9月12日(土)、フジテレビのスポーツニュース『S-PARK』では、「もうひとつの『2020夏 僕らの甲子園。』」と題し、栃木県・作新学院女子硬式野球部を取材した特集が放送される。

この夏、『S-PARK』 では、8月2日(日)~30(日)の5週にわたり「2020夏 これが、僕らの甲子園。」を放送。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で「甲子園」がなくなった高校球児たちが、“最後の夏”に何を目指し、何を思ったのか、球児たちのリアルに迫った。

その取材は「球児たちの熱い思いを伝えたい」と、立候補した番組の若手ディレクターたちが担当し、さまざまな反響があったという。

「2020夏 これが、僕らの甲子園。」 の記事はこちら

今回放送となる 「もうひとつの『2020夏 僕らの甲子園。』」 を手掛けるのは、入社2年目の野﨑舞夏星(のざき・まなほ)ディレクター、歳内彩文(さいうち・あやみ)ディレクター(以下、D)。2人にとってこれがデビュー作となる。

野﨑Dは、2014年に世界女子ジュニア相撲選手権大会軽量級で優勝。歳内Dは、先日、四国アイランドリーグから東京ヤクルトスワローズに入団しNPB復帰を果たした、歳内宏明投手の妹と、2人ともスポーツには縁が深い。

そんな2人は、デビュー作にどんな思いで向き合ったのか。編集の最中で多忙を極めながらの取材にも、礼儀正しく、丁寧な受け答えで明かしてくれた。

<野﨑舞夏星D&歳内彩文D インタビュー>

――今回、なぜ作新学院女子硬式野球部を取材することになったのですか?

野﨑:当初、「2020夏 これが、僕らの甲子園。」 で一緒に取り上げる予定だったのですが、女子の全国大会が7月開催から10月に変更になったため、「8月には間に合わない」ということで、このタイミングでの放送となりました。

女子野球に目をつけたのは、マネージャーとか吹奏楽とか取材の案が出た中で、5月頃に、夏の全国大会(甲子園)の中止の発表があって。男子と同じように苦悩している女子生徒たちを取り上げたいなと思って、私たち2人で立候補しました。

歳内:私も、野球が好きというのもありましたし、女子というのもありましたので、チャレンジしたいなと思いました。

――お2人は、どういう間柄ですか?

歳内:同期入社で、年齢は私が1つ上です。昨年の『FIVBワールドカップバレーボール2019』で、 私はバレー班、中継班だったのですが、そこにニュース班である野﨑さんが応援に来てくれて、約1ヵ月間一緒に仕事をしました。

――今回、そんな2人で一緒にできる、と聞いたときは?

歳内:率直に、心強いなと思いました。

野﨑: やっぱり、プライベートでも飲みに行ったりしている仲なので…話しやすいですし、すごくうれしかったです(笑)。

――取材はどのように進めていったのですか?

野﨑:まずは、野球部がどういう部活なのか、どんなふうにやっているのかを下見に行って、そこからどこに(取材の)目線をつけていくかを考えました。

最初に取材に行かせてもらったときに、3年生6人のうち、進学のため最後の大会を迎えずに引退してしまう選手が1人いたので、そこに目線をつけようとしたのですが、取材を進めていく中で、キャプテンの成長物語を軸にして、引退する選手もいて…というふうにやっていこう、と。取材しながら目線づけを変えていく、という難しさがありました。

――取材は、何回くらい行きましたか?

歳内:6月の半ばから、月に2、3回。泊まりも含めて、10回前後は行ってます。

野﨑:オンエア(12日)当日ギリギリまで、取材に行く予定です。だから、ずっと緊張しています。

歳内:オンエアが終わるまで油断できなくて…。反応までがすごく心配です。

野﨑:Twitterとかでめちゃくちゃ叩かれたらどうしようとか。

歳内:決して、自己満足だけで終わりたくたくないので。

――取材を通じて気づいたこと、感じたことはありますか?

野﨑:最初は、女子高生たちに話を聞いても、返ってくるのは、「はい」とか一言二言。大きいカメラでインタビューして、そのときは全然答えてくれなかったんですけど、私たちが持っているデジ(小さいカメラ)で撮るようにしたら、かなり話してくれるようになりました。

時間を重ねるにつれてどんどん話してくれるようになると、こちらの思い入れも強くなりすぎてしまって。そのうち、逆に親しくなりすぎて、ふざけられてしまうことがあったり。距離のとり方は難しいなと感じました。

歳内:アポを取る、インタビューをする…何もかもが初めてだったので、こちらも緊張していて、最初はお互い緊張してしまうという感じでしたが、2ヵ月、3ヵ月と経つにつれて、打ち解けていきました。「これは本音だな」と感じる言葉が出てきたときなど、先輩がよく言う“信頼関係”を築けてきているのかなと少し感じました。

そして、これは本当におこがましい話ですが、取材を通じ「これは単なる仕事ではなく、彼女たちの思いを私たちがきちんと伝えるべきだ」という気持ちが、どんどん強くなっていきました。

――取材するうえで、心がけたのはどんなことですか?

