2月13日(土)の『週刊フジテレビ批評』は、「力作ぞろい&多様性復活 冬ドラマ辛口放談」の後編を放送。
今クールの冬ドラマは、オリジナル脚本の意欲作が目立ち、学園もの、恋愛もの、刑事ものなど様々なジャンルが並ぶ。
そんな各局ドラマを、ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、ライター・吉田潮氏というドラマ通たちが、忖度ナシに斬った。
日テレのこの枠は、ラブコメ慣れてない…『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
まずは、前週放送の前編で取り上げられなかったドラマを紹介。菅野美穂&浜辺美波が仲良し母娘を演じ、それぞれの恋愛模様をコミカルに描く『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ)。
木村:日テレのこの枠は、ラブコメ慣れてないなぁっていう感じが出てますよね。仲良し親子というテーマは時流に合ってるし、キャスティングもすごくいい。人材もテーマもそろってるんですけど、母娘のやりとりがさまよってしまっている。
(小説家である母の)お仕事の要素が入ってきたり、娘のオタク気質、恋愛などいろいろなものが入ってきて、何を目的に見ているのかわからない状態になりつつあるんです。
梅田:登場人物と場面が多すぎて、それがいろいろと渋滞してるんですよね。娘の恋愛のほうが瑞々しく進んでいるので、そちらのほうで見たいなっていう感じ。そこにお母さんがやいやい言ってきて、“スパルタ恋愛コメディ”みたいになると、とても見やすくなるんじゃないかと思います。
吉田:まず私は、セリフが聞き取れなくて。もしかしたらコレ、若い人にしか聞こえないモスキート音で放送してるのかな?っていうくらい。言葉の意味もわからなかったし。で、聞き直しても、意味を知ったときにたいしたことを言ってなくて愕然とするっていう。
で、だんだん耳が慣れてきたんですが、母が子離れできていない感じがすごく強くなっていて、それでいいのだろうか?という疑問を感じてしまうんですよね。
『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』はヒューマン作になっていくはず
次に、前週で各人が挙げたオススメ2作には入らなかったものの、捨てがたい作品を紹介。
木村氏は、ぬいぐるみや植物など、モノの気持ちがわかってしまう主人公(小芝風花)の成長と、家族の再生を描いた『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレビ朝日)をプッシュ。
木村:これは橋部敦子さんという、ヒューマン作に非常に定評がある方のオリジナル脚本なんです。(橋部が書き、草彅剛が主演した)「僕シリーズ3部作」というのが、かつてフジテレビであったんですけど、それを思い出すようなヒューマン作になっていくはずです。まだなっていませんけど(笑)、希望を込めて。
こういうヒューマンドラマは、深夜に放送できなかったところがあるんですけど、トライしているところを買って入れました。
『青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―』は『ここは今から倫理です。』とセット見がオススメ!?
