エンタメ通の編集&ライターの信子と、ドラマ大好きライターの庸平が「春に見てほしい名作ドラマ」5本をセレクトし、本音でトーク!

『ひとつ屋根の下』(1993年、97年)、『ロングバケーション』(96年)、『アフリカの夜』(99年)、『プロポーズ大作戦』(2007年)、『名前をなくした女神』(11年)と、いずれも4月クールに放送された名作について語り尽くします。

ここでは、『アフリカの夜』、『プロポーズ大作戦』、『名前をなくした女神』のトークをご紹介します。

『きらきらひかる』『タブロイド』『アフリカの夜』は、物語を貫く縦軸が通っているのが特徴

<信子&庸平の『春の名作ドラマ放談』>

――1999年放送の『アフリカの夜』は、庸平さんのオールタイムベスト3に入る作品だそうですね。

庸平:信子さんは、見たことないんですか?

信子:木曜10時の枠は、裏で『魔女の条件』(TBS/99年)をやっていたんですよね。滝沢秀明さんの色香にやられてしまって…。

庸平:『アフリカの夜』は1話が修学旅行と重なって、録画に失敗して見られなかった思い出があります。物語は、いろんな人が住んでいる「メゾン・アフリカ」というアパートを舞台にした群像劇で、その中に指名手配犯が潜んでいるんです。

信子:室井滋さんが演じる指名手配犯が、整形を重ねて逃走劇を繰り広げた福田和子みたいな設定で。

庸平:彼女はDV夫を殺しちゃって、整形して偽名でアパートに住んでいるんです。恋に破れた鈴木京香さん演じる主人公がそのアパートにやってきて、室井さん演じる世話好きのおばちゃんや、個性的過ぎる住人たちとやりとりをしながら成長していく姿がとてもよかった。

信子:その住人が、佐藤浩市さん、松雪泰子さん、ともさかりえさんと、とても豪華なんですよね。

庸平:ともさかさんは、佐藤浩市さんの妹役なんですけど、すごくいい味を出していました。プロデューサーの山口雅俊さんは、この作品の前に深津絵里さん主演の『きらきらひかる』(98年ほか)と、常盤貴子さん主演の『タブロイド』(98年)を担当したんですが、どの作品も物語を貫く縦軸が通っているのが特徴です。

信子:今作では、その縦軸を担うのが室井さん演じる殺人犯なのね?

庸平:室井さんの演技が、ものすごく刺激的で。ほのぼのとした群像劇を、グッと引き締めていました。でも高校生時代の僕には、最終回の展開は受け入れられなかった。大人になった今なら、女性だけでたくましく生きていくというメッセージを感じて、納得できるんですけどね。

あと、劇中にともさかさん演じる女の子が描く絵日記が出てくるんですけど、それを描いているのがフジテレビの社員なんですって!

信子:大木綾子さん。その後、ドラマの演出を担当して、今はプロデューサーとして活躍されています。私、この作品の脚本が大石静さんなのが、意外だったんですけど。

庸平:山口プロデューサーがプロットを考えていたところに、「山口さんと一緒に仕事をしてみたい」って大石静さんがおっしゃって、企画が実現したそうですよ。

信子:主題歌がSPEEDっていうのも、意外よね(笑)。

庸平:確かにちょっと違和感はありますけど、歌詞の中にはちゃんとドラマのテーマが入ってるんですよ。僕は、このドラマは『すいか』(日本テレビ/03年)と対になる作品だと感じていて。

信子:小林聡美さん主演のドラマよね。確かに、個性的な女性が集まる下宿が舞台っていう設定は似ているかも。

庸平:『すいか』にも、ともさかりえさんが出ているし、小泉今日子さんが指名手配犯の役で出ているんですよね。どちらの作品も、人生失敗したかなと考え始める妙齢女子の日常に、指名手配犯という非日常が挟まることで、逆に彼女たちのリアルが際立つ名作でした。人生を見つめ直すきっかけになると思います。

信子:なるほど!『アフリカの夜』はFODで配信中ですよね。庸平さんの話を聞いてたら、私も見たくなってきました。

『プロポーズ大作戦』はSP版で恋が完結する稀有なラブコメ

――07年放送の『プロポーズ大作戦』は、山下智久さんと長澤まさみさんが共演のラブコメディ。こちらも庸平さんの推し作品ですね。

信子:ちょっと意外(笑)。山下さん演じる健が長澤さん演じる礼に恋をしていたんだけど、礼は別の男性との結婚が決まって…。健が、礼と結婚するためにタイムスリップを繰り返して、過去を変えようとするという物語でしたよね。庸平さんはどこにハマったの?

庸平:健が僕と年齢が同じくらいの設定で、脚本の金子茂樹さんも同年代なんです。だから、タイムスリップした先で流れる曲やそこで見える風景が、懐かしくて。MONGOL800が流行した時代に青春を送った記憶がある人に、特にオススメしたいんですが…設定は奇妙と言えば奇妙ですよね?

信子:タイムスリップするときに「ハレルヤチャンス!」っていうのよね。

庸平:そうそう。礼は藤木直人さん演じる多田と恋をして結婚しようとしているのに、過去が変わったくらいでその思いが変わるのかとか、設定は大味なんだけど。青春時代の描写がすごく丁寧で、惹き込まれました。

信子:山下さん演じる健が、タイムスリップしちゃうくらい礼のことが好きなのに、なかなか“あと一歩”が踏み出せない男なのが、ムズキュンだった!

