中井友望「私のためだけのものでもいい」主演映画「サーチライト」完成で心境を吐露
2023年10月14日(土)よりK's cinemaほか全国順次公開
混迷の時代を照らす、一縷の光のような映画が完成しました。
10月14日に公開される「サーチライト-遊星散歩-」(平波亘監督)は、ネクストブレイク俳優として注目される中井友望(なかい・とも)さんの主演作。
中井さんは、病気の母親とふたり暮らしで困窮し、禁断の「JK散歩」の世界に足を踏み入れてしまう高校1年生の果歩を演じます。
危うくも、毅然として凛々しい果歩を、印象的な声とまなざしで表現した中井さん。
今回、平波監督と初の対談で、作品や役にかける思いを語りました。
<中井友望×平波亘監督 インタビュー>
――まず、完成作を見た感想から教えてください。
中井:監督がいる前で話すのは恥ずかしいですが、自分が出ている作品で初めて客観的に見られました。今までは、自分の登場シーンで「自分来た」とか「私だ」とかって思ってしまいましたが、この作品は、自分を感じることがなくて、「あ、果歩だ」と自然に思えて。
物語の流れも知っているのに、ストーリーが進んでいくうちに、「こういう話なのか。なんかいい話だな」って気づきながら見ることができました。
――客観的に見られたのはなぜだと思いますか?
中井:…どうしてだろう?ひとつは、私のことをイメージして脚本を書いてくださっていて、自分にすごく近かった、というのはあると思います。
演じているときも、ずっと果歩でいて、全然、客観的ではなかったので(その分、見るときには、客観的になれた)。
平波:通常は、役者さんというフィルターを通して役柄に向き合って、作っていく作業をするものですけど、この「サーチライト」の果歩に関しては、中井さんというフィルターがなかったかもしれない。
中井:ああ、そうかも。
平波:そのくらい撮影期間中は、果歩っていう役に没入してくださったと思う。
だから僕も、作品を仕上げるというか、形にするときに、客観的というとちょっと違うかもしれないけど、役者さんにも完成した作品を純粋に楽しんでいただけるものにしたいと思っていました。
――繊細なシーンが積み重なっていきますが、好きなシーンを教えてください。
中井:果歩とお母さん(安藤聖)が、布団のなかでお互いが何を言っているかを当てるゲームをするところ。いとおしいし、果歩が子どもだなと感じられるシーンですごく好きです。
平波:僕は、果歩が登校する前に、トイレから出てきたお母さんがドライヤーを電子レンジに入れてしまって、そのあと掛かっている洋服に「お父さん」と話しかけるシーン。そこでの果歩の、あきらめやいろんな感情がないまぜになったまなざしが印象的で。
中井さんが言った布団のシーンもそうですけど、小野(周子/ひろこ)さんの脚本には、なんてことないシーンの積み重ねのなかに、心に残るシーンがいっぱいあるから、そういうシーンが効いてくるようにはしたいと思っていました。
「間違っているかもしれない果歩の選択も、僕は絶対に肯定しなきゃいけないと」(平波)
――果歩は周囲に頼らず、ひとりでお母さんを介護します。そのことで、窮地に陥ることになりますが、彼女の選択をどう感じましたか?
中井:お母さんという軸、守りたいものがあるからなんとか立っていられたんだと思います。お母さんがそばからいなくなったら、自分にはもう何もないと思っていたから、誰にも相談しなかったんじゃないかなって。
平波:果歩には実際にいろんな選択肢があったと思うんです。劇中で、山脇辰哉くん演じる(果歩の同級生の)輝之が生活保護の案内を持ってきますが、果歩も過去には同じようなことを思ったはずで。
でも、果歩は一途にお母さんと一緒にいることを選ぶんです。脚本を読んだときに、そこの説得力というか、別の角度から見たら間違っているかもしれない選択を、僕はつくり手として絶対に肯定しなきゃいけないと思いました。そこのさじ加減はすごく難しかったですが。
撮影前に中井さんとも話したんですが、果歩は愚かかもしれないけど、ちゃんと誠実に見えるようにしたいという。彼女の選択の理由は、お母さんへの愛だと僕は感じています。
「人が得意じゃなくて、人と関わりたくないと思っていたころの自分に似ている」(中井)
――中井さんから見て、果歩はどんな女の子ですか?
中井:お金を稼ぐために「JK散歩」をしてしまうとか、間違った選択もするけれど、それはやけくそではなくて、自分なりに理解して、覚悟を決めてやったことだと思います。
外から見えるよりも、しっかりしていて、芯の強い女の子かなって。でもそれは、ひとりでお母さんを支えなきゃいけないから強くいなきゃ、と頑張っているからでもあると思う。
だから、輝之が自分の世界に入ってきてしまうと、頼りにして弱くなってしまうのが嫌で拒絶しているのかなって。自分が中高生のときと似ているので、わかる気がします。
――中高生のときの中井さんもそうだったのですか?
中井:あまり人が得意じゃなくて、人と関わりたくないと思っていました。学校を休んでいるときに先生から励ましの手紙をもらっても、素直に受け取れず、ひねくれた見方をしていました。
だから、果歩のそういうところは昔の自分を見ているようでした。
小野さんとは本読みでお会いするまで、お話したこともなかったので、私のイメージだけで、あそこまで果歩がつくり上げられていたことに驚きました。
――監督から見て、中井さんのどんなところが魅力的ですか?
