南果歩が、年齢を重ねることについて「老化ではなく進化」「ずっと同じ自分でいることを良しとしない」と持論を語った。

2月4日に最新エッセイ「乙女オバさん」(小学館)を上梓する南。

前書きに「人は何度でも再生できることを実証する本」とあるように、本書には、二度の結婚、うつ病や乳がんなどを乗り越えた心境、さらには生い立ちからこれまでの道のり、息子との関係、そしてこれからの目標などがつづられている。

その言葉にはどんな思いが込められているのか。彼女に話を聞いた。

<南果歩 インタビュー>

――まず、第一章に「おひとり様」と題し、一度目の結婚、二度目の結婚について書かれていますね。

記憶ってアトランダムに出て来ませんか?時系列がそろって順を追った方が読みやすいかもしれませんけど、人間の記憶ってそういうものだと思うんです。

ですからまずは心に従って書いていき、そこから派生するもの、またそこから派生するものと書き進めていきました。

今回は書き下ろしだったこともあり、イチからのスタートだったので、自分の印象に残る人や場所、エピソードにフォーカスを当てる形になりました。でも実は私、日常生活では記憶力、悪いんですよ(笑)。

セリフは覚えられるのに人の名前とかすぐ忘れちゃうし、忘れ物も多いし(笑)。

――ロサンゼルスに住んでいた頃、息子さんを送り迎えする際、車の窓を全開にしてQUEENの「I Was Born To Love You」を大声で歌うという描写が、読んでいるこちらの目にも浮かぶようでした。

あれは毎日の鉄板の曲だったので(笑)。たぶん息子も覚えている風景だと思います。音楽を聴くとその時の気持ちや情景が浮かぶことってありますよね。

――印象に残っている風景やエピソードは、そのつど書いて残したりするのですか。

日記はつけてませんが、メモ魔ではあります。スケジュールノートにちょこちょこ思い立ったことも書きますし、雑記帳を持っていて、思いついた言葉やフレーズを書き込んでますね。

――南さんにとって「書く」ことは?

書くのも読むのも好きです。言葉が好きなんです。言葉は心を救ったり、反対に傷つけたりもする。心の支えになる言葉を私はいろんな人から頂いてきたと思います。あと、めちゃめちゃLINE魔ですよ。返信もめっちゃ速いです(笑)。

メッセージもよく書きますね。お誕生日のカード、お礼状など、ハガキとペンは常にカバンの中に入れてます。それに台本や資料など、仕事柄、「読む」ことも多いかもしれないですね。なので、普通の仕事をしている方より文章に触れる機会は多いと思います。

年齢を重ねることは「老化」ではなく「進化」である

――今、南さんが気になる作家はいますか。

基本的にノンフィクションよりもフィクションが好きです。小説やシナリオや戯曲も。ずっと女性作家が書く文章が好きだったんですが、珍しくここ数年、心にグッと入ってくる作家は平野啓一郎さん。描写、ディテールの細やかさがすごい想像力をかき立てるというか。

最新作の「本心」は内容は複雑ですけど、描かれているのは人間の性(さが)というか心の内側だったりするので、近未来物が苦手な私でもグイグイ入ってきました。

桐野夏生さん、林真理子さん、角田光代さん、朝倉かすみさん、江國香織さん、最果タヒさん、好きな女性作家はもうたくさんいます。

――本書ではほかにも、うつ病や乳がんなど、ご自身が経験した病気について前向に受け止めた文章が印象的でした。

健康でいる時よりも、身体的・精神的に落ちている時って、ある意味、チャンスだと思うんです。すごく感じやすくなっている分、普段、気にも留めないような一言が自分の中に残ってしまったりするけど、人の優しさをより感じられたりもする。普段見すごしてしまう思いやりに感動する経験って、みなさんにもきっとあると思います。

この本の中でも私、「進化」という言葉を使っていますが、年をとって目が悪くなったり白髪が増えたりすることを一般的には「老化」って呼ぶかもしれないけど、私は「進化」だと思っているんですよ。

ずっと同じ自分でいることを良しとしないというか、変化し続けるのが生き物だと思っていますので、その時々の「変化」を楽しみたいんです。

ずっと20代でいるなんて、疲れてしょうがないじゃないですか(笑)。20代なら20代を、30代になったら30代をやり尽くす。そうやって過ぎたものに対して心を残さない、そういう考え方ですね。

