石橋貴明が文化人、ミュージシャン、タレント、アスリートなどジャンルを問わず“話してみたい”ゲストを迎え、焚き火の前でじっくり語り合うフジテレビ『石橋、薪を焚べる』。

9月1日(火)の放送は、これまで2000曲以上の詞を手がけた作詞家・松本隆が登場する後編。

前編では、松本の音楽のルーツや伝説のバンド「はっぴいえんど」解散秘話、作詞家に転向した理由などを語った。

後編は、ライバルの存在や、松田聖子ら錚々(そうそう)たるアーティストへの詞の提供、作詞家として一番うれしかったことなどについて振り返った。

作詞家としてのライバルは「120%、阿久悠」

まずは、石橋が“ライバルの存在”に斬り込んだ。

石橋:作詞家としてのライバルっていうのは?

松本:やっぱり阿久悠さん。120%、阿久悠。あの人と戦えて、幸せだったなと思うし。実際に戦ったのは70年代だけですけど。ずっと阿久悠さんが漬物石みたいに頭上にいたんで(笑)。

石橋:「打倒!阿久悠さん」みたいなところあったんですか?

松本:「打倒」はないですよ。向こうの方がずっと年上だし、だって『スター誕生』を全部プロデュースしていたし。この人と戦うんだろうなと思って、僕の人生はそれでほぼ終わったって感じ。

石橋:阿久悠さんの歌で「これはやられた!」っていうのはあるんですか?

松本:「舟唄」とかさ。

石橋:八代亜紀さん。

松本:演歌が多いけどね。ああいうのは書けないから。

松本は「僕には、ああいうのは書けない」と、ライバルである阿久悠の詞の世界観に敬意を見せた。

演歌の舞台をヨーロッパに移して森進一の「冬のリヴィエラ」を作詞

演歌つながりで、森進一の話題も。

石橋:でも森進一さんとかともやってますよね。

松本:「冬のリヴィエラ」は、ちょっとヨーロッパに舞台を持っていけば、なんか自分にも書けるかなって思ってさ。

石橋:まぁ、「冬のリヴィエラ」を演歌と言っていいのかどうかっていう。

松本:演歌じゃないと思うね。このあと3部作でさ、細野晴臣が「紐育物語」っていうのも書いて。それも名曲なのよ。名詞、名曲。

石橋:森さんって、そういった意味ではすっごいチャレンジャーですよね。

松本:あの人は、ポップな人だと思う。そういう意味で。

石橋:すごいですよね。

松本は、当時、森進一のファンから「いい加減、演歌に戻ってくれ」という声が届いていたことも明かした。

「セクシャルバイオレットNo.1」は、実はテイク2

石橋は、さまざまなアーティストに詞を提供している松本の制作過程についても聞いていく。

石橋:どういう感じで曲が出てくるんですか。全然違うタイプの人から「松本さん、詞をお願いします」って依頼が来るわけですか。

松本:ですね。

石橋:そういうときって、どういうヒントで?例えば、桑名(正博)さんの「セクシャルバイオレットNo.1」って…。

松本:あれは、化粧品のタイアップだからタイトルがついていたんですね。

石橋:もう最初からついてるんですか?

松本:それを、最初は隠して上品にしようと思ったんだけど…うまくいかなくて。(完成品の)テープが上がってきたんだけど、気に入らなくて(筒美)京平さんに直電して「もう一曲作ろうよ」って。

石橋:え!一回できたのをボツにしたんですか?

松本:ボツにしたの。ちょっとそういう、とがったところ、あるんですよ(笑)。

石橋:じゃあ、「セクシャルバイオレット」テイク2なんですね、これ。

松本:そうですね、もう1曲あるはず。

ジャニーさんから「マッチで“ミリオン”」のリクエスト

石橋:マッチ(近藤真彦)の「スニーカーぶる~す」は?

松本:マッチはほら、たのきんトリオでトシちゃん(田原俊彦)がバカ売れしてたから、それを抜かなくちゃいけなくて。ジャニー(喜多川)さんから「ミリオン(を出してくれて)」って言われて。「ミリオン」と言ったってね、簡単に出ないじゃないですか。で、京平さんと頑張って。

石橋:これは(詞と曲)どっちが先だったんですか?

松本:サビだけ作ったような気がする。「ジグザグ」っていう。

石橋:サビだけ作って、それで…。

松本:京平さんに渡して。

石橋:そういうやり方もあるんですか!

