合格を手にし、将来のビジョンを描けないままアナウンサーとして社会人生活をスタートします。その中で、ターニングポイントになった出来事はありますか?
2011年秋に『めざましテレビ』メインキャスターの大塚範一さんが病気療養に入られた際、アナウンサーの担当が急遽大シャッフルされました。私はそれまで、週1回ロケを行なってスタジオでプレゼンする程度でしたが、いきなり「情報キャスターとして毎日ニュースを担当して」と言われて。
ところが、毎日飛び込んでくるニュースの内容があまりにもわからなかった。今でも知らないことだらけですが、いかに自分は世間を知らないか思い知らされて、初めて「ヤバい」と思いました。
しかもそれは入社8年目。もう30歳のいい大人ですし、人によっては脂が乗ってくる時期です。その頃ようやく、私は自分の無知に気づいたのです。これは大きなターニングポイントでしたね。
――「ヤバい」と感じて、何か対策はしましたか?
わからないことが多すぎて毎日必死で、よく覚えていませんが…とにかく「今のままではマズい」と気づいただけでも自分にとっては大きな成長だった、と感じたことは記憶にあります。
――ターニングポイントで自身の成長を感じた後は、順調に経験を積んできたのでしょうか。
いえ、そんなことはありません。その『めざましテレビ』情報キャスタ―は、もともと伊藤利尋アナウンサーが担当していました。伊藤さんは頭が良くて面白くて、でも、ものすごく努力をされています。そんな伊藤アナは私より10歳上で、当時「アミーゴ伊藤」と呼ばれていましたが、とにかくアミーゴとの比較がすごかった。
周りから、しょっちゅう比べられていました。年次が違うからできなくて当たり前な部分はあるんですが、もう圧倒的に実力が違う。ただの10歳差ではない。次元が違ったのですごく苦労しましたが、良い意味で「頑張らないとダメだな」と思えましたし、誰かと比較される経験ができて良かったとすら感じました。
――圧倒的な違いというのは、具体的にどんなことですか?
スタッフとのコミュニケーションの取り方とか、周りにアピールしていく力とか…あとは知識の量ですね。ほかにも、中継ひとつとっても、私は伊藤アナと違ってコメントが全然面白くないし、振り切って盛り上げることもできない(苦笑)。
私は努力がまだ圧倒的に足りないのでしょうけれど、10年経った今でも追いつけません。
――その苦労は、どのように乗り越えてきましたか。
初めの頃はまだ視野が狭かったから「伊藤さんのようになれない自分はダメだ」と思っていましたが、年を重ねるうちに、それがすべてではない、それぞれの道があっていいと気づけるようになりました。
当時、伊藤アナも私と同じように、主に競馬と情報番組を担当していましたが、最終的には情報番組だけになりました。一方の私は、今もスポーツと情報番組を両方続けているところが違いであり、私の強みかなと思っています。
地獄のようだった『めちゃ×2イケてるッ!』
――『めざましテレビ』をはじめとした情報番組のほかにも、報道番組、スポーツ実況、バラエティ番組と幅広く活躍していますが、それぞれ出演の際に心がけていることはありますか?
報道番組は2018年に1年間担当していましたが、とにかく底力が試されました。情報番組と違い、余計な詮索はせず、とにかく正確な情報を伝えることが求められます。原稿は一言一句読み間違えてはいけません。日々どんなニュースが飛び込んでくるかわからないので、社会や物事に対する知識そして対応力が求められ、苦労したことを覚えています。
――バラエティ番組はいかがですか?
そんなに出演する機会もないのですが…大の苦手なので、もうわからないです!
以前、『めちゃ×2イケてるッ!』で佐野瑞樹アナウンサーの代行を5回ほど担当させていただいたのですが、もはや地獄でした。進行しているだけだけなのに、なんか雰囲気に乗れないし、芸人さんは頭の回転が速いし、私が話すと空気が止まるのがわかるし、もうやればやるほどドツボにはまって、怖くて怖くて。
それまで「佐野さんに憧れるな、面白いな」と思っていましたけれど、「私にはできない!」と確信しました(苦笑)。
――スポーツ実況の裏側も教えてください。例えば競馬はいつ頃からどんな準備をしていますか?
人によって違いますが、私はG1と呼ばれる大きなレースの場合、どの馬が出るか、過去の戦歴、馬の管理者、名前の由来などを2週間前から調べます。約1週間前に専門誌が届くので軽くチェックして、前日か前々日に馬番や枠番が発表されたら、騎手の勝負服、ヘルメットの色(=枠番)と合わせて一気に覚えます。
――バレーボールも大人数が入り乱れてプレーするため、実況が難しそうです。どのように備えていますか?
事前の取材がものを言います。練習を見学して、監督に「今、ブロッカーを変えたのはなぜですか?」などと質問して教えてもらい、コツコツ勉強していきます。そして大会本番では「このチームはこんな風に得点をとりたい、だからこういう狙いがある」と、学んだことを伝えます。
どちらかと言うと、“実況する”より“説明する”意識のほうが強いかもしれません。チームが目指す理想を伝え、視聴者の疑問に寄り添える実況ができたらいいなと思いながら、いつもマイクに向かっています。
――本番前にスタッフ間で打ち合わせをすると思いますが、どんなことを確認していますか?
解説や制作スタッフの方と一緒に、どの選手に注目するか、番組冒頭のVTRではどの選手を取り上げる予定か、といった番組としての狙いを確認します。それを踏まえて、「この選手はエースだけれど、実はケガをしていて…」といったサイドストーリーを組み立てて伝えるのが、私の役割です。
第4回「『アナウンサーとタレントさんの間には大きな壁がある』“黒子”に徹する意識」は近日公開!