9月10日(金)に公開される、映画「ムーンライト・シャドウ」。よしもとばななの世界的ベストセラーを、原作の大ファンだというマレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督が映像化。

ある日突然に愛する人を亡くした主人公が、死者ともう一度会えるかもしれない、という不思議な現象「月影現象」を知り、悲しみをどう乗り越えるのか、どうやって未来へ進んでいくのかを描く。主人公・さつきを演じるのは、本作が初の長編映画単独主演となる小松菜奈。さつきの恋人・等役を宮沢氷魚が演じるほか、臼田あさ美、佐藤緋美、中原ナナらが脇を固める。

今回、本作で、恋人役を演じる、小松と宮沢にインタビュー。前編では、2人が演じた、さつき(小松)と等(宮沢)との共通点や、「みんなで協力した」という撮影中のエピソードなどを聞いた。

左から)等(宮沢氷魚)、さつき(小松菜奈)

<小松菜奈、宮沢氷魚 インタビュー>

──本作で演じた役どころとご自身で、似ている部分はありましたか?

小松:私は、さつきの「内に感情がある」という部分が、分かるような気がしていました。私も、今は「思ったことを言いたい」タイプなんですけど、以前の自分は思っているけど、なかなか言い出せない部分があったので。そういった部分でさつきの気持ちが分かりました。

でも、なぜか知らない人には、気持ちを言えるんですよね。それがこの作品では、麗(臼田あさ美)の役割になっていて。さつきの細かい状況を知らなくて、麗は大切な人を失った悲しみを持っていないからこそ、打ち明けたいというか。

普段、さつきの側にいる等の弟・柊(佐藤緋美)は、もっとつらい状況で。柊には「悲しいよね」とは伝えられないからこそ、麗の前では声を出したり、自分の感情が出せるようになっていて。そのシーンでも、台本上では「泣く」とは書いてなかったんですけど、私なりに考えて「ここでさつきは感情を出すんだろうな」と感じたので、監督がどう思うかは分からないけど、涙を流しました。

──宮沢さんはいかがでしたか?

宮沢:自身、3兄弟の長男なので、弟がいる等の気持ちがすごく分かりました。僕の両親もともに働いていたので、弟の面倒をみたり、手伝いをしていたら、自分の時間が持てなくて。そのときは、特に思わなかったんですけど、ある程度大人になって振り返ってみると、(弟たちを)見続けてこられたんですけど、犠牲にしていたものもあったなと思うんですよね。そういう経験は、等にもあったと思います。

僕も等のように、なるべく表では笑顔でいるように意識しているところがあります。少しでもファンやキャスト、スタッフの皆さんと喜びをシェアしたいなと思っているので、そういった部分が近いですかね。

──弟役の柊さんはいかがでしたか?

宮沢:とてもユニークで、やりたいことをやりたいようにやっていて…それが柊なんですけど。緋美くんにしか演じられない役だなと思いました。とにかく自由でしたね(笑)。

小松:うん、めっちゃ自由だった(笑)。

宮沢:彼なりにプランはあったと思うんですけど、あまり撮影の(前後の)つながりとかも考えないので(笑)。一緒にいるときは、2人の関係性を大事にしました。兄弟の間に愛があることを表現できるようにと、心がけていました。

左から)ゆみこ(中原ナナ)、柊(佐藤緋美)

監督の演出に、最初は戸惑うことも…

──エドモンド監督の演出は、いかがでしたか?

小松:監督とは、キャラクターについて話すことがよくあって。事前に集まって台本の読み合わせがあったり、わりと現場じゃないところで作りたい人なんだなと思って。「ここについて、あなたはどう思う?」といった風に、問いかけられることもあり、自分がやりたい方向について話すこともありました。

あんなふうにみんなで話すことは、ほかの現場ではあまりないですね。衣装について私は「暗め」だと思っていても、エドモンド監督は「ポップに描きたい」ということがあって、そこをみんなで話したら、自分が想像していたものとは真逆だった、ということがあったり。さつきの部屋も「クレイジーにしたい、クレイジーにしたい」と言っていて、「クレイジーってどういうこと?」と最初は戸惑うこともあったんですけど(笑)。

劇中で起きる出来事は暗くても、衣装や背景のポップさが、感情とは真逆だから見られる、というか、映像に吸い込まれる部分もあって、それが監督の狙いというか。暗くせず明るくすることで、「その中にも希望があるんだよ」ということが表現されているようで、監督は「全体を見ていたんだ」とすごく伝わって、いい表現ができたなと思いました。

宮沢:監督は、そういった準備をしたうえで、とにかく本番を大事にする人ですね。テストとかはあまりやりたがらずに、本番ならではの、そのときに垣間見える瞬間、瞬間を大事にする。ある程度段取りで出来たら、テストなしで本番に入る。そうすることで、想像していないリアクションが出たり、「これも面白いな」って思うことがあったりして、その瞬間すらも楽しんでいるようで。そういった化学反応をすごく大事にしているようでした。

そういった演出は新鮮でしたし、ドキュメンタリーの撮影に近いといいますか。自分が役に近づいている瞬間を撮られているような感じで、毎日楽しくやれました。

「小松さんは直観型。それができるのなら本当はやりたい」(宮沢)

──本作で共演してみて、お互いに「すごいな」と思った部分はありますか?

