~「クオータ制なくして、ジェンダーパリティに近い水準まで100~150年待つことになる」──MPower 松井氏、BCG共同リサーチで「マーケット・ミスプライシング」論を提示~

本リリースのポイント
- 「女性創業スタートアップのシード評価は男性の半分以下、しかし IPO 時のバリュエーションは男性の1.5倍」--MPower Partners × Boston Consulting Group(BCG)が2026年1月に共同発表したリサーチに基づき、松井氏が「ジェンダー視点での投資は人権論ではなくマーケット・ミスプライシング論として成立する」と主張
- 「クオータ制なくして、この国でジェンダーパリティに近い水準に到達するまで100~150年待つことになる」--衆議院の女性議員比率10%、人口の50%との乖離を指摘
- 女性労働参加率は過去最高水準、米・欧を上回る--1999年に松井氏が研究を始めた当時の「OECD最低水準」から大幅改善
- W-Power Fund(正式名「WPower Fund I」、2025年3月設立、最大規模80億円)でアーリーステージ女性ファウンダーに集中投資--出資者:東京都、三菱UFJ銀行、三菱地所、塩野義製薬、東京海上ホールディングスほか
- 「見えないものには、なれない(You can only be what you can see)」--高市早苗総理誕生の象徴的意味について松井氏が言及
- 2024年世界サステナビリティ関連AUM は4.1兆ドル、前年比 +16.16%--「米国は反ESGの見出しで注目されるが、実際は世界のESG資産の約85%は欧州にある」
- 東京大学 学部生調査で40%が「起業したい/スタートアップで働きたい」--「5年、10年前には考えられなかった数字」

講演のハイライト
ソーシャス株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:尹世羅)は、2026年4月26日(日)、東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井カンファレンスにて開催した招待制エグゼクティブサミット「Tech for Impact Summit 2026」(以下、T4IS2026)のメインステージにて、『Womenomics to Founder-nomics: Rewriting Japan's Investment Playbook(ウーマノミクスから創業ノミクスへ:日本の投資プレイブックを書き換える)』と題したファイヤーサイドを実施いたしました。
登壇者は、1999年にゴールドマン・サックスのストラテジストとして「Womenomics(ウーマノミクス)」レポートを発表し、その後20年以上にわたり日本の女性活躍政策の理論的基盤となってきた、MPower Partners ゼネラルパートナーのキャシー松井(マツイ・キャシー)氏と、ニューヨーク・タイムズ東京特派員のリバー・アキラ・デービス(River Akira Davis)氏。

1. ウーマノミクス25年--「労働参加率は記録更新、しかし意思決定層は手付かず」
セッション冒頭、河氏が「Womenomics があなたの代表的レガシーとされるなか、25年経った日本をどう総括するか」と問いかけたのに対し、松井氏は次のように切り出しました(以下、松井氏の発言はすべて英語講演の要旨日本語訳)。
「日本の女性労働参加率は、今や過去最高水準にある。私の出身である米国も、夫の出身である欧州も上回る水準だ。1999年に私がこのテーマで研究を始めた当時、日本の参加率は OECD でも最も低い水準のひとつだった。これは決して軽視すべきではない成果だ」(松井氏、要旨)
「悪いニュースは、まさにあなたが指摘した点だ──意思決定層・リーダーシップ層(民間・公的セクター双方)における女性の絶対数。労働参加率という入口は開いたが、意思決定の部屋の扉は依然として閉じている」(松井氏、要旨)
そのうえで松井氏は、2020年までに政府が掲げた「指導的地位に占める女性の割合30%」目標が大きく未達となった現状を踏まえ、必要なのは「号令」ではなく「アカウンタビリティを伴う制度設計」だと指摘しました。

