5月30日(土)放送の『週刊フジテレビ批評』は、「“コロナ”をどう乗り切る?春ドラマ徹底放談」の後編。

現在、春ドラマの多くが、新型コロナの影響で撮影が休止され、放送が中断・延期に。代わりに過去の人気作を再放送するなど、各局が対応に追われている。

そうした状況を踏まえつつ、ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、ライター・吉田潮氏が、コロナ禍の現状から、アフターコロナへの期待までを語り合った。

ドラマ通たちが“今こそ見たい”過去の名作は?

放送延期の代替策として、各局が実施している過去の人気作の再放送。視聴者の反応について木村氏は、「意外と喜んでもらっている印象がある」と分析。

木村:ただ、それが最近の作品であると、「番宣臭さを感じてしまう」というコメントもけっこう見受けられます。逆に10年以上前のものだと評判がよく、「やっぱり名作はいいよね」「子どもにも見せられてよかった」といろんな声があがっています。

梅田:楽しめるものもあれば、そうでないものもあるという感じですかね。『テセウスの船』『恋は続くよどこまでも』(ともにTBS)のように、1月期にやっていたものをもう一回という感じだと、ちょっとしんどいかなと個人的には思います。

吉田:「最近見たしなぁ…」って、うっかりBSフジに流れちゃったりして(笑)。BSフジで『鬼平犯科帳』(フジテレビ)のシーズン1が始まってるんですよ。最近作の再放送は、「他にないかなぁ?」と別の番組を探す行動パターンにつながるんじゃないかと私は思いますけど。

そこで、リクエストするならこのドラマ、という作品を各人が選出。木村氏があげたのは、織田裕二主演の痛快サクセスストーリー『お金がない!』、長瀬智也演じるクールなスターが、実生活では人懐っこい婿養子という設定のコメディ『ムコ殿』、オタク青年と美女のラブストーリー『電車男』(いずれもフジテレビ)の3本。

木村:「バカの明るさ(CXらしさ)」と書かせていただいたんですが(笑)、これは全部、主人公がバカ明るいんです。ホントに底抜けに明るくて、見ていて幸せな気分になれる。で、ちょっと感動もできるという作品で、放送時はティーンや学校での話題にもなっていた。みんな暗い思いをしている今こそ、こういうアーカイブを出す時期かなと思います。

梅田氏は、SFジュブナイルの傑作『なぞの転校生』(1975年/NHK)、『なぞの転校生』(2014年/テレビ東京)の2本を選んだ。

梅田:これ、両方見たいんですよね~。ホントに私、大好きな作品で。1本目は、NHK少年ドラマシリーズという、1970~80年代に子どもが見るとても良質なSFがたくさん生まれた枠がありまして、そこのもう金看板ですよね。2014年にテレビ東京で、岩井俊二さんが内容を全然変えて、違う話として作ったんですが、これも最高に面白いんです!

木村:めちゃくちゃ名作ですよ。もうホントに僕らの世代よりも上の方々も知っているし、盛り上がれますね。

梅田:SFが好きな人には、これはたまらないと思います。

そして吉田氏が選んだのは、1984年に放送された倉本聰脚本の名作ドラマ『昨日、悲別で』(日本テレビ)。

吉田:これをあげたのは、DVDになっていなくて、お金を払っても見られないからなんです。どんな話かっていうと、北海道・悲別町という架空の炭鉱町で育った若者たちが、東京に出て傷ついて…っていう、まぁ倉本聰的な話です。(エンディングテーマに)使われていた歌もよくって。かぐや姫の「22才の別れ」なんですけど。倉本聰作品で、わりと一番好きな作品です。

各局の工夫…オーディオ・コメンタリーに賛否!?

また、各局が取り組んだ工夫のひとつが、オーディオ・コメンタリー(出演者やスタッフなどによる解説や実況)をつけての再放送だ。

木村:『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日)と『ギルティ~この恋は罪ですか?~』(日本テレビ)がオーディオ・コメンタリーをやってたんですけれども、1話から3話を放送したあと、もう一度1話から3話をコメンタリーつきで放送するという。ものすごく強引な手法です(笑)。間口を広げようというところで策としてはアリなんだけれども、やっぱり「地上波でやる必要ないでしょ」というのは正直あります。

オーディオ・コメンタリーをつけるのは付加価値ではあるんだけれども、よほどのファンの人でない限り、見る動機にはなりにくいと思います。

梅田:“これの何が面白いのか”を出演者が語ってしまうのはしんどいかな、というところですね。まぁでも、出演者のコメントとかでつながりたい若い方には、すごく親切なのかなって。実際、楽しんでる方もいっぱいいらっしゃいますし、人それぞれだと思います。

吉田:コメンタリーが大嫌いなので、コメンタリー撲滅派です。ドラマ本編に集中したいんですよ。それを出演者がだらだらしゃべるっていうのは、DVDの中に入ってたとしても見ません。ただ、それで出演者やスタッフのギャラが増えるならいいと思います。

そんな中、コメンタリー好きという新美有加フジテレビアナウンサーは、「(自分は)コメンタリーを見るためにドラマを見るような。また別の楽しみ方になるなのかなぁと思うのですが。またドラマが再開する直前にやってもらえたら。アイドリングがかかった状態で再開を迎えたいなという気持ちはありますね」と話していた。