梅田氏は、藤原竜也が学校内警察を演じる学園もの『青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―』(関西テレビ/フジテレビ)を挙げた。
梅田:刺激的で面白いですよね。学校内警察官による学園荒療治という感じなんですけれども、(学校内警察の)嶋田(藤原)は教育をしにきたわけではない立場の人なので、相手が生徒でもすぐに手錠をかけちゃいますし、連行しちゃいますし。主人公が教師の限界を公権力でやすやすと超えて、すごい展開を繰り広げるんです。
私はコレ、前週で木村さんが挙げられた『ここは今から倫理です。』(NHK)とセットで見ることをオススメしたいです。片や法律で、片や文学のほうからという、張り倒し方の方法が違うだけで、思春期の子にはどちらの方向からも響くんじゃないかなっていう。山田裕貴さん、両方出てるのでね。
吉田:警察が中学校に入ることを正当化するために、エッジを効かせすぎていて、「中学生、こんな悪質なの!?中学校教師、こんなひどいの?」っていうところばかり目についちゃって。やり過ぎ感があるんですよね。
大人が主語になっていて、そこはちょっとどうなのかな?とは思います。
木村:これまで関テレというと骨太っぽい作品が多かったんですけれども、ついにエンタメのほうにきたか、というところで。それで実際に数字(視聴率)がついてきてるので、このラインナップは間違っていないと思うんです。
エンタメが好きなら『スクールポリス』だけども、もう少し掘り下げて、問題をじっくり考えたい人は『倫理』のほうです。
吉田氏が推したのは、冬ドラマ一覧に入っていなかった、SNS時代の女性の友情を生々しく描いた衝撃作『ナイルパーチの女子会』(BSテレ東)。
吉田:これは、水川あさみがキャリアウーマン、山田真歩がズボラな主婦でブロガーという設定で。そのブロガーの山田に、水川が好意を抱いて友情を築いていくんだけど、その友情の距離の取り方が今後どうなるのかな?っていう“女のドラマ”です。
30代の女性、たぶん新美(有加フジテレビアナウンサー)さんぐらいの年代の女性にぐっと迫るドラマになるんじゃないかな?と思って書かせてもらいました。
新美アナ:私も途中まで見ているところなんです。結婚して家庭を持つ道と、仕事に邁進する道と、だんだん分かれてきて(友人と)疎遠になっていくのは(自分も脳裏を)よぎるなぁ…っていうのは、ちょっと心に痛い。
震災から10年の3月…どうやって終わらせてくれるのか『監察医 朝顔』
そして、まだ挙がっていないドラマから、人気シリーズの第2シーズンとなる『監察医 朝顔』(フジテレビ)を紹介。第2シーズンでは、前作同様、朝顔(上野樹里)がさまざまな事件と遺体を扱いながら、東日本大震災で行方不明になった母の死に向き合っていく。
木村:2クール放送で真ん中を過ぎ、終盤に入る前なので、動きがあるようでないという、いちばん語りにくいタイミングなんですよね。でも、数字(視聴率)はじりじり上がってきてます。あの家族に会いにいきたい、見に行きたいという人がいると思うんです。
で、この先に、震災から10年の3月が待っていることもわかっている人も多いので、それに向けて(視聴率が)戻ってきたという考えもできますし。じゃあどうやって終わらせてくれるのか、っていうのをすごく楽しみにしています。
吉田:長いクールをやるから、集客のための仕掛けは絶対的に必要だなとは思うけど、その仕掛けが“やるやる詐欺”みたいな感じになってきていて。「夫がもしかしたら死んじゃうかも」とか「娘がいなくなった」とか、見ていくとだんだん狼少年じゃないですけど、「あ、コレ大丈夫だよね」って思い始めちゃうイジワルな自分がいて。
というのはあるんですが、ポイントは監察医なんで。そっちのほうをメインに見ていけば、監察医の仕事ぶりとジレンマみたいな部分までも含めて、良いドラマになっていくかな、とは思います。
『君と世界が終わる日に』『にじいろカルテ』には厳しい意見も
続いては、終末世界のサバイバルラブストーリー『君と世界が終わる日に』(日本テレビ)
吉田:(アメリカのゾンビドラマ)『ウォーキング・デッド』ちゃうか?ちゃうなぁ…みたいな。ミルクボーイ(のネタ)になっちゃうという(笑)。私、去年『ウォーキング・デッド』を全部見たので、リスペクトも込めてなんですが。