2. 「100~150年」──クオータ制導入を強く主張
松井氏は、人口の約50%が女性であるにもかかわらず、衆議院の女性議員比率は約10%にとどまる、と政治分野のジェンダーギャップを指摘。
「最重要の意思決定機関が、国民の声を正しく反映できているとは、とても言えない。だから私は記録に残る形で、クオータ制の導入を主張してきた。一時的なものでもよい。形は様々あって構わない」(松井氏、要旨)
※編集部注:松井氏が会場で言及した「衆議院の女性議員比率10%」は概数。実際の直近の数字は、2026年2月8日の衆院選で女性当選者68人/全465議席=14.6%(前回2024年10月の衆院選後は73人/15.7%)。いずれにせよ松井氏が指摘するとおり、人口比50%とは大きな乖離があり、政府の第5次男女共同参画計画が掲げた「衆院選候補に占める女性比率を2025年に35%」の目標も未達である。
「韓国では政党レベルでクオータが導入されている。国政選挙に候補者を擁立する際、一定比率を満たさないと国庫補助が出ない仕組みだ。形は色々あり得る」(松井氏、要旨)
「クオータ制をやらなければ、この国でジェンダーパリティに近い水準に到達するまで、100年、150年待つことになる」(松井氏、要旨)
松井氏はこれに続けて、企業ガバナンス側でも、政府の数値目標だけではなく経営トップ自身が自社文化に合った形で「ハイポテンシャルな女性人材を能動的に育成する制度設計」を整備することの重要性を強調。自身が26年間在籍したゴールドマン・サックスでスポンサーシップ等の施策を主導した経験を引きつつ、「過ちもあった。そこから学んだ」と述べました。

3. 高市早苗総理の象徴的意味──「見えないものには、なれない」
デービス氏が「日本初の女性総理大臣が誕生したことで、政治・ビジネス界の女性登用への受け止めに変化があったか」と問うと、松井氏はこう応じました。
「結局のところ、若い女性や女の子が『自分が将来何になれるか』を思い描こうとしても、自分と似た姿の人がどこにも見当たらなければ、想像することすら難しい。見えないものには、なれない(You can only be what you can see)--私はそう強く信じている」(松井氏、要旨)
「これは象徴的とはいえ、極めて重要な転換だ。何十年も同じ『金型』で形作られてきた、この国のトップ・リーダーシップが、その金型に当てはまらない人物に置き換わったという事実そのものに意味がある」(松井氏、要旨)
「興味深いのは、高市氏が政治家家系の出身ではないという点だ。日本の政治を骨の髄まで生きてきた祖父や親族がいなくても、リーダーになれる──これは、政治家を志すすべての人(男性も含めて)にとって重要な意味を持つ」(松井氏、要旨)
なお松井氏は、「成功するか否かは別問題で、まだ予断を許さない」と慎重な留保も付しました。

4. ベンチャー投資の構造──「ディスカウントで投資、プレミアムで出口」
セッションの中心は、女性ファウンダーへのベンチャー投資をめぐる構造的なミスプライシング論でした。デービス氏が「ベンチャー資金の女性ファウンダー向け配分が依然2~3%にとどまる」現状を提示したのに対し、松井氏は MPower Partners が運営する2つのファンド構造を改めて説明しました。
MPower / W-Power 二本立てのファンド構造
- M-Power(2021年設立、フラッグシップ)──レーターステージ/グロースステージのスタートアップ
- W-Power Fund(正式名「WPower Fund I 投資事業有限責任組合」、2025年3月設立、最大規模80億円、追加募集期間 2026年3月5日まで)──アーリーステージ、特に最初期段階のスタートアップ。主に女性ファウンダーのスタートアップに投資するが、女性をエンパワーする男性ファウンダーの企業にも投資
松井氏は、W-Power Fund を立ち上げるに至った経緯を、現場で観察された「不可解なパターン」として説明しました。
「同じような事業、同じようなトラクション、同じような売上の、男性創業企業と女性創業企業を見比べると、評価額はまさに『天と地の差』だった」(松井氏、要旨)
そして、2026年1月に MPower Partners が Boston Consulting Group(BCG)と共同発表したリサーチ結果を提示。シードステージでは女性創業スタートアップの評価額は男性創業企業の半分以下(同セクター・同規模で比較)、一方で2020~2024年の日本のIPO案件では、女性創業スタートアップの IPO 時バリュエーションは男性創業企業の1.5倍だった、というのが結論です。
「シード段階で、女性創業スタートアップの評価額は男性創業企業の半分以下だった。しかし2020~2024年の日本のIPO案件を分析すると、女性創業スタートアップは IPO 時のバリュエーションが男性創業企業の1.5倍だった」(松井氏、要旨)
なぜシード段階で評価が低くつくのか
松井氏はその構造的原因として、女性ファウンダーが「相対的に保守的な事業計画」を提示する傾向と、男性ファウンダーが「青空シナリオ的な大胆な事業計画」を提示する傾向の差を指摘しました。
「VC は LP(出資者)から大きなリスク資本を預かっている。リスクを取り戻すには、大きなリターンが必要だ。『年20~30%成長』と『年200~300%成長』の2つのピッチが並べば、VC は野心的な方を選ぶ。これは日本に限らず、世界共通の構造だ」(松井氏、要旨)
そして松井氏は、この構造を「人権論」ではなく「投資ロジック」の言葉で語りました。これがセッションを通じて最もパンチのある一節となりました。
「これは人権論でも、平等論でも、正義論でもない。純粋な客観的投資家として見れば、有望なスタートアップにディスカウントで投資し、プレミアムで出口を取れる、ということだ。なんて美味しい話だろうか?」(松井氏、要旨)
「我々がリサーチを発表したのは、エコシステム全体にこの差が存在することを可視化するためだ。ファンダメンタルズである程度説明できる部分もあるかもしれない。しかし、ファンダメンタルズだけでは説明しきれない」(松井氏、要旨)

