怖ぇ~!
・時は20XX年
・巨大隕石が地球に衝突するまであと186日
・世界中が暴徒化
・りんご1個3650円
・謎のスピリチュアル
・魔法陣を囲む市民
・赤い月
・世紀末
そうそう、そういう終末描写が、“怖ぇ~!”
……じゃないんですよ。
何が“怖ぇ~!”って、羽田美智子ですよ。もう急に呼び捨てにしちゃうくらい怖い。ラストの、羽田美智子ママの、“あるセリフ”があまりにも怖すぎて、“怖ぇ~!”って声出ちゃったもんね。どこ見てるかわかんない目をして、言い切った後にちょっと髪がなびくんだけど、それがもう、“怖ぇ~!”なんです。
さて、何がどう怖いかはおいおい説明するとして、この『隕石家族』というタイトル。「地球最後のホームドラマ」というキャッチフレーズ。公式HP(https://www.tokai-tv.com/insekikazoku/)のメインビジュアル。予告動画(下記参照)のナレーション。そして主役のママが羽田美智子さんというのは良しとして、パパがキャイ~ン天野くんって…。この事前情報から受け取れるのは、一体どんなドラマなの?というのは大前提で、全体を覆うのは「ふざけてる」でしょう。
特に予告動画のナレーションがふざけてますよね。「オトナの土ドラッ!隕石家族ッ!!」って、あんなにドスを効かせる必要があるのかって、もうふざける前提でナレーターの方を呼んでますもんね、絶対に。
そんな、ふざけてるに違いないという先入観が僕にはあって、それで今この時、リアルの世界で、先の見えない恐怖が立ち込めている中、終末世界を描くって、楽しめるのかな?ってすごく心配していたんです。ドラマとリアルが重なっちゃって、物語に集中できないんじゃないか、ちょっと嫌な気持ちにもなるんじゃないか…って。だけどそれは全然、全くの杞憂でした。むしろ、すっごく癒されました。
だってこのドラマの登場人物たちがあまりにノンキなんだもん。
どのくらいノンキだったのかを、主人公家族の門倉家次女、結月ちゃん(北香那)とその恋人の翔太くん(中尾暢樹)の会話を抜粋して紹介します。
○翔太くんのバイト先であるバーにて
結月「大丈夫だったの?アパート」
翔太「燃えちゃった」
結月「(絶句)え!?」
翔太「住むのは無理かな~。(笑いながら)どうせあれが降ってくるんだし、別に大したことじゃないよ。あ、おかえりなさい、店長!」
ノンキか!「おかえりなさい、店長!」じゃないよ!
衣食住の“住”が失われたというのに、その深刻さを見事にスルーしている。しかも翔太くん、実家じゃなくて、上京先の家が燃えてるからね。実家(栃木らしい)に帰れるからノンキなんじゃ?って、いやいや全然、そんな深読み関係なし。翔太くんだけじゃなく、もうみんなが圧倒的にノンキ。約半年後に巨大隕石が地球へ衝突するというのに…。
だけどこのノンキさに僕はすっごく癒されたんです。
住む場所がなんだ、隕石がなんだ、地球が滅亡するからなんだ、そんなことにジタバタしないで、危機感ばかりに気をとられないで、今を楽しく生きようじゃないの…って。そんな風に生きていけるのが理想だし、特に今、現実世界が殺伐としているからこそ、危機的状況にある中でも“ノンキ”に生きる人々を、ドラマを通して楽しみたいって、そう思えるドラマでした。
だから、今がとっても平穏な世界だったら、僕はこのノンキに対して「いやいやリアリティなさ過ぎでしょ」って怒ってたかもしれないし、「隕石が落ちてくる?は?」ってバカにして内容が入ってこなかったかもしれない。だけど、僕は今、優しさと癒しを渇望してるもんだからとっても沁みちゃったし、何よりノンキの根底にある“希望”を見つけられなかったかもしれない…。
ドラマのとあるシーン。計画停電で、日本中が真っ暗で、ランプに火が灯ったリビングで、羽田美智子ママが、「(なかなか手に入らない)牛肉のビーフシチューよ~!」って食卓に持ってきたとき、ちょっと涙しちゃったもんね。僕、病んでんのかな?
と、ちょっと、沁みすぎちゃって、病んでんのかな自分?って心配してたラスト。まさか、その“ノンキ”が、“フリ”だったことが判明します。
隕石が落ちてくることより、地球が滅亡することより、それより恐ろしいこと…それは一体何なのか?最後の最後、羽田美智子ママのある一言によって明らかになります。さんざんの“ノンキ”を見せておいたからこそ、最後にゾッとする怖さが浮かび上がってくるのです。それは見てのお楽しみ、乞うご期待です。
実を言うと、なぜ主演が羽田美智子さんなのか?僕は見る前から、そして見ている途中も若干の“ハテナ?”が残っていたんです。だけど、最後の、その羽田美智子ママの表情を見た瞬間、腑に落ちました。このノンキと恐怖を両立させる女優さんは羽田美智子さんしかいないもの。そして、なんならその後で待ち受ける天野くんも怖いんです。その恐怖が二つ合わさったところで、来週へと続くのです。
これまでいろんな“怖さ”を体験させてくれた「オトナの土ドラ」ですが、またしても違った角度の“怖さ”でした。そしてこれまでのどのドラマよりもジャンル分けが難しい、異彩放ちまくりの作品になっています。前作が『パパがも一度恋をした』なのにですよ?
それくらいすっごく珍妙な世界観で、今まで観たことないドラマになっていること間違いなしです。土曜の夜、こんな時だからこそ沁みてくる、不思議すぎる『隕石家族』のエンターテインメントを是非一緒に楽しもうじゃありませんか!
text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)