8月1日(土)放送の『週刊フジテレビ批評』は、「“違和感”を楽しむ!夏ドラマ徹底放談」の後編。

“新型コロナウイルス”の影響による中断後、次々と再開した春ドラマと、新作夏ドラマが入り混じる今クール。

先週に続き、ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、ライター・吉田潮氏というドラマ通たちが、夏ドラマを徹底的に斬った。

『竜の道 二つの顔の復讐者』は、主役2人を久々に堪能できる

いよいよ放送が始まった『竜の道 二つの顔の復讐者』(フジテレビ)を推したのは、木村氏と吉田氏。

木村:これは原作者が白川道(しらかわ・とおる)さんといって、ものすごくハードボイルドな作風の作家さんなんですけど、5年前に亡くなられていて未完なんです。関テレらしい、無謀な挑戦なんですよね(笑)。

ホントにハードボイルドで一切笑いがなく、見る人をめちゃくちゃ選ぶんです。これで数字(視聴率)とれたら奇跡に近いぐらいのチャレンジングなことをやっているので、ぜひ応援したいです。

吉田:玉木宏と高橋一生が双子?え!?っていうところから始まるわけですが、そこにはいろいろな布石があって、すごい復讐劇を展開してくるんです。

関テレって世の中に対して恨みを持っているのか、復讐ものが得意じゃないですか(一同・笑)。まぁ、主役2人を久々に堪能できる感じがあって、私はすごい楽しみにしてます。

梅田:私は、「なんのこっちゃ!?」で全然わからなかったです。親の敵討ちというところは、まぁ頑張ってほしいんですけれども、そこに至るまでにあまり関係ない人を殺していたりとか、そういうところにまったく大義がない。

復讐劇は大義があってこそだと思うので、単に復讐に燃えるイケメン2人の画(え)があればいいのかな?という感じが苦手だったのと、この2人が何かやろうとした時に、必ず「妹(松本穂香)には知られたくない」というのが枷(かせ)になりますよね。

そういう、ウイークポイントを女の人に置いてしまう設計というのが私はもうまったく好きじゃなくて。もうちょっと女の人を、すっきりと自立した人として描いてほしいなって。

『おしゃ家ソムリエおしゃ子』 は、毒気たっぷりでゲラゲラ笑える

同じく、木村氏と吉田氏が太鼓判を押したのが、矢作穂香演じる“おしゃ家(いえ)ソムリエ”おしゃ子が男たちのダメ部屋をぶった斬るラブコメディ『おしゃ家ソムリエおしゃ子』(テレビ東京)。

吉田:これは矢作穂香さん演じる女の子が、おしゃれな家に住んでる男でないと認めないという、おしゃれな家のソムリエという役なんです。毎回デートをして、その男子の家をくまなくチェックし、おしゃれでないところを、ポイントを突いてものすごいダメ出しをするんですけど、それがすーごく気持ちがよくて。

世の中の女の人は、「それ言っちゃうと、ちょっと女の子としてどうなの?」みたいに思ったりするところがあるんだけど、このおしゃ子はズバズバと致命傷を与えていくんです。若い女性が自由闊達に自分の意見をバンバン言って、論破していくっていうスタイルが、今の時代にすごく合っているなと思って。

木村:フレーズが非常に巧みですね。毒気たっぷりなんだけど、ゲラゲラ笑えちゃうんです。「恵比寿に住むこと最優先で、間取りやインテリアは二の次の“恵比男(えびだん)”」とか、ドヤ顔したいために置くインテリアを「ドヤテリア」とか、こういうところで逐一笑えるというか。バン!という爽快感と、クスッと笑えるところが両方あっていい。

このドラマは、バラエティとドラマを二刀流でやってる方がプロデュースと演出をしてたりするので、「ほぼバラエティじゃねえか!」っていう声もあるぐらい、自由さがある。

新美有加(フジテレビアナウンサー):無印良品をたくさん持っている男性が出てきて「無印良品の品物に対して、可能性を問いかけたことがあるか」っていう…。悪口ではない斬り方なので。

一同:(笑)。

梅田:もう笑えます。よく、スーツ着ていらっしゃると男の人のおしゃれ度ってわからないけど、私服を見たとたんに100年の恋も冷めるみたいなことってあるじゃないですか(笑)。それのお部屋版です。

だから、男の方が見ると結構しんどいかもしれないですけど、ぜひ見ていただきたいです。

渡辺和洋(フジテレビアナウンサー):それを参考に、「ああ、こういうふうに見られるかもしれないぞ」と…。

木村:渡辺さん、真面目すぎるんです、そういうドラマじゃない(笑)。ただ笑えばいいです。

頑張ればできちゃう人のしんどさがしっかり描かれている『私の家政夫ナギサさん』

そして梅田氏が挙げたのが、多部未華子演じるバリキャリの独身女性が、おじさん家政夫(大森南朋)を雇うことから始まるラブコメディ『私の家政夫ナギサさん』(TBS)。

梅田:多部さんが演じるのは、仕事は優秀だけれど、家事、特に家のお掃除ができない汚部屋に住んでいるデキるOLということで。でも彼女は“ほっといてもできちゃう天才”じゃなくて、“頑張ればできる子”なんです。

だから、頑張ればできちゃう人のしんどさっていうのがしっかり描かれていて。いよいよ手詰まりになってきて、自分でもどうしよう…と思ってる時に、そのおじさん家政夫が、「あなたの部屋を片付けていたら、一所懸命やってたということがわかるんです」というふうに、スッと心が楽になるようなことを言ってくれたりするんです。

