『この素晴らしき世界』のプロデューサーが、脚本家・烏丸マル太の真相を語りました。
若村麻由美さんが主演を務める木曜劇場『この素晴らしき世界』。本作は、ある日突然、大女優・若菜絹代(若村)として生活を送ることになった主婦・浜岡妙子(若村:二役)の姿を描く“なりすましコメディ”。
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当初は困惑しながら若菜になりすましていた妙子でしたが、次第に女優としての生活が楽しくなり始め、気が緩むように。第3話では、スタッフやタレントの前で「以前、介護の仕事をしていた」と口走ってしまいました。
さらに、芸能界そのもの、そして若菜の所属事務所「プロダクション曼珠沙華」のさまざまな闇に直面して…。
物語が進むにつれ、サスペンスの要素も見え始めている本作のプロデューサー、鈴木吉弘と水野綾子にインタビュー。作品への反響、主演・若村麻由美さん印象などのほか、「誰?」とSNSで話題となっていた脚本家・烏丸マル太の真相、後半の見どころなどを聞きました。
「期待してなかったけど面白かった」そんな視聴者が定着してくれたら
<鈴木吉弘プロデューサー、水野綾子プロデューサー インタビュー>
──ここまで放送に対する反響はいかがですか?
鈴木:おおむね好評かと感じています。いろいろなご意見の中で目立つのは、「あんまり期待してなかったけど、面白かった」という声(笑)。最初から注目度の高い作品ではなかったかもしれませんが、見てみたら面白かったという声が多いので、それはうれしいなと。あとは、そういった方々が定着してくれるとありがたいなと思っています。
──どういった点に面白さを感じてもらえたと思いますか?
鈴木:主婦と思われる方が、夫の言動や妙子が日々抱える不満などに対して「こういうことあるよね」と書かれているのをよく見ますし、主婦のリアルな感じに共感していただけたのかなと思います。ネットに感想を書き込んでいる方の本当の性別や年代は分かりませんが、自分の周囲から直接聞いたところでも、同じように受け取ってもらえていると感じました。
水野:私も知人から多くの反響をもらっていて。こんなに反響があるのは初めてです。その中で、ほぼ全員から「キャストの演技力がすごく高い」という声をもらいました。それを感じながら撮影をしているところだったので、見てくださる皆さんにも伝わったことがうれしかったですね。
──本作は、30年前に出していた企画だそうですが、なぜ今ドラマ化することになったのでしょうか?
鈴木:30年前に企画を出したときは、実は主人公がもっと若い世代、20代前半ぐらいのアイドルが失踪する話でした。いつかやりたいなと思いながらも、タイミングがなくて実現はしなかったのですが。
そんな今作をドラマ化したわけですが…今、木曜劇場は「大人が見られる枠に」という方針で制作をしています。“大人のドラマ”となると、社会性が強かったり、グロテスクな人間の感情を描いたり、そういう作品が多くなりがちですが、僕は“大人”と言われる世代のコメディをやりたいと思ったんですよね。
そこでいろいろと考えていくなかで、30年前の企画の主人公を大人にしたらやれるんじゃないかと思ったんです。当時、企画に関わっていたプロデューサーの方々に「やっていいですか?」と仁義をきったうえで、今回やらせていただくことになりました。
──脚本をご自身で書こうと思ったのはなぜですか?
鈴木:30年前からあった企画で、割と明確に「こういうドラマを作りたい」というイメージがあったんです。ですから、脚本家に世界観ややりたいことを伝え、相談しながら進めようと思うと時間もかかりますし、自分の狙っていることと若干違うところへいってしまう心配もあって。脚本家が入ると、作家性を尊重しながらの共同作業になっていきますから。
そこで、水野さんや平野眞監督と協力しながら脚本を作ったほうが、狙っているものに近い作品ができると思い、自分で書くことにしました。
水野:1話の台本を読んだときに、それがすごく面白かったので「このまま書いたほうがいいですよ」と言ったんですよね。
鈴木:そうでした。最初は、ある程度詳しいプロットを書いて、どなたか脚本家を入れてブラッシュアップしていこうと考えていましたけど、そのままいっちゃうか、と(笑)。
──烏丸マル太というペンネームに込めた思いはありますか?
