脱力系の芸風と独特な世界観でブレイクした人気お笑いトリオ・四千頭身の後藤拓実。そんな彼が初エッセイ「これこそが後藤」(講談社)を上梓した。

ふだんまったく本を読まないという後藤が「小説現代」で連載したエッセイをまとめた本書は、自身の私生活や家族、趣味のこと、お笑いについてなど、さまざまなテーマが、ときには日記のように、またときにはショートショートのように、自由な筆致で綴られている。

初のエッセイ集を発売したばかりの後藤に、書くことへの思いや苦労などを聞いた。

<後藤拓実 インタビュー>

――最初に「小説現代」でエッセイ連載のオファーを受けたときは、どう思いましたか?

始まる1年くらい前から、新聞(読売新聞の月1夕刊コラム「思うじゃんけん」)でも連載をやってたんですよ。そっちが800文字で、この講談社のエッセイが1200文字。なので、最初に聞いたときは「月2000文字か」って思いましたね。

――当然、それぞれ違うことを書かなければなりませんよね。プレッシャーもあったのでは?

そうですね。ネタも書いてるんで「イヤだな」って。

――それでも引き受けた理由は?

なんですかね?あのときは、なんでも「いいよ」って言ってたので。

――来た仕事は全部受けようと?

そうですね。今もそうですけど。

――実際に書いてみて、いかがでしたか?

(連載が)終わってみると、やっぱり寂しいものですね。

――連載スタート時、「本当にただただ自分の好きなことを書けるコラムというジャンルが僕は大好きなので、みなさんにも大好きになってもらえるよう楽しんでがんばります」とコメントされていました。

そんなこと言ってました?僕。いい子ちゃんですね。でも、本が得意ではないので、お手本がないからこそ自由には書けたかなと思いますけど。

――また書いてみたいと思いますか?

スローリーに、自分のペースで書けたらなと思いますね。

まったく本を読まない後藤が作家・武田綾乃に影響され「なんかそれっぽい言葉とか入れてみました」

――コロナ禍で、エッセイのネタを探すのにも苦労されたのではないですか?

今回は、「今までのことを書いたらどうだろうか?」という案をいただきまして。だから、過去を振り返るいい機会にはなりましたね。「あんなことがあったな」という。

僕は、ネタになるような人生を送ってきているんで…。僕の辞書に「ネタ切れ」という言葉はなかったですね。冗談です。

――エッセイを書く上で、気をつけたこと、心がけたことはありますか?

もともと本を読まないので、別に何も気をつけてなかったんですけど、途中で(本書で対談している)武田綾乃先生の本を読みまして。その小説を読んでからはちょっと、小説っぽく書きはしました。

――影響されて…ということですか?

はい。僕、すごい影響されるので、なんかそれっぽい言葉とか入れてみました。小学生、中学生あたりのエピソードを書いた回は、確かそんな感じだったと思います。

――エッセイはどのような感じで書いていったんですか?

こだわりも構成も何もなく、とりあえず書き始めてましたね。全部そうです。別になんも見えてないんですけど、とりあえず書き始めて。余計なことなんかも書きながら、「これで1200文字いけばいいな」みたいな。

そんな感じだったので、基本、減らしはしないですね。足りないことばっかりなので、いつも足してました。…やっぱり長いです、1200文字って。

本文の紹介文を母親が執筆「(本書が)発売されたんだなと思ってAmazonに飛んで、そこで初めて知りました」

――過去を振り返って書いていくうち、改めて「自分ってこうだったんだ」と気づいたことはありましたか?

…う〜ん、なんかあんまり面白い人生ではないなとは思いました。「こんなに何もしてなかったんだ」というか。お母さんが女手一つで育ててくれた、みたいな過去もないし、暴走族の総長だったこともないですしね。そういう、ドラマチックな人生ではないなという悔しさはありました。

だから、高校生のころ、野球部の先生にももっと怒られとけばよかったなとか。あのときは怒られたくなかったけど、今思えばもっと怒られてもよかったな、って。怒られた話って面白いじゃないですか。

逆に言えば、幸せだったと言えるのかもしれません。これから、その幸せがどう壊れていくのか見ものですね。

――壊れていくんですか!?

