鈴木亮平さんが、宮沢氷魚さん演じる恋人との深い愛を通して、“愛とは何か?”を自問する映画「エゴイスト」が2月10日(金)に公開されます。
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「エゴイスト」は、編集者でエッセイストの故・高山真さんによる自伝的小説の映画化。主人公の浩輔(鈴木亮平)は、母と寄り添い暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会い、龍太親子との交流の中で、愛する彼はもとより、その母(阿川佐和子)をも、亡き実母への思いを重ね、家族のように愛していきます。
主人公の浩輔を演じる鈴木さんに、役への思いと作品の見どころ、あふれ出る色気の秘密や、40代を迎える心境について聞きました。
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<鈴木亮平 インタビュー>
――浩輔役は、松永大司監督からのご指名だったそうですね。監督に勧められて原作を読んでいかがでしたか?
「エゴイスト」という強いタイトルの作品なので、どんな悪い奴の話なんだろう?と思って読み始めたら、とても優しい愛の物語で。龍太やその母を愛しながらも、「与えることで満たされる、この愛はエゴなんじゃないか?」って、ずっと疑問を抱き続けている男性のように僕は思いました。
そんなふうに、常に自分を客観的に分析しながら生きる原作者の在り方がとても印象的で、高山真さんはいったいどんな人なんだろう?という興味が一番強かったですね。
――浩輔役を引き受けた一番の決め手は?
ふたつありまして。まずは原作のテーマが素晴らしかったことです。愛かエゴか、というのは、僕も興味を持っていたところだったので、そこに共感したのがひとつ。 もうひとつは、浩輔がゲイであることの描き方に対して、性的マイノリティに関するセリフや所作を監修してくださる方を脚本の段階から入れてくれたり、浩輔の友人役にも全員、当事者であるゲイの方々をキャスティングするなど、偏見や差別を助長するような描き方を極力しない態勢を整えてやるつもりだと聞いて、それならばやれるかもしれないと思いました。
――役作りは何から取り掛かったのでしょう。
残念ながら、高山さんは僕が会う前にお亡くなりになってしまったので、実際の彼はどういう人で、本当はどういう出来事が彼に起こったのかを、彼を知る方々に伺いました。
そして、この映画はゲイカップルの話でもあるので、セクシュアリティという面では、ゲイの方々にもたくさんヒアリングをさせていただきました。この役に限らず、いつも実際の方にお話を伺うことは多いのですが、今回は実在の人物がモデルになっているので、特に入念にリサーチさせていただいた感じです。 恋愛に関しても、恐らく、同性愛だからこそ起こる状況や感情を、異性愛とまったく同じものとするのも違うだろうし、かといって、必要以上に特別に描くのも違う。
自分の想像だけで作ってはいけないし、ゲイの方たちがこの映画を見たときに、違和感があるものにだけはしたくないなと思って、みんなでよく話し合いながら作っていきました。
――浩輔の柔らかな物腰や、ハッとするような色気はどのように会得していかれたのですか?
実際の高山さんのキャラクターや話し方、振る舞いというのは、お話で聞いたものをそのまま形にするのではなく、それをどれぐらいの見え方で表現すれば過不足なく届くかというのを、監修の方と話し合いながら作っていきました。
“高山さんをもとにしたキャラクターとしてリアルかどうか”というのと、“必要以上にステレオタイプを助長してしまわないか”という二つの間のラインを見極めながら、監修の方と話し合ってキャラクターを調整していきました。
――リサーチを重ねる中で、たとえばご自身も同性愛者に対して偏見を持っていたな、などの気づきはありましたか?