野﨑: 物語が平行線をたどっていたというか、あまり事件もなく…という中、10月に行われる予定だった代替大会が中止になってしまったんです。その情報を発表の前日につかんだので、どうしても彼女たちの反応を撮りたいと思って。翌日すぐ取材に向かい、そこでみんなの反応、表情をしっかり撮ることができたことが、強く印象に残っています。

監督、生徒たちとコミュニケーションをとることも大事ですが、周囲の状況にも目を向けておくことも同じように重要だということも学びました。

歳内:アンテナを張るということが大切なんだなと。これまでは、先輩のディレクターについていって、取材のお手伝い、雑用に近いことをしていたんですけど、今回は自分たちが主体となって動かなければならない。

監督、生徒、お母さんたちの目線と気持ちも考えて、見る範囲を広げる。カメラで一部分を撮っていても、周りで何かが起きていたりするので、目の前で起こってることに集中しながら、周囲にも気を配ることが大事だと感じました。

――夏の暑い時期の取材で苦労もあったのでは?

歳内:関東大会で、埼玉県で炎天下の中、3日間試合を追い続けたんですけど、屋根もなくて…。あれは大変だったよね。

野﨑:『Live News α』についたり『S-PARK』についたり、 日々のオンエア業務もやりながらだったからね。

歳内:体中の皮がむけて。

野﨑:だって、日焼け止め塗ってないんですよ(笑)。

歳内:次の日から塗ったんですけど…。

野﨑:遅いよ(笑)。

――時間をかけて取材したことを、短いVTRにまとめるのも難しそうです。

野﨑:学校のみなさんが、監督をはじめすごく協力的で、本当にいい方ばかりでしたから、思い入れが強すぎて要素が多くなってしまって。(尺をオーバーして)20分くらいになるんじゃないか、という構成を作ってしまったり。そのあたりの兼合いが難しかったですね。

歳内:約4ヵ月間取材してきた中で、監督さん含め彼女たち一人ひとりに思い入れができてしまって。

制限がある中で、彼女たちの良さを伝えなくてはいけないのが難しいというか。現場に行ったからこそ伝えたい思いがあるのですが、それを限られた尺でどう伝えるかというのは、すごく迷いました。削る部分を作るのが、本当に苦しいんです。

――2人で担当することで、意見の相違などは?

野﨑:構成はそれぞれが作って、合体させているのですが、お互いに「ここ入れたい、外せない」という部分があるので。仲がいいからこそ言いにくい部分はありますが、そこは、今まで2人でやってきたからこそ、いいものを作りたいという気持ちで(笑)。

歳内:「ここは譲れない」というところはあるにせよ、いいものにするために、他者の視点というか、先輩ディレクターからの助言も含め、納得しながら進めています。

「オリンピックに携わりたかった」

――少し、話題を変えて、お2人のことを聞かせてください。お2人はどうしてテレビ業界に入ろうと思ったのですか?

歳内:私は、オリンピックに携わりたかったんです。メディアはいろいろありますけど、音声と、観客の盛り上がり、全部を伝えられるのはテレビしかないと思ったからです。

兄が甲子園に出ているのですが、(出場が)福島県だったんです。私は、地元が兵庫で、高校3年間ずっと兄の様子がわからない状態で。テレビを通して「こんなに頑張っているんだ」と伝わってきて、そこに心揺れたことも志望した理由のひとつになっています。

野﨑:私がやっていた女子相撲は、かなりマイナーなスポーツなので、テレビというスポットが当たるだけで、「女子相撲ってあるんだ」と知っていただいたり、興味を持って「自分もやってみたい」と思ってくれる人もいて。テレビの影響力は、すごいなと感じていました。

そういったおかげで女子相撲が少し広まった部分があるのが、すごくうれしくて。今度は自分が…今回であれば、女子野球(の状況)は女子相撲と似ているところもあるので、彼女たちの成長を伝えながら、女子野球のすばらしさも伝えられたらいいな、と思いました。

―― 歳内さんのスポーツ経験は?

