『イチケイのカラス』第10話完全版
みちお(竹野内豊)は、弁護士時代の同僚でもある青山(板谷由夏)と、彼女の母親の多恵(銀粉蝶)に会いに行く。愛犬みちこの弟妹が生まれたからだった。多恵は、5年ほど前に富山から上京したが、いまでも富山弁が抜けないのだという。
帰り道、青山は、独立して事務所を立ち上げるにあたって、得意の企業法務だけでなく国選弁護もやっていくつもりだとみちおに告げる。青山は、その国選弁護である案件を引き受けることになったため、またイチケイに通うことになる、と続けた。
そのときふたりは、カメラマンらしき人物に後を付けられていることに気づいていなかった。
あくる日、駒沢(小日向文世)は、レアケースの案件が上がってきたので合議制で審理する、とみちおや坂間(黒木華)たちに伝える。それは傷害事件だったが、被告人が“名無しの権兵衛”なのだという。青山が弁護人を引き受けた案件だった。
第1回公判。どこか飄々とした雰囲気を持つ被告人(板尾創路)は、名前はもちろん、自らの素性を明かすことを拒む。事件は、当時17歳だった被害者の朝倉純(小野寺晃良)の胸部を工具で殴打し、ケガをさせたというものだ。
この事件の背景にあるのは、路上生活者に対する少年たちの投石事件だった。河川敷で路上生活者仲間とバーベキューをしていた被告人は、被害者の純を含む5名の少年たちから石を投げつけられた。少年たちを追いかけた被告人は、純を捕まえて注意。
すると、そのことに腹を立てた少年たちは再び投石行為に及び、路上生活者のひとりにケガをさせてしまう。その話を聞いて純を探し出した被告人は、もみ合いになった際に彼が持っていたスパナを奪って殴りつけたという。純は肋骨が折れるほどの大ケガだった。
だが、みちおから、起訴事実について間違いはないか、と問われた被告人は、間違っている、嘘だと答えた。そして、自分は嘘が嫌いだ、と言い切る。
みちおと坂間は、自らを積極的路上生活者――ポジティブホームレスと位置付ける被告人に興味を抱く。被告人は、河川敷で野菜を栽培しているほか、川で獲れたシジミを売って生活費の足しにしているのだという。そのシジミは、丁寧に砂抜きされていることもあって、個人だけでなく、飲食店からも人気を博しているらしい。
弁護人の反対質問で、被告人は、自分が河川敷の草むらで被害者の少年を見つけた時には胸を押さえて苦しんでいた、と証言する。それに対して検察の井出(山崎育三郎)は、被害者が被告人に殴られたと証言していること、被害者の119番通報で駆け付けた救急隊員が逃走する被告人を目撃していることを指摘する。
それでも被告人は、純を法廷に呼んでほしい、という。嘘を放っておくと心を蝕む、というのだ。
公判後、青山は、被告人のアリバイを証明できるかもしれないとみちおたちに告げる。被害者の純が119番通報をしたのが17時01分。被告人が2度目の投石事件を知る直前、彼は事件現場から5分ほど離れた場所で知り合いと会っていた。
その知り合いとは、実家が料亭で、いつもシジミを買ってくれている鷹和建設の人事部長・原口秀夫(米村亮太朗)だった。
米村は2人の男性と一緒で、被告人が立ち去る際に、その2人が「まだ5時ですか」「いい店があるんですよ。予約を入れますね」と話していたのだという。青山は、原口に証言を求めようと、鷹和建設を訪れた。しかし原口は、証言に応じず、2人の男性の素性も明かさなかった。
第2回公判では、検察側の証人として投石事件を起こした坂口剛(市川理矩)ら少年4人が出廷した。剛たちはサッカー部の仲間で、試合に負けた腹いせに投石事件を起こしたことを認めるとともに、二度目の投石事件を起こして逃げた後、純から、被告人に殴られたと聞かされた、と証言する。
続いて証言台に立った純は、最初の投石事件の後、登下校の際に何度か被告人を見かけていることから、ずっと自分を狙っていたのかもしれないと証言する。すると被告人は、「嘘はダメだ」と言って被告人に近づき、取り押さえようとした刑務官を投げ飛ばしてしまう。どうやら被告人には合気道の心得があるようだった。
坂間は、そんな被告人に、嘘にはいろいろな種類があり、そのさまざまな嘘が時として法廷で飛び交うが、いかなる理由があろうとも正しい裁判を行うためにはその嘘を見極めなければならない、と告げる。それを受けてみちおは、職権を発動し、裁判所主導で改めて捜査を行うと宣言する。
みちおたちは、青山が被告人の素性を知っていると考えていた。しかし青山は、依頼人の利益を守るのが弁護士の務めだとして、被告人の素性を明かすことを拒む。
