大学卒業後、アートディレクターとして広告業界に携わってきた新美宏樹。
しかし、その地位を捨てて現代アートの世界に転身し、「アートディレクター」とは似て非なる「アーティスト」として作品の制作と発表を重ねている。
そのきっかけや制作のモチベーションは「クリエイティブ業界への疑問と怒り」だという。
新進気鋭のアーティストの考え方に迫るシリーズ企画「アートに夢中!」。今回は、「ネット上に廃棄されたクリエイティブ」をモチーフに作品を制作する新美宏樹の哲学について話を聞いた。
【画像】まずは新美宏樹の作品を見る
――広告業界をやめて、アーティストとして活動を始めたきっかけは何ですか?
端的にいうと、反骨精神というか、反抗だと思います。
僕はこれまで広告業界でデザインやアートディレクションをしていたのですが、そこではずっと自分が消費されていると感じていました。
アートに進んだのは、そこに対するアンチテーゼの意味合いがあるんです。「消費されたくない」という気持ちが根っこには強くあります。
――「消費されている」とは具体的にどういう感覚ですか?
特にデジタルの世界だと顕著ですけど、最近はPDCAのサイクルが異様に速く、例えばせっかくつくったクリエイティブも1週間とかでなくなってしまうんです。
デジタル広告の世界では「どういう広告がより効果があるのか?」という検証をするわけなんですが、そのためにクリエイターはごく短い期間で制作をする必要がある。でも使われるのは、ほんの一瞬なんです。
(※PDCA:Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルを繰り返し行うことで、継続的に業務を改善する手法)
――まるで道具のような扱い方ですね。
本当にそうだと思います。
何かをつくり、1週間くらいでそれを使い捨て、そしてまたつくる。その繰り返しにうんざりしていたんです。
現場のクリエイターは疲弊するし、僕にはひとの創造性が消費されていく状況が好きになれなかった。
――「反抗の方法」としてアートを選んだ理由はなんですか?
「残っていくものをつくりたい」という気持ちが強かったんです。
これは僕の意見も入りますが、アートは、やっぱり10年先や100年先まで残っていく作品をつくっていると思うんですね。でもデジタルクリエイティブはそうじゃない。1週間でなくなってしまう、単なる道具としてしか認識されないんです。
一瞬で消費されていくものより、この先もずっと残っていくものをと考えた時に見えた選択肢がアートだったんです。
――新美さんの作品は「ネット上に廃棄されたクリエイティブ」がモチーフとのことですが、作品について教えてください。
おっしゃる通り、僕の作品は基本的には使い捨てられたデジタル広告などをモチーフにしていて、そこにデジタルのノイズをコラージュしたものです。
スタンスとしてはCMYKという、クリエイティブで使われている「シアン・マゼンタ・イエロー・キープレート」の原色に落とし込み、手癖やコラージュなどで「モノ化」していくことをやっています。
――「モノ」であることにこだわるんですね。
それもアンチテーゼの一つというか、デジタルクリエイティブって手に取ることはできないし、使い終わったらネットの世界を彷徨っていくだけです。
でも物体はそうじゃない。この世に存在し始めたら壊されでもしない限り、永久に残り続けます。ずっと居場所があるんですね。
デジタルとモノでは、存在の仕方が全然違うんです。僕自身がもともと建築出身なせいかモノへのこだわりは強いんですけど、それは消費されていくクリエイティブ、特にデジタル領域のそれに対してアンチテーゼを示す方法として意義があると感じています。
――表現することはもともと好きだったんですか?
造形物にはもともと興味がありましたね。
最初に学んだ領域も建築だったし、だからこそ音楽でもアートでも、何かをつくっている人には尊敬を感じるし、それを粗末に扱うことには怒りを感じますね。
――活動を続けていてモチベーションになるものは何ですか?
怒りですね(笑)。
――クリエイティビティを消費していることへの、ですか?
そうですね、そこには本当に怒ってます。
そもそも僕は普通の大学を出て、その後に美術大学に通っていました。だから他の人よりも出だしが遅いし、スタートラインは違うと思うんです。だからこそ命をかけて表現はしたい、何かを生み出していきたい。妥協も絶対にしたくない。
そう思っていたけれど、デザインやクリエイティブの世界では表現すること、創造することが雑に扱われている。精一杯つくっても、それは一瞬で使い捨てられてしまう。
だからこそ僕はアートでそういう状況に抗いたいし、この先にも残っていくような作品を生み出したいと思ってます。
――これから取り組みたい課題はありますか?
まだスタートしたばかりなので山積みですが、精神面で言えば「何かをつくる、表現する」ということを肯定し続けること。
消費され、否定されているクリエイティビティに対する反抗から始まっているし、表現自体も表現することも好きだという気持ちもある。
いつでも創造的なものの味方でいたいし、それが雑に扱われる世界を変えたいとは思っています。
新美宏樹 HIROKI NIIM
多摩美術大学を卒業後、アートディレクターとして広告・音楽・ファッションの世界に携わる傍らアートワークを開始。主な個展に「ボーン」(MEDEL GALLERY SHU, 2020, 東京)、「新美宏樹 個展」(中目黒LOUNGE, 2020,東京)、主なグループ展には「三人展」(SHUKADO CONTEMPORARY, 2021, 東京)、「100人10」(ログズビル, 2020, 東京)、「SICF」(表参道スパイラル, 2019, 東京)などがある。
https://www.tricera.net/ja/artist/8100260