歳内:中学までソフトボールをやっていました。高校にはソフトボール部がなく、野球部に興味を持ったのですが、女子は練習はできるけど試合は出られないというルールで。そこで、「ここは思い切って違うスポーツをしよう」と思い立ち、空手を始めました。3年間やりきって、大学では、ダンスを始めました。ヒップホップとか、サークルと、ダンススタジオに通って。

野﨑: 私、球技とかできない。(相撲のように)生身でぶつかることしか(笑)。

歳内:今も何かやりたい気持ちはありますが、なかなか時間と機会がなくて。取材で、練習を見ていたりすると、本当にやりたくなります。

――仲の良さ、信頼関係が伝わってきますが、お互いはどんな存在ですか?

歳内:(野﨑Dは)本当にしっかりしていて…。

野﨑:え?全然しっかりしてないですよ(笑)。

歳内:行動力があるというか、例えば、連盟に電話しよう、となってもすぐ動き出しますし、そういう部分は見習うべきところだと思っています。行動力もあるし、年は1つ下ですけど、頼れます。

野﨑:彼女は、すごくやさしいんです。それが選手たちにも伝わって、いいインタビュー、いい答えというか、選手の本心が引き出せます。先輩ディレクターから言われた「選手が高校生なので、いい意味でお姉さん、良き理解者でありながら制作者でもあり、を両立しなさい」という言葉を実現できていると感じます。

歳内:いやいや~。野﨑さんこそ、あらかじめ用意してきた質問をぶつけて終わりではなくて、会話のキャッチボールができるんです。相手が言っていることを咀嚼(そしゃく)して次の質問をできるのはすごい。

野﨑:そういう意味では、最初に高校生の彼女たちを取材できたことは良かったかもしれない。アスリートだったら、緊張しすぎて何もできなかったかも。

歳内:確かに。2年目でどれだけできればいいのかがわからなくて、不安がある中ですが、少しでも成長できたと思えるように、最後まで頑張らないとね。

――今後、どんな取材をしてみたいですか?

野﨑:いつかアマチュア相撲を取り上げたいなと思っています。最終的には女子相撲をやりたいんですけど。実は私、大学まで大相撲をまったく見てこなかったんです。

大相撲は体格が違いますし、女子相撲は階級別なので、あまり意味がないだろうと思っていて。今思えば、もっと見ておくべきだったなと。一度、仕事で生で国技館で見させていただいたときに「こんなにすばらしい競技だったんだ!」と感動して。もっと魅力を伝えていきたいです。

歳内:具体的にはないんですけど、これまであまり縁がなかったスポーツにも挑戦したいなと思っています。スポーツの良さを伝える身としては、それぞれの競技の良さを、自分の中で理解しなければいけないと思うので、またこういうチャンスがあれば、ルールをあまり知らない競技などにもチャレンジさせていただきたいなという思いがあります。

――今後、お兄さん(歳内投手)の取材もあるかもしれませんね

歳内:周囲からは「本音を語ってくれるんじゃない?」と言われたりもするんですが、それはどうでしょう。お互い、恥ずかしいかな(笑)。

――最後に、視聴者のみなさんに改めて「もうひとつの『2020夏 僕らの甲子園。』」 の見どころなど、メッセージをお願いします。

野﨑:男子の高校野球とは違う悩み、人間関係で揺れ動くキャプテンの姿、女子選手特有のかわいらしい感じにも注目していただきたいです。

歳内:春の大会、夏の大会、代替大会…3度の大会中止があって、私だったら立ち直れないかもしれない。監督もおっしゃってたんですけど、そんな中で「キャプテンは強くなった。成長した」と。どん底から、引退試合までの彼女の成長も見ていただきたいです。

野﨑:すごく、かわいいよね。みんな。

歳内:めちゃくちゃかわいいです 。

野﨑:私は個人競技をやっていたので、 みんなで乗り越えていく感じが本当にまぶしくて。

歳内:女子野球は、プロもいらっしゃいますが、まだマイナーではあって。その女子野球の盛り上げ、底上げに少しでもつながればと思います。なかなか取り上げられない題材だと思うので、そういう部分では、オンリーワンの特集を目指したいなと思っています。

<「もうひとつの『2020夏 僕らの甲子園。』」 栃木県・作新学院女子硬式野球部 紹介>

栃木県・作新学院高等学校女子硬式野球部は、昨年夏、創部7年目ながら悲願の全国大会初優勝を果たした。

そんな、2年連続の日本一を目指す女子野球部に、激震が走る。新型コロナウイルス感染拡大の影響による全国大会の中止。さらに、10月に開催予定だった代替大会までも…。

受験に専念するために7月で引退を決意する選手、昨年のように輝かしい結果を引き継ぐことができなくなってしまった3年生。

バラバラになったチームを前に、キャプテンの篠原優華(しのはら・ゆうか)さんには、伝えたい思いがあった。そして、見えてきた一筋の光――。

担当ディレクター: 野﨑舞夏星、歳内彩文