俳優・金田賢一と音楽家・丸尾めぐみによる朗読ユニット『朗読三昧』が10月10日(木)『南青山 ZIMAGINE 』で朗読会を行なった。「朗読と音楽のやさしくも自立した関係」をコンセプトに2007年結成、以降、言葉と音楽のセッションという新しい試みを精力的に続けている。

この日、朗読したのは、昔話『早太郎』、浅田次郎『霧笛荘夜話』より「マドロスの部屋」、そして覚和歌子『オリーヴ』の3編。中でも『オリーヴ』は、勝負にこだわり続けた一人の男と、ある娼婦の出会いと別れを描いたストーリー。朗読することは以前から決まっていたそうだが、6日に亡くなったばかりの父・金田正一さんとオーバーラップする主人公の姿に、ほんの一瞬、言葉に詰まる場面もあった金田。

くしくもこの日は50年前、正一さんがプロ野球通算400勝という大記録を達成した記念すべき日でもあった。また、この日、彼が着ていたベストは父が生前愛用していた着物をリメイクしたもの。きっと父はどこかで息子の姿を見ていただろう。

ひと言ひと言丁寧に、それでいて過剰にならず淡々と読み上げる金田。しかし、それでありながら、まるで目の前に情景や人の表情が浮かんでくるから不思議だ。さまざまな情報が溢れかえり、ともすると多くの人たちがその波に飲まれ翻弄されてしまっている現代において、一つ一つの「言葉」の重さ、「声」を己の肉体から発することの大切さを改めて実感させてくれた、とても穏やかで贅沢な、そして豊潤なひとときであった。

終演後、金田に話を聞いた。

<金田賢一インタビュー>

――まずは今日のステージの感想をお聞かせ下さい。

当たり前のことを当たり前にやるのが僕らの商売なので、良かった点もあれば次への課題もありました。それに今日は台風が接近し、さらに会う人会う人からお悔やみを伝えられるという、人生に二度はないだろう滅多にないタイミングの日でしたけど、お越しいただく皆さんの期待を裏切らない意味でも舞台に立ちました。

――『オリーヴ』では一瞬、言葉に詰まる場面もありましたが…。

この話はめぐちゃん(丸尾)が持ってきてくれたんだけど、最初の1行でもうアウトですよ(笑)。「叔父さんは実業家です。けれどみんな叔父さんのことを勝負師と呼びました。(中略)手段を選ばず、ライバルを退け、勝ち星を手に入れるそばからもう次の勝負を探しているという具合です」。これを今日という、父との別れの前のライブで読んだ、これに尽きますね。

――金田さんにとって「朗読」の魅力とは何でしょう。

「朗読」は「朗読劇」とは違います。芝居とは異なり、感情をいかに抑えるか、その按配(あんばい)が非常に難しくもあり重要でもあり、そこが俳優としてやりがりを感じる部分でもあります。僕にとって「朗読」は俳優と並行してやっているものではなく、俳優活動の一部なんです。そして、朗読の良いところはお金がかからないところ(笑)。でも、何もないからこそ何でも出来る。男性でも女性でも、どんな人物にも、どんな生き物にもなれるんです。

――ところで、幼い頃、父・正一さんから絵本を読んでもらった記憶はありますか?

とにかく忙しい父親でしたから、そういう経験はまったくと言っていいほど無いんですよね。キャッチボールしたのも生涯で3度だけでしたし。でも、幼稚園くらいの頃かなぁ…うろ覚えなんですけど『くえさんとくったさん』といった題名の、お坊さんが和尚さんのいない間に大事な餅を食べてしまうという、名古屋に伝わる昔話を僕に話してくれた記憶があります。その話だけ、というワンパターンでしたが。ちなみに、孫(金田賢一の娘)も、同じ話を聞かされていたそうです(笑)。

――ほかにもお父様から受け継いだ印象的な「言葉」はありますか?

これはブルゾン(ちえみ)にも言った言葉ですが、「健康な体から出る笑顔は一番強い」。もちろん精神も大事ですし、健康状態は人それぞれだとは思いますが、そこから発せられる「言葉」には、なにより力がありますよ。それは同時に言葉の「説得力」にもつながっていくと僕は思います。

――では最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

現代では「耳を澄ます」「耳をそばだてる」という行為が忘れられつつありますが、「朗読」ではそれを存分に味わうことが出来ます。淡々と読み上げられる言葉たちを耳を澄まして味わっていただき、それぞれの人がそれぞれの心に描く風景や色、形、表情を楽しんでもらえればと思います。次回は12月1日(日)『GINZA Lounge ZERO』にて予定していますので、よろしかったらぜひ足を運んでください。