鈴木:先にお伝えしたいのですが、特に隠したいと思っていたわけではありませんでした。ただ、プロデューサーが脚本を書くときにはペンネームを使うというフジテレビの伝統がありまして。今回もゲンを担いでペンネームにした、ということです。
烏丸マル太というのは、大学生時代の8mm映画を自主制作していたときに作ったペンネームです。学生映画はスタッフが少ないので、エンドロールがほとんど同じ名前になってしまうんです。それで、それぞれいろいろな偽名を作って、たくさんのスタッフが関わっているように見せたエンドロールを作っていて。僕が脚本を書いたときに作った2つの偽名のうち1つが烏丸マル太でした。
ちなみに由来は、当時のバイト先が京都の烏丸丸太町にあったからです(笑)。
──SNSでは、「烏丸マル太は誰か」という予想合戦が盛り上がっていますね。
鈴木:当初、鈴木京香さんが主演される予定だったので、三谷(幸喜)さんじゃないかとか、劇団ヨーロッパ企画の上田誠さんじゃないかという話まで出ていました。
まったく聞き覚えのない脚本家が出てきたら「誰なんだろう?」と、多少話題にはなると思っていました。でも、三谷さんが「あなたですか?」と直撃されたり、そんなご迷惑をおかけするとは思っておらず、ちょっと申し訳ないです。
若村麻由美の1人2役の表現力に「さすが」
──主演、若村麻由美さんとご一緒していかがですか?
鈴木:若村さんとご一緒するのは、今回が初めて。以前、出演していた映画「老後の資金がありません」を見たときに、「この人、絶対コメディをやらせたら面白い」と思って、いつかご一緒したいと思っていました。
今回チャンスがあってお願いしてみたら、無名塾時代に先輩から「芝居の中で最も難しいのはコメディ」と言われたことがあり、挑戦したいと思っていたタイミングだったらしいんです。実際にご一緒して、彼女のコメディエンヌとしての力量が発揮されているなと感じています。
お芝居に関しては、主婦・妙子は特徴的なので分かりやすいですが、妙子がなりすます女優・若菜絹代と、本物の若菜絹代の差別化はすごく難しいと思います。正直、当初はそんなに差別化はされないだろうと思っていました。
でも、実際にはちゃんと差別して演じられていて。第1話の謝罪会見のシーンも、素人である妙子が若菜の格好をして、たどたどしく対応している感じが表現されていたので、さすがだなと驚きました。
女優である若村さんが主婦を演じて、さらにその主婦が女優を演じるって複雑ですよね。
素の若村さんって、どっちに近いんでしょう。妙子を演じているときは、楽屋にいるときも主婦っぽいんです。一方で、女優メイクをしていると近寄りがたくなって…ご本人も「この格好をしていると、スタッフから話しかけられない」と言っていました(笑)。
──妙子、妙子がなりすます若菜、若菜のビジュアルは、どのように作り上げられたのでしょうか?
水野:妙子は、髪型が素の若村さんに近いので、最初に決まりましたよね。
鈴木:若菜に関しては「分かりやすく、髪型は変えたほうがいいね」ということで、ロングヘアにして。メイクも割と最初から決まってたかな?
