石橋貴明が文化人、ミュージシャン、タレント、アスリートなどジャンルを問わず“話してみたい”ゲストを迎え、焚き火の前でじっくり語り合うフジテレビ『石橋、薪を焚べる』。

11月24日(火)の放送は、株式会社植松電機の社長・植松努氏が登場。ロケットにあこがれたきっかけや、ロケット開発の喜び、ロケットに込める子どもたちへの思いを語った。

世界に3つだけの無重力実験装置「売ってなかったから自分で作りました」

植松電機は、これまでに100回ほどロケットを打ち上げ、ロケットに搭載する人工衛星も作り、無重力実験装置も持っている。その無重力実験装置はドイツのブレーメン大学と、NASA、そして植松電機にしかないそうで「売ってなかったから、自分で作りました」と笑う。

大きいもので7~8メートルのロケットを打ち上げているという植松氏。ちょうど近くにある柱くらいの大きさと聞き「このくらいのもので、宇宙まで行くんですか?」と石橋が質問。

植松:実は、日本には、民間企業が作ったロケットを宇宙まで飛ばしていいという法律がないんですよ。僕らが言われているのは、国際線の旅客機に迷惑をかけちゃいけないから、高度10キロ以上は打ち上げてくれるなと言われていて。高度10キロ以内の制限を受けながら実験をし続けている状態です。

石橋:10キロじゃ、(距離が近くて)ビュッて。

植松:そうなんです、そこらへんなんです。ロケットエンジンもすごいパワーがあるのに、わざと短く燃やして、あとは惰力で上がっていっちゃうんです。

石橋:だけど、許可があれば宇宙まで行くんですか?

植松:実は10キロまでは空気があるので、つらい状態は全部10キロ以下で起きているんですよ。10キロ以上行くとあとは空気がほぼなくなっちゃうので、エンジンを長く燃やせば宇宙まで到達するというだけのことです。

「知恵と経験と人脈」が得られるから「利益はあまり考えていない」

植松電機でロケットを1回飛ばすための費用は数百万円ほど。「よそで作っているロケットと比べると10分の1くらい」と説明する。その理由は、すべてを自社制作しているから。「利益はあんまり考えていないし、もうからなくていいかなと思っています」と話す植松氏に「え!?趣味でやってるんですか?」と石橋は驚いた。

植松:(笑)。いろんな研究者がこの世にはいるんですよ。その中には「ロケットを使った実験をしたいんだけど、お金がなくて実験できません」という人がいるんです。そういった人たちに、じゃあ、僕らがロケットを作るから実験してみたら?という形で安くロケットを提供することで、その人たちの研究が上手くいったらうれしいなという感じですね。

(研究者たちが)研究している装置のことを学べて、ロケット制作技術も上がり、人脈も広がる。「Win-Winの関係なんですね」と感心する石橋に、植松氏は大きくうなずき「知恵と経験と人脈で、おそらく僕は“もうかっている”と判断している」「だって(普通は)出会えない人に出会えるんですよ」と、その意義を語った。

「奇跡の出会い」で世界で唯一のプラスチック燃料ロケットを開発

その植松氏がロケット制作に踏み切るきっかけは、北海道大学大学院の永田晴紀教授と知り合ったこと。幼いころからロケットへの憧れを抱いていたが「ロケットは危ないから勝手に作ってはいけない」と思い諦めていた植松氏に、永田教授は「危ないならば、安全にすればいいんじゃないかな」と話し、プラスチック燃料のロケットの研究を共にすることになった。

「奇跡」というその出会いから、植松電機では、通常はゆっくりと燃えるプラスチックを、急激に燃やす技術を開発し特許を取得。「世界で唯一、地上から発射できるプラスチック燃料のロケットと言われているんです」と胸を張る。

そして植松氏は、2005年に苦労を重ねてでき上がったロケットの最初の打ち上げを迎える。

植松:夕方ですよ。薄暗くなってきたところへ、ものすごい美しい炎を噴き出してロケットが飛んで行ったんですけど。その美しさと、もう一つはね「なんてひたむきなんだろう」と思って。全力をふり絞って、上にしか行かない。それを見たときに「自分はあんなに一生懸命だろうか」と、ものすごい悔しくなってきて、泣けてきたんですよ。「かっこいい!美しい!」と思ってね。

