中川大志と石井杏奈がW主演を務める、映画「砕け散るところを見せてあげる」が4月9日(金)より公開となる。

物語はいじめを受けている孤独な少女・玻璃(石井)と、それを助けようとする平凡な高校生・清澄(中川)との青春ラブストーリーかのように始まるが、玻璃のある秘密が少しずつ明らかになっていく中で、予想もつかない展開となっていく。

玻璃を演じた石井が、竹宮ゆゆこ著の原作小説を読んだときに、青春ものかと思いきや、「ミステリー、ヒューマン、ラブストーリーの要素もあって、一冊で大満足」と語ったように、怒涛の展開で、観るも者を圧倒する本作。

玻璃という一風変わった、でも普通の心を持った少女に、「演じたというより、生きていた」という感覚で向き合ったという石井が、本作への思いや、3度目の共演となった中川とのエピソードなどを語った。

演じている私だけは玻璃を肯定して、愛してあげたい

――原作を読んで「物語の面白さに夢中で読んでいる自分がいました」とコメントしていましたが、どの部分を面白いと感じましたか?

まずは登場人物がみんなとても人間らしいことです。そして、高校生としての日常を過ごす中で、良いこともあれば、悪いこともあって、だからこそ「青春だな」と思える描写もたくさんある。

さらにそこへ、ミステリー、ヒューマン、ラブストーリーの要素も加わって、一冊で大満足というくらいのさまざまな要素が詰め込まれている。読んでいてページをめくる手が止まらないけど、終わりたくないから次をめくりたくない、と思うほど、夢中になって読みました。

――「玻璃の気持ちに共感した」ともコメントしていましたね。

自分で抱え込むあまり行き詰まってしまった玻璃を、清澄が助けようとするのですが、玻璃は清澄のことが大切だからこそ、傷つけたくない、と思い、また自分で背負おうとする。私にも大切な人ほど頼れない部分があるので、そういうところもすごく共感できました。

――石井さんは一人でどのように悩みを解決するのですか?

仕事の悩みであれば、経験豊富な方に相談して解決することもあるのですが、プライベートなことは、とりあえず一回寝て、翌朝「ちっぽけなことだよな」と思って、忘れるようにしています(笑)。

©2020 映画「砕け散るところを⾒せてあげる」製作委員会

――ただ玻璃の悩みはかなり深刻ですよね。それゆえに自分と切り離して、宇宙に例えるなどして、周囲から少しおかしな人のように思われてしまうこともあります。

玻璃は悩みをファンタジーのようにしてしまうけれど、私は、それは玻璃の優しさからくるものだ、と思っていました。そうやって自分の中で具体化しないことで、理不尽なこともなんとか肯定しようとしている。映画の中にもそういう描写が出てきますが、私は観ていて温かい気持ちになりました。

――映画を観ていると、つらすぎて、玻璃に「助けて」という声を上げてほしい、と思う場面が何度もありました。

私も演じていてつらかったです。長野県で、泊りがけで撮影をしていたのですが、家に帰らないのもあって気持ちがずっと玻璃のままで途切れなくて。だからこそ、物語の終盤になると、助けたい、と思ってくれる清澄の気持ちに向き合いたいと思いつつも、逆に清澄を大切に思う気持ちも強くなるので、「助けて」という言葉が言えなくなる。玻璃の気持ちがわかりすぎてつらくなる時期がありました。

――撮影期間中は玻璃の気持ちのままで過ごしていたのですか?

はい。一回、次の日の撮影がなかったので、自宅に帰ったのですが、家の周りや、家の中に、自分の普段のルーティンがあるのがとても嫌でした。そのときの私の現実が長野にあったので、そうでないところにいる自分が許せなくて。なので、それ以降は休みでもずっと長野にいました。その時期は自分と玻璃が混同していました。

――そのくらい入り込めた役とも言えますね。

とても好きな役でした。この人を助けるために演じたい、と思っていました。そうやって自分自身にプレッシャーもかけていたので、それに負けたくない、という思いから、より入り込んでもいました。

――玻璃のどこにそんなに惹かれたのでしょうか?