撮影再開が待たれる制作現場の現状は

撮影再開にあたり、制作現場では問題が山積み。

梅田:各局、困ってますよね。撮影が始まったとしても、ソーシャルディスタンスもありますから、俳優同士があまり接近するものは撮れないだろうとか、ロケ現場が貸してもらえるのかとか、いろんなことをクリアしていかなければいけない。どこも困ってる声ばかり聞きます。

木村:まず撮影以前に、脚本を書き直さなくちゃいけない部分がたくさん出ているんですよね。対面、接触のシーンがまずいとか。脚本を書き換えてから、またスタジオやロケ地を探し直して、というところからになるので、だいぶ先になるのかなという印象があります。

各局のドラマが中断・延期を余儀なくされる中、テレビ東京のドラマが問題なく放送されたのには理由がある、と木村氏。

木村:テレビ東京のドラマは、ほとんどが深夜ドラマなんです。深夜ドラマは、予算や俳優さんへのオファーの関係で、集中的に撮り終えることが多い。ゴールデン、プライムタイムの作品とはまた違うスケジュールで動いているから放送できる、というからくりがありますが、これを機に、テレ東さんの手法に学ぶところがあるんだろうなと。

梅田:木村さんのおっしゃる通り、もう全話の脚本ができたところで、すごいのになると2、3週間で撮っちゃうというのが深夜ドラマの世界ですけれども、なかなか主要枠ではそうはいかない。宣伝もからんできますし、オフショット公開とか、リアルタイムで宣伝していくつながりを大事にしていて、全部撮ってから出す、というのをリスクに感じる局も多いので。ちょっとそこは難しいところだと思うんです。

木村:『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)みたいに、時事ネタすぐぶっこんじゃうものもあったりとか。ああいう遊び心も連ドラならではなので。先に撮ればいいってわけでもなくて、難しいですよね。

今回のドラマ界の対応によって、受け手側の視聴傾向にも変化があったようだ。

吉田:私の周りは、NetflixとAmazonプライム(・ビデオ)にいっちゃってますね。そこでみなさん、日本の昔のドラマもそうなんですけど、韓国ドラマや海外ドラマに目がいっているような気がする。もともと海外ドラマはテーマの選び方とか金のかけ方が違いますから、そこ一緒にしちゃいけないって木村さんにいつも怒られるんですけど(笑)。

日本の民放地上波ゴールデンだと触れられないものがある、みたいな部分もあるじゃないですか。そういうところに、海外のドラマはどんどん切り込んでるし、主人公たちがちゃんと見解を言う。胸がすく感じはやっぱりあります。

梅田:私も今回は動画配信サービスの価値を再認識しました。千原ジュニアさんのやっていた『新・ミナミの帝王』(フジテレビ)も『アカギ』(BSスカパー!)も全部見たし(笑)。どれを解約してどれを継続しようかなって考えてたんですけど、とりあえず全部継続してみようかなって思ってます。

また、動画配信サービス以外にも、ドラマにとって「プラスαのライバルが現われている」と木村氏は指摘。

木村:俳優さんが作り手を飛び越えて、インスタライブで生配信をやっているんです。それが熱狂的なファンになるほど面白いしうれしいから、テレビでドラマを見るよりそっちを見ちゃう、ということにならないかと。余暇時間の奪い合いの中で、けっこうなライバルになり始めたかなと思います。

アフターコロナのドラマ界に期待したいのは…

では、この状況を乗り越えたあとのドラマ界に、識者たちはどんな方向性を期待しているのだろうか。

梅田:シリアスに考えさせられるものよりも、パーッと明るく元気で、疾走感のあるものが個人的には見たいですね。アフターコロナで「よし、やるぞ!」みたいに妙に力の入ったものでもなく、もういつも通り、面白いものもあれば、「うん?」というものもあって(笑)。みんなでワイワイ「面白いよね」「ここダメだよね」って気軽に言えるような日常のドラマに戻ってきてほしいと思います。

吉田:無理を承知で言いますけど、全体のドラマの撮り方のスケジュールを、今一度見直す時期にきたんじゃないかなっていう。ドラマももう少し余裕を持って撮ろうよっていうふうにすれば、制作側は大変かもしれないけど、役者さんは楽なんじゃないかなと思います。

内容的には、私はちょっと大人の恋愛で密接なものが見たいというのと、もうひとつは、無能な政府に翻弄される国民みたいな、今の状況を表すような批評性のあるドラマがもっと生まれてもいいのかなと思っています。日本のドラマのきれいごとみたいな部分が、ちょっとこれで打破されないかなって期待はしちゃいます。

木村:今こそ、日本中の人を喜ばせるドラマを作ってほしいんですね。それは梅田さんと一緒で僕は「笑い」だと思っていて。ファンタジーが入ってもいいから、とにかく笑える作品、底抜けに明るいコメディが見たい。フジテレビ、得意なはずですから。

で、逆にマズいのは、これまでのように視聴率を狙いにいって、刑事ドラマとか医療ドラマばっかりになってしまったら、支持は離れてしまうと思うので気を付けてほしいなと。再放送も含めてドラマをたくさん見てもらってる今がチャンスなので。このチャンスを生かしてほしいなと思います。