坂元裕二、野島伸司、尾崎将也、野木亜紀子、水橋文美江、橋部敦子、浅野妙子、いずみ吉紘、黒岩勉など、多数の人気脚本家を輩出してきた「フジテレビヤングシナリオ大賞」。
このたび、第33回の大賞受賞作品と佳作受賞作品が決定。11月25日(木)にお台場のフジテレビ本社にて授賞式が行われた。前回の応募総数1,567編を大きく上回る1,978編の応募の中から、大賞を受賞したのは、生方美久(うぶかた・みく)さんが書いた「踊り場にて」。
夢を諦めることへの葛藤を描き「群を抜く」実力で大賞に
生方さんは「とてもうれしく思っています。脚本を書く1人作業が、映像になるとたくさんの人が関わるんだなと噛み締めています。プロとして精進していこうと思います」と喜びのコメント。
「踊り場にて」は、プロバレエダンサーの夢を諦め、高校で国語教師として働く主人公が、同じように夢を諦めかけている生徒たちと関わり、自分を見つめ直していく物語。
選考委員からは「構成、台詞ともに群を抜いていた。登場人物たちの点と点がつながっていく構成の巧みさ。読み終わった後、清々しい気持ちにさせてくれる」と評価された。
現在、看護師として働く生方さんが脚本を書き始めたのは約3年半前。「当時、助産師として忙しくて、社会に埋もれていく中で、学生の頃から好きだった映画が心の救いになりました。初めは映画監督になりたかったけれど、自分で脚本を書きたいと思うようになった」そう。独学で脚本執筆にチャレンジし、今回3回目の応募で大賞を受賞した。
そんな生方さんは、「坂元裕二さんみたいに、唯一無二といわれる脚本家になりたい」と語り、自身の作品に出てほしい俳優・女優を聞かれると「蒼井優さん。好きな映画によく蒼井さんが出ていて、全部違う人に見えるのが素晴らしい」と微笑んだ。
圧倒的な熱量で受賞「消え失せろ、この感情」
金民愛(きむ・みね)さんが書いた「消え失せろ、この感情」(佳作受賞)は、顔出し一切NGの小説家が、取材のために潜入した会社でひょんなことから、過去に虐めの加害者だったという人物と向き合っていく物語。
選考委員からは「圧倒的な熱量。混沌とする現代社会に抱くモヤモヤとした感情をバッサリと斬るような勢いを感じた」と評価された。
その評価に金さんも「勢いとモヤモとした気持ちを作品に込めました。締め切りギリギリでも諦めなくてよかった」と語った。今作の主人公のモデルは、女優の真矢みきだそうで「声が好き。力強いセリフに合いそう」と言い、「昔から俳優の中村トオルさんのファンなので、いつか出ていただけたら」と、はにかんだ。
ポップでライトな作品「すりーばんと」
野球の女子マネージャーが自らも試合に出るべく奮闘する物語「すりーばんと」で佳作を受賞したのは、深澤伊吹己(ふかさわ・いぶき)さん。
「好きなコメディという分野で、こういう時代だからこそ、明るく楽しくなっていただけるような作品を書いて賞をいただけたのがうれしい」とコメント。選考委員からは「クスッと笑える軽快なセリフと、独特の空気感が魅力」と評された。
深澤さんは、ドラマ『HERO』(フジテレビ)の影響を受けて大学院で法律を学んでいたが、「自分が憧れていたのは法律ではなく『HERO』の世界だと気づいて。ドラマ好きな叔父から『やっぱり猫が好き』(フジテレビ)のビデオを見せてもらったら、心が荒んでいた時期だったのでカルチャーショックを受けて。それがきっかけで、ドラマや映画の世界に行きたいと思った」と明かした。
また、「黒木華さんが昔から好きなので、今作の主人公はそのままではなく華(はな)にしました。バナナマンさんも好きで、お2人のコントに影響受けてお話を書いてみたいと思ったので、いつかお会いできたら」と笑顔に。
不器用な男の物語「7階エレベーター無しに住む橋本」
大学院生の北浦勝大さんが書いた「7階エレベーター無しに住む橋本」(佳作受賞)は、エレベーターのない7階建てのマンションに住む男性が、下階の住人や気になる同僚女性らとの交流を通し、不器用ながらも一生懸命生きていく物語。
選考委員からは「一見無駄のようで無駄でない、細やかな描写の積み重ねで人物像を浮き彫りにする巧みさがある」と評価された。
北浦さんは「書き終わった後に、自分の気持ちと主人公の気持ちが近いかもと思いました。(書く)技術的にもっと上手くなりたい」と意気込みを語った。本作の主人公を演じてほしい俳優に松坂桃李を挙げ、「“ひょっとこ”みたいな表情も見せるお芝居が面白くて、いいなと思いました」と話した。