公開中の映画「#ハンド全力」で、熊本地震をきっかけにハンドボールをやめてしまった主人公・マサオ(加藤清史郎)の親友・タイチを演じている甲斐翔真。オール熊本ロケで目の当たりにしたその後の被災地や、そこで生きる人々の現状、そして、甲斐自身が今、全力を注いでいるものについてインタビューした。
――ハンドボールを扱った作品って珍しいですよね。
僕の通っていた高校のハンドボール部は全国大会に出場するぐらい強かったので、応援に行ったこともありますし、僕にとってはそんなに遠くないスポーツでした。
――できれば、甲斐さんがプレーしている姿も見たかったです。
タイチは震災後に富山へ引っ越したという設定なので、みんなと一緒にプレーできなかったことが、僕としても心残りです。
――これまでハンドボールに関わったことは?
高校生の頃はサッカー部に所属していたので、体育の必修科目でやった程度なんですが、結構本格的にやっていました。シュートが得意でしたね。映画に向けた練習が事前にあって、僕も1回だけ参加させてもらったんです。指にテーピングをたくさん巻いて、ボールを久々に持ったら血が騒ぎました(笑)。
被災地は別世界のような感覚。でも、仮設住宅で暮らす人たちは温かさにあふれていた
――撮影はすべて熊本で行われたんですよね。
はい!熊本は震災の時に炊き出しで初めて行ったんですけど、役所の方にいろいろな場所へ連れて行ってもらったりなど本当に良くしていただいて、縁のある街だったんです。だから、出演が決まった時もまた熊本へ行けるんだって、嬉しかったです。
――実際に見た被災地の様子はどうでしたか?
別世界にいるような感覚でした。建物が崩れるほどの地震を僕は体験したことがなく、被害を受けた現場へ行くことも初めてだったので、改めて自然の怖さを思い知らされた瞬間がありました。映画を観てるんじゃないかというような光景は、今でも目に焼き付いています。 そんな経験があったからこそ、被災してハンドボールができなくなり、仕方なく転校していったタイチの気持ちが理解できたのかなと思います。
――撮影は仮設住宅でも行われたんですよね。
実際に住んでいる方々にエキストラとして参加していただいたんですが、皆さん、温かさであふれていて、マイナスな感情をまったく感じませんでした。
――生活は不便になったかもしれないけど、人とのつながりは濃くなったんでしょうね。
事前に被災地を見ていたので、そこに住んでた方たちなんだな、それでも今、こうやってたくさんの笑顔が目の前にあるって思ったら、僕も頑張らなきゃとパワーをいただきました。
――宴会のシーンはとても楽しそうでしたね。
大まかなセリフは決まっていましたが、皆さんのやりとりはほぼアドリブなんですよ。だからこそリアルで、僕も大好きなシーンです。カラオケも歌いましたしね。
――歌が得意な甲斐さんだからこそ、用意されたシーンなのかなと感じました。
マサオのお母さん役のふせえりさんと「また逢う日まで」をデュエットしたんですが、まったく世代じゃない曲なので(笑)、熊本のカラオケに1人で行ってしっかり練習をしてから臨みました。
高校生ライフを満喫しているマサオたちが羨ましかった
――ハンドボール部員役の皆さんの様子をそばで見ていて、どんなことを感じましたか?
坂東龍汰くんはかなりの陽キャラで、役柄のまんまでした。彼がムードを作って、そこにみんながのっかっていく感じ。みんなちゃんと“高校生”でしたね。高校生らしい高校生って、今、あまりいないじゃないですか。映画の中のマサオたちは憧れるぐらい高校生ライフを楽しんでいて、そんな空気感を出せた彼らはすごいなって思いました。ワチャワチャやっているシーンとかうらやましかったです。
――銭湯のシーンのワチャワチャ具合はすごかったですね(笑)。
まわりの大人たちをまったく気にしないノリがとてもリアルで、熊本へ泊まり込みで行ってる高揚感とか、ハンドボールの練習を積み重ねることで生まれたチーム感にあふれていて、ここは僕としても注目していただきたい場面です。
――試合のシーンはいかがでしたか?