「自分の中で一番うれしい経験です」とその光景を振り返った。

「あの子はおかしいから迷惑」未来を勝手に潰してくる大人

一方、つらかったのは、ロケットや飛行機が好きな幼少期からの気持ちや夢を、いろんな大人たちから「できるわけない」と否定されてきたこと。

植松:僕は自分なりに飛行機の勉強を続けてきて、学校の成績は悪くて。学校の先生ともうまくいかなくて、成績表には「集団行動ができない」「落ち着きが足りません」と書かれ続けていて。ある日、先生が家に来たんですよ。母さんと先生が話していて、僕は階段の隅っこに隠れているんです。そうしたら母さんが泣いているんですよ。先生の声が僕にも聞こえるんですよ。「あの子はおかしいから迷惑だ」って言っていて。「僕がおかしいせいで母さんが怒られるのか、母さんが泣くのか」と思って、「何で生まれてきちゃったんだろう」って泣くしかなかったんですけど。

そんな僕が今にして思えば、会社作って、ロケット作ってるんですよね。それを小学生の僕はまったく想像していないんですよね。先生も想像していないんですよね。「未来なんかわからないのに、それを勝手に潰してくる大人がいるな」って思って。それは本当に悔しいな、と。嫌な記憶です。

「僕も『落ち着きがない』とか『授業中うるさい』とか、ずっと書かれていました」と話す石橋に「そういう子がいつか逆転できると信じている」と植松氏は力を込めた。

植松氏は「今の子どもたちはとても素直でまじめで勤勉になってしまって、言われたことはできるけど自分で創造することができなくなっている」と危惧する。

石橋:全員が平均点というよりも、どこか欠落しているけれども、どこかが突出しているというようなタイプも必要だということですよね。

植松:そういう子たちを集めて力を合わせたほうが、面白いことが起きるような気がするんですよね。

「どうせ無理」に負けない人たちを増やしたい

植松電機では、幼稚園児から学生まで、年間1万5千人もの子どもたちを招いている。

植松:その中でね、一番素晴らしいのは幼稚園児なんですよ。無重力実験装置で「このボタン押してみたい人?」って言うと、「このボ…」くらいでみんなが殺到してケンカになるんです。彼らはすごいやる気にあふれているんです。それが高校生くらいになると、誰も(前に)出てこない。

石橋:日本の教育の問題点みたいな。

植松:ある意味、絶望するんですけど、ある意味、希望があるのは、20年くらいそれをやっているんですけど、幼稚園児は毎年同じ反応なんです。ということは、この世に生まれてくる子どもたちはまったく問題なしなんですよ。その後ろにゆがめる仕組みが存在しているだけだと僕は思っていて。

大人が自分の常識を教えた途端に、子どもたちは大人以上にならないんですよね。そうすると社会は衰退しかしていかないのです。子どもたちには、もっともっといろんなことができるよ、大人より科学が発達した時代に生まれてるんだから、もっとすごいことができるよってことを知ってほしくて、修学旅行で来てくれた子たち全員に一人一個づつロケット作ってもらうんです。

自分が作ったロケットが飛ぶのを見て「小さな自信が生まれるみたいなんですよね。そういった子たちが増えていけばいいなと思っている」と話し「子ども向けのロケットを飛ばし続ける」と誓う。

植松:「夢がありません」という子たちは、他の人たちから「そんなことできるわけないよ」「どうせ無理だよ」とさんざん言われているんですね。でも、僕の経験から言うと「どうせ無理だよ」という人は“やったことがない人”なんですよね。

“やったことがない人”はできない理由を平気で教えてくる。だからこそ「どうせ無理」という人を本当は減らしたいんだけれども、きっと減らせない。だから、「どうせ無理」に負けない人を増やしたい。「だったらこうしてみれば?」と考えられる人が増えたらいいなと思っています。

「そんな子がどんどん増えてきたら、10年後の日本が変わるかな、世界が変わるかなと思いますね」と未来への展望を語る植松氏に「素晴らしい!かっこいい!」と石橋は拍手を送った。