松本:この辺になるとね、本当に阿吽(あうん)で。同一人物化してるんだよね(笑)。筒美京平と松本隆って。

当時は、今のようにインターネットが普及していなかったので、車で10分ほどのお互いの自宅を行き来しながら「実は、ご近所組合で作っていた」と、笑いながら明かした。

声を聞けば「これはミリオンヒットする」と匂ってくる

また、寺尾聰の「ルビーの指環」については、レコーディングした時点で「これはミリオンヒットする」と確信があったそう。

松本:「スニーカーぶる~す」がミリオン行った直後で、同じ「匂い」がしたから、「これは行くな」と思って。

石橋:やっぱり「匂い」なんですか。

松本:「匂い」ですね。

石橋:これね、野球で江夏豊さんも言うんですよ。相手の作戦や動きが「匂う」んですって。松本さんも、曲や詞で売れるものは「匂う」んですか。

松本:わかりますよ。声聞けばわかる。

「そろそろやってくれるんじゃないか」細野晴臣に作曲依頼

「この人は売れる」、「これはいくらやってもダメだな」などが「匂う」と表現する松本は、細野晴臣とタッグを組んだ「ハイスクールララバイ」についても言及。

松本:萩本欽一さんの番組で「イモ欽トリオに歌わせたら売れるんじゃない?」と誰かが言ったんでしょうね。僕のところに話が来て「作曲家どうする?」って聞かれて。それまで、大滝(詠一)さんとは何かやっていたけど、細野さんだけちょっと途切れてたの。(それで)そろそろ頼んだらやってくれるんじゃないかなと思って。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)でブレークしてたから。

石橋:この時はもう、YMOですよね。

松本:今、調子いいはずだから、そういう時に頼むとやってくれるんじゃないかなと思ってね。

石橋:これも匂ったんですか?

松本:匂いましたね。

石橋:えー、全部匂ってるんじゃーん、もう。

ユーミンの作曲で松田聖子を「大人にしたかった」

松本の鋭い嗅覚に驚きつつ、石橋は、ヒットを飛ばした松田聖子への作詞についても聞いていく。

松本:この子の声は僕の詞に合うんだけど、違う人(の歌詞)で売れてブレークしているから「(依頼が)一生来ないだろうな」ってあきらめてたんだけど、ある日、オファーが来たわけ。最初はアルバムの1曲、テストでやらせてくださいって。それは地味な曲だったんだけど、その次(に来たの)が「白いパラソル」ですね。パパパッと決まって。

石橋:パパパっと決まっちゃうんですか、そういうときって。

松本:うん。

石橋:「赤いスイートピー」「制服」、ユーミン(松任谷由実)が書いてるんですよね。80年代のユーミンはもう、大スーパースターですよね?

松本:うーん、どうだろう?そうかな(笑)。

石橋:そこで、このアイドル当時ナンバーワンの聖子ちゃんの曲って。この発想は、また松本さんが「匂った」んですか。

松本:とにかく大人にしたかったんで。

石橋:聖子ちゃんを?

松本:うん。

石橋:82年じゃ、聖子ちゃん、まだ21(歳)。

松本:18歳と21歳ってだいぶ違うじゃないですか。その違いを作品にしたいなって思って。18歳の時と、19歳の時と、20歳の時と、それがリアルに描き分けられたら面白いだろうなって思ってやってみたらうまくいったんですよね。

ここでも松本は、「匂い」を大事にしたといい、「そうしたら面白いんじゃないかって。だってモデルがないからね、それまでの」と語った。

点を打つだけではつまらない。その次の点をどこに打つかに頭を使う

そんな中、松本が「匂い」ではなく「戦略」について語る場面も。

石橋:聖子ちゃんやっていて、薬師丸ひろ子ちゃんもいっちゃうってのは、どうなんですか、これ?

松本:問題ありますよね(笑)。聖子と(中森)明菜は歌手対決だから、明菜(に携わるの)は遠慮していたのね、初期の頃。で、薬師丸さんは女優さんだからこれはバッティングしないんじゃないかと僕は思って。

石橋:また匂ったんですか。

松本:うんとね、その辺はうまくいくんじゃないかと思ってね。角川映画と薬師丸ひろ子と、そういう感じが。

石橋:なるほど、角川映画ですね、そうですね。そういう…点が線になっていくんですね。

松本:そうです。僕の場合は、点と線の戦略はありますよ。1つ仕事が上手くいくでしょ、でもそれだけだと1ショットで終わっちゃうからつまらないんですよ。そのあとにどこに点を打つかっていうのに、すごく頭を使います。

7年間のブランク「賞味期限切れているのでは」

松本は、7年間のブランクと、作詞家人生で一番うれしかったことについても言及。

石橋:ずっと作詞をやってきて、作詞家になってこれは非常にうれしかったなと思ったことは?

松本:一番うれしかったのはね「硝子の少年」が売れたことかな。

石橋:え?これだけ売れていて?

松本:その前にね、ブランクあったんですよ。疲れちゃって一回抜けてるんですね。

「その間、全部秋元康のところに作詞の依頼がいっちゃった」と笑わせた松本。70年代、80年代と走り続け「燃料切れ」を感じていたという。

松本:このまま、10年でも続けることもできるけど、自分ではそれは面白くない、自分にとってカッコイイことじゃないと思ったんで。

石橋:電源で言うと完全にオフったんですか。