試写を見て、何回のけぞっただろうか。爆笑あり、驚きあり、あきれ返るほどのくだらなさ(本作には必須!)あり、衝撃の真実ありで、ドキドキが止まらない。
10月15日(金)に公開される深田恭子主演の「劇場版 ルパンの娘」は、連続ドラマでは叶えられないスケール感、よりハチャメチャな世界観、それに相反する深い家族愛がぎっしり詰まったエンターテインメント大作に仕上がっている。
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横関大の人気小説「ルパンの娘」を原作に、アカデミー賞で最多12部門優秀賞を受賞した映画「翔んで埼玉」の武内英樹監督と脚本の徳永友一が再タッグを組み、2019年と20年に連続ドラマとして放送された『ルパンの娘』(フジテレビ)。
ドラマは、先祖代々泥棒一家“Lの一族”の娘・三雲華(深田)と、先祖代々警察官一家の息子・桜庭和馬(瀬戸康史)が禁断の恋に落ちる“現代版ロミオとジュリエット”として始まり、シーズン2まで放送された。
劇場版の舞台は、シリーズ初となる海外。ディーベンブルク王国の秘宝を巡る“Lの一族”最後となる大仕事と、「華の出自の秘密」をテーマに、“Lの一族”の秘密、そこに秘められた家族の愛の物語が描かれる。
泥棒一家に隠された“もう1人のLの一族”三雲玲(観月ありさ)の存在。尊(渡部篤郎)が明かす「華が盗まれた娘」の意味。名探偵の祖父を“Lの一族”に殺された北条三雲(橋本環奈)がたどり着いた真実。新たな敵として現れる“JOKER”の目的…。ドラマのラストから続くすべての謎が解き明かされた時、ラストののけぞりが待っているのだ。
「コメディをド真面目に。映画版では、より真剣にぶざけて」武内監督の思いが詰まった劇場版
ストーリーもさることながら、『ルパンの娘』の最大の魅力は、ぶっ飛んだ演出のオンパレードともいえる、異彩を放つエンターテインメント性。泥棒スーツに身を包んで財宝を盗む古典的手法や、唐突に始まるミュージカルシーン、CGを駆使した奇想天外なSFシーン、爆笑必至のパロディネタの数々、そして、なんといっても強烈な個性のキャラクターたち…。
武内監督が「ドラマシリーズから、コメディであってもド真面目にやるということを意識してきましたが、映画版ではより真剣にふざけていただきました」と語るように、それはキャストの熱演からも伝わってくる。
華の出自が明かされるクライマックスシーンは、深田恭子の気迫で胸が苦しくなる
主人公の華は、普通の生活がしたいと思いながらも、泥棒家業に巻き込まれてしまうヒロイン。その一方で、泥棒スーツを着ると覚醒し、べらぼうに強くなるという二面性を持つ。「このぶっ飛んだ世界観を体現できる、かつ、純真さ、強さ、かっこよさ、セクシーさすべてを兼ね備えているのは、深田恭子しかいない!」と、稲葉直人プロデューサーが出演を熱望し、その見立ては見事的中した。
劇場版でも深田の魅力は存分に描かれているが、中でも特筆すべきは、クライマックスで見せる深田の演技。華が自分の驚くべき出自を知ると同時に、愛する和馬や娘の杏(小畑乃々)の命を奪おうとしたJOKERへの怒りを爆発させるシーンだ。
涙を流しながら、「あんたが犯した罪、悔い改めな!」と声を振り絞り、顔をゆがめる華。「深田がこんな表情をするのか」と驚くと共に、深田から発せられる怒りと苦悩の感情がスクリーンから飛び出し、こちらの胸をも苦しくさせる。
このシーンにはエピソードがある。本番ファーストテイクですべてを出し切った深田は、泣き顔のまま、「どうでした?」と、武内監督に問いかけたという。自分の演技について意見を求めないタイプの深田が、2年間のシリーズを通して初めての出来事だった。
監督も、現場でモニターを見ながら涙していたという。監督が一発OKを出したそのシーンは、いわずもがなのハイライトだ。
スタントなし、瀬戸康史のアクションシーンはキレキレ。渡部篤郎と小沢真珠の振り切った演技にも磨きが