水野:ただ、濃さは試行錯誤しました。事務所に貼られている過去の映画ポスターの撮影をしたときに、いろいろ調整しました。
鈴木:プロフィール写真とか事務所に貼ってあるポスターは、マックスで濃いですよね(笑)。
水野:宣材写真は、まつげもすごいことになっています(笑)。
鈴木:第1話で、若菜のチーフマネージャー・西條隼人(時任勇気)が「よく似てるでしょ?」と、妙子に写真を見せるシーンがありましたが、全然似てないっていう(笑)。
水野:あそこから引き算した感じです(笑)。あと実は、本物の若菜と、妙子がなりすます若菜では前髪とかが微妙に違いますね。その違いは注目していただきたいです。
──妙子に関しては生活感がにじむ主婦ではなく、“キレイな主婦”にしたのはなぜでしょうか?
鈴木:それは平野監督のこだわりです。これはテレビドラマで、多くの人に見てもらうものだから、見てくださった方に「こういう人になりたい」と思われる存在でなければいけない、という考えで。リアルを追求するのではなく、かわいく撮るというのが平野監督のスタンスですね。
実は、若村さんのほうがリアリティ思考なんですよ。
水野:「もっと疲れきった感じがいいんじゃないか」と言っていましたね。
鈴木:それに対して平野監督が「ダメ」と言っていて。だから、妙子の撮影でも照明をバンバン当てて、女優のように撮っています。
当初のコンセプトは「ダメ男をやっつけろ」だった!?
──主人公以外にもキャラクターの濃い登場人物が多いですが、思い入れのあるキャラクターはいますか?
鈴木:今回の秘密兵器は、若菜の付き人・室井セシル役の円井わんさんですね。円井さんは非常に面白い女優。このあとどのくらい面白い芝居をしてくれるかを楽しみにしています。
あとは、西條役の時任くんも面白いですよね。僕が書いた台本を平野監督と役者さんが作り上げていくのですが、最もイメージと違うのは西條。台本を書いているときはそんなに面白い役じゃなかったんです。
水野:悪役に見える役でしたね。
鈴木:第1話の妙子の様子を探るシーンなんかは、映画「メン・イン・ブラック」のような、もっと怪しい感じの“ノッポマン”のイメージだったんです。インターホンを覗いているときに子どもにドーンと体当たりされて顔をぶつけるとか、そういう感じはまったく考えていませんでした。
でも、平野監督が「この人はかわいい役にしよう」と言って、あの西條を作り上げた感じですね。
水野:時任さんはいろいろな作品で悪役をいっぱいやっているんですけど、実際は本当にいい子なので、かわいくしたくなる感じですね。
鈴木:平野監督の計算もあると思うんです。西條が嫌な人だったら、掴みになるはずの第1話全体がもっと沈んだ感じになっていた可能性もありますから。妙子の夫・陽一(マキタスポーツ)も、プロダクション曼珠沙華の副社長・安原光顕(西村まさ彦)も、実はそんなに悪い人じゃないですし。
水野:悪役ではあるんですけど、愛せちゃうんですよね。
鈴木:この作品、最初は「ダメ男をやっつけろ」みたいなコンセプトだったんです。出てくる男性が全員ダメ男で、いろいろ嫌な目に遭っていた女性たちがぎゃふんと言わせるという(笑)。だから、イメージとしては、男性は全員嫌な役だったんですけど、平野監督の力でどこか愛せるように作られている感じですね。
──物語後半の注目ポイントを聞かせてください。
鈴木:コメディなんですけど、第4話の終わりぐらいから徐々にサスペンスが動き始めています。
プロダクション曼珠沙華の過重労働問題だと思われていた櫻井佳音(葉月ひとみ)の事件は、どうもそれだけではなく、大きな事件が関わっているんじゃないかという疑惑が。その事件も含めた大きな問題に、妙子と気の弱い社長・比嘉莉湖(木村佳乃)がどのように立ち向かっていくのかを楽しみにしていただきたいと思っています。
最近明らかになった若菜の5年前のスキャンダルも何か関係があるのか、妙子にメールを送ってくる「Mr. Summer Time」は一体誰なのか。いろいろな伏線も張られていますが、すべて回収されますので、お楽しみに。