公開中の映画「コンフィデンスマンJP 英雄編」で、“日本のゴッドファーザー”と呼ばれるマフィアのボス・赤星栄介役を演じる江口洋介が、自身の役への思いを熱く語った。

長澤まさみ、東出昌大、小日向文世が扮するコンフィデンスマン=信用詐欺師らの活躍が描かれる人気の痛快エンターテインメントコメディ「コンフィデンスマンJP」シリーズ。その最新作『英雄編』が公開中。

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本作は、長澤演じるダー子、東出演じるボクちゃん、小日向演じるリチャードが世界遺産の都市、マルタ島・ヴァレッタを舞台に、壮大なダマし合いを展開。3人に加え、五十嵐(小手伸也)や赤星栄介(江口洋介)などお馴染みのキャラクターも登場し、シリーズ史上もっとも先の読めない展開とストーリーで、見る者を物語の中へと引き込んでいく。

フジテレビュー!!は、ドラマ第1話で登場して以来、劇場版3作でも連続してダー子たちの宿敵を演じた江口にインタビュー。『英雄編』での赤星の立ち位置の変化をはじめ、役に対する深い思い、そしてシリーズがなぜ多くの人に愛されるのかを聞いた。

<江口洋介 インタビュー>

監督からのいつもと違った要求を受け「演じるのが難しかった」

──ドラマ版の第1話(ゴッドファーザー編)で“オサカナ(ターゲット)”として初登場して以来、ダー子たちの好敵手としてシリーズに欠かせない存在の赤星栄介ですが、『英雄編』では立ち位置に少し変化が見られます。ご自身は、その辺りをどう捉えていますか?

今回は、あまり3人(ダー子、ボクちゃん、リチャード)との絡みが多くなかったので、これまでのシリーズほどダマされた感じがしていないんですよね。どちらかというと赤星のほうからダー子たちに寄っていくところもありましたし。

敵対するというよりも、ちょっと仲間のようなニュアンスを田中(亮)監督から要求される場面もありましたが、過去に50億もダマし取られているわけですから、そんな簡単に心を許すかな…という葛藤が自分の中ではありました。ともすれば役が破綻しかねないな、と。

そこは割り切って演じましたけど(笑)、もし次回、さらにその次とシリーズが続いていくのであれば、もう1回完全な“ワルの赤星”に戻してほしいなという気持ちが正直、僕としてはあったりもします。

キャラクターって、パターン化しちゃうと面白くなくなっちゃうんですよね。それもあって、今回は赤星の雰囲気をちょっと変えていると思いますが、ヘタすると辻褄が合わなくなっちゃうので、そういう意味でも今回は演じるのが難しかったですね。

ただ、赤星という男の軸はブレていないので、いざとなれば俺が「本来のワル路線キャラ」に軌道修正すればいいんだ、と思いながら演じたところがありましたし、次回は制作陣にもご一考してもらえたら、という気持ちがあります。

──見ていてハラハラしたのが、瀬戸康史さん演じるマルセル真梨邑が赤星の髪をつかんで顔をテーブルに叩きつけるシーンです。聞くところによると、江口さんは「やるなら思いっきりやってくれ」と言った、と。

そこは妥協されても、逆に困りますしね(笑)。ちょっとでも遠慮したら、その気配とか雰囲気って映画に映っちゃうから、いかにして瀬戸くんが萎縮することなくやれるか、こっちもこっちで神経を使うんです。

個人的には赤星が怖いほうが面白いと思っているので、いざという時には平気で人を殺せるぐらいの狂気じみた空気を放っていたいな、と。なので、あのシーンも緊張感が増すような芝居を心がけました。

そこから、どう面白おかしくするのかは、田中監督にお任せして。彼とはもう、ずいぶん長い付き合いになるので、その場でセッションするというよりかは、「どう料理するかは任せるから」と言って、ある程度ゆだねたというニュアンスでしたね。ずっと長いこと同じキャストとスタッフのチームでやってきているからこその呼吸というか、信頼感というか。それは大きかったと思います。

<瀬戸康史 江口洋介との衝撃シーンは「全部の動作を一切、手を抜かずにやらせてもらった」>

赤星の面白さは「冷酷なのに意外と抜けているという振り幅」

──今作で赤星に対する好感度が上がったと思いますが、江口さんご自身はどのように感じていますか?

単純に、緩(ゆる)い空気になってしまうと作品自体も緩んじゃうと思うんですよね。第4作、5作…と続けていくのであれば、もう1回鋭くて手強い赤星に戻すためのフックがあったほうがいいという感覚が、ずっと演じてきた俺の中ではあったので、ダー子たちへの恨みと愛情のバランスを一度崩して、キャラを破綻させる寸前のところまで自分で持っていきました。

もっとわかりやすく、面白おかしくやろうと思えばできるんですけど、元来が辛口の役として出てきたわけですから、ギリギリ踏みとどまらせたというか。赤星の面白さって、冷酷なのに意外と抜けているという振り幅にあると俺は思っているので、“普通にいい人”になっちゃうと、演じ続けるのが難しくなっちゃいそうだな、と。

現場ではそんなふうに葛藤がありましたが、仕上がった今作を観たら、ちゃんと前回よりもパワーアップしている作品に仕上がっていて、うれしくなりました。シリーズものに出る時は常に前作を超えていく必要性を感じているので、その課題をクリアできたんじゃないかな。

特に「コンフィデンスマンJP」は1作目も2作目も大ヒットしているから、3作目で負けるわけにはいかないという制作陣の意地もあったと思うんですよ。そこへきてコロナ禍という難しい状況で、今までで一番生みの苦しみを味わったと想像しますけど、その甲斐があった作品じゃないかなと感じています。

このシリーズの強みは、ダー子たち3人とゲストキャラを対峙させるという構図さえ崩さなければ、いくらでも話を広げていけることですよね。舞台が毎回変わることで新鮮味も出ますし。ストーリーを考える制作陣はものすごく大変でしょうけど(笑)。

──赤星としても、今作でマルセル真梨邑と新たな因縁が生まれたので、次回作でどう決着をつけるのかが楽しみですね。

そこがどうなるのかは、それこそ脚本の古沢(良太)さんやプロデューサーの成河(広明)さんたち次第でしょうね。いくらでも広げられると言ったものの、風呂敷を広げすぎて複雑になりすぎても大変だろうから(笑)。

“ドラマのフジテレビ”の意地を感じた「コンフィデンスマンJP」シリーズ

──キャストの皆さんが今作の脚本は何度も読まないと咀嚼できなかったと話していましたが、江口さんはいかがでしたか?

そうですね、なかなか複雑に入り組んでいるストーリーだけに、呑み込むのに少し時間がかかったかな。その分、ラストの抜けの良さが際立っている映画なので、爽快感も大きいというね。だけど、『英雄編』でこれだけ緻密なシナリオをつくっちゃうと、次回が大変だと思いますよ。これを超えなくちゃいけないわけだからね。演じる側としても、「次はどうなるんだ?」と期待されている分、大変になってきますよね。

ただ、「コンフィデンスマンJP」は底抜けに明るい娯楽映画ですから、極論を言えば難しいことを考えずにシンプルに楽しんでもらえたらいいな、と俺は思ってもいるんです。こういう時代ですし、現実のほうがさらに複雑だったりもするわけですが、何も考えずに大笑いできる、ぜいたくな瞬間が味わえる映画を劇場で観られるというのは、すごく素敵なことだと思いますし、エネルギーを注入して劇場をあとにしてもらえたら、うれしいですね。

──「コンフィデンスマンJP」は、シリーズの熱心なファンの方はもちろん、観る人を選ばず楽しめる作品ですよね。

しかもオリジナル企画で、ここまでシリーズを重ねられたというのは、熱烈なファンの方々のおかげでもありますよね。原作モノにも“ならでは”の面白さや楽しさがありますけど、オリジナルの企画で勝負できているということが、僕からしてもうれしくて。

連続ドラマが始まったとき、ちょっと宙に浮いたような世界観をどう表現していくのかなと思っていたら、(長澤)まさみちゃんを真ん中に、見事なまでに弾(はじ)けつつ跳ねた作品になっていって。一歩間違うと寒くなりかねない題材ではあったと思いますが、リアリティとポップな感じのサジ加減も絶妙でね。個人的には“ドラマのフジテレビ”の意地を感じましたね。

だから、その最初のエピソードに赤星栄介というキャラクターで呼んでもらえて、すごく誇らしかったんです。

そこで自分の出番は終わったと思いきや…劇場版にも連続して登場させてくれて。赤星はあくまで主人公3人を動かすためのフックであって、俺が出ない回があったしても、それはそれで全然構わないと思っているんですよ。でも、出てきたら何か起こしそうな雰囲気を持っている…そういうサブキャラって、演じていてすごく面白い。

キャスティングの時点から結構、冒険できるじゃないですか。「この役を、この人が!?」みたいに。今回だと、丹波という役を松重(豊)さんが演じていらっしゃるのが、その1つかなと。そうやって遊びを効かせながら、そのつど時代を感じさせるつくりになっているのが、「コンフィデンスマンJP」の好きなところです。

アジア圏でもたくさんの人が作品を楽しんでくださっていると聞いていますが、おそらく日本独特のポップな感じがあるんでしょうね。今、韓国ドラマがすごく人気ですけど、「コンフィデンスマンJP」の弾け具合も近いものがあると思うし、それでいて「日本のコメディ」ならではのセンスが感じられるところが、ウケているのかな、と。

田中監督はサブカルが好きな人なので、いろいろなカルチャーの要素が垣間見えるというのも魅力の1つであり、面白味なんじゃないかなと思います。

──長澤まさみさんいわく、「コンフィデンスマンJP」には「マツケンサンバ」的な昭和なポップさがあると。江口さんの話にも通じるのかな、と感じました。

なるほど、その分析は面白いですね(笑)。確かに、松平健さんが、あの歌の扮装で登場したとしても平気なくらいの受け皿が、「コンフィデンスマンJP」の世界観にはありますよね。その、なんでもOKというカーニバル的な抜けの良さが、この複雑で深刻になりがちな日常においても、明るさや元気をチャージできるような1作になっているのかな、と。

しかも、バカをやりつつも完成度が高い映画というところで、本当にたくさんの人に楽しんでもらえたらと願っています。

──最後に、江口さんご自身が体験された「ちょっとダマされちゃったなぁ」といったエピソードがあれば、お聞かせください。

そこそこ長く生きてくると、そう簡単にはダマされなくなるんですよ。通販なんかでも“バッタもん”かどうかを嗅ぎ分けられるようになりますし。散々、赤星としてダマされているので、自分自身は「絶対にダマされないからな」と、常日頃から脇を締めて生きています(笑)。

撮影:山口真由子
取材・文:平田真人

映画「コンフィデンスマンJP英雄編」は、公開中。
制作プロダクション:FILM
配給:東宝
製作:フジテレビ・東宝・FNS27社
©2022「コンフィデンスマン JP」製作委員会

最新情報は、映画「コンフィデンスマンJP英雄編」公式サイトまで。