ドラマでは毎回、悪党に捕まったり、白目をむくのがお決まりの和馬。劇場版でも、そのお約束は守りつつ、目を見張るのは瀬戸康史のアクションのキレ。自身も、ドラマの収録に入る前に体を作ってきたと語っていたが、劇場版では体の大きさがはっきりわかるほどたくましい。それもそのはず、早い段階からアクションチームと練習を重ねたという。
娘の杏が車でさらわれるシーンはスタントなしで挑み、太田莉菜演じるナターシャとの対決シーンでは、シリーズ初のジャケットを使用したアクションに挑戦。スピード、キレ、そして、華麗な動きは、作品をスケールアップさせ、飛び散る汗が降りかかりそうなほど迫力ある場面となっている。
華の父・尊を演じる渡部篤郎と、65歳(!)の美魔女である母・悦子を演じる小沢真珠の振り切った演技にも磨きがかかっている。いちゃいちゃする2人のバカップルぶりはもちろんのこと、劇場版では華に対する2人の深い愛情がひしひしと伝わり、涙してしまうほど。そこには、華の隠された生い立ちが…。
大貫勇輔の本格ミュージカルシーン“円城寺劇場”は一層のファンタジー満載
ドラマで話題をさらった円城寺輝(大貫勇輔)のミュージカルシーンも一段とスケールアップしている。物語にまるで関係のない文脈で突如現れ、ド派手な衣装に、歌とダンスで一瞬にして円城寺ワールドに変えてしまう実力は、まさに大貫マジック。
劇場版で、ディーベンブルク城の地下に閉じ込められた華たちの前に現れた円城寺。凍ってしまった華の祖母・マツ(どんぐり・竹原芳子)と、凍りかけた悦子を、歌とダンスで解凍するというファンタジーが展開される。
実はこのシーン、(脚本の)徳永のアイデアを、武内監督がおもしろがって作られたもので、最後には、マツの入れ歯が飛び出すというオマケ付き。武内監督と徳永コンビだからこそ生まれたこのシーンは、強烈なインパクトを放つ。
また、ひと仕事を終えた円城寺は、華たちを救出することなく、なぜか世界一の泥棒を決める「泥棒ワールドカップ」へ出場するため、さっさといなくなってしまう。頭の中に「?」が浮かびながらも、観客さえ置いてきぼりにする放置プレーに、なぜかワクワクするような快感を覚える人は少なくないはずだ。
ちなみに、円城寺が「泥棒ワールドカップ」に出場するシーンは、大貫がグリーンバックで踊り、武内監督がかねてより「いつか使いたい」と希望していた「東武ワールドスクウェア」のミニチュア映像と合成するという、ツッコミどころ満載の映像。その遊び心もぜひ堪能してほしい。
ゴージャスで謎めいた雰囲気、見事なアクションでスクリーンを支配する観月ありさ
そして、忘れてはいけないのが、“もう1人のLの一族”三雲玲。玲は、非凡な泥棒センスを持ちながら、一族とは離れて暮らしていた。だが、“ある事件”をきっかけに行方をくらまし、死んだこととされていた。再び一族の前に姿を現すが、果たして、その理由は…という役どころ。
劇場版のキーパーソンとなる玲を演じたのは、観月ありさ。ピチピチの泥棒スーツは、抜群のプロポーションを際立たせ、ゴージャスで謎めいた雰囲気でスクリーンを支配する。華との対決シーンでは、激しいアクションも披露。美しさと悲しみを抱いた玲は、これまでの観月のイメージを覆す役柄といえるだろう。
おもしろさ、楽しさと、人間の弱さが共存。それが『ルパンの娘』シリーズの魅力
かつて、徳永にインタビューした際、「どんなジャンルの作品でも、“人間の弱さ”を書きたい」と言っていたことを思い出した。人は弱いから1人では生きていけず、誰かを愛し、家族を作り、家族を愛し続ける。それが叶わなかった時、弱さ故に憎しみに変わることもある。『ルパンの娘』シリーズの根底に流れているのは、そんな“人間の弱さ”なのかもしれない。
おもしろいだけじゃない。バカらしいだけじゃない。楽しいだけじゃない。大笑いしたあとに、ポロポロと泣ける家族愛が待っている。どんな大泥棒さえも盗み出せない“家族の絆”──すべての真相を知った時、きっと息を飲んでのけぞるに違いない。
Text by 出口恭子(ライター)
映画「劇場版 ルパンの娘」は10月15日(金)より全国公開
配給:東映
©横関大/講談社 ©2021「劇場版 ルパンの娘」製作委員会
最新情報は、映画「劇場版 ルパンの娘」公式サイトまで。