清澄のセリフに、もっと普通の人じゃなければ良かったのに、この人は涙も出る、普通の女の子なんだ、という言葉があるのですが、本当にその通りで、玻璃は普通の女の子です。そんな普通の女の子が、つらいことを乗り越えるために、周囲から変人と思われるような人になってしまっている。

だからこそ私自身も玻璃を守りたいし、応援したい、と思わずにはいられませんでした。そういう玻璃の生き方を誰も肯定してくれなかったとしても、演じている私だけは肯定して、愛してあげたい、と思っていました。

中川大志の存在は「私にとってもヒーローだった」

――清澄役の中川さんとは3度目の共演です。今回、改めて感じたことはありますか?

1回目が同級生、2回目が幼なじみで、今回はお互いのことを思い合っている先輩・後輩という関係だったのですが、これまでの2回が群像劇だったので、今回初めて対峙してお芝居をさせていただきました。そうすると、こんなにも頼もしくて、たくましくて、純粋で真っ直ぐなんだ、ということを肌で感じて。今まで気づけていなかった大志くんの良さを実感しました。

――それはお芝居を通してですか、それとも現場の居方などですか?

どちらもです。演技に関しては、今回、2人での会話劇が多かったからこそ、相手を信じなければできなかったので、そういう意味ではとてもやりやすかったです。

それから現場にいる間、大志くんはずっと清澄の佇まいでいてくれました。過酷なシーンのときも、目をキラキラさせてその場にいてくれて。そういう姿を見ているだけで、自分も頑張ろう、と思えましたし、現場の士気も上がるので、ずっと頼もしいと感じていました。

©2020 映画「砕け散るところを⾒せてあげる」製作委員会

――中川さんのイメージと、清澄が重なるようにも思えるのですが、近くにいる石井さんからはどう見えていましたか?

私も現場にいる間、大志くんと清澄を重ねていました。物語の中で、玻璃は清澄に助けてもらいますが、私は現場で大志くんに助けてもらっていたので、玻璃にとっても、私にとってもヒーローだったと思います。

大志くん自身がどう思って現場にいたのかはわからないですが、私は大志くんがオフでただそこに座っているだけのときも、清澄が近くにいてくれて安心するな、と思っていました。

――2人で役について話すことはありましたか?

それが全然ありませんでした。私は私の思うように玻璃を演じて、大志くんは大志くんが思う清澄を演じて、そこで生じた化学反応が“正解”となっていったので、本当にしばりがなく、伸び伸びと演じることができました。現場では心で会話をしていたというか、言葉にせずともわかり合える絆みたいなものが生まれていたような気がします。

2人での最初のシーンが、玻璃がトイレに閉じ込められて、そこに清澄が助けに来るところだったのですが、そこで大志くんが私の想像とは違う反応をしました。ただそのときに、大志くんがどんな風に演じても全部受け止めたいし、全力で返したいと思えました。大志くんが作る清澄が正解で、私はその正解にプラスαをして返したいと思って演じていました。

©2020 映画「砕け散るところを⾒せてあげる」製作委員会

――相手が中川さんだったからこそ、できたと感じるシーンはありましたか?

たくさんあります。最初の試写を一緒に観たときに、称え合うではないですが、私は「(相手が)大志くんで良かった」と伝えて、大志くんも同じようなことを言ってくれました。どのシーンも大志くんがいたから、表面上のお芝居ではなく、自分の本当の気持ちが動いたと思えます。

それから、自転車で二人乗りをするシーンがあるのですが、カットがかかったら、後ろの私が降りて、もとの位置に戻るのが普通なのに、大志くんが「このまま行っちゃおうぜ」と、二人乗りのまま戻ってくれたりして。

そのときは撮影が立て込んでいる時期でもあったので、そういう中でのこういう瞬間は単純に私の心の癒しになりましたし、こんな素敵な人がいるなら、私も一緒に頑張ろうという活力にもなりました。

作品の神様が降りてきてくれたな、と思う瞬間がある

――SABU監督の演出はどうでしたか?