要素を『ウォーキング・デッド』からちょいちょい持ってきてるわけです。だから、(『ウォーキング~』を)見てなければわりとよかったかもしれないですけど、見ちゃってるとミルクボーイなんですよね。
あと、世界が終わる気がしない。コロナの状況、いろいろあるでしょうけど、ゾンビが少ないんですよ。ゾンビとの闘いではない方向で描いていくのかな?というやさしい気持ちで見ておこうかなとは思いますが、「面白いところをHulu版で(見てね)」って言われたら、コノヤロウ!って思います。
木村:Huluと共同制作ということは、予算とか人の部分もそれなりに大きなスケールで作っていたはずなんだけども、「これが地上波のゾンビドラマの限界なの?もっとできるんじゃないの?」っていうところはあります。
もちろん、コロナ禍でたいへんな部分はあると思うんですけど、もっと怖くできるかなと思います。
突然発覚した自身の難病を隠し、山奥の診療所で働き始めた内科医(高畑充希)の奮闘を描く医療ドラマ『にじいろカルテ』(テレビ朝日)については…。
梅田:ごめんなさい。ちょっと今回、私の中ではワーストかもしれない。お菓子の家みたいな診療所とか、ハイジの屋根裏部屋みたいなベッドとか…とにかくメルヘンなんですよね。主人公も、テレ朝が好きな守られキャラですよね。臨床現場ですぐ取り乱して泣いて、それを周りが「大丈夫、大丈夫」ってなだめるテイストなんですけど…。
それが好きな方はいいし、視聴率もそんなに悪くないので、一定の方には刺さっていると思うんです。でもやっぱり、コロナで医療従事者がギリギリの奮闘を繰り広げている中で、臨床をこういうふうにメルヘンに描くのは、いかにもタイミングが悪いなと私には感じられてしまって、感情移入して見ることはできていない感じです。
吉田:田舎ってホントは、メルヘンじゃなくてホラーなんですよ。田舎ナメんな!っていうか、あんなに(村の)みんながクラッカー鳴らして「新しい女医さんやー」って迎え入れるか?っていう。まずあのシーンで、梅ちゃんと私は白目を剥いたわけです。
で、ヒロインの高畑充希が病気(多発性筋炎)である必要があっただろうか?とか、安達祐実が“まだら認知症”という病気を抱えていたり、西田尚美は子どもができなくてっていう話だったり、女の不幸の適当なところをまとめてぐちゃっとやっといて、(その心の傷を)学校の中で話させて、4人が「アハハハ!」って言って缶蹴りとかやるんですよ。
田舎ナメるわ、女ナメるわっていうところで、私と梅ちゃんは「はぁ!?」という感じです。
刑事と殺人鬼の魂が入れ替わる『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS)については…。
梅田:着想の独創性やストーリー展開は、今期の中で一番面白いんじゃないかと思ってるんですね。なぜ(推しドラマに)挙げてないかというと、謎ありきのほうがメインになっていて、謎のほうにひっぱられちゃって、キャラクターの成長や、そこにまつわる人間ドラマが手薄になってるので。
そこをもうちょっと分厚くしていただけると、さらに作品のクオリティがぐんと上がるんじゃないかと思います。
木村:このオリジナル脚本を手掛けてる森下佳子さんは、業界で三本の指に入るくらいのすごい方だと思っているんですが、今回に限っては、善と悪、男と女、殺人鬼と熱血刑事という真逆の図式で、これって子どもっぽくないですか?と。
誰もが思いつくところですし、それくらいわかりやすくしないと今の視聴者には見てもらえないんじゃないかという、(視聴者を)侮ってるところがあるような気がして、あまり気持ちよく見れてはいないです。プロデュースの方向性に少し疑問を感じます。
そして最後に吉田氏が、草刈正雄演じる主人公とブサ猫のふくまる(声・神木隆之介)の心温まるドラマ『おじさまと猫』(テレビ東京)をフォロー。
吉田:これ、感想が7文字で終わるんですよ。「ぬいぐるみかよ」っていう。
木村:(ふくまるを)見てると本物に見えてくる。泣けますよ。これは、草刈さんと神木さんと人形師さんの三者の技術がすごいから成立してる世界観で。そうじゃないとムリですよ。
吉田:あれはもう猫じゃないんだと。ぬいぐるみでもない。ふくまるなんだと。文句言ってるようで、実は好きで見てるっていうことなんですけど。
と、今回の辛口放談、最後は、ほっこりとした話題で幕を閉じた。
「力作ぞろい&多様性復活 冬ドラマ辛口放談」は、前・後編ともに、FODにて無料配信中。