『推しの王子様』第1話完全版
日高泉美(比嘉愛未)は、乙女ゲームを手がけるベンチャー企業「ペガサス・インク」代表取締役社長。4年前に起業した泉美が最初にリリースした乙女ゲームは、外見から内面まですべてが泉美にとって理想の“推し”であるキャラクター・ケント様と恋に落ちる「ラブ・マイ・ペガサス」だった。
起業する前の泉美は、保険会社に勤務し、夢もやりたいこともなく退屈な日々を送っていた。そんなある時、友人から乙女ゲームの存在を教えられ、何気なくプレイを始めたところ一瞬で心を奪われる。
人生で初めて“生きがい”と呼べるものを見つけた泉美は、乙女ゲームに夢中になるあまり、ゲーム会社へ転職。そこで出会ったトップクリエーターの光井倫久(ディーン・フジオカ)とともに、最高の乙女ゲームを一から作り上げるために起業することを決意したのだ。
真面目で、誰に対しても壁を作らず等身大で接する泉美は、どんなに困難な状況でも絶対に諦めずひたむきに前へ進むタイプ。2.5次元俳優推しのデザイナー・渡辺芽衣(徳永えり)、歴史オタクのプランナー・有栖川遼(瀬戸利樹)、女性アイドル「26時のマスカレイド」にハマっているデザイナー・小原マリ(佐野ひなこ)、数学的な視点から編み物にハマっているエンジニア・織野洋一郎(谷恭輔)ら部下からも厚く信頼されている。
だがプライベートでは、ここ何年も恋愛をしておらず、もっぱらケント様に夢中。週に1回は必ず、仕事を忘れて「ラブ・マイ・ペガサス」に没頭する日を設けており、その日は近所の中華料理店で働くミュージシャン志望のアルバイト店員・藤井蓮(藤原大祐)に毎回チャーハンを届けさせている。
「ラブ・マイ・ペガサス」は乙女ゲーム界で革命を起こしたと言われるほどの人気を博し、泉美は一躍、新進気鋭の経営者としてもてはやされていた。大学生・古河杏奈(白石聖)も、このゲームに夢中になっているファンの1人。杏奈は、泉美がひそかにやっている「ラブ・マイ・ペガサス」のSNSページに、「ラブラブケント」の名前で参加している常連でもあった。
一見、順風満帆に見える泉美だが、実は「ラブ・マイ・ペガサス」に続く次回作の制作に苦心していた。開発資金集めに奔走していた泉美は、経営の多角化を進めている水嶋十蔵(船越英一郎)が代表取締役社長を務める大手アウトドアメーカー「ランタン・ホールディングス」に出資を求めるも、同社のメディア事業部長の小島(竹森千人)から、「単なる乙女ゲームには出資できない」とあっさり断られてしまう。
そんなある夜、光井と飲みに出かけた泉美は、いつものように彼の言葉に励まされる。光井と別れ、酔ったままふらふらと帰路につく泉美。すると、泉美の目の前に、いきなり空から男が降ってきた。
借金取りから逃れるために歩道橋から飛び降りたその男・五十嵐航(渡邊圭祐)の顔を見た泉美は、さらに驚がくする。何とその容姿は、ケント様にそっくりだったのだ。
航は、追いかけてきた男たちから隠れるため、泉美の手を取って物陰に隠れると、彼女を抱きしめた。男たちが去った後、何も言わずに立ち去ろうとする航。泉美は、航の後を追おうとしたが、酔いが回ってその場に倒れてしまい…。
あくる朝、自分の部屋で目を覚ました泉美は、隣で上半身裸の航が寝ていることに気づき、驚く。航は、財布の中にあった運転免許証を見て、泉美を自宅まで運んだらしい。そして、帰ろうとする航を誘ったのは、泉美なのだという。
航は、外見こそケント様にそっくりだったが、がさつで無神経な男だった。泉美は、大切にしているケント様のフィギュアを手に取る航から、それを取り戻そうとするが、床に落ちてしまう。怒った泉美は、航を追い出した。
出社した泉美は、ランタン・ホールディングスからの出資がダメだったことを報告。それでも次回作に向けるスタッフたちのモチベーションは高かった。その姿を見て、「ラブ・マイ・ペガサス」を作っていた当時のことを思い出した泉美は、もう一度、ランタン・ホールディングスへと向かう。
外出しようとしていた十蔵に会うことができた泉美は、出資の話をもう一度検討してほしいと願い出る。乙女ゲームは単なるゲームではなく、人生を変えることができるのだと訴える泉美。その姿を見つめていたのは、清掃会社のスタッフとしてランタン・ホールディングスで働いていた航だった。
十蔵は、小島に促されて無言のまま立ち去った。だが、泉美に興味を抱いた十蔵は、もう一度企画書が読みたい、と部下の小島に告げた。
仕事を終え、帰路についた航は路上ライブをしている蓮の姿を見かける。夢はメジャーデビューだという蓮の言葉に、フッと笑みを浮かべた航は、「夢って…」とつぶやく。
帰宅した泉美のもとに、友人の柏木理香子(河井青葉)から電話が入る。泉美が出演したドキュメンタリー番組を見たのだという。実は、泉美に乙女ゲームを勧めてくれたのも理香子だった。いまや2児の母である理香子と話した泉美は、ふと、違う人生もあっただあろうか、と考え…。
常宿にしているネットカフェで仕事を探していた航は、泉美のことを思い出し、ペガサス・インクの公式サイトを検索。そこで社員募集のバナーを見た航は、履歴書を用意し、いきなり泉美を訪ねる。
泉美は、突然のことに驚きつつも、航を追い返そうとした。そんな2人のやり取りを見ていた光井は、学歴も資格も特技も何も持っていない航に興味を示し、雇ってあげてもいいのではないか、と言いだす。泉美が航を育てればいい、というのだ。泉美は、どうするかコイントスで決めようなどと言う光井の話を強引に打ち切ったが…。
その夜、帰宅途中の泉美は、航が借金取りの男たちから殴られているところを目撃する。見過ごせず、間に入る泉美。原因は、航が男たちから借りた金を返さないことだという。その金額が10万円だと知り、「たったの?」と思わず口にしてしまう泉美。「これで、この人を自由にしてあげて」。泉美は、男たちに手持ちの金10万円を渡し、航を自宅に連れ帰る。
泉美は、出前をとって航に食事をさせる。航は、SNSで見つけた業者から1万円を借りたが、それがあっという間に10万円に膨れ上がったと泉美に打ち明け、その日は常宿にしているネットカフェに帰っていった。
生きていくのに必死で、やりたいこともなく、居場所もないという航に、乙女ゲームに出会う前の自分の姿を重ねた泉美は、彼を追いかけ、「あなたの人生、私が変えてみせる」と宣言。
航に服を買い与え、美容室で身なりを整えさせると、光井たちに彼を契約社員として雇うことにした、と報告する。ケント様にそっくりなその姿にざわつく芽衣たち。泉美は、航を最高の王子様に育てようと誓い…。