あくる日、駒沢や青山らは、原口への所在尋問のため鷹和建設を訪れる。しかし原口は、長期の休暇を取っているという。
そこにやってきたのは、ある事件を追っている城島(升毅)と、東京地検特捜部の検察官・最上理子(松下美優)だった。青山から情報交換を求められた城島は、原口と一緒にいたという2人の男性の存在に興味を示すが、何も事情を言わずに去ろうとする。
駒沢は、鷹和建設が国税庁絡みの巨額脱税事件で最も脱税額が大きかったことに触れ、原口と一緒にいた男のうちの1人が、政治絡みの人間ではないかとかまをかける。すると城島は、政治絡みの人間については話せないが、もう1人の男は鷹和建設社長の的場直道の可能性があること、そして今回の傷害事件の現場近くには、的場がよく利用している店があることを明かす。
同じころ、みちおや坂間らは、被告人の仲間である路上生活者たちを訪ねていた。被告人は、仲間の体を気遣っており、時には首を触っただけで病気かもしれないから病院へ行くよう指示したこともあったという。
そこで糸子(水谷果穂)は、みんなで飼っていた犬がお手をするようになったとき、被告人が「かたい、かたい」と言っていたというという証言を得る。それは、「お利口」という言葉の方言らしい。それを聞いたみちおは、それが富山ではないかと推察。青山の母・多恵の地元である富山県の川冨村へと向かう。
一方、井出や青山は、純を搬送した救急隊隊員に話を聞きに行く。そこで井出たちは、純はろっ骨を骨折し気胸になっていたが、胸腔にたまった空気を何かで抜き出したような跡が残っていたという証言を得ていた。
みちおと坂間は、青山を呼び、被告人の素性がわかったと伝える。被告人は、人口1000人、7割がお年寄りの村で長い間、医師を務めてきた。
だが17年前、災害で道が遮断されたときに、緊急の帝王切開が必要な17歳の妊婦がおり、子どもは無事生まれたものの、母親が亡くなってしまうという出来事があった。その後、被告人は失踪したが、それまでの間、彼をずっと支えてきたのが多恵だったのだ。
青山は、両親が離婚する際、田舎に行きたくないという理由だけで父親を選んでいた。その後、母に会いに行くと、そこに被告人もいたのだという。今回の国選弁護を引き受けたのも、失踪した被告人をずっと探していた多恵から頼まれたからだった。
第3回公判、傍聴席に来た多恵の姿を見た被告人は驚きを隠せなかった。青山は、そんな被告人に、母から頼まれて弁護を引き受けたことを告げた。青山から名前を問われた被告人は、御手洗真一だと答え、川冨村で医師を務め、17年前に姿を消したことも認めた。失踪した理由は、無資格医だからだった。
御手洗の父親は医者が1人しかいない場所で診療所を開いており、医者にはなれなかった御手洗も看護師として手伝っていた。だが、知人に騙されて診療所を借金の抵当に入れられてしまい、心労で父も亡くすと、逃げるように各地を転々として川冨村にたどりついたのだという。
そこで御手洗は、報酬目当てで医者に成りすましたが、村の住人たちから頼られるようになると、その期待に応えようと、独学で医学の勉強を続けながら医療行為を行っていたらしい。その中で多恵だけが無資格医であることに気づいていたが、無医村には御手洗が必要だと思い、その嘘に加担していたのだ。
事件のあった日、御手洗は胸を押さえて苦しんでいる純を助けるために、所持していたボールペンを彼の胸に刺して空気を抜き、応急処置をした。罪を犯してでも純を助けようと思ったのは、彼が17年前に17歳の妊婦から自らの手で助けた子どもだったからだという。
それを聞いた純は、投石を拒否して仲間の剛から殴られたことを告白し、嘘をついていたことを涙ながらに謝罪し…。
青山は、多恵とともに拘置所を訪れて御手洗と面会した後、坂間と飲みに行く。そこで青山は、みちおが高校を中退した理由を坂間に話す。みちおの実家は、知る人ぞ知る旅館だった。だが、経営が悪化し、産地偽装に手を染めていたことを従業員から告発され、高校生だったみちおも、両親が嘘をついていることを法廷で証言したのだという。
その後みちおは、責任を感じて高校を辞め、働きながら法律家を目指した。「みちおを見ていると、法律家として正しい選択をしなければいけないと思わされる」。青山は、そう坂間に告げた。
みちおは、日高(草刈民代)と会っていた。日高は、裁判官になって間もなく10年になるみちおに、「裁判官の任期は10年。任期満了後はほとんどの裁判官が再任される。問題のある裁判官を除いては…」と告げて――。
<ドラマ『イチケイのカラス』はFODでも配信中(最新回は期間限定で無料)>