現在、フジテレビで放送中の大倉忠義主演、広瀬アリスがヒロインを務める木曜劇場『知ってるワイフ』。
夫婦関係に悩む大倉演じる主人公が、タイムスリップという奇跡で妻を入れ替え、“本当に大切なことは何なのか”を模索するファンタジックラブストーリーだ。
ドラマも終盤に差し掛かる中、フジテレビュー!!では、脚本を手掛ける橋部敦子にインタビューを実施。
聞き手は、当サイトにて、毎回鼻息荒く興奮気味のレビューを書き、「橋部先生、大好き!」と言うドラマフリークの大石庸平(テレビ視聴しつ室長)。
後編となる今回は、橋部の脚本家としてのスタンスや、執筆にかける思いなどを聞いた。
<橋部敦子インタビュー【前半】はこちら>
【後編】<橋部敦子 インタビュー>
――脚本の執筆についてお伺いいたします。先生の作品はとてもリアルな描写が多いと思うんですが、実体験を混ぜて書いたりするのでしょうか?
あんまり意識したことはないですけど、体験自体を書くっていうのはないですね。ですが、自分の似たような感情が盛り込まれる、ということはあるとは思います。あとは、知らず知らず、無意識に投影させてしまっているっていうことはあるかもしれません。
だから、書いているときは分からないんですけど、後から「あ、あれは自分だったな」って思うことがあります。でも実体験でとかそういう意識では書いてはいないですね。
――いいセリフやシチュエーションが浮かんだりしたときに、メモしたりネタ帳を持っているとか、そういうことはありますか?
あらかじめ書くものが決まっていないと、セリフというものはあまり頭に浮かばないですね。作品から離れているときに、セリフだけがポッと出てくるってことはないんですけれども、ただ日常生活の中で、これは何かのネタに使えるとか、テーマが膨らみそうだなって思うことはあるので、それはネタ帳ってことではないんですけど、毎日出来事を書いているノートみたいなのに書き込みます。
「あなたは生活の中で書きなさい」その教えを20年くらい守っている
――執筆のルーティンはありますか?
状況に応じてっていう感じですね。締め切りに追われているときはずっと書いてますし、書いてる最中に自分ではコントロールできない何かが起きたら、それはもう対応しなきゃいけないので、それに対応するっていう感じです。
昔、男性の脚本家の方だと仕事場を持って9時~5時にそこへ行って書かれるとか、そういう方の話が出た時に「やっぱりそういうのがいいんですかね」って、あるプロデューサーの方にしたんですね。そしたら「あなたは生活の中で書きなさい」、「日常の生活の中で書きなさい」と言われて。だからその教えを20年ぐらい疑いもせず、ずっとやってますね。
――だから先生の作品には”生活”が滲み出てるんですね…。なんだか謎が解けたような気がします。
僕は先生の『僕らは奇跡でできている』が好きなんですが、あのドラマは明確なテーマであるとか、不思議な主人公ではあるけどそこだけにフォーカスした話でもないし…どういう経緯であの企画は通ったんだろうって不思議でした。
あれは特別ですね。非常にありえない経緯で成立したので、参考にならないと思います(笑)。
※『僕らは奇跡でできている』(2018年)…高橋一生主演で、ちょっと変わった動物行動学講師が主人公の成長物語。ともすれば社会からはじかれてしまいそうな登場人物たちを丁寧にあたたかい視点で描いた。橋部先生の優しさがあふれる作品。
――主人公が講師を務める”動物行動学”に、先生自身興味があったとかそういうことでもなかったんですか。
そういうわけではないんです。あの作品は講義を実際に受けに行ったりしました。そうしないと動物行動学っていうのはよくわからないじゃないですか。また今の学生さんのことも知らなかったので、そういう意味でも普通に講義を受けさせてもらったりしましたね。後は大学の先生に何回か取材をしたりとか…だから動物行動学に特別思い入れがあったとかではないんです。
自分の作品は見返さない「再放送で見るとびっくりする」
