3月26日(金)21時からフジテレビで放送される、十三代目市川團十郎白猿襲名記念ドラマ特別企画『桶狭間〜織田信長 覇王の誕生〜』。
大軍を率いる今川義元の軍勢を織田軍が打ち破った「桶狭間の戦い」を、信長という人物を形成した過去の出来事を交えて描く、本格時代劇だ。
この戦いで今川義元から先鋒を命じられ、織田方の丸根砦を攻め落としたのが、徳川元康(後の家康)だ。後に天下統一を果たす男はどんな若者だったのか、そして彼の目に織田信長の戦いはどう映ったのか。
本格時代劇初挑戦で元康を演じた、鈴鹿央士に聞いた。
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戦場での「信長とは戦いたくない」という思いを、そのまま表現しました
――役を演じるにあたって、松平元康についていろいろ調べたとうかがいました。元康をどんな人物だと感じましたか?
元康、後の家康は、「関ヶ原の戦い」を経て天下を獲ったすごい人物というイメージだったのですが、実は苦労人だったと知りました。信長とは幼少期に人質として関わりがありましたし、「桶狭間の戦い」では今川の下で戦わなければならない事情がある。親子関係も複雑ですし、この時期の元康はいろいろとしんどかったのではないか、と感じました。
――(信長が築いた)丸根砦で織田軍と戦うシーンを演じた印象は?
「これが信長の戦か」というセリフがあったのですが、元康も信長の戦を生で見たのは、これが初めてだったと思うんです。戦場に立つと、人も建物もここまでズタズタになってしまうのかと衝撃が強くて、僕自身も「これが信長か」とズシンと胸に響くものがあって…。「信長とは戦いたくない」と率直に感じたので、その気持ちはそのまま表現したつもりです。
――元康と自分の気持ちが重なったということですか?
僕たちはその後の歴史の流れを知った上で作品を作っていますが、当時の元康はこの先何が起こるか、当然知りませんよね。初めて信長の軍勢と戦って元康が抱いたのは、恐怖なのか、衝撃なのか。僕と同じように「信長とは戦いたくない」と思ったのか。きっと、いろいろな感情が生まれただろうと思います。
一方で、現代には当時の戦を見たことがある人は一人もいないわけですから、このシーンでは、僕自身の衝撃も伝わったら面白いのではないかな、と。何通りもの受け取り方があっていいと思って演じました。
――信長と対面するシーンはありませんでしたが、どんな人物だと感じましたか?
戦国系のゲームなどでは、信長は“怖いキャラ”で描かれることが多いですよね。一方で、「うつけ者」と呼ばれていたというエピソードもあるし、ある種の天才でもあり、変わり者でもあったんだろうと思っていました。
でも、今回の脚本を読んで、信長も一人の人間だと実感することができたんです。人間性も豊かで、カリスマ性があって、すごいオーラをまとった信長を演じた市川海老蔵さんは、目ヂカラや迫力がすばらしいんだろうなぁと想像しています。現場では拝見できなかったので、早く完成した映像を見たいです。
――初めて甲冑(かっちゅう)を着けた感想は?
鎧(よろい)は着るだけでズッシリ来るし、背筋を伸ばした状態でずっといなければいけない。歩き方も変えないと動けないし、これを着て戦うなんて…と思ったのですが、以前、映画でもご一緒した持道具の上田耕治さんが、鎧を着けながら一つ一つのアイテムの意味を教えてくださったんです。それを聞いていたら、戦に挑む人たちにとっては、これこそが命を守るための道具だったことが理解できました。
僕は、命を賭けて誰かと戦うという経験をしたことはありませんが、元康も、彼の周りで戦って傷ついた人たちも、いろんなものを背負って戦って、生きている。それを肌で感じることができたので、より気合いが入りました。
――京都での撮影はいかがでしたか?
僕のシーンはロケ撮影だったのですが、すごい数の鬘(かつら)が並んでいるメイクルーム(床山)など、数々の時代劇が生まれた場所を見ることができたのは、うれしかったです。
せっかく日本で生まれて俳優をやっているのだから、時代劇にも出てみたいという願望が今まで以上に大きくなりました。戦国武将だと真田幸村や本多忠勝が好きなのですが、今回、実在した人物を演じる不思議さも実感したので、もっと“鈴鹿央士版”の歴史上の人物を演じてみたいです。
――歴史上の人物を演じる不思議さとは?
歴史の教科書や小説を読めば、その人物について知ることはできると思うんですが、フィクションの世界とはいえ、その人物と同じ場面に自分も立ってみて、初めてわかることがあったんです。今回の撮影は1日だけでしたが、それでも現場に立って「こういう気持ちだったのかな」と理解できたし、そこから得たものは大きかったです。
――そういった新しい経験を経て、ご自身の中に変化はありましたか?
芸能界に入るきっかけになった広瀬すずさんとの出会いから始まって、「蜜蜂と遠雷」(2019年)で初めて映画に出演したこと、その現場で石川慶監督と出会ったこと…。毎回毎回、現場ごとに新しい出会いと新しい経験があって、自分の生き方や考え方が少しずつ変わるのは感じています。そして、変わっている途中でまた新しい出会いがあって…常に変化し続けている状態ですよね。
今回の現場では、久しぶりに会ったスタッフの方から「変わらないね!」と言われましたが、その方との再会で、また変わった部分もあると思う。変わらない部分も大切にしつつ、今はいろんな人と出会って、いいものをたくさん吸収していきたいなと思っています。
――では最後に、視聴者へメッセージをお願いします。
キャストが本当に豪華ですし、行軍や戦のシーンなど、間違いなく重厚感のある作品になっていると思います。僕が演じた元康は、絵に描かれている“徳川家康像”とは体格がちょっと違うとは思いますが(笑)、彼の若い日を表現するべく頑張りましたので、“鈴鹿央士版元康”をぜひ楽しんでいただきたいです。