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【眼福♡男子】Vol.26鈴木拡樹「役者としての理想をもたないことが僕のスタイル。新しい“山登り”には期待がいっぱい」

「時子さんのトキ」9月11日(金)~21日(月・祝)東京・よみうり大手町ホール/9月26日(土)、27日(日)大阪・サンケイホールブリーゼ

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穏やかな佇まいながら、舞台や映像でみせる憑依型の芝居は、観る者の心を瞬時に鷲掴みにする――俳優・鈴木拡樹。

彼が今回、「時子さんのトキ」で演じるのは、離婚後に息子とも離れ、1人で暮らしている時子(高橋由美子)の前に現れた路上シンガーの翔真と、時子の息子・登喜の2役。

久々に板の上に立つ鈴木がどんな思いで公演に臨むのか、そして、彼自身が大事にしている“トキ”についても尋ねてみた。

時子さんと翔真の関係は、欠けてしまった心のピースを埋め合うような形で成り立っている

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――今回は現代劇ということで、特殊な扮装ではない鈴木さんの姿が新鮮です。

ははは!確かにそうですね(笑)。もともと演劇が好きで芝居を始めたので、こういうジャンルにももちろん興味がありました。デビュー後、2.5次元といわれる作品のほうにもご縁があって長くやらせてもらっているので、そちらにも愛着がありますし、またこうやってストレートプレイの書き下ろし作品に出られることが僕自身も楽しみです。

――物語は、翔真と疎遠になってしまった息子とを重ね合わせた時子が、翔真に大金を貸し、周囲から「騙されている」と心配されながらも翔真を信じる…というストーリーです。この設定にどのような感想をもちましたか?

大きな枠として、普通には理解されない愛の形が描かれています。愛といっても、男女間の愛や家族愛など、さまざまあるじゃないですか。時子と翔真の間の愛はどこにもはまらないもので、欠けてしまった心のピースを埋め合うような形で成り立っている関係なんです。

僕が最初に感じたのは、とても繊細で難しいなということでした。こういう作品は1人で台本を読んでいても(芝居を)つくり上げられるものではないので、時子さん役の高橋さんと稽古を重ねたうえで、どういう親密度を築けるかもポイントになってくると思います。

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――また、翔真だけではなく、時子の息子・登喜を演じることでも話題です。

登喜のほうは僕1人だけではなく、カラテカの矢部太郎さんと登喜の年代を分けて演じます。2人でどんな登喜をつくり上げていくかが楽しみで、矢部さんが演じた子どもの頃の面影がなくても面白いでしょうし、「なるほど、こうなるのか」という共通点がある成長もまた楽しいと思います。

――鈴木さんと矢部さんのイメージが違うので、同じ人物を演じることがまったく想像できません。

肩の落ちた感じとか、体型はちょっと似てますね(笑)。そこを最大限に活かせたらいいなと思います。

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――メインで演じる翔真という人物からどのような印象を受けましたか?

脚本を読んだ時、真逆の2パターンが浮かんできたんですよ。心の奥底では実はいいヤツなのではないかということと、もう一方はやっぱり質(たち)の悪いものが常に心の中にある人物。チャンスだと感じたら、相手のことを利用しようと企むような…。

純粋な子が狂っていったという可能性もありますからね。時子さんが悪いというわけではないですけど、登喜へ向けた愛情がうまくいかなかったことから、自分が代わりになろうとし、そのことが翔真の人生を狂わせてしまった可能性もある。基本的には仕掛ける側なので、その仕掛け方を考えて演じていきたいです。

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――仕掛ける側ならではの面白さ、もありますね。

稽古で両パターンをやってみたんですが、高橋さんの受け止め方、返し方がまったく違っていたんです。高橋さんからは、演じていない段階から包容力といいますか、器の大きさを感じましたので、いろんな芝居をぶつけてみることが僕にとって勉強になりますし、また、それを許してくれそうな方でもあるので、楽しい時間を過ごしています。

――時子さんと翔真の関係性については、男女間で意見が変わってきそうですね。

僕は圧倒的に時子さん派です。応援したくなったり、感情移入しやすかったりするのは、時子さんのほうだと思います。作品を観終わった後には時子さんの味方がたくさんいて、100対0で翔真が悪い男にみられてしまうと思うんですけど、それでも(翔真がいたから)時子さんは幸せだったんじゃないかと思うと、第三者が翔真を責める義理はないのかなと。その点が難しく、でも、題材として面白い作品なんだと思います。

こんな状況でも「演劇を観たい」と言ってくださる方がいることに希望を感じています

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――トキ=時間についても聞かせてください。公式サイトのインタビューで「最近は夢をみていない」と発言されていましたが…。

夢って、なんで起きたら忘れてしまってるんでしょうね。よく聞く話ですが、夢の中で何かに追われている時って、自分の速度がめちゃくちゃ遅くないですか?走っても走っても、漕いでも漕いでも進まないあの感覚が夢特有で、子どもの頃はそれがとても怖かったです。ある程度大人になってからそういう夢をみると、「あ、夢か…」って冷静に思っちゃう自分がいて、夢の捉え方も変わったなと感じました。

――“夢あるある”ですね。では、もっとも自分をさらけ出せる瞬間は?