――『知ってるワイフ』もTwitterなどSNSで視聴者が盛り上がっていますが、先生は視聴者のリアクションや感想などは意識されるんでしょうか。
『知ってるワイフ』も放送の翌日とかにYahoo!ニュースに記事が出ていたりしますよね。そういうのは自然に目につくので読ませていただいてます。Twitter とかの反響は、いつもは見ないんですけど、今回はもう(脚)本を書き上げているので、放送が終わった後、ちょっと見たりはしてますね。
書いてる途中だと、やっぱりその情報を目にした時に、そこでどなたかの意見がそのまま頭に残ってとか、そういうことがあるかもしれないな…と。だけど今回は、SNSとかの反応を見てたんですけど、多分意外と大丈夫なのかなと思いました。執筆中に見ていても意外と平気なのかなって思いました(笑)。
――僕は個人的に『小市民ケーン』(1999年)の再放送、もしくは配信を望んでいるのですが(笑)、先生は過去の作品を見返したりするんでしょうか。
しないです。時々再放送で目に入ると、自分でもびっくりするというか、「こんなセリフを私は書いてたんだ!」って必ず驚きます(笑)。
※『小市民ケーン』(1999年)…木梨憲武主演で、さえなくて情けない高校教師が繰り広げるコメディ。仰々しいナレーションと劇伴が特徴で、タイトルコールの後に「それは俺だ!」と主人公が画面に向かって叫ぶオープニングが忘れられない。
――その時その時で作品として出したら、そこから切り離される…そんな感じなんでしょうか。
そうなんですかね。だけど無意識のレベルで全ての作品が残っているので、自覚してる記憶にないだけで、意識の中ではちゃんと残っているので、全ての作品が連動しています。
例えば『小市民ケーン』で言えば、あれと『僕の生きる道』は同じなんですね。同じと言えば変なんですけど、描こうとしていた元の種は同じなので、それがちょっと違う形になって、しかも同じ座組みになったっていうことなんです。だから全く関連のないものでもどこかに影響はあって、その時は気づかないんですけど、時が経つと、全てが血となり肉となりっていう感じなんですね。
作品を今その時にやる意味っていうのはもちろんあるんですけど、あとで振り返ってみて別の意味が見つかったって時はとても感動するんですよ。「この作品にはこういう意味があったんだ!」って。それを誰かに言うわけではないんですけど、「この作品はこういうことだったのか!」ってわかる瞬間が一番感動するというか、壮大な脚本の歴史の中で結びついた!みたいな…。ちょっとこれ、興奮気味に喋ってますよね(笑)。
※『僕の生きる道』(2003年)…草彅剛主演で、余命1年と宣告された高校教師が主人公のヒューマンドラマ。『小市民ケーン』と同じく橋部敦子先生と星護監督がタッグを組んだ作品。”コメディ”と”ヒューマン”、対局にある作品だが、どちらも人生を諦めていた高校教師の主人公が、大きな転機を境に成長していくという点が共通する。
――とっても素敵なお話です。ありがとうございます。では、今後書きたいお話などはあるんでしょうか。
具体的な構想とかではないんですけど、いつも作品をやるときに思っているのは、人ってどうしても人それぞれで、意外と狭い世界で生きているので、見てくださっている方の視野とか意識がちょっとでも広がるようなものをいつもやりたいと思っています。だから『知ってるワイフ』もそういう作品になっていると思います。
――最後に『知ってるワイフ』の今後の見どころについて教えてください。
いろんな感情が盛り込まれているんですが、その全部で『知ってるワイフ』なんです(笑)。後半の展開で、前半になかった部分としては、銀行のみんなの心情が浮かび上がるようなシーンが出てきたり、小池(生瀬勝久)の謎が解けたりしますし、大きな流れとしては、最終回は原作とは違ったお話になっています。
これまでにも増して登場人物たちの感情が大きく揺れていくので、そこの部分は見応えがあるんじゃないかなと思います。
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