声優でありながら、俳優としても進境著しい土屋神葉(つちや・しんば=23)が、音楽劇「春母夏母秋母冬母」に挑戦。
同作は、2018年に上演された「FUKAIPRODUCE羽衣 第23回公演」の再演で、初演キャストでもある森下亮&深井順子、そして、初参加となる土屋と上西星来(東京パフォーマンスドール)の4人が組み合わせを変えてペアで出演する。
40代になった時に、この作品に再び挑みたいという目標ができました
――音楽劇への出演は2度目だそうですね。
稽古に入って約2週間。オリジナルキャストと新キャスト交えて、かなり後半のほうまで進んでいるんですが、相手が変われば空気感も変わるということを稽古の途中で実感しました。これから本番に向かってどこを深めていくのかとか、セリフが完璧に自分の中に入ったらより自由が利くと思うので、作・演出・音楽の糸井幸之介さんが最終的にどんな色付けをし、采配をふるってくださるのかとても楽しみです。
――糸井さんはこの作品を「ミュージカルではなく妙ージカルだ」と表現されていますが、稽古の手ごたえはいかがですか?
初演の映像を見たんですが、そこでつくられた空気がとても大きな意味をもち、森下さんの歌声とお芝居の密着度が、糸井さんならではの“妙ージカル”だと感じました。歌詞も、まだ人生経験の浅い僕では「ん?どういう意味なんだろう」と感じることも多かったんですけど、ある日、テレビのドキュメンタリーを見ている時に「こういう意味だったんだ」と偶然、意味を理解することができて、これはもしかしたら、お客様や年齢によって感じ方が違うのではないかなって。
初めて耳にした時には腑に落ちなくても、街を歩いている時など、ふとした時にストンと腑に落ちる瞬間がある。その味わい深さに気づいてから、稽古がより楽しくなりました。
――ということは、現在23歳の土屋さんが作品から受ける印象と、年齢を重ねたうえで受ける印象とで違ってくる……と。
全然違うと思います。なので、僕が40代になった時にもう一度この作品にチャレンジしてみたいという一つの目標ができました。40代になるまでに経験したことによって、芝居や表現も変わってくると思うので、今回、作品と向き合って得たものをしっかりと認識し、今後に活かしたいと思います。
――作品のどんな部分に“妙”を感じていますか?
糸井さんがつくり出す音はとても特殊で、聴きなじみのあるところからいきなりジャズっぽくなったりする。おそらく“糸井さん音階”っていうものがあるんでしょうね。音楽を聴くだけでも「これはミュージカルではない。妙ージカルだ」と感じとっていただけるんじゃないでしょうか。
今回はCBGKシブゲキ!!で上演しますが、この作品を帝国劇場でバリバリのミュージカル俳優さんが歌っても面白いと思うんですよ。でも、作者は糸井さんだから、ミュージカルにはならず、妙ージカルにならざるを得ない。同じ歌詞でもシチュエーションによってまったく違う楽曲に聴こえる、スパークル=乱反射のような作品だと思います。
子どもの頃は、レゴで物語をつくって遊んでいました
土屋といえば、女優・土屋太鳳の弟としても知られ、さらに長女の炎伽(ほのか)も昨年、「ミス・ジャパン2019」グランプリを受賞し、芸能界入り。姉弟が同じ世界で活動することになったわけだが、彼らはどんな家庭で育ち、どんな幼少期を過ごしてきたのかと質問を投げかけてみた。
――作品のテーマは“母”ということですが、土屋さんにとってお母様はどんな存在ですか?
僕の中で母親というのは絶対的な存在で、家庭も母がまわしているという印象。母にとってのNGワードを2人の姉が試してくれていたので、僕はそのワードにふれないよう、家族間の緩衝材的な存在だったと思います。
――長男としていろいろと気を遣ってきたんですね。
母はかなり厳しく、僕が小さい頃はゲームやお菓子などほとんど買ってもらえなかったんです。だから、お菓子を食べている子どもたちを見ると「甘えているなぁ」と、ちょっと醒めた目で見ていました(笑)。
――ゲームをしなかったということは、何をして遊んでいたんですか?
外で運動をするか、家で遊ぶ時は「ごっこ遊び」をしていました。その後、小説にハマって、その小説のストーリーに沿ってぬいぐるみたちを戦わせたり、自分や姉たちと動いたり。
小学生のある年、クリスマスプレゼントにレゴブロックをもらったんですが、そこから中学ぐらいまではレゴに没頭して、このキャラクターはこういう名前でどんな家系でとか細かく設定を決めて、ガラケーで写真を撮って、名簿まで作ってたんです。同時に小説も書き始めて、このレゴは今度、冷蔵庫と廊下の間で戦わせてみよう…など、いろんな物語を考えていました。
――脚本家でもあり、演出家でもあったんですね。作品にしてみたら面白そう!
物語はまだまだ進行中で、完結してないんです。いつかお披露目できたらいいですね。
最近は料理に夢中。サンドイッチ作りに3時間も没頭しました
大きな瞳とその場をパッと明るくする笑顔が印象的な土屋。スタッフが後頭部のハネた髪の毛を直そうとすると、「これ、寝ぐせなんです」とテレくさそうな表情を浮かべてみせた。素直な人柄と、何でも吸収してやろうという仕事への貪欲な姿勢は彼の魅力の一つだろう。
――コーナータイトルにちなんで、土屋さんにとって“眼福”な存在とは?
ゴールデンレトリバーです。以前は飼っていたんですけど、今は一人暮らしということもあって世話ができないので、動画を見ては幸せな気持ちになっています。
――では、現在ハマってることはありますか?
最近、ちょっと料理にハマってます。今日も稽古の合間に食べようとシチューを持参して……あっ、スプーン忘れた!
――大丈夫!どこかにあると思います(笑)。
ある先輩の料理番組に出た時に、料理ができたらカッコいいなって思ったことがきっかけで始めました。それから半年以上経つんですけど、いろんなものを作っています。
――最近、作ったものの中で特に美味しかったものは何でしょう。
サンドイッチです。簡単につくろうと思えば5分ぐらいでできるんでしょうけど、野菜の切り方から和え方、卵も茹でたり、電子レンジで加熱したり、卵焼きにしたりと調理方法を変えてみて、気が付いたら3時間も没頭していました。完成した時は感動しちゃって、自分しかいないのに「うまくない!?」ってつぶやいてました(笑)。
――3時間ってスゴいですね。そんな土屋さんは声優・俳優と幅広く活動していますが、双方の比重についてどのように考えていますか?
声優なのか俳優なのかというジャンル的な感覚で、活動の幅を制限することはまったく考えていません。先輩方がいろんな挑戦をしているので僕もそれにならうのか、それとも自分なりの挑戦の仕方をするのかまだわからないんですけど、お芝居をする業種には変わりないので、“演じる”ことにしっかり取り組みたいです。
――昨年は話題の『映画 刀剣乱舞-継承―』にも出演しましたね。
最後にいきなり登場させていただいて、恐縮でした。人気作品に出演させていただいたことも何かのご縁だと思うので、僕が演じた刀剣やその持ち主である武将たちに、いつか何らかの形で関われる作品に出演してみたいという思いがあります。
――これから挑戦してみたいジャンルやお仕事はありますか?
旅番組のナビゲーターです。この職業って、経験しているかしていないかによって大きく違ってくると思うんですよ。本を読むことで知識を得ることもできますが、実際にその場へ行って、自分の目で見たほうが経験値や今後の表現につながる。もし、そういうことができれば僕も人間として、一表現者として成長できると思うので、いつか挑戦してみたい仕事のひとつです。
撮影:河井彩美