W-Power Fund のバッカー(出資者)
「W-Power Fund を支えてくださっているのは、東京都、三菱UFJ銀行、塩野義製薬、東京海上ホールディングスなどのバッカーだ」(松井氏、要旨。松井氏が会場で挙げなかった三菱地所も正式LP)
「我々は小さなファンドにすぎないが、追随する他のファンドのための『カタリスト(触媒)』になることを目指している。人口の半分が女性であるこの国で、女性が起業資金の『一切れ』しかアクセスできない状態は、政府が掲げる野心的なユニコーン目標を達成するうえでも大きな足かせになる」(松井氏、要旨)
5. ESG/サステナビリティ投資の世界的潮流──「米国の見出しと実態は違う」
デービス氏が「2022年Q1には米国のESGファンドから60億ドルが流出した。世界的なESG後退の中で、日本はどう位置取りすべきか」と問うと、松井氏は数字で反論しました。2024年の世界のサステナビリティ関連 AUM(運用資産)は約4.1兆ドル、前年比 +16.16%(ただし流入よりも市場上昇による寄与が大きい)、地域シェアは欧州が約85%--いずれも松井氏が会場で言及した数字です。
「世界のサステナビリティ関連 AUM は、実は2024年に成長している。米国は反ESGの見出しで世界の注目を集めているが、世界のESG資産の約85%は実は欧州にある。米国が縮小していても、欧州とアジアがそれを補っている」(松井氏、要旨)
そして松井氏は、ゴールドマン・サックスで約30年公開株式アナリストを務めた経験を踏まえ、ESG分析の意義を医師の比喩で説明しました。
「アナリストとは医師のようなものだ。財務データだけ見るのは、患者の外見だけを診て『健康そうだ』と言うようなもの。脳の中、心臓の中で何が起きているかを捉えるのが、いわゆる『非財務情報』、ESG的視点だ」(松井氏、要旨)
日本のスタートアップが ESG の中で最も重視するのは「S」
「日本のスタートアップで ESG を真剣に考えている経営者と話すと、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のうち、最も重視されるのは S だ。スタートアップにとって、優秀な人材を採用し、定着させる能力こそが生死を分けるからだ」(松井氏、要旨)
「私はメルカリの山田進太郎氏にインタビューしたが、彼が最も大切にしているのも S だと話してくれた(インタビュー全文は MPower Partners のサイトに掲載)。これは、平均的なベンチャー投資家が必ずしも注目していない領域だが、IPO 準備や M&A 局面では極めて重要になる」(松井氏、要旨)
6. 日本スタートアップ・エコシステム──「動いている。だがまだ国内最適化されすぎている」
「日本のスタートアップ業界で何にワクワクするか、ボトルネックは何か」というデービス氏の問いに、松井氏は3つの観察を共有しました。
(A) タレントプールが大企業からスタートアップへシフト
「楽天、メルカリ、ソフトバンクなどから次世代の創業者が生まれている。東京大学の学部生調査では、40%が『起業したい、もしくはスタートアップで働きたい』と答えた。5年、10年前にはあり得なかった数字だ」(松井氏、要旨)
「ピッチデックで創業チームの経歴を見ると、大企業や官庁から来ている。『大手に入れなかったからスタートアップに』ではない。『大手のオファーを断ってリスクを取る』に変わった。これこそ、日本に長らく欠けていた『アニマルスピリッツ』だ」(松井氏、要旨)
(B) 政府が初めて本気でスタートアップを政策アジェンダに置いた
「岸田政権までは、政府の公式アジェンダで『スタートアップ』という言葉さえ出てこなかった。今は政策、税制、ディープテック・バイオテックへの補助金がある。補助金額は米国と比べてもむしろ巨額だ」(松井氏、要旨)
(C) しかし「Day Oneから世界市場」の発想が足りない
「日本国内市場はそこそこ大きい。あるカテゴリの B2B エンタープライズソフトで国内No.1 になれば、IPO してそれなりに良い人生が送れる。だがイスラエルや韓国の創業者は国内市場が小さいため、『Day Oneから世界市場』が当たり前だ」(松井氏、要旨)
「我々が出資する Sakana AI のように、日本市場にとどまらず、海外の非日本人タレントを日本に呼び込んでいる企業に注目している。『日本に住みたい』という強い動機があるからこそ、海外人材を引き寄せられる──日本だからこそできる戦略だ」(松井氏、要旨)
