3月24日(水)24時55分より、フジテレビで放送される第32回フジテレビヤングシナリオ大賞『サロガシー』(※関東ローカル)。ゲイの兄のために、サロガシー=代理母出産を決意するヒロインと、家族の姿を描いた物語だ。

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このドラマを、二児の母である佐々木恭子フジテレビアナウンサーと、妻が現在妊娠中の榎並大二郎アナ、出産経験のない宮澤智アナが、放送よりひと足先に視聴。作品からそれぞれが受け取った思いを、率直に語り合った。

「出産シーンがすばらしくて、思わず泣いてしまいました」(佐々木)

――“代理母出産”をテーマにしたドラマに触れ、どんなことを思いましたか?

宮澤:まず、代理母出産とLGBTQというテーマを聞いた時は、番組で触れたり、日常的に話したりするのは、少し難しいと感じるテーマだなと思いました。

榎並:僕も正直「重そうなドラマ」だと思ったんですけど、同時に、今の時代にこのテーマを「重い」と思っていいのかという逡巡もあって。でも、冒頭からちょっとコミカルな演出だったので、すんなり物語に入っていけました。

佐々木:登場人物それぞれの気持ちが、丁寧に描かれているんですよね。男性同士のカップルの「子どもが欲しい、育ててみたい」という気持ちも、女性として生まれたからには出産という形で女性であることを確認したいという気持ちも、よくわかる。

私自身“お母さん”なので、母親の気持ちも身にしみて。親になるって、「産む/産まない」じゃなくて、「親になる」という覚悟を決めることなんだなと痛感したんですが…それをテーマにドラマを書いた脚本の的場(友見)さんは、すごいですよね。

榎並:要素がとにかく多いのに、この尺に収めた手腕はすばらしいと思いました。

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「今後、出産に立ち会うとしても冷静に振る舞えるんじゃないか」(榎並)

――いろいろ語りたくなる作品ですが、特にグッと来た場面は?

佐々木:ヒロインの環を演じた堀田真由さんを美しく描こうとしない出産シーンは、有無を言わせない強さがありました。妊娠した以上、赤ちゃんは産まなきゃいけないんだけど、環の場合は産んでしまったら赤ちゃんは兄のものになるから、お腹の中で育ててきた子と別れなきゃいけない。

その葛藤が真正面から描かれていて、思わず泣いてしまいました。私がドラマを見て泣くなんて、かなり久しぶりのことでした(笑)。

宮澤:母子手帳を受け取ってからの環の心境の変化を、兄の聡(細田善彦)が感じているのも切ないですよね。環の気持ちもわかるけれど、この子は「自分たちの子」として育てたいという彼の思いも、強く伝わってきました。

佐々木:環にとっては「出産=幸せ」だけではない複雑さがあるけど、生まれてくる命を、両親も聡たちも待っている。彼女のつらさを感じる一方で、新しい命はこんなにも多くの人に“待たれているもの”なんだと、改めて思い知りました。榎並くんはパパ目線で見たんじゃない?

榎並:すでに出産に立ち合った気分です(笑)。「妻を励ますつもりの行動で、イラッとさせてしまうこともあるのか」など、勉強になりましたし、今後、自分が立ち会うことになった際も、少し冷静に振る舞えるんじゃないか、という気がしています。あの出産シーンも、壮絶さとコミカルさとのバランスが絶妙でしたよね。

佐々木:男性やゲイカップルに限らず、「よく見ておきましょ!」って言いたくなりました。あなたもこうやって生まれてきたのよ、って。

宮澤:力が入りましたよね。私にとっては未知の領域なので、「こんなこともあるのか!」と思う場面がいっぱいありました。ちょっと怖いと感じる部分もありましたが、それが現実なんですよね。

佐々木:実際の分娩はそれぞれだから、怖がりすぎなくて大丈夫だよ(笑)。

宮澤:それと、環が妊娠を報告した同僚(田村健太郎)が、ただ「すごい!おめでとう」と言ったシーンも印象的でした。「旦那さんは?」「いつから妊活してたの?」と、ついつい聞きたくなってしまうけど、本当は「おめでとう」だけでいいんですよね。

子供ができるって、そういうことなんだ、というのは、まだ妊娠も出産も経験していない私にとって、救いでもありました。

榎並:出産は本当に奇跡の連続。「おめでとう」って言えたあの同僚は、いい奴だと、僕も心から思いました。

「“理想通りに育ってほしい”と思う母親の気持ち、わかります」(宮澤)

――保守的な考え方にとらわれている環と聡の両親については、どう感じましたか?

宮澤:お父さん(井上肇)を見ていて、息子がゲイであることを最終的には理解しているものの、言葉で「理解する」と言うのは簡単ではない部分があるのかな、と考えさせられました。佐々木さんなら、どういう言葉をかけるんでしょう?