小松:取材でもそうですが、どんなことを聞かれるか分からない状況のとき、私は直感的に答えることが多いんです。それが良いときもあれば、「ヤバイ、やっちゃった…」ってこともあるんですけど(苦笑)。撮影でも、私は「1回とりあえずやってみよう」というタイプで、一度役に入ると、集中して何も見えなくなってしまうことがあります。

でも氷魚くんは、すごく考える人で。取材でもそうですし、現場でも監督とのコミュニケーションをしっかりとって。思ったことがあっても抑えることができて、起こったことに対してひとつひとつ考えられるというか…。淡々としていて、内側では考えていると思うけど、スッと役に入っていく。そういうことがお芝居でも生かされていて、自分とは真逆なタイプだなと感じました。

宮沢:小松さんは直観型だなと思います。僕がお芝居をする中で考えてしまうのは、それ(直感的に行動すること)ができないからなんです。それが出来るのなら、本当はやりたいです(笑)。なので、役作りのスタイルというか向き合い方は、違うタイプかなと思います。

でも今回、その中で不思議なバランスがあったのか、すごく気持ちよくお芝居ができたので、楽しかったです。中でも橋の上で(さつきと等が)キスをするシーンは、監督が描いていたものと僕らが考えていたものに違いがあって。何度も話し合ったり、実際に何度も動いてみたりと時間をかけました。それで出来上がったものを見たときに、すごく達成感がありました。スタイルが違ってもぶつかり合って話し合った結果、一番いい形であのシーンが出来上がったので、良かったなと思います。

宮沢氷魚、クランクインの日に起こったハプニングで…

──撮影中、印象に残っているエピソードはありますか?

小松:ピタゴラスイッチを作るシーン。あれね、何回も撮ったよね(笑)。ちょっとしたタイミングとか、誰かがぶつかっ倒しちゃったりとか、繰り返しやってしまって

宮沢:なかなか(2階から1階の)リビングまでたどり着けなかったね。

小松:行けなかったよね!

宮沢:序盤で失敗しちゃうから。最初は僕たちも「触っちゃいけない」という雰囲気だったんですけど、10回目くらいから撮影の時間もあまりないし、みんなで「立てろ、立てろ」って協力してやりました。あの日がたしか、僕のクランクインの日で。

小松:そうだったかもしれない。

宮沢:あれでチームワークが生まれたというか、撮影しているのを忘れちゃうくらい、みんなで集中して立ててました。

──あそこから柊さんのダンスシーンにつながるのは、とても印象的でした。

宮沢:あの撮影を僕は見てなかったから、劇場で試写を観て笑っちゃいました(笑)。

小松:オシャレすぎるんだよね(笑)。

宮沢:しっかり尺もとってたしね。

小松:監督は「あのシーンは絶対入れたい」と乗り気でした。

──あのシーンは台本にあったものですか?

小松:アドリブではないと思います。“ちょっと踊る”くらいは書いてあったと思うのですが、あんなにガッツリ使われているとは(笑)。

「食べることが生きることで、生きることが食べること」(小松)

──劇中で「食べるところを見れば、その人が分かる」(柊)という印象的なセリフがありましたが、おふたりは普段どのように人を見極めますか?

小松:私は現場の差し入れを見て、食べるのが好きな人なのか、そうじゃないのかが分かることがあります。食べることが好きな人は、差し入れにもこだわってて、やはり選ぶものも違うというか。現場でも「差し入れ、何入れてる?」とか「○○さんがいい差し入れをしていたから、それをマネしてみました」とか、よく食べ物の話しているんですけど。

私にとっては食べることは、すごく動物的で「食べることが生きることで、生きることが食べること」だと思っているので、食への興味の抱き方で、その人のことが分かるような気がします。

宮沢:僕は、この仕事ならではですけど、その人がメイクさんとか衣装さんと話している姿で分かります。撮影現場で、一番一緒にいるメイクさん衣装さんへの接し方や、テンションで、その人の本性や中身が分かるような気がしていて…。菜奈ちゃんは、どんな状態でも結構陽気に、ハイテンションで接しています(笑)。

小松:(笑)。

宮沢:だから本当に明るい、楽しい人なんだなと思って。中には、まったくしゃべらない人もいて、それはそれでカッコいいんですけど。そういうところを見ると、その人の素の状態がちょっとわかったような気がしますね。

インタビュー記事・後編では、2人の気持ちを切り替える方法や食の好みを聞いた。

撮影:河井彩美

映画「ムーンライト・シャドウ」は、9月10日(金)より全国ロードショー。

配給:エレファントハウス
©2021 映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

最新情報は、映画「ムーンライト・シャドウ」公式サイトまで。