内野聖陽さんが、映画「春画先生」の印象に残っているシーンを語りました。
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江戸時代に“笑い絵”とも呼ばれた春画をテーマにした映画「春画先生」は、春画研究家とその弟子である女性が繰り広げる春画愛をコミカルに描く、偏愛コメディ。塩田明彦監督のオリジナル作品である本作が、公開中です。
主人公の変わり者の春画研究家・芳賀一郎を内野聖陽さん、芳賀に春画鑑賞を学び彼に恋心を抱くようになる春野弓子を北香那さん、芳賀が執筆する春画の全集を完成させたい編集者・辻村俊介を柄本佑さん、芳賀の亡き妻の姉・藤村一葉を安達祐実さんが演じます。
春画が好き過ぎる芳賀と弓子の不可思議な関係に辻村と一葉も絡んで、思いがけない展開を迎える本作の魅力や撮影秘話を4人にインタビュー。お芝居への熱い思いと楽しいトークをお届けします。
江戸時代のエロ本!?性の営みだけじゃない春画の奥深さ
<内野聖陽、北香那、柄本佑、安達祐実 インタビュー>
──人間の性愛が赤裸々に描かれた江戸時代の春画をテーマにした本作。どんなところに魅力を感じて参加したいと思いましたか?
内野:春画と聞いて「どんな世界なんだろう?」とちょっとワクワクした感じがありまして。脚本を読んだら、面白く男女の性愛を捉えていて、すべてを包み込んでしまうような大らかな世界観が広がっていました。これは面白いと思い、ぜひやらせていただきたいとお返事しました。
北:私は脚本を先に読ませていただき、キャストの皆さんをお聞きして、しかも塩田監督の作品だなんて、これは絶対にやりたいという気持ちでオーディションを受けました。脚本を読み始めて、最初はまっすぐな純愛の物語かなと思っていたら、超変化球のお話で(笑)。
世界観がすごく面白いし、春画から、この物語を作り出す塩田さんの頭の中が気になって…この世界で生きてみたい、弓子として生きたい!と強く思ったんです。オーディションを受けてから1年くらい経って、決まりました。
柄本:結果待ちでそんなにかかったんだ?
北:そうなんです。落ちちゃったのかな、と思ってドキドキしてたら「もう1回会いたい」というご連絡をいただいて、会った当日に決まりました。決まったとき、ハンバーガーショップにいたんですけど、うれしくて飛び跳ねました(笑)。
内野:周りのお客さんが驚いたでしょう(笑)。
北:はい(笑)。
柄本:僕は、塩田監督の作品はこれまでもいろいろと見ていて、塩田さんに声をかけられれば、こういう作品でなくてもやらせていただいていたと思います。脚本を読ませてもらって、前作「麻希のいる世界」のように塩田さんの初期の頃の作品の雰囲気があって、かつコメディで、とても面白かったです。
安達:自分が演じる役どころも含めて遊び心があって、やりがいがありそうだと感じましたし、春画を題材にしたこういう作品に出演できることは、私の人生でもう二度とないチャンスかもしれないので、ぜひやりたいと思いました。
──この作品を通じて、春画に対する見方が変わったのではないでしょうか?
内野:春画って、密やかに見るものなのかと思っていたんです。でも、実際は“笑い絵”とも呼ばれて、みんながオープンに笑い合って見ていたんですね。子孫繁栄を願っての嫁入り道具にされていたり、戦場に行く人に持たせたりする縁起物でもあって。僕の中での春画のイメージは大きく変わりました。
柄本:本当にそうですね。脚本の中で春画に対する考え方を教えてもらいましたし、僕が芳賀先生から春画の授業を受けているような気がしました。どうしても局部のほうに目が行きがちですけど、あえてその部分を隠して見ると、背景に描かれているものからいろいろな物語が浮かび上がってきて、作家の個性も出ている。春画って、非常に面白い見方ができるものなんだと知りました。
安達:私もこの作品に参加するまで、春画をじっくり見る機会がなくて。撮影に入る前、分厚い春画の本をいただいたのでそれを見ながら、柄本さんと同じように芳賀先生が弓子に教えるセリフで学んでいきました。細かく見ていくと、絵の技術的なことも、着ている物から身分が分かって、描かれている2人の人生まで読み解けるのも面白いな、と。
北:私が初めて春画を見たのは中学生のときで、みんなで「江戸のエロ本らしいよー」なんてひそひそ言いながら見た記憶があります。
柄本:「江戸のエロ本」って、若い人の言い方だ(笑)。
内野:確かに、女子中学生っぽい(笑)。
北:まさか、それから10年以上経って春画を題材にした映画に出るとは思わなかったです。出演させていただくにあたっていろんな春画を見ましたが、皆さんがおっしゃるように、春画に描かれている背景から、この2人が今どういう状況で、どんな関係なのかが分かってくるんですね。
この映画も、芳賀先生と弓子を取り巻く人々に注目することによって芳賀先生と弓子の関係性がどんどん浮き彫りになるところが春画と似ていて、春画のあり方と映画自体が重なっているんだな、と。今回参加させていただいたことで、春画が好きになりました。
与えられた役柄を魅力的に演じる4人の芝居へのこだわり
──それぞれ役を演じるうえで大切にされたことを聞かせてください。
柄本:僕は、元気よくしゃべろうと思いました。アホみたいな言い方ですけど(笑)。
内野:それは大事なことだよ。
柄本:脚本を読んだとき、辻村のセリフは、はきはきと、的確に、大きく、立体的にしゃべっていく感じがして。キャラクターがそれぞれしっかりしているので、そのほうがいい気がしたんですよね。
内野:僕の場合は逆に、本音というか思惑が表に現れないように工夫したかな。自分の中でこの物語を“芳賀一郎先生の大冒険”と名付けたんですけど、芳賀は大冒険してるんですよ。
弓子を理想の女性に近づけようと、洋装してもらったり和服を着てもらったり。そこで彼が何を考えているかは弓子には分からないけれど、自然と外ににじみ出てくるように見えていたら、面白いかなと思って。
北:今回の撮影では、普段のお芝居で自分が意識していることとか、子役時代にレッスンで学んだことの逆をやるようにと言われ続けました。例えば、レッスンでは「悲しかったら、泣きながら笑え」と教えられてきたんですけど…。
内野:「怒ってるときは笑え」とか?