佐々木:うーん、どうなんだろう。理解はできなくても、歩み寄ろうとする父親と、直感的に理解しているけど直視したくない母親は対照的だろうなとは思います。母親って、子供は自分と別の人格だと頭では理解しつつ、自分の価値観を刷り込んでしまうわけですよ。

榎並:劇中のお母さん(宮田早苗)は、「完璧な男の子が欲しかった」と言っていましたね。そこに生まれてきたのが環で…という。

佐々木:子供を産んだ瞬間は、その子が存在するだけであんなにも感動していたのに、いつの間にかいろんなことが目につくようになって、安定したレールに乗せようとしてしまうのかもしれない。

だから、子供がレールから外れると、自分自身を否定されたような気分になってしまう。面と向かって「(親にレールを敷かれるのが)イヤだった」と言われたりしたら、きっとものすごくキツいでしょうね。

宮澤:子供には自分の悪いところは受け継がないでほしい、理想通り育ってほしい、と思ってしまう気持ちはわかる気がします。

佐々木:私は親から、「子育ては楽しかった、ただ思うようには育たなかった」ってよく言われていたんだけど、親になったらその気持ちがよくわかりました。思い通りに行かないことを毎日突きつけられて、自分のキャパを試されるのが、子育てなんでしょうね。

榎並:このドラマは両親がともに、自分たち世代の価値観に縛られているタイプだったから、余計に子供との不器用な関係が鮮明になっていたと思います。

そういう意味では、男性社会の価値観の中で生きていて環と対立する上司を、斎藤工さんがストレートに演じていたのも素晴らしかったですね。

少し前だったら、斎藤さんのような上司に違和感をおぼえることもなかったですもんね。親としても上司としても、もし自分がこうなってしまっていたら…と、怖くなるほどリアルでした。

――登場人物が、自分と同じような“普通の人”だからこそ、ハッとさせられることが多かった気がします。

榎並:母子手帳の「母親」の欄に誰の名前を書くのか、というシーンをはじめ、多様性という視点に立つと「あれ?」と思うことが世の中には溢れている。そういう気付きが散りばめられていました。

宮澤:お母さんと英会話教室の先生のシーンでは、海外と日本の価値観の違いが浮き彫りになっていました。海外ドラマでは、両親が2人とも男性という設定もよく出てきますし、欧米では代理出産もそこまで珍しいことではないんですよね。

佐々木:日本にもLGBTのカップルが子どもを育てている例もあるし、制度が追いついていないだけで、現実の方が進んでいる面もある。ただ、このドラマのように、代理出産をお互いの理解だけで進めていいのかというのは難しい問題ですよね。

宮澤:それでも、このドラマのようなケースも、これからは増えていくんだろうなと思いました。私自身は子供のいる人生を望んでいるので、もし自分で子どもを産むことができない、となったとしたら、こういう選択肢もあるのかもしれないな、と感じました。

榎並:描写がリアルだから、自分ごととして捉えられるんですよね。(自身の)妻の妊娠で、自分が当事者にならないとわからないことの多さを痛感しているのですが、このドラマを通して、代理出産を当事者の目線で見ることができた気がします。

佐々木:本当は、日本の家族も、もっといろいろな価値観があっていいんですよね。すべての女性が出産と同時に母性が溢れ出して、上手に子育てできるなんてこと、ありえないですもの。自分を振り返ると、本当にそう思う。子供は自分を愛してくれる人に育てられるのが幸せだし、家族の多様性がもっと認められるべきですよね。

「エンドロールが終わった後まで、しっかり見てください」(榎並)

――演出は、本作が初演出となる清矢明子監督です。演出で印象に残ったシーンはありますか?

佐々木:産後の女性って、赤ちゃんの泣き声を聞いただけで母乳が出てきたりするものなんですけど、出産シーンの泣き声をクリアに大きく響かせていたのが、女性演出家らしい、とても鋭く、繊細な演出だなと思いました。でもこのドラマでは、「女性演出家だから〜」みたいに、性別と結びつけて何かを語るのは適さない気がしますね。

宮澤:脚本も演出も本当にきめ細やかでした。ラストシーンは「え?」「そうなのか!」と驚くと思います。

榎並:最後の最後まで、いろいろ考えさせられますよね。エンドロールが終わった後まで、しっかりご覧いただきたいです。

――では最後に、改めて視聴者の方にメッセージをお願いします。

佐々木:これから家族を作る人も、家族のあり方に悩んでいる人も、きっと大切な何かを受け取ることができる作品だと思います。あと、固定観念に縛られてしまいがちな人とか、いろいろな立場の人と作品について話してみると、新たな発見があるんじゃないでしょうか?

宮澤:本当ですね。大人はもちろん、ちょっと難しいかもしれないけれどお子さんにも、身近にこういうことがあると知ってもらいたいです。

榎並:自分と同じように、「重いテーマだな」と思ってしまった人にこそ見てほしい。彼らの決断を理解できなくても、まずは知ることが大切だから。そのきっかけを得ることができるステキな作品だと思います。

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