はい。それをエッセイにしてやろうかな、そんな“エッセイ人生”を送ろうかなと思っています。やっぱ面白味がないので。今日も、この後ラジオ(の仕事)ですけど…たぶん何も起きないでしょうね。

――エッセイを読んでいて、入浴剤に凝ったり、ヨガを始めたりと、なんとなく女子っぽい感じがしたのですが?

ちょっと血迷ってたんですよね。その時期は本当にコロナ禍ど真ん中で、虹プロ(Nizi Project)が流行ったんですよ。で、オレ、「入りてぇな」と思ったんですよね、NiziUに。

ストイックじゃないですか。ストイックに生きている彼女たちを見てたら、僕もストイックに生きようと思ってしまって。そしたらなんか、お笑いのストイックというより虹プロを目指す方にストイックになっちゃって。「早めに寝る」とか、ちょっと血迷ってました。

早寝早起きの生活は、すげーよかったんですけど「もうちょっと芸人でもいいかな」って。ずっとそれが続けばいいんですけど、やっぱ夜10時に寝るって不可能に近いですね。

――お笑いについては、コントに対する思いを書かれていましたが、コントは今でも書いてるんですか?

『エンタの神様』(日本テレビ)で書いてますね。“エンタ”がいちばん反響あるんですよね。“エンタ”最高です。コントはすべてエンタに捧げてます。……あ、他局でしたね。

――漫才とコントでは、書き方が違うのでしょうか?

そうですね。『エンタ』のコントはすごく書きやすいんです。だから、その感じで漫才も書いたらいいんじゃないかと思ったんですけど、また違いますね。漫才は、発明がないとちょっと厳しいかなと思います。

――本書の紹介文を、後藤さんのお母様が書いていましたが、あれはどういう経緯で?

斬新ですよね。僕の発案にしたいんですけど、経緯はよくわかんないですね。僕は、(本書が)発売されたんだなと思ってAmazonに飛んで、そこで初めて知りました。

――事前に聞いてなかったんですか?

「お母さんに書いてもらうのは、どうでしょう?」という提案くらいは聞いてたと思うんですけど、本当に書いてたことは知らなかったので、どうやってオファーしたのかっていうところが気になります。マネジャーからの連絡なのか…。

――ご家族、メンバーからの反応は?

妹に「送る」って言ったんですけど、「いらない」って言われました。本が嫌いらしくて。「でも、(書式が)横書きだよ」って言ったら「あ、じゃあ読めるかも」って言ってました。イマドキですね。

メンバーは、「本を出すんだ」みたいな感じで、わざわざ発表してなかったんで、何もないですね。都築(拓紀)に表紙だけできた状態の、中身サンプルで何も書いてない自由帳状態のやつを渡したら、あとで「面白かった」って言ってましたけど。

有吉弘行に読んでもらいたい!「有吉さんは、もらってくれなかったです」

――ところで「今年は厄年でいいことがない」と書いてありましたが、その後何かいいことはありましたか?

ありました。僕、プロ野球ゲームをやっていて、そのペナントレースを監督モードでやってるんですけど、優勝しました。

――おめでとうございます!勝因は?

僕の采配のみといった感じですかね。

――本作を、どんな人に読んでほしいですか?

先輩芸人さんたちに読んでもらえたらうれしいです。やっぱり、僕ってどういうやつかわかんないと思うんですよ。だから、ちょっと読んでもらいたい。配りたいですね。『有吉の壁』(日本テレビ)に100冊持っていこうかな。

――有吉(弘行)さんにも読んでほしいですよね。

有吉さんは、もらってくれなかったです。

――後藤さんを十分ご存じだから必要なかったのかも?

そうだとうれしいんですけど、たぶん僕のことなんかわかってくれてないと思います。だから、ヒコロヒーに渡したいと思います。

――では最後に、メッセージをお願いします。

決して読んでいる人の背中を押せるような本ではないと思いますけど、1日に使っているムダな時間を僕にあてていただければ、そのムダよりはムダじゃないかもしれないですね、と伝えておいてください。

取材・文:落合由希

<動画メッセージはこちら!>

「これこそが後藤」
後藤拓実
2021年09月8日(水)発売
定価1,375円(税込)