――どうやったらそのような考えを手に入れられるのでしょうか。

私の場合、振り返れば「仕事」が私を育ててくれたのだと思います。俳優って第一に「孤独」な仕事なんです。現場ではたくさんの人たちとチームを組みますけど、「一人の人間を作っていく」という作業としては、とても孤独なんです。

でも、孤独こそ人を育てる大事な要素だと思います。

私は人が好きだし、大家族のもと育ったので人といることが好きですが、人との関わりの中で「孤独」を感じることってあるじゃないですか。同じ言葉を話していても自分が理解しきれてなかったり、考えが行き違ったり。

基本的には「個」として生きる中で仲間、友人、家族が生まれていくわけで、孤独を感じるからこそ人を求め、人の関わりを求めるのだと思います。

年齢にこだわらず、自分で自分を幸せにしたい

――改めて「乙女オバさん」というタイトルに込めた思いを聞かせて下さい。

とかく日本人は「年齢」にこだわりすぎていると思います。お会いしたら最初に「おいくつですか?」から始まるじゃないですか。でも、海外に行くと年齢はまず聞かれません。

乙女オバさんとは、いくつになっても夢見る心を持ち続けている人を表しています。私が作った造語です。

目上の人を敬う文化は良いのですが、その反面、年齢にとらわれすぎてしまっているのではないかと思うんです。私にとって年齢はナンバーにしかすぎないし、私の57歳と他人の57歳では時間の流れ方も違うと思っています。

――確かに、つい年齢や世代を確認してしまいがちです。

なにより、「自分はもう何歳だから」なんて思ってしまうと、自分の細胞が可哀想ですよね。まるで年齢で「あきらめなさい」って言っているようだし。だって、自分の言葉って、自分に最初に届くじゃないですか。

それぞれの年代の良さはありますけど、年齢に関係なく向上心と好奇心を持ち、前を向いて生きている人が一人でも増えていけば、少しずつでも社会にその前向きさって広がっていくと思うんです。

私自身、いろいろな人たちからいい影響をたくさん受けてきたので、ちょっとでも私もそうなりたいと思いながら生きてます。

――南さんにとって人生を「楽しく」生きるためには何が必要だと思いますか。

私も30代、40代前半くらいまでは、「誰かのために何かをする」ことが自分の幸せにつながると思っていました。でも、いろいろな経験をして「自分で自分を幸せにする」ことがまず一番大事だなって。

個としての自分がまずハッピーでない限り、良い影響って周りには波及しないので。失敗続きの人生ですが(笑)、「一石を投じる」という言葉のように、この本が少しでも皆さんの自分発信の幸せに繋がれば嬉しいです。

――最後に、南さんが2022年にやりたいことを教えて下さい。

いっぱいありますよ。「書く」ことについては、詩集かもしれないし、小説かもしれないし、シナリオかもしれないけど、今度はもっと創作に寄った作品を出版したいです。

あとはもうちょっと筋トレする(笑)。身体の健康はメンタルに直結するので。ちょっと運動するだけでも絶対元気になります。今は筋トレとパワーヨガをやってますが、そこにピラティスも加えたいですね。

それから昨年、AppleTV制作の「パチンコ」というドラマを撮影したのですが、自分の英語力のなさを痛感しました。英語をもっとうまく話せるようになりたいです。今年新しい先生が見つかったので、早速レッスンを始めてます。

あ、あとバンドだ!二度目の離婚後に結成したNicochansというバンドでボーカルを担当してますが、私が作詞した「乙女オバさん」という曲がもうすぐ配信予定です。初のオリジナル曲です。

――たくさんあって、聞いているだけで前向きな気持ちになります。

新型コロナによって家にいる時間が増えましたが、その間に、それ以前だったら考えられなかったことが考えられるようになりましたよね。大変なことも多かったですが、今まで持てなかった時間だったと思うし、たぶん、みなさんそうだったのではないでしょうか。

日々の仕事に追われていると、じっくり生活を見つめなおしたり、自分を省みる時間ってなかなか持てなかったりするけど、今回、みんながコロナ禍という非日常を経験して、「これから先どう生きていこうか」っていう新しいスタートラインに立っていると思うんです。

言い換えればそれは新しい自分、新しい社会に変われる、新しいことを試せる、またとないチャンスだと思いたいですね。

「乙女オバさん」(小学館)
2022年2月4日(金)発売
定価 1,430円(税込)

撮影:河井彩美
取材・文:中村裕一