経験者は少ないはずなんですけど、かなり特訓したんだろうなという印象でした。ぽっと出のチームなので、上手すぎてもダメじゃないですか。弱小だけど、めちゃくちゃ頑張ってる感が出てて、すごいなって。僕だったら、設定をつい忘れて本気になっちゃいそう(笑)。
SNSで目にした情報が真実なのか嘘なのか、見極める力が大事
――ハンドボールの他、SNSにまつわる物語でもありましたが、普段“映え(ばえ)”を気にして写真を撮ることはありますか?
Twitterは告知の場として使ってるんですけど、Instagramは写真がメインじゃないですか。オシャレな雑誌みたいな雰囲気でやりたいなと思い始めているところです。
――「いいね」の数は気になりますか?
どれだけの方が見てくださってるのか指標にはなりますけど、それよりもコメントを読んで、皆さんの応援にパワーをもらっています。
――「これはバズった」と感じた投稿は?
初めての試みだったんですけど、コロナの自粛期間中、Instagramに歌を投稿したんです。わりといい反応をいただいたので、これから先もやっていきたいなと思っています。
――SNSとの付き合い方において、大切にしていることは?
この映画でも感じたんですが、SNSはたくさんの人とつながれるメリットがある反面、誰でも簡単に嘘をつけてしまう怖さもあるじゃないですか。一つの記事やTweetを目にした時、それが真実なのか嘘なのか、見極める力をもっていたいです。
ネットで読んだからってそれを鵜呑みにして情報を広めることは、知らず知らずのうちに自分が嘘を広めることになりますし、こうやって自分の口で発言したことには責任が生まれるけど、SNSには責任がないことがほとんど。だからこそ、責任をもって発信したいと思います。
高校生は何でもアリ。泣いて痛みを味わうことも人生の勉強
――タイチの「声ば出さんと見つけられんぞ」というセリフがとても印象的でしたが、甲斐さん自身は、普段きちんと声(意見)を出せていますか?
そのセリフは、僕も「そうだよな」って考えさせられました。声に出さないと、行動に移していかないと物事は進まないんですよね。でも、難しいよなって。
僕は自分の気持ちをあまり外に出す人間ではなく、頭の中で考えて考えて発言するタイプなので、思ったことをスパッと口に出せる人がすごく羨ましいです。
――現在の自分にハッシュタグをつけるとしたら?
今はやっぱり仕事なのかな。僕は趣味イコール、仕事なんですよね。仕事をしていると落ち着きますし、忙しくても全然構わない。だから「#仕事全力」です。
――ミュージカルの出演も控えていますから、全力の甲斐さんに期待したいと思います。最後に「#ハンド全力」を楽しみにしている皆さんへメッセージを!
この映画はハンドボールに全力をかけたマサオたちの青春を描いているんですけど、彼らが再びハンドボールに向き合うきっかけになったのがSNS。僕が試写を見て最初に感じたのはSNSの怖さでした。自分では友達へ向けて発信したつもりが、北海道やアメリカにいる人だって見ることができる。立場は関係なく、責任をもって発信することの大切さをこの映画から学んでほしいと思います。
とは言いつつ、高校生はなんでもアリだという自由さも描いているので、人を傷つけることさえしなければ、好き勝手やって、泣いて痛みを味わうことも人生の勉強なんじゃないかなと。僕の高校時代はサッカー一筋で、仲間とバカ騒ぎをすることもなかったので、若いうちにしか体験できない貴重な時間を過ごしてほしいです。
「#ハンド全力」
シネ・リーブル池袋、イオンシネマほか全国公開中
公式サイト ©2020「#ハンド全力」製作委員会
撮影:河井彩美