宝塚歌劇団の元スターに、輝く秘訣やこだわりを語ってもらう「宝塚OG劇場」。第13回は、珠城りょう(たまき・りょう)さんが登場。

包容力のある佇まいと、ダイナミックなダンスで早くから注目を集め、入団9年目にして月組男役トップスターに就任。

2021年の退団後は、舞台やドラマで活躍。2023年1月15日(日)から上演される舞台「PARCO PRODUCE 2023『マヌエラ』」で、退団後、舞台初主演を果たします。

第二次世界大戦直前、永末妙子(珠城)はSKD(松竹歌劇団)で将来を期待されながらも、駆け落ちして上海へ。生きるためにダンスホールの踊り子となり、国籍不明のスター“マヌエラ”となります。「上海の薔薇」と呼ばれた実在の日本人ダンサーの激動の半生を、音楽×ダンス×芝居で描いた作品です。

フジテレビュー!!では、珠城さんにインタビュー。

前編では、作品への意気込みや、ダンスへの思いなどを聞きました。

【後編】珠城りょう 月組トップから1人の俳優へ「みなさんの胸をお借りしたい」
【写真13枚】珠城りょうフォトギャラリー

「自分の心に嘘をつけない」マヌエラと自身の共通点

――出演オファーを受けたときの気持ちを聞かせてください。

とてもうれしかったです。PARCOさんのプロデュース作品はよく観ていたこともあって、ぜひやらせていただきたいと思いました。実在する人物ということで、当時の資料などを拝見して、非常にやりがいのある題材だと思いました。

――台本を読んだ感想を教えてください。

第二次世界大戦直前の激動の時代を描いているので、ちょっとヘビーな内容かな…と思っていましたが、台本を読んでみたら、そこに生きている人々の思いや考え方など、さまざまな人間ドラマも描かれていました。

そして物語全体に、重厚で大人っぽくて、ちょっと色気がある、上海独特の雰囲気を感じました。実際に音楽や美術、照明、衣装などが加わると、どんな世界になるんだろうと非常にワクワクしました。

――マヌエラは、珠城さんから見てどんな印象ですか?

彼女は、非常にはっきりした女性だと思います。自分の信念のもとに動き、揺るがない強さを持っている。それとともに、一人の女性として、弱さやさみしさ、切なさ、かわいらしさもあわせ持っていて、そういういろいろな面を、まるでカードを裏返すようにクルクルと見せる人物だなと感じました。

ただ、舞台でお見せする際には、彼女の考え方の核になる部分がきちんと伝わらないと、単に「気が強い女性だな」と思われてしまうかもしれない。マヌエラの心の揺れや思いを繊細に表現することで、彼女の人間性がより魅力的に見えると思いますし、なぜ“上海の薔薇”と呼ばれ、多くの方から愛されたのかわかると思うので、そこを大事にアプローチしていきたいです。

――マヌエラが多くの人を惹きつけた理由は何だと思いますか?

彼女は、何かうまくいかない事があると、ちょっと拗ねたり、落ち込んだりするのですが、そこを包み隠さず表に出すんです。そして、自分の意見もはっきりと伝えていく。この時代を生きる女性では珍しいのかなと。そういうところも魅力だと思います。

お芝居でも、大胆にやったほうが彼女の良さが出るかなと考えています。

――マヌエラと、珠城さん自身が似ていると思うところはありますか?

私が申し上げるのは、おこがましいのですが…マヌエラは非常に正直で、人間くさくて、不器用な方という印象があって。たぶん彼女は「これはおかしい、間違っているんじゃないか」と思ったことを、流せないタイプだと思うんです。私も、自分の心に嘘がつけないほうなので、そこは似ているかもしれませんね。

「布がない!こんなに肌が出るんだ…」大胆ドレスにそわそわ

――キャストは、初共演の方がほとんどですか?

そうですね、「はじめまして」の方ばかりですが、マヌエラと惹かれ合う和田海軍中尉役の渡辺大さんは、先日開催した私のライブを見に来てくださったので、そこでちょっとお話ししました。

渡辺さんは硬派で寡黙な役をよく演じられている印象でしたが、実際にお会いしたら、すごく物腰が柔らかくて、話しやすい空気を作ってくださって、とても安心しました。

――本作はダンスが見どころのひとつだと思いますが、どのように見せたいですか?

マヌエラは、ダンスのテクニック的な部分より、心を踊りに乗せて表現するということに、重きを置いていたのではないかと思います。踊ることで魂を開放させて、「ここが自分の居場所なんだ」と、自分に言い聞かせていたのではないでしょうか。

私自身も今、宝塚を退団していろいろな経験をさせていただいて、開放的な気持ちになっていると同時に、表現することはやっぱり楽しいと感じています。なので、いい精神状態で挑めるのではないかな、と思っています。

――宝塚歌劇団の男役としてのダンスと、女性としてのダンス、違いに戸惑うことはありますか?

私は体育会系なので、ダンス=スポーツみたいな感覚があって(笑)。もちろんダンスは芸術なんですけれど、私の場合、男役特有のキビキビした動きやシャープなダンスは、脚力とか跳躍力とか、自分の身体能力で補えてしまう部分が結構あったんです。

でも今回は、女性として、マヌエラとしてのダンスを見せなければなりません。直線的な動きより曲線的な見せ方が必要とされると思うので、今までの私のアプローチの仕方では、たぶん通用しないでしょう。

――では、どのようにアプローチしていきたいですか?

宝塚時代は、音をたっぷり使うダンスも好きでしたし、芝居心のあるダンスは、振り付けにセリフを合わせるようなイメージで踊っていたので、その経験は活かせるかもしれません。

マヌエラは、感情を踊りに乗せてさらけ出しますが、これはある意味、覚悟がいることだと思います。自分が思っていることを口に出すのと、同じぐらい。ですから踊りにも、その思い切りの良さが必要だと思っています。マヌエラの心の叫びが、ダンスから透けてくるようにお見せできたら。私にとって“自分への挑戦”ですね。

――ポスタービジュアルの、真っ赤なドレス姿が印象的です。

この撮影で、初めてドレスを着させていただいたんですが「全然布がない!こんなに肌が出るんだ…」と思って。ドレスだから当たり前なんですが、そわそわしていました(笑)。

男役のときは、私服でもとにかく女性らしい部分を隠すように、デコルテなども絶対に出さないように気をつけていたので。Tシャツも、あまり着なかったですね。もし着ても、上に1枚羽織ったり、首元が詰まっているトップスを意識して着るようにしていました。

インタビュー後編では、最近ハマっていることや、お気に入りの洋服など、珠城さんの素顔に迫ります。

撮影:今井裕治
ヘアメイク:MIRAN【Rouxda’】
スタイリング:久保コウヘイ