劇団☆新感線41周年興行秋公演 いのうえ歌舞伎「狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)」で共演する中村倫也と向井理のインタビューを前後編で公開。

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前編では、本作への意気込みや本読みの感想などを語ってもらったが、後編では、約14年前に初共演した時のお互いの印象や、役者という仕事について思うことなどを聞いた。

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<吉岡里帆は狐役に慣れっこ?「狐晴明九尾狩」製作発表レポート>

<中村倫也×向井理 インタビュー>

「どんどんステップアップしていく向井くんが刺激になった」(中村)
「倫也はやっと年齢が追いついた感じ」(向井)

──2007年の映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」で初共演した時のお互いの印象を教えてください。

向井:僕ら若手は「その他大勢」のオーディションだったけど、倫也は同じ部隊にいるんだけどちゃんとセリフもあるし、実在している人という大事な役で、その時は「ちゃんとお芝居をしている人」という印象でした。

倫也がいないところで「すごい子がいるね」という話にはなっていたんです。「なんで若いのにあんなにできるんだ」って。その時のイメージがあるからあまり変わってないというか、世間が全然気づけていなかったなという感じです。

──中村さんはいかがですか。

中村:ずっと変わらないですね。当時から理知的で「シュッ」としていて、「Mr.スマート!」っていう感じです。いつか、「超エリートで頭良いんだけどサイコパス」みたいな役をやってほしい。

──向井さんは作発表会見で「あの時の小生意気なガキが大人になって…」と言っていましたが、どんなところが「小生意気」だと思ったのですか?

向井:本当にそう思っていたら言わないですよ(笑)。倫也はあの時18歳で、出演者の中では一番年下で、20代、30代が多い中、割と自由にやっていましたね。それをおもしろがっていたというのもあったかな。男だらけの作品だったので、どこか部活のような感じもありました。

クランクインがラストシーンだったのですが、そこでもわりと飄々としていて「我が道を行くタイプ」でした。その頃から自分を持っていたと思うし。言い方が難しいですけど、やっと年齢が中身に追いついてきた感じですね。

──お2人とも新感線の舞台は2回目となりますが、お互いの出演された前作はご覧になりましたか?

中村:自分もその時舞台(「怒りをこめてふり返れ」)をやっていたので、理っちが出ていた「髑髏城の七人~Season風~」だけ観られなかったんです。

向井:俺も倫也が「Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~」に出演している時、別の舞台(「星回帰線」)をやっていたから観られなかったです。ほかの映像作品は何作か見ていましたよ。『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)のモラハラ夫みたいな役とか。

──14年前の共演以降、役者として活躍されている姿をお互いにどう見ていましたか。

中村:僕は若手の頃、あまり仕事がなくてめちゃくちゃスレて、腐りきっていたんです。同世代の若者が出世していくことに危機感というか「ちくしょう!」と思っていて。

向井くんは当時から存在感が突出していたし、その後どんどんステップアップしていくのを見ていたから、その過程がすごく刺激でしたね。

向井:なんか俺って、「この野郎」って思われる率が高いみたいだよね(笑)。

中村:自分が30歳を過ぎて、振り返ってみたら笑い話にできるけど、20代前半は笑えなかった。

向井:若い時はハングリーだし、もう必死だからね。だけど、そう思うことも大事だなと思います。

中村:自分の無名時代というか、若い頃に仕事を一緒にやっていた人と、大人になってメインキャストと呼ばれる役に就いて、こうやって取材を一緒に受ける立場になるとすごくうれしいです。

「どんな時でも自分がやることは変わらない」(中村)
「エンターテインメントは圧倒的な平和の上にしか成り立たないもの」(向井)

──コロナ禍での公演となりますが、こんな世情だからこそ、役者としてできること、エンターテインメントが与えられるものについて考えることはありますか?

中村:僕は特になんとも思っていないです。所詮、芝居だと思っているので。それはフラットな意味でね。

だって自分の仕事って、人の生き死にほとんど関係無いですからね。たまに、むちゃくちゃ心に響いて人生観が変わったとか、変わるきっかけになったということもありますけど。その「たま~に」を作るために僕も作品と向き合うんですけど、それは見る人の自由だったりもするので。

コロナ禍だからって自分の能力が上がるわけじゃないし、覚悟を深めたからと言って何かが変わるとは思えない。もちろん期待してくれている人たちがいることも、「こういう時代だからこそ」というのも感じるんですけど、僕はやりたいからやっているだけなので、コロナ禍だろうと、そうじゃなかろうと、自分がやることは変わらないです。

向井:僕もエンターテインメントが特別だとは思っていないですね。むしろ、脆弱なコンテンツだと思っているんです。

3.11の時、僕は舞台で大阪にいたのですが、いろんなことがストップして、コロナの時にも予定していた仕事がなくなって。エンターテインメントは圧倒的な平和の上にしか成り立たないから、特別なものとも思っていないんです。もしかしたら、ある一部の人には「すごい」と思われているかもしれないけど、見ていない人には存在しないのと一緒ですから。

中村:僕らの共通点が見つかりました。“ドライ”!。

でも、誰かが立場というか存在意義を守るために声を出さなきゃいけないっていうのも分かるんですよね。例えば、映画館存続のための活動をしている仲間もいっぱいいますけど、そういう意味では、自分はあくまでただの役者だなって思ってしまう。

向井:例えば大谷翔平選手がメジャーリーグで頑張っているのを見て「すごい!」と思うような、スポーツにしかないものもあるし、エンターテインメントにしかない面白味もあるよね。

それはストレートの舞台でも良いし、新感線のようなエンタメ性のある作品を観て「なんか分からないけど面白かった!」と思って帰ってもらえたら、それで万々歳なんです。新感線にしか出せない色があるのと一緒で、エンターテインメントにしか出せないものも何かしらあるんじゃないかという思いはありますね。

撮影:河井彩美
取材・文:根津香菜子
スタイリング:中村/戸倉祥仁(holy.)、向井/外山由香里
ヘアメイク:中村/Emiy、向井/晋一朗(IKEDAYA TOKYO)
衣裳協力:中村/シャツ、スカーフ、セットアップすべてVIKTOR&ROLF/SHIFFON、その他スタイリスト私物

<いのうえ歌舞伎「狐晴明九尾狩」公演情報>

作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:中村倫也、吉岡里帆/浅利陽介、竜星涼、早乙女友貴
千葉哲也、高田聖子、粟根まこと/向井理 他

【東京公演】9月17日(金)~10月17日(日)/ TBS赤坂ACTシアター
【大阪公演】10月27日(水)~11月11日(木)/オリックス劇場