出た!
医療ドラマあるある『大病院の息子物語』
息子はコンプレックス持ちで、どこか屈折してて、大病院の医院長である父はプライド高めで、息子を認めてなくて、そんな感じだから二人には確執があって、対立してて…なんだけど、なんやかんや息子は父に憧れてたとかいう人情もあり、最後は父が息子の頼もしい姿を目の当たりにして、関係修復に至りましたとさ…
って、表面だけをなぞれば、もう何度観たかわからない、お決まりの『大病院の息子物語』だって言うのに、「アンサング・シンデレラ」=“薬剤師”を通したドラマだと、なるほど、まさかこんな感じになるんですね。
これまでのそれを踏襲しながらも、より共感しやすい感情の持っていき方で、病の原因を探る謎解きなんかも入れつつ、加えて葵のいつもの“おせっかい”も巧みに絡ませながら、わかっちゃいるけどやっぱり感動!な仕上がりにまで持っていく…って、見事!
そもそも、なんだかオタクっぽい感じなんだけど、どこかに気品が漂ってた羽倉くん(井之脇海)が、大病院の息子ですって?…納得!って感じだったし、これまで解説要因としても万能だった“知識のひけらかし”が、医師になりたくてもなれなかった…という過去が今回加わることで、薬剤師としてのプライドを保とうとしていたのかな…とか、それ以上に努力して必死に勉強してたんだな…とか想像しちゃって、ちょっと涙腺緩むよね…。
ってな感じで一つ一つの事象に、様々な意味、要素が隠れてて無駄がないんですよ。うざいかもしれませんが、その他ちょっと細かく拾っていきますね。
・大病院の経営者で医師なのに、“わざわざ”息子が薬剤師として働く別の病院へ入院してくる
→“わざわざ”の理由には、自分の病院には入院したくないという言及あり
→母が父と息子を繋げようとする想いもあり
→また、自分の病気が認知症?と気付いており、そのことを自らの病院内に知られたくない思いもあり
・葵が父の認知症の症状に対して、医師よりも早く気が付くという“お決まり”
→葵のネームプレートを見て「なんだ薬剤師か…」という、またしても薬剤師を追い込むセリフの“お決まり”もセットでダメ押し
→父がネームプレートの“薬剤師”に反応したのは、息子が薬剤師だから
→「なんだ薬剤師か…」には、医者の跡を継ぐことが出来なかった息子への想いも込み
・「薬剤師は医者の奴隷だ」というセリフ
→前回の第3話、病院薬剤師は人気がないという会話の流れの中で羽倉が…「病院薬剤師は医者の奴隷、なんていう人もいますしね…」と、不穏な効果音付き&羽倉ワンショットで超意味深に言い放っているシーンあり
→前回からこのセリフがつながってる!
・羽倉が”医師免許不合格組で薬剤師”という設定
→そういう流れで薬剤師になった人もいるんだ…という知られざるトリビア
→そしてそんな具体的事例がわかったことで、羽倉の医師になりたくてもなれなかったという、コンプレックス、屈折がより響いてくる
・父が“脳神経外科医”という設定
→第一線で活躍してきた医師だからこそ自分が認知症であることを診断できない。認めたくない
→つまりMRI検査を受けていない
→つまり本当に認知症なのか?正しい診断はできていない
・母が付けていた“手作りのお薬手帳”
→葵、薬を複数飲んでいた患者さんから認知症の症状が現れたという事例を思い出す
→母の“手作り”なので、薬剤師、つまり”薬のプロ”のチェックが入っていない
→医師と薬剤師がWチェックをすることで、安心安全な薬が患者さんに届く
→医師が”上”で、薬剤師が”下”、ということではなく、プロたちがそれぞれ責任を全うすることで患者さんは救われている…
ああ、美しい。最後の最後、いつもの“薬剤師下げ描写”を美しく挽回していく流れ、それに至るまでにくっついてきた物語、事象に無駄がなさ過ぎて、全てに意味があって、それで、薬剤師の存在意義も改めて丁寧に提示するオチにつながるんだもの。見事…だと思いません?
で、散々細々拾っておきながら、そのストーリーに加えて、さらに、あのいつもの中華料理屋“娘娘亭”の娘(久保田紗友)の摂食障害と、そのおじいちゃん(伊武雅刀)のステージ4の胃がんのお話も挟みつつ、第1話から登場してきた毎回オシャレな洋服を身にまとう心春ちゃん(穂志もえか)との交流、いい人なんだか怪しいんだか謎過ぎる七尾副部長(池田鉄洋)の企み、陰謀的なもの匂わせつつ、いつもの感動的エンドロールはなし…。
なんでやねん!って若干憤るものの、なぜならいつもの患者さんの”その先のドラマ”は、羽倉くんの今そのもの、現在進行形で続いているドラマがそれで、そしてまた “娘娘亭”の物語は次回以降へと続いていく…エンドロールが無いことにもちゃんと意味がある…って、もうぐうの音も出ないほどの、意味付けと無駄のなさ…。なんだか、ぐったりですよ…。
そいでもって今回。このドラマの本質を突いたセリフが2度登場したので紹介しますね。
患者さんが何も話してくれない…と嘆く葵に対して、瀬野(田中圭)が一言。
「医者は患者を診る。薬剤師は患者の生活や周りの人たちも全部診る」
葵のおせっかいのルーツには過去の“何か”が隠されてそうな雰囲気も醸しておりますが、このドラマの、葵のスタンスは、これに尽きるんですよね。それがリアルの世界ではありえないとかそういう話ではなく、このドラマの世界では、葵は、この精神を貫いてるんです。
もう一個。
葵はなぜ薬剤師としてそこまでやってしまうのか?心春ちゃんが端的に
「葵さんはそういう人なの」
それそれ!
僕はこのドラマを見てて、いちいち「葵、ありえないだろ…いやでもそんなこともない…病院薬剤師のリアルを知ってるわけでもなし…ま、楽しく面白くドラマ観てるからいっか…なーんて、これまで若干気にしてた引っかかりを、心春ちゃんがドンズバで言ってくれました。そうなの「葵って、そういう人!」まさに!で、石原さとみさんが“そういう人”にしか見えない、圧倒的な説得力で演じてるから、“ありえない”なんて、このドラマに対してのツッコミは野暮なんですよ。
っというわけで、次週…。
ステージ4のがん患者さんって、さすがに薬剤師がどうこうできる案件じゃなくね?っていう、超難題をどんな風にドラマとして見せてくれるのか…もう楽しみしかないですよね?
text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)