最初に「絶対にいい作品を撮ろうね」と言ってくださったのが印象に残っています。演出としては、玻璃をこうしてほしい、みたいなものはほとんどなくて、その場での動き、例えば、こちら側から撮るから、髪の毛を少し動かしてほしい、といったことだけでした。

役として玻璃をどうしていくかは、私に任せてくださっていたので、本当に何にもとらわれず、感じたままの玻璃を伸び伸びと演じさせていただきました。監督の演出の仕方がもっと違っていたら、あんなふうに心からのお芝居はできなかったと思います。

――玻璃は姿勢や動きが独特ですが、あれも石井さんから出てきたものですか?

そうですね。でも最初からこうしようとは思ってはいなくて、現場で玻璃として動くなかで決めていきました。セリフももちろん覚えてはいるのですが、用意した言葉を言うのではなく、その場で出てきた言葉を言っている感覚でした。玻璃を演じていたというより、生きていたという感じがしていました。

――いつもそのような役作りをしているのですか?

普段から役の思いに共感したい、と思って演じてはいますが、やはり現場の雰囲気や監督、相手の方によって作り方は違っています。そういうところで言うと、今回は特別で、新しいやり方でやらせていただけたのだと思います。

自分が思ったように演じるというのは、自信もなかったですし、プレッシャーもありましたが、撮影が始まると初日からそんなことを考えている暇がなくて。毎日、玻璃のことを考えているだけでいっぱいでした。

――今年から俳優業に集中することになりましたが、改めて石井さんにとって俳優の仕事はどんなものですか?

作品を観てくださる方がいて、その作品が成立するということは大前提としてあるのですが、私個人としては、自分で演じていて、演じたことを忘れるときがあって。自分が自分ではなくなり、そこに存在している誰かになって演じることができたときに、作品の神様が降りてきてくれたな、と思う瞬間があります。

その瞬間に巡り会えたとき、生きがいというか、自分の存在価値を見つけられたと感じるので、それが今、お芝居をするやりがいとなっているとは思います。その役を演じ終えて、本当に役として生きれたな、と思える、気持ちのいい瞬間があります。

――憧れの俳優像はありますか?

そのときどきで輝ける人になりたい、と思います。今は今回のように学生役であったり、自分より少し年上の方の役をやらせていただいたりとあるのですが、どの役も全力で、等身大に輝ける人になっていけたらいいな、と思っています。

――最後に、作品を観てくれる方へのメッセージをお願いします。

この作品には様々な要素が入っています。観ているだけで、愛おしい気持ちや、優しい気持ちが芽生えたり、その反対のような気持ちもあったりと、たくさんの気持ちが出てくると思うので、いい意味で疲れてほしいなと思います(笑)。そして、今のようなご時世だからこそ、この作品に寄り添って、愛を感じていただけたらいいな、と思います。

撮影:小嶋文子

<「砕け散るところを見せてあげる」ストーリー>

平凡な日々を送る高校3年生の濱田清澄(中川大志)はある日、高校1年生で、学年一の嫌われ者と呼ばれる孤独な少女・蔵本玻璃(石井杏奈)に出会う。

玻璃は救いの手を差し伸べてくれる清澄に徐々に心を開くようになるが、彼女には誰にも言えない秘密があった。その秘密に気づき始めた清澄に危険が迫り、友人の田丸(井之脇海)や尾崎姉妹(松井愛莉、清原果耶)も心配する中、予測できない衝撃の出来事が起こる。

映画「砕け散るところを見せてあげる」は2021年4月9日(金)より全国公開

©2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会

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