中井:なければないと言ってください(笑)。
平波:決して起用なタイプではないけど、やっぱり、映画という共同作業…共犯関係みたいなものを築く上では、完璧な人より、まだ完全ではない人と一緒にやりたいと思うものなんです。
中井さんは、これからどんどん経験を重ねて成長されていくでしょうけど、ある種の粗削り感は一生消えないんじゃないかと思うし、そこが魅力だと思います。
今回、僕は中井さんに特大ホームランを打ってもらったくらいの気がしていますが、今回みたいにバチハマりすることもあれば、次ご一緒したら、三振するかもしれない。
でも、そのくらいのほうが、ものづくりは面白いし、魅力的でもある。あとは、なんといっても、まなざしがいいです。
中井:ありがとうございます。
――中井さんから見た監督はどうでしょうか?
中井:よく「監督はどんな人ですか?」と聞かれるんですけど、よくわからないというか、こういう人です、とは言えなくて。
お芝居に関しても細かく指示するというより、「こんな感じで」とニュアンスで伝えてくださって、あとは、もう任せてもらっているような感じでした。
でも、すごくゆるやかにコントロールされているようでもあって、不思議でした。
平波:ふふふ。僕は常に、煙のように、いるのか、いないのかみたいな存在でありたいと思っていて(笑)。
でも、中井さんのことは最初に話したときに、もう信じられたんです。そこは直感的なものなんですけど。だから、あとは現場で、若干の“出し引き”をしたくらいでした。
感情が出るシーンで、中井さんが泣いてしまったことがあったんです。僕は「泣いてとは言っていないんだけどな…」と思いながらも、中井さんが感じてのことだから、尊重しました。
「俳優としても、人間としてもすごく自信になった」(中井)
――果歩は、高校1年生ですが、「赤ちゃんの匂いがする」といわれるほどあどけない女の子です。演じた中井さんが、当時22歳だったということに驚きました。
中井:最初にセリフを見たとき、「赤ちゃんの匂い」って大丈夫かな、と思ったんですけど、出来上がった作品を見て、自分でも「確かにこの子、赤ちゃんの匂いがしそうだな」と思いました。
平波:声もあると思いますけど、あの説得力はすごいですよね。
中井:本読みのときに、監督に「16歳の役だから、幼く読んでいるの?」と聞かれたんです。それで、「いえ。普通に読んでます」って。
平波:そうだった(笑)。そういう部分を失っていないのは、強味ですね。
――本作は前評判が高いそうですが、手応えを感じていますか?
平波:僕はこれまで、ダメな人間が出てくるような映画ばかりつくってきて、こういう10代の女の子が主人公で、その家族というものを大事に描く作品というのは、初めての経験でした。
手応えというより、こういう物語だから、特に幅広い世代の人に見ていろいろ感じてもらいたいという気持ちはいつもよりも強いかもしれないですね。
――果歩はヤングケアラーでありながら、そこを打ち出した社会派ではなく、あくまで瑞々しい青春映画に仕上がっています。映像や音楽の素晴らしさも印象的でした。
平波:その辺のバランスは、小野さんと脚本をつくりながらすごく考えました。難病ものにしてしまうと、作品の根幹がズレてしまう気がしたので、特に意識して。
(主題歌、音楽を担当した)合田口洸(ごうだぐち・こう)さんの音楽も、いただいたときに、「すごいエモいのが来たな」とうれしくなるくらいで。
今回、中井さんもそうですけど、新しいところでいろいろ挑戦させてもらったな、と感じています。
――最後に、ご自身にとって「サーチライト」がどんな作品になったのか、教えてください。
中井:すごく自信になりました。(熟考して)俳優としてもだけど、すごく人として、自信をもらいました。
平波:僕がこの脚本と出合ったのが、コロナ禍の2020年で、やっぱり、人とのつながりについてすごく考える時期だったんです。
そんななかでこの作品を撮ることになったとき、人はひとりで生きているようで、果歩じゃないけど、実はたくさんの人に支えられているんだ、ということをめちゃくちゃ感じたんです。
自分にとってもそれは大きなことでしたし、だから、これからもこういう作品をつくり続けていきたいです。
あとは、なんでもそうだと思いますが、作品は届けないと意味がないと思うので、これが少しでも多くの人に届けばうれしいですし、そのことでまたこの映画が成長していく姿を中井さんと一緒に見ていけたらいいな、と思います。
中井:私も、もちろんいろんな人に見てほしいですし、届いてほしいって気持ちもすごくあるんですけど、それとは逆に、もう私のためだけのものでもいいなって思えるような作品です。
果歩を通して、自分のいろんなことを認めてあげられたり、それが自信になったり…。だから、ただただ、自己満でもいいや、とも思っています。
<作品概要>
ストーリー
高校1年生の果歩(中井友望)は、父親の他界後、若年性認知症を発症した母(安藤聖)の面倒をひとりでみていた。
困窮した状況を誰にも相談できない果歩は、ある日、学校からトイレットペーパーを大量に持ち帰ろうとしていたところを同級生の輝之(山脇辰哉)に見つかってしまう。
5人兄弟の大家族の家計を支えるため、新聞配達、ファミレスとバイトを掛け持ちする輝之は、かねてから果歩を気にかけていた。
輝之は果歩の役に立とうと声をかけるが、余裕がない果歩はそれを鬱陶(うっとう)しがる。
ますます困窮した果歩は、母を守りたい一心で禁断の「JK散歩」の扉を開く。
監督:平波亘
出演:中井友望、山脇辰哉、合田口洸、都丸紗也華、西本まりん、詩野、安楽涼、水間ロン、大沢真一郎、橋野純平/安藤聖/山中崇
音楽・主題歌:合田口洸、Joseph Gen
企画・脚本:小野周子
企画協力:直井卓俊
2022年/日本/93分/ビスタ/カラー/5.1ch
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