7. Asian University for Women(AUW)──松井氏の20年に及ぶライフワーク
セッション終盤、デービス氏が「米国の対外援助の縮小が進むなか、松井氏が約20年関わってきた Asian University for Women(AUW、アジア女子大学)について話したい」と振ると、松井氏は次のように紹介しました。
「AUW は、アジア・中東出身で、本来であれば高等教育にアクセスできない女性に向けた大学だ。現在、20カ国から約2,000名の学生が学んでいる。タリバン政権下のアフガニスタンでは、女性は基本的に初等教育以降の教育を受けられない。AUW は、世界で最大のアフガン女性コホート(同一大学に在籍するアフガン女性数)を持つ大学である──これは衝撃的な事実だ」(松井氏、要旨)
「ミャンマー出身のロヒンギャ難民の学生も多く在籍している。バングラデシュのコックスバザールにある、世界最大の難民キャンプ(人口100万人規模)から AUW に来た学生もいる。AUW の卒業生のうち3名は、現在 JICA の支援を受け、日本で大学院修士課程を修了した、または在籍している」(松井氏、要旨)
「米国が国際援助からリーダーシップを引きつつあるなか、特にアジアの安定にとって決定的に重要な国々を支えるため、日本がその空白を埋めるべきだと私は強く信じている」(松井氏、要旨)
AUW の主な支援者として、松井氏はファーストリテイリング財団、武田薬品工業、日立製作所、ほか日本の複数の財団・企業を挙げ、「より多くの日本企業・財団に参加してほしい」と呼びかけました。
キャシー松井(マツイ・キャシー)氏 プロフィール
MPower Partners ゼネラルパートナー。1994年にゴールドマン・サックス証券に入社、2000年に同社初の女性パートナー兼チーフ・ジャパン株式ストラテジスト、2015年に副会長に就任、2020年に退任(在籍26年)。Institutional Investor 誌の日本株式ストラテジスト部門で複数回1位に選出され、2007年にウォール・ストリート・ジャーナル「Asia 10 Women to Watch」、2014年に Bloomberg Markets 誌「50 Most Influential」に選出。1999年発表の「Womenomics」研究は、2015年に日本政府成長戦略に組み込まれた。ファーストリテイリング株式会社 社外取締役、京都大学大学院 経営管理研究科 非常勤教授、Asian University for Women(AUW)支援財団 理事、US-Japan Council 共同議長、Council on Foreign Relations 理事、Bretton Woods Committee Advisory Council 理事、経済同友会 理事ほか多数。著書『ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方、教えます──励まし方、評価方法、伝え方 10ケ条』(2020年、中公新書ラクレ。約30年にわたる金融業界での経験に基づく)。ハーバード大学社会学部 magna cum laude 卒(AB)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係研究大学院(SAIS)修士(MA)。
リバー・アキラ・デービス(River Akira Davis)氏 プロフィール
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)東京特派員。日本のビジネス・経済・社会を担当。2024年に NYT に移籍する前は、ウォール・ストリート・ジャーナル、Bloomberg News で日本報道に従事。2018年以降、東京を拠点に5年以上、自動車業界、貿易、政策、高齢化社会など幅広い領域で日本のビジネス・経済を取材してきた。ジョージタウン大学 外交学院(School of Foreign Service)卒、東京大学公共政策大学院(GraSPP)修士(公共政策・ファイナンス)。
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