9月27日(日)、少女漫画雑誌「ちゃお」(小学館)がオンラインイベント「ちゃおフェス LIVEオンライン」を開催した。

このイベントは少女まんが雑誌の中で40万部という圧倒的な発行部数を誇る「ちゃお」が「ちゃおサマーフェスティバル」として毎年夏に開催。昨年は2日間で4万人の来場者があったほどの人気イベントだったが、今回は新型コロナウイルスの影響で、初のオンライン開催となった。

イベントは3時のヒロインがMCを務め、人気タレントの登竜門的存在となっている「ちゃおガール」のオンラインオーディションををはじめ、『ポリス×戦士ラブパトリーナ!』『アイカツプラネット』(テレビ東京系列)の出演者によるスペシャルライブ、そして同誌で連載中のまんが家が出演するコーナーなど、6時間にもおよぶイベントは再生回数13万5千回を超え、大盛況のうちに終了した。

出版不況の中でもまんが雑誌としてダントツの発行部数を誇り(※)、読者の心をつかみ続けている理由はいったいどこにあるのか。フジテレビュー!!では「ちゃおフェス」に出演したまんが家・やぶうち優(「そらいろメモリアル」連載中)と、まいた菜穂(「大人はわかってくれない。」連載中)、そして藤谷小江子編集長にインタビュー。

(※)一般社団法人 日本雑誌協会「少女向けコミック誌」公表印刷部数より

日々、激しい速さで変化していく価値観やトレンドを的確に捉え続ける秘訣とは。三者が語る内容から共通して感じられたのは、徹底した「女の子目線」の研究と、読者に寄り添う姿勢だった。

<やぶうち優インタビュー>

読んでいて“よかったね”と共感する物語を

――「ちゃおフェス」では初のオンラインサイン会を実施されましたが、終えてみての感想は?

オンラインなので、失敗できないとか時間がきっちり決まっているとか、普段のサイン会とは違う緊張がありました。普段のサイン会には事前に応募して抽選で当たったファンしか来ませんが、今回はオンラインということでいろいろな人に見てもらえるということで、私は読者のお母さんと同じくらいの年代ということもあり「お母さんみたい…」って思われちゃうのでは、と心配でした(笑)。

――自分が10代だった頃と、最近の読者の傾向の違いは感じますか?

読者の求めるものは刻一刻と変わっていっているのは感じます。私は昭和にデビューしたので、その頃はやはり“熱血”や“勧善懲悪”みたいなものが流行っていましたが、今はもっと癒しとか読んでいてホッとするようなもの、逆にとても陰惨な話やホラーが人気がある気がしますね。

自分が大切にしていることは、まずは読んでもらえること、そして共感を持ってもらえること。読んでいて「よかったね」と思ってもらえる話を描くことを目指しています。

――そういった感想は多く届きますか?

実はいただくファンレターには作品の具体的な感想は書いていなくて、自分のことを書いてきてくれることが多いんです(笑)。自分の生活のことだったり、「告白したんだけど無視されて」という相談だったり、「友達の話を聞いてください」と友達のことを書いてきてくれたり。でも、みなさん「面白かった」「絵がかわいい」とか書いてくれているので、喜んでもらえているのは伝わってきてうれしいです。

――13歳でデビューし、最新刊「そらいろメモリアル」で80作、80タイトル目という節目を迎えました。第一線でまんが家を続けられる秘訣は?

私は自分の絵や作品に対してすごく自信がないんですね。「これだ!」と思うものにまだ出会えていなくて、ずっと自分の理想を追いかけている感じです。 私はまんがを描く以外何もできなくて、たぶんほかの仕事はできないんです。つまりまんががダメになったら生きていけないわけなので、それで続けていけているんだと思います。

常に「まだまだ足りない」と思い、「どうしたら読者の心にマッチする作品が描けるんだろう?」と考えています。これからも読者に寄り添えるようなまんがを描いていきたいなと思っています。

<まいた菜穂インタビュー>

常にアンテナは立てて、大人が読んでもキュンとする作品を

――「ちゃおフェス」では質問コーナーに出演されましたが、感想は?

今年はいつもと違う開催方式だったのでさみしさもありますが、毎年楽しみにしてくれている方がたくさんいますし、遠方にお住まいの場合もオンラインで参加できるので、開催されて良かったなと思います。

――「大人はわかってくれない。」は主人公がタワーマンションに住んでいるなど、“今”の女の子の憧れを取り入れています。そういった設定やキュンとさせるキャラクターはどのように作られているのでしょうか。

まず私が“集合住宅好き”というのがありまして、 低層階・高層階とか、うっすらヒエラルキーがある世界というのが好きで、魅力を感じるんです。タワマンでなくてもマンションに住んでいる子は多いと思うので 「同級生や好きな男の子と学校以外の場所で会うのってときめくよね」と、共感してもらえたらうれしいです。

キャラクターについては、自分が小学生の時にこういうことがあったらこう思うよね、というのを思いながら描いています。好きな子に対してなかなか告白できない、勇気を出せないとか、そういう部分は私が子どもの時とまったく変わらないと思うので、「今の子はこうなんだ」と思って描かないようにしています 。私自身がまんが好きの大人なので、大人が読んでも楽しいものをと心がけています。

買い物に行って小中学生がいるとどんな会話をしているのか気になりますね。「まんがを描いている者です」と言って小学校の運動会で男子を集めてもらって話を聞いたこともあります。「 『ちゃお』?知らねーよ、『ONE PIECE』じゃないんだ」とか言われて、小学生の男子って…となりました(笑)。

――多感な時期を過ごす読者に向けて、作品を描く上で大切にしていることは?