庸平:「グズグズしてないで、いいから早くキスしちゃえ!」みたいなせっかちタイプの人は、見ていてイライラするのかもしれないけど(笑)。健の不器用さを「わかるわかる」って楽しむドラマというか、思いを伝えられない心の機微に共感できる人にオススメです。

信子:でも、最終回でも2人がくっつかないのは、ちょっとモヤモヤしすぎない?

庸平:そう!でも、これが、翌08年放送の『プロポーズ大作戦 スペシャル』で、キレイに終わるんですよ。恋愛ドラマでスペシャルが面白いっていうのはなかなかないので、見てほしいんですけど…。これ、本編はFODで配信されているのにスペシャルは未配信なので、なんとか配信してほしいです!

信子:あと、三上博史さんが健をタイムスリップさせる妖精の役を演じているのが、意外でした。

庸平:確かに意外な役柄ですよね。三上さんといえば、ちょっと時代をさかのぼりますけど『リップスティック』(99年)も4月クールに放送された名作ですね。

信子:少年鑑別所の話。池脇千鶴ちゃんが真白ちゃんっていう収容生だったのが、忘れられません。あと、窪塚洋介くんが美しかった!

庸平:「月9」で少年鑑別所の話の企画がよく通ったなと思ったら、これも野島伸司作品。麻生祐未さん演じる女性が、三上博史さん演じる主人公に恋をしているんですけど、彼を振り向かせるために自分から失明するんですよ。

信子:ああ…他に気を引く方法があったでしょうに…。

庸平:それと、広末涼子さん演じる女の子が突然裸になって、三上博史さん演じる主人公の前で「私を見て!」っていうシーンがあるんですけど。野島さんは、その後『GOLD』(10年)でも、高飛び込みの選手を演じた武井咲さんに同じような行動を取らせていて。野島さんの“わけのわからなさ”が凝縮された作品だな、と感じました。

信子:もしかして、野島さんの理想のシチュエーションなのかしら?庸平さん、機会があったら野島先生に聞いてみてください(笑)。

女・野島伸司=渡辺千穂脚本のドロドロドラマは9話の仕掛けが絶妙!

――今回「春にオススメのドラマ」を挙げていただいた中に『名前をなくした女神』(11年)が入ったのが意外でした。

信子:壮絶なママ友の世界を描いた話題作だけど、庸平さんが惹かれた理由を聞きたいわ。

庸平:視聴者が思わず釣られるフックを散りばめて、みんなを少し不快にして引き込んでいく“釣りドラマ”なんだけど、ものすごく丁寧に作られているんですよね。視聴率も最初9%台だったのが、どんどん話題を集めて最終的には15%台まで伸びて。脚本の渡辺千穂さんは、『泣かないと決めた日』(10年)でOLのいじめドラマを書いているんですけど、僕は渡辺さんは“女・野島伸司”だと思っていて。

信子:『泣かない〜』で榮倉奈々さんをいじめる役だった杏さんがヒロインですけど、主役感のないキャラクターじゃなかった?

庸平:元気っ子が反感を買うみたいな部分もあるし、主人公が実はママ友たちを裏切ってるんじゃないか、という読み方もできたりして、そういう部分も楽しめました。

信子:女性なら誰かに感情移入しながら見ちゃうけど、庸平さんみたいにちょっと他人の家を覗いている気分で俯瞰した視点からも楽しめるんですよね。

庸平:僕が特に好きだったのは、ドラマの最初に毎回出るサブタイトルが、9話だけラストに出るんです。そのサブタイトルの出し方が衝撃的で、気が利いているな〜って思わず唸っちゃったくらい。

作品を企画した太田大さんにインタビューする機会があったとき、その話をしたら、太田さんも9話の編集が一番おもしろかった、とおっしゃっていました。

信子:へえ~、それは気づきませんでした。

庸平:悪意を凝縮したような作品だから、嫌いな人は嫌いだと思うんだけど、エンターテインメントとしてはとてもよくできている。本当に9話はゾクゾクするから、信子さんも是非確認してください!

信子:この作品、韓国でもリメイクされて、ヒットしていましたよね。庸平さんが“女・野島伸司”と呼んでいる渡辺千穂さんは、『ファースト・クラス』(14年)でも女のドロドロ系を書いていますね。

庸平:ドロドロ系が得意な人なんだから、『べっぴんさん』(NHK/16年~17年)みたいなほのぼの系もいいですけど、もっと“女・野島伸司”感を出して欲しい!きっと『ファースト・クラス』は、今リメイクしても絶対流行ると思います。

信子:今回、春ドラマのリストを見ていたら、他にも「時代を先取りしすぎちゃったんじゃないか?」っていう作品が多かった気がします。

庸平:天海祐希さん主演の『カエルの王女さま』(12年)とかね。タイトルはともかく、本当によくできたミュージカルなんですけど…。「アナと雪の女王」(14年)の後に放送していたら、人気が出たかもしれません。

――最後に、今回セレクトした5本から、ベスト・オブ「春にオススメ」を選ぶとしたら?

信子:やっぱり『ロングバケーション』かしら?

庸平:『ひとつ屋根の下』も、タイトルバックに桜が出てきたりするから推したいけど、『ロンバケ』には勝てないですよね。

信子:暗い話が一切なくて、春らしい!今のキャストでリメイクするとしたら…って考えるのも楽しいけど、正直、オリジナルを超えるキャスティングはないと思うくらい完璧な作品です。

庸平:確かに!食わず嫌いしている人にこそ、これを機に見てもらえたらうれしいです!