その、家事(を担う)側から見たところでちゃんとフォローしてくれるので、これはなんとか必死に頑張ってる働く女性たちにはグッときちゃうんじゃないかなぁって。

吉田:私はやっぱり、大森南朋という俳優に、癒しとかほっこりをまったく求めてないので。どちらかというと“クズ”でいてほしいという勝手な思いがあって。すごくそこに違和感を覚えるんですよね。

プラス、家政婦を頼むことに罪悪感を覚える女性というのが、ちょっともう私の中では理解できなくて。「頼めばいいじゃん!」と思うんですよ。でもそれを周囲に隠そうとしたりっていうところがなんか古いし、私の好みではないなぁと思って。

木村:マンガ原作で、女性主人公。出てくるのが“いい人”ばっかりですよね。この枠(火曜夜10時)自体がそういう女性の目線で作られていて、そこを徹底的に追及してるので、失敗しようがないかなというのがまずありまして。というと、逆に見ると男性は、それほど楽しめるドラマではない。

『ハケンの品格』 は、前作から “変えなかったパターン” で…

また、2007年に高視聴率を獲得した作品の続編『ハケンの品格』(日本テレビ)も話題に。

梅田:13年ぶりの続編で、日テレとしては勝負コンテンツをあててきたところに、気の毒にコロナ禍で俳優さんのスケジュールがぐちゃぐちゃになってしまって。カギだった大泉洋さんがあまり出られなくなって、序盤は単なる派遣いじめみたいな描写ばっかり続いてかなりしんどい流れだったんですけど、4話あたりから大泉さんがぐいぐい入ってきて、いきなり面白くなったんですよね。

派遣と正社員がそれぞれに持つ愛や哲学がちゃんと大前春子(篠原)と交錯し始めて、『ハケン~』の面白さがようやく出てきたし、後半になったら2020年の労働環境というのがちゃんと出てきたので、最後まで見ようという気が起きます。

吉田:続編って必ず変化をもたらせてきたのに、これだけは13年前とまったく変わらないという、“変わらない絶望”みたいなものを感じたんですよね。

でも大泉…くるくるパーマが出てきたことによって、テンポもよくなったし、今の時代にようやく(追いついてきた)っていうのもあるんだけど。ただ、くるくるパーマの立ち位置もどうなんだろうなぁ?という。(春子とやり合って)あれだけ旭川とかに飛ばされてたわりに、まだ派遣に対しても喧々してたりっていうところとか、期待してた形とは違うかなと見てます。

木村:『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日)、『SUITS/スーツ2』(フジテレビ)、『半沢直樹』(TBS)と続編が多かった中で、これは“変えなかったパターン”ですよね。いい意味でも変わってないんだけど、悪い意味で伸びがなく、前作からのパワーダウンが見えるなっていうところがあります。

こういうのもアリなんだけれど、日テレはここまで古いものをもってくることはやらなかったはずなんだけどな…「ほしいんだな、数字が」と思ってます。

注目ドラマも続々…ドラマ制作陣へのエールも!

ほかにも、貫地谷しほり主演の医療ドラマ『ディア・ペイシェント~絆のカルテ~』(NHK)、瑞々しいキャストが揃うラブストーリー『いとしのニーナ』(フジテレビ)などの注目ドラマが。

梅田:『ディア・ペイシェント~』は、モンスターペイシェントの田中哲司さん、怖すぎるだろうっていうぐらい(笑)、ホントに怖いんですよ。

で、『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ)という、「ありがとう」ってなかなか言われない立場(=薬剤師)を描く人間ドラマがある一方で、こちらは「ありがとう」と言われることが医者がつぶれていくことになるんだっていうことも描く、医者の物語なんですね。

だから、「感謝」というところをどう見るか?という。これ、両方をセットで見るとかなり面白いんじゃないかと思うので、セット見をオススメします。

吉田:医者には医者の言い訳というか持論もあって。患者さんをS・M・Lとかこっそり区分けして診てるとか。そういう本音もまったくないと、医者は神様みたいになっちゃうわけじゃないですか。

そのあたりをうまく書いているし、千晶(貫地谷)の母親が認知症になってっていう、家の事情の話もちゃんと入れて、主人公はそれなりのものを背負っている。罪悪感も持ちながら、でも医者としてこれからどう生きていくのか、どう対処していくのかっていうところで、私はすごいできたドラマだなぁと。

木村:ここまで嫌悪感に比重を置いた作品て、民放ではもちろん放送できないし、NHKでもBSプレミアムでやればいいんじゃないかというぐらいのドラマで。

金曜の夜10時放送で、これから休日が始まるっていう時に、めっちゃ(気分が)重くなりますよ。田中哲司さんが出てきたら、もう(チャンネル)変えちゃいますよ(笑)。というぐらい気持ち悪いです。

吉田:『いとしのニーナ』(フジテレビ)は、岡田健史が主演なんですが、彼の親友が、通学時に一目ぼれした女の子を拉致してしまうという物語。そこからどう展開するかっていう話なんですけど、これからぐいぐいくるだろう若手実力派を揃えて、密かなる物語っていうところでドラマを作っていて。おばさんも若返ってそこに参加しようと思って、今見てるんですよ。

そして最後は、ドラマを愛する三方らしい、愛あるエールで締めくくった。

木村:ドラマ班は、たいへんですよ。

梅田:みなさん必死ですし、でも「いいもの作ろう!」っていう気概で踏ん張って頑張っているので、もうホントに「楽しいもの見せてください!」って祈るだけですね。

吉田:現場の苦労はちゃんとわかってます。ドラマの現場だけではなく、日本、世界が全部たいへんです。だからこそ私は、厳しくクオリティを求めたいですね。