ヒロインは嫌われないように、みんなに好きになってもらいたいので、なるべく曲がったことはしてほしくないし、誰かに助けてもらったら必ず「ありがとう」と返すようにしています。

私が本気で「かわいい!」と思ったものでないと読者にもかわいいと思ってもらえないと思うので、流行に対するアンテナは常に立てておかないといけないと思っています。今後もずっと小学生に向けてまんがを描いていきたいですし、ファンタジー作品をいつか描いてみたいな、とも思っています。

<「ちゃお」藤谷小江子編集長インタビュー>

1万通の手書きアンケートはがきを徹底リサーチ

――初のオンライン開催となった「ちゃおフェス」の手応えはいかがですか?

毎年、夏休みに親御さんと一緒に参加できるイベントとして認知されていた「ちゃおフェス」を途切らせたくなかったということで、今年はオンラインでの開催となりました。家族で一緒に見てもらえるような楽しいコンテンツになっているのではないかと思います。「ちゃお」は新しいものを女の子たちに紹介して、楽しんでもらうというのが大事なテーマの雑誌なので、配信というスタイルも合っていた気がします。

――少女まんが雑誌の中で「ちゃお」が圧倒的な発行部数を誇っている理由は何だと思いますか?

女の子が欲しくなる完成品の付録をつけたり、おもちゃやファッション、最新の情報を入れ込んだまんが雑誌として編集していることと、まんがにも常に女の子たちが今好きなものを取り入れていること。ほかの少女まんが雑誌が時代によってターゲットを変更したりしている中で、小学生の女の子をターゲットにし続けているのは「ちゃお」だけなのかなと。そこが強みでもあると思います。

――恒例となった「まんが家セット」(※)や、ATM型貯金箱、ロボット掃除機など、まんが雑誌とは思えない斬新な付録も注目を集めていますが、そのアイディアはどのように生まれたのでしょうか?

編集者たちが原宿や、ショッピングモールに行き、どんなものが流行っているのか調べて、ファッションアイテムや文具などを買ってきては、付録になり得るものを徹底的にリサーチする会議を毎月しています。女の子が“今”好きなものをしっかりと誠実に吸い上げることが、私たちの生き残りに必要なことだと考えています。

読者アンケートは未だにアナログなハガキ方式です。読者が手で書いた言葉が乗ったハガキが毎月1万通以上届き、編集者たちがそのデータに目を通します。女の子が今好きな色は、大人だと「ピンクかな?」と思ってしまいがちですが、実はピンクではなく水色なんですよね、そういった“今”がしっかりアンケートでは数字として出てくる。

今の小学生は家でYouTubeばかり見ていたいのかなと大人は想像してしまいますが、実際は外で遊ぶことが一番好きで楽しいんです。そういう子どものリアルを、細かく非常にアナログなやり方で、きちんとリサーチしているところが我々の強みだと思っています。

(※)ペン、原稿用紙、スクリーントーン、デッサン用人形などがセットになった本格的なまんがを描ける豪華なセットが付録につき、話題を呼んだ。アンケートでは「ちゃお」読者のなりたい職業の上位にまんが家が入っているという。

――感受性が強い時期の子どもに向けての雑誌作りで、大切にしていることはありますか?

小学生って正義感がすごく強いので、その気持ちを受け止めて、「正しいことはいいことだよね」ということが説教臭くなく伝わるようにといつも思っています。「ちゃお」の読者の好きな言葉をアンケートで取ると、「ありがとう」が1位なんです。「ありがとう」ってちゃんと言えるとか、そういう小さな正しさみたいなことを小学生の女の子ってすごく大事にしているので、その気持ちを「ちゃお」でも大切にしています。

――「ちゃお」史上初の女性編集長として、思うこと、気をつけていることはありますか?

小学館という出版社はとても子どもの読者を大事にする会社です。その中でも「ちゃお」は女の子が生まれてはじめてまんがに出会う雑誌なので、女性編集長だからと気負ってはいませんが、宝物のような雑誌を任せてもらったなと緊張はします(笑)。

編集としては、女だから男だからということよりも、“大人の目線”を入れないように気をつけています。大人の目線が入ると子ども向けのエンタメって興ざめしてしまうと思っています。子ども時代に触れるコンテンツとして、「女の子を楽しむ」ということを、大人の目線や社会からの制約なしに思いっきりやれることには、大きな意味があるのではないでしょうか。

ジェンダーレスが意識される時代ですが、「女の子を楽しむ」ことは、女らしさを押し付けることではないと思います。女の子に生まれた今の自分にOKを出して、女の子同士で一緒に「楽しいよね!」と楽しむ感じ。「ちゃお」は、そういう場所を提供できるといいなと思っています。

中学生くらいになると嫌でも社会や男の子の目線を気にするようになりますが、小学生には自分がやりたいと思うことをやって、かわいいと思うものをかわいいと言って、カッコいいと思うことをやるカッコいい女の子でいてほしいし、それが「ちゃお」の目指すところでもあります。