北:はい。そのほうが分かりやすく面白く映るから、と。でも、塩田監督からは「弓子は思ったことがすべてあふれてしまう人だから、表情もすごく分かりやすく演じてほしい」と言われました。その壁を越えるのが私の中では大変だったし、挑戦でした。
安達:私は、一葉なりの愛のあり方を意識しました。一葉は芳賀さんへの愛情で行動していて、芳賀さんの亡妻である双子の妹に対して嫉妬もあるかもしれないけれど、双子ですから、どこかで深くつながっていると思うんです。そういう彼女の葛藤も考えながら演じました。
内野:なるほど!ラストで、一葉が言うセリフを聞いたときに僕は感動したんですよ。安達さん演じる一葉の心の底から湧き出てくる悲しさが伝わってきて。
安達:ありがとうございます(笑)。
内野:悲しさ、達観…いろんなものがこもった、一葉の芳賀に対する愛がにじみ出るようなお芝居で。安達さんの思いはそういうことだったのかと、今の話を聞いて納得しました。
──撮影を振り返って、印象深いシーンを教えてください。
北:印象深いシーンはあり過ぎて、一つに絞るのは難しいんですけど…芳賀先生と弓子が回転ベッドに乗っているシーンが大好きで(笑)。
内野:回転ベッドは、苦労したよね。ベッドが故障して回らなかったり。
柄本:撮影のときにですか?
内野:そうそう。あれはモーターで回していて。
北:重みが端に偏るとモーターが止まっちゃうんですよね。だから、内野さんと私はできるだけ中央に乗っていないといけなくて。
柄本:なるほど。
内野:だから僕らは、芝居をしながらベッドの真ん中にいるように神経を使っていました。油断すると、すぐに止まっちゃうから(笑)。
北:完成した映像を見たら、ラブホテルの回転ベッドでくるくる回りながら芳賀先生と弓子が真剣に語り合っているのが面白かったです。
安達:私は、M気質な芳賀さんをムチで打つシーンがあるのですが、ムチの打ち方が難しかったです。でも、だんだん良い音が出るようになると、快感で(笑)。
内野:そう、安達さんの目が変わっていったんですよ!最初は、遠慮がちに「こうですか?」と言いながら打ってくださって。ムチ指導の方に教えられて本気で打っているうちにギラリとするものを感じて、まさしく女王様の瞳になってましたね(笑)。
柄本:ムチには打たれても痛くないような加工がしてあったんですか?
内野:いやいや、当たれば痛いよ。あのムチ、馬用だったんじゃないかな?
安達:そう、馬用なんですよ。
内野:ああいうムチで馬が叩かれてるのを見たことがある。人間用じゃないよ(笑)。もも辺りにストレートに入ると、痛くて…。
柄本:めちゃくちゃ分かります!
内野:痛みがツーンとくるからね。それがたまらなかったです(笑)。
──多様な性愛を通じて、人間のおかしさ、悲しさ、生きる喜びが描かれている映画なんですね。
内野:SとかMとか性の世界にはいろんな形があるけれど、この作品は性愛に関する目線は、すべてを取り込んでしまうほど、大らかなんです。そこが素晴らしくて、自分にとって新鮮でもありました。
撮影:河井彩美
【内野聖陽】
スタイリスト:中川原寛(CaNN)
ヘアメイク:佐藤裕子(スタジオAD)
【北香那】
ヘアメイク:南野景子
【柄本佑】
スタイリスト:坂上真一(白山事務所)
ヘアメイク:AMANO
【安達祐実】
スタイリスト: 船橋翔大(DRAGON FRUIT)
ヘアメイク:paku☆chan(Three PEACE)