家に帰った直後、ソファに座った瞬間が完全なゼロですね。仕事モードの時は誰しもスイッチが入っているでしょうし、仕事が終わって家に着き、「ふぅ~、今日もお疲れさま」って。でも、舞台稽古中だと、一息ついた後にまた台本を開いちゃうんですけどね(苦笑)。

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――ここ数ヵ月は自宅で過ごさざるを得ない時間が続いたと思いますが、コロナ禍でどんなことを考えましたか?

一番は、演劇を観る文化が身近なものではなくなってしまうんじゃないかという恐怖でした。今もそうですけど、客席を一席ずつ空けていて、幕が開いた瞬間にお客様も「あ、何かが違う」と感じ、緊張の中で始まってると思うんですよ。そうやって、演劇を気軽に楽しめない環境にしてしまっていることがとても心苦しくて、おそらく通常に戻るにはまだまだ時間がかかるんだろうなと考えると、先が見えなくて怖いなと感じました。

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でも、こうやって公演が開始されることになり、観たいと思ってくださる方がいることに希望を感じますし、その一方で何かトラブルがあって、また演劇が悪く言われてしまうのではないかということに敏感になっていて、「劇場でお待ちしています」という言葉もかけづらくなっている。まずはご自身で判断していただきたいですし、健康面にも気を付けたうえで無理なく観劇に来てほしいです。

30代半ばとなり、2.5次元のジャンルでまだやらせていただいていることは予想外の嬉しいことでした

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――6月に35歳の誕生日を迎えましたが、30代後半をどのように過ごしたいと考えていますか?

20代後半の頃に、インタビューなどで30代のことをよく聞かれていたので予想できていたはずなんですが、30代に入った後、35歳になるまでが早すぎて。ついこの間、誕生日を迎えて「あ、30代の真ん中になったんだ」と自覚したばかりです。

これは30代になる時に言ってたことなんですけど、この先、求められるジャンルや立ち位置も含めてきっと変わってくると思う、そこに順応して演劇に携わっていたいと発言していたんですが、それに近い状態にはなったと思います。

2.5次元のジャンルでまだやらせていただいてることは予想外の嬉しいことですが、役者としての自分の在り方がこの先もっと変化していくと思うんですよ。そうなった時に理想は持っていたほうがいいのかもしれませんが、僕としてはもたないほうが楽しく感じるんですね。ですので、このスタイルをもう少し貫いてみようと思います。

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――何事にも目標は作らないタイプですか?

計画を立てて旅行にいくタイプでもありませんし、多分、もとがそうなんだと思います。こういうふうにしたいから変えていこう、ではなく、流れの中に身を置いて、何かに直面した時に考える力をもち、アンテナを敏感に張っていなきゃと。

今回の「時子さんのトキ」もそうですけど、このような役柄のオファーをいただくことでまた可能性が広がったと感じていますので、こういうことがこの先も待っているのかと思うと楽しみであり、新しい山登りが始まるんだという期待でいっぱいです。

――今作で高橋由美子さんが鈴木さんの母親役を演じるように、鈴木さんも近い将来、父親役を演じることがあるのかもしれませんね。

何歳でできますかねぇ(笑)?というのも、自覚するぐらい、僕には父親のイメージがないと思うんですよ。ですので、あえて挑戦してみたいという気持ちがあります。

――鈴木さんにとって“眼福”な存在は何ですか?

実際にはまだ見たことがないんですが、スイカ畑です。僕はスイカが大好きなんですけど、とても広~い土地で、見渡す限りスイカしかないような光景を見てみたいです。あるんですかね(笑)、そんな場所。

――最後に観劇を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

感じとっていただけるものがたくさんある作品だと思いますので、さまざまなものを受け取ってほしいです。そして、健康面に留意したうえで、楽しい思い出に終わるように帰っていただきたいなと。そのために、スタッフ・キャスト全員で厳重な感染予防対策をしてお待ちしておりますので、「時子さんのトキ」、ぜひともお楽しみください。

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撮影:河井彩美

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