それはたくさんありました。いまだに自分の中でも、拭いきれない偏見があるのを感じますし、子どもの頃から漠然と培われてきたものを払拭するのは時間がかかるなとも思います。
同時に、これまでの自分の言動に対して、思慮が足らなかったなと思うことが多々あって、反省することも多かったです。たとえば、知人や友人に対して、相手が同性愛者である可能性を考えもせずに、「彼女いないの?」とか「結婚しないの?」って何気なく聞いていたなとか。
今回、自分がゲイの役をやって、阿川さん演じる妙子さんに、「浩輔さん、彼女いるの?」って、台本にないセリフを言われたときに初めて、「ああ…自分が同性愛者だったら、こうして毎回、大切な人にさえ嘘をつかなきゃいけないんだ。これは生きづらいぞ」というのを体感したんですよね。
浩輔が実家に帰って父親と接するシーンでも、父親は息子がゲイであることを知らないので、振る舞いも、声の出し方もすべて、少し作った自分を演じなきゃいけない。僕自身は、実家に帰れば、東京での鎧を脱ぎ捨てて、よりナチュラルな自分で安心して過ごせるんですけど、浩輔にとっては逆なんだな…というのもショッキングでした。
スーツは気が引き締まる“戦闘服”
――龍太役の宮沢さんとは初共演とのことですが、会う前の印象と、実際に共演しての感触を教えてください。
会う前は、透明感がものすごくて、透き通っているようなイメージだったんですけれど(笑)。実際に会うと、やはりとてもピュアで、話し方もジェントルで、内面的にもまっすぐな、本当に龍太みたいな人だなと思いました。
――浩輔と龍太のラブシーンにおいて、気を配っていたことはありますか?
今回の映画に限らずですが、恋愛の場面では、相手を本当に愛するということしかない気がします。それがお客さんにも伝わると思いますし。
そういう意味でも、氷魚くんとは俳優としての相性がすごくいいなと感じていたので、インティマシー(親密な)シーンにおいても、緊張しすぎることもなくリラックスできて。とてもナチュラルにお互いを求めあえるシーンになったなと思います。
――龍太の母・妙子を演じた阿川さんとの共演はいかがでしたか?
僕がいうのも生意気ですが、もう素晴らしかったです。俳優としてのキャリアはそう多くないはずなのに、常に自然体で演じられるというのは本当にすごいことで。人間力や表現者としてのセンスがずば抜けているだろうなと感動していました。
――現場では何かお話をしましたか?
今回の現場は、監督の撮り方が半分エチュード(台本なしの即興劇)みたいな感じで、セリフも決まっておらず、その場で相手が言ったことに対して、自分も役の気持ちになって返すというのがよくあったんです。
それで僕らも、現場に入るときから役に近づいていないと、カメラが回ったときに、役としての自然な言葉がスッと出てこなかったりするので、ほかの現場みたいに、撮影合間に自分に戻っておしゃべりすることがあまりなかったんです。
だから阿川さんも、現場では常に半分くらい妙子さんだったし、僕もずっと半分浩輔でした。それは俳優としては非常に恵まれた環境で、スタッフ全員が、俳優の演技をどれだけ自然に引き出すかということに対してケアしてくれたからこそ、あの空気感が撮れたんだろうなと思います。
――特に印象に残っているシーンを教えてください。
飲み仲間と居酒屋や二丁目のバーでしゃべっているシーンの撮影は楽しかったですね。話さなきゃいけない話題はあるけれど、基本、「好きに飲んで楽しんでください」という感じだったので(笑)。
それと、僕が好きなのは、自宅で龍太とお酒を飲みながら、浩輔が子どもの頃に行った家族旅行での母親との思い出について話すシーン。浩輔が自分の心の傷になっている部分を笑いながら何気なく話すんですけど、その様子を、龍太がうれしそうにビデオで撮っているんです。
実際の高山さんは、写真を撮られるのを絶対に拒否する人だったらしくて、写真もあまり残ってないんですけど、龍太にだけは心を許して、こういうものを撮らせていたなら僕はすごくうれしいし、そうであってほしい。そんな関係であったら素敵だなっていう僕の願望も入っているし、龍太と浩輔の幸せな場面としてすごく印象に残っているシーンです。
――浩輔は、ブランドものの服で身を固めるのを“社会に出るときの鎧”にたとえていますが、鈴木さんは、公私を切り替えるためにしていることはありますか?
僕も浩輔に近いところがあって、自分の着ているものでスイッチが切り替わる感覚がすごくあるので、その役になるぞ、と切り替わるのは衣装を着たときです。あと、仕事でもなんでも、スーツを着るとパシッと気が引き締まります。必然的に背筋が伸びるつくりになっているし、戦闘服みたいな感じがありますよね。
――スーツといえば、『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)で演じた斎藤正一役のスーツ姿も色気があって素敵でした。今回の浩輔がまとう色気といい、鈴木さんが意識している色気の出し方の秘訣があれば教えてください。
それは“鈴木”に色気があるんじゃなくて(笑)。脚本家の方が書く色気のあるセリフや照明のあて方、監督の演出や衣装によって、スタッフ全員が“鈴木の色気”を演出してくれてるんです。
たとえば『エルピス』で着たスーツは、「斎藤はスーツを完璧に着こなしてないとダメ!」というプロデューサーのこだわりで、全部僕の体形にぴったりのオーダーメイドなんです。僕はそこに、最後にパラパラっとチーズを振りかけてるだけで。
ただ、斎藤役をやってから、写真撮影でのカメラマンさんからのリクエストが一気に変わりました。今までは「爽やかに」とか言われてたのが、「もっと色気を出してセクシーに」「色気ダダ洩れな感じで」って言われるようになりました(笑)。
――ご自身の中で“色気スイッチ”があるのでしょうか?
ないです、ないです(笑)。たとえば斎藤さんに色気があったとしても、それは斎藤さんと僕が向き合い続けて作り上げたキャラクターだから宿ったもので、スチールカメラを向けられて、「じゃあ、色気お願いします」って言われても、僕は出し方を知らないんです(笑)。
さらにギアを上げて、挑戦する40代でありたい
――世界遺産をはじめ、さまざまなことに興味がある鈴木さんですが、2023年に新しく学びたいことはありますか?
英語をもう一度ブラッシュアップしたいなと思っています。僕も英語が好きで、磨いてたつもりではあるけれど、氷魚くんや、(『エルピス』で共演した)眞栄田郷敦くんなど、ネイティブに近い環境で育ってきた人の英語に比べるとやっぱり違う。
彼らからはいい刺激をもらっているし、自分も常にアップデートし続けて、いつまでも勉強し続けていかないといけないなって思います。そのほうが楽しそうですしね。
――3月で40歳を迎えますが、どんな40代を過ごしたいですか?
挑戦する40代でありたいですね。僕がカッコいいと思う先輩方を見てると、40代で落ち着くのではなく、そこでの挑戦を転機にしてる方が多い気がしていて。たとえば、渡辺謙さんや真田広之さんが「ラスト サムライ」をやられたのも40歳ぐらいの頃ですし。
そんなふうに、30代を経て、40代という人生の後半に差し掛かるときに、さらに大きな変化を求めて歩んでいける生き方に憧れるし、自分もそうありたいなと思います。
――「エゴイスト」の浩輔役で、アジア版アカデミー賞といわれる「アジア・フィルム・アワード」(AFA)の主演男優賞にノミネートされましたが、海外の作品も視野に入れていかれるのでしょうか。
そういう選択肢も含めて、挑戦を恐れず、前のめりに行く40代に。人生のペースがつかめてきたなぁと思ってそのまま(安全)運転するんじゃなく、さらにギアをあげていきたいですね。
――最後に、「エゴイスト」の公開を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
本当に素晴らしい映画で、見てくださる方それぞれに違う思いを受け取っていただける作品になっていると思うので、ぜひ楽しみにしていてください。
それと、僕たちは、ゲイ当事者はもちろん、当事者でない方々にも適正に届けたいと思って丁寧に作ったつもりではありますが、作品の届き方というのは、時代や国や社会の在り方によって変わっていくし、この映画の描き方もまだまだ十分とは言えないと思います。
そういう点を指摘してもらうことで議論が盛り上がり、業界全体が、マイノリティの描き方を考えていくきっかけになる作品になったらいいなとも思っています。
撮影:河井彩美
取材・文:浜野雪江
ヘアメイク:宮田靖士(THYMON Inc.)/Yasushi Miyata
スタイリスト:臼井崇(THYMON Inc.)/Takashi Usui
映画「エゴイスト」は、2023年2月10日(金)公開
©2023 高山真 . 小学館/「エゴイスト」製作委員会
最新情報は、映画「エゴイスト」公式サイトまで。
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