『ラジエーションハウスII~放射線科の診断レポート~』第9話完全版
「僕がずっと心から尊敬している医者は、甘春先生…あなたですから」。
五十嵐唯織(窪田正孝)から言われた言葉が頭から離れない甘春杏(本田翼)。その唯織が研究チームの一員だったピレス教授の研究室のサイトを閲覧していた杏は、「留学生募集」の文字に目を止める。
一方、田中福男(八嶋智人)は、最新の撮影技術を考案した、と言って脳外科医の渋谷慎一(野間口徹)に自分を売り込んでいた。それを目撃して、自分からMRI担当を奪い取ろうとしていると憤る軒下吾郎(浜野謙太)。だが田中は、「こんなことをする暇があったら、基礎こそ身に付けてほしいものだ」と渋谷から言われてしまい、すっかり落ち込んでしまう。
そんな田中に追い打ちをかけるかのように、別れた妻・幸子(猫背椿)から、再婚することになったというメールが届く。幸子は、再婚相手のフランス人・ボヌール(厚切りジェイソン)とフランス料理店を開いたらしい。「今度こそ幸せになります」という一文に、田中はショックを受ける田中。
ある日、ラジエーションハウスに、医療メーカーの営業マン・山田福造(石井正則)がやってくる。山田は造影剤の販売を担当しているが、十分在庫があるという理由から技師長・小野寺俊夫(遠藤憲一)に追い返されていた。
帰ろうとしていた山田に声をかけた唯織は、彼の左耳が聞こえにくくなっているのではないかと気づく。山田はそれを認め、ストレスが原因のようだと唯織に告げると、小野寺たちが興味を持ちそうだと思って持参したという、大量の講演資料などを手渡して去っていく。
そんな折、田中は、ひょんなことから山田と知り合う。同じ“福”という字を持つ名前にも関わらず、不幸続きだという境遇も似ていることから意気投合する2人。その際、山田は、実家で寿司職人をしている父親から跡を継いでほしいと言われていることを明かし、冗談のつもりで、一緒にやらないかと田中を誘った。すると田中は、その話に食いつき、山田を困惑させる。
そこにやってきた唯織は、山田にMRI検査を勧める。難聴の原因は精神的なストレスではない可能性があるからだった。
唯織が山田の検査のために予約状況を確認していると、そこに副院長・鏑木安富(浅野和之)がやってくる。鏑木は、田中が落としたノートを見せ、ラジエーションハウス内の風紀が乱れているのではないか、と言い出す。そのノートには、病院内の人間関係や、本人しか知らないようなラジハメンバーの秘密が記載されていた。
広瀬裕乃(広瀬アリス)や黒羽たまき(山口紗弥加)たちから非難された田中は、プライバシーの侵害だと憤慨。みんなからどう思われても構わないと言い放つと、ここを辞めて寿司店を始めようと思っていると言いだし、一同はあ然となる。
そんな中、山田の頭部MRI検査が行われたが、異常は見つからなかった。田中は、自身のサラリーマン時代のつらい経験を思い出し、会社から無理なノルマを押し付けられ、営業先でも冷遇されれば誰だってストレスが溜まって身体を壊す、と声を荒げた。
甘春総合病院を後にしようとした山田は、急な目まいに襲われる。通りがかった唯織は、慌てて駆け寄り、山田を支えた。そこにやってきた田中は、もう仕事を辞めてふたりで寿司店を始めよう、と山田に告げる。田中は、「福福ずし」という店名まで考えていた。だが山田は、家族がいるからと言ってそれを断る。絶対に幸せにしなければならない家族のために、安定した給料をもらえるいまの会社を辞めるわけにはいかないというのだ。
「それに…」と続けて何かを言おうとした山田に、「今のお仕事が嫌いなわけではないんですね」と告げる唯織。山田が唯織に手渡した資料は、講演会一つひとつに足を運び、自らも学んで医師たちと信頼関係を築かなければ手に入れられないようなものだったからだ。なぜ技師たちのためにそこまでしてくれるのか、と唯織から問われた山田は、医療メーカーは直接患者に関われるわけではないが、自分が提供した情報や製品が役立ち、救える患者がいることに喜びを感じている自分がいる、と答えた。
その夜、唯織は、看護師の南里美(浅見姫香)が落とした資料の中に、山田の問診票があることに気づく。里美によれば、山田は以前、自転車事故に巻き込まれて脳震盪(のうしんとう)を起こし、甘春総合病院を受診したことがあるのだという。
同じころ、杏は循環器内科医・大森渚(和久井映見)がエコーの機材を押しながら池田しずく(伊藤歩)が入院している503号室に入っていくところを目撃する。ほどなく、しずくの電子カルテに新しい画像が追加された。それを目にした鏑木は、何かに気づき…。
あくる日、甘春総合病院に交通外傷でショック状態になった7歳の男の子が救急搬送される。救急医・辻村駿太郎(鈴木伸之)の指示で、処置しながらのエコー検査を受け持つ唯織。
その一件と同じ時刻、田中を訪ねてやってきたボヌールが、突然激しい頭痛に襲われて倒れた。渋谷は、駆けつけた幸子に、頭部CT検査では異常が見つからなかったため、造影剤を使った腹部の検査をしたいと告げる。高血圧のボヌールは、腎動脈瘤などによる2次性高血圧が疑われたからだった。
だが、幸子によれば、ボヌールは以前、造影剤を使った検査の際に重い副作用が出たのだという。そこで杏は、造影剤を使わずに臓器への血流を見ることができるASLという検査を提案する。だが、ラジエーションハウスには腎臓のASL検査を経験している者が誰もいなかった。
田中は、たまきに命じられて、唯織のもとへ相談に行った。だが、唯織も腎臓のASLの経験はないという。男児の処置で手が離せない唯織は、山田に連絡するよう田中に告げた。
田中から事情を聞いた山田は、参考になる資料があるかもしれない、といってそれを引き受けた。目まいに襲われながらも、駆け出す山田。
山田からの連絡を待つラジハメンバーだが、いつまで経っても連絡はなかった。小野寺は、対応可能な病院への転院を検討しようとするが、それを止める田中。「彼は私より、よっぽど患者さんのことを思っています。信頼に値する人です!」。そう言って検査の準備を始める田中。それを受け、たまきや軒下たちも動き始めた。
それからしばらくして、ようやく山田がやってくる。山田は、論文センターが閉館していたため、ASLの第一人者である大学教授の自宅を訪ね、検査のマニュアルをコピーしてきたのだという。その資料はすべて英語で記述されていたが、力を合わせて取り組むラジハメンバーたち。
ほどなく、検査の準備が整い、ボヌールが運ばれてくる。と、ボヌールが田中の腕をつかんだ。ボヌールは、田中に伝えたいことがある、というと、「幸子を幸せにします。だから安心してください」と告げて…。
検査の結果、ボヌールの左の腎臓が、動脈狭窄による血流低下を起こしていたことが判明する。ひとまず降圧剤で対処し、容体が安定すれば根本治療に移ることが可能だった。
男児の処置を終えた唯織は、側頭骨のCT画像を再構成していた。それは山田のものだった。唯織が処理した耳小骨の3D画像を読影した杏は、耳の中にある、わずか3mmの小さな骨・あぶみ骨の骨折が難聴や目まいの原因だと診断する。自転車事故に巻き込まれたときに骨折したものと思われた。鼓室形成術によって聴力の回復が期待できると知り、自分のことのように喜ぶ田中。
山田は、見送りに来た田中に、もうしばらく今の仕事を頑張ってみようと思う、と告げる。それに対して、「私は寿司屋をやります。でもそれは、老後の楽しみにとっておきます」と返す田中。
山田と別れた田中の前にやっていた幸子は、ボヌールを助けてくれた礼を言うと、自分が間違っていたと言って謝った。自分勝手で飽き性の田中には放射線技師など務まるはずがないと思っていたが、今の田中は幸せそうだというのだ。
田中の転職騒動も落ち着いた中、唯織のもとへ鏑木がやってくる。唯織から、留学中の渚の情報を得るためだった。鏑木は、渚が小児の心臓カテーテルの研究をしていたことを院長・灰島将人(髙嶋政宏)に報告した。渚が何をしようとしていたのかを理解した灰島は、鏑木に一つ頼み事をして…。
一方、渚は、杏とともにラジエーションハウスを訪れる。そこで渚は、胎児の心エコー画像を見せた。その画像見て、肺動脈弁が閉鎖していることに気づく唯織。「皆さんの力を借りる時が来ました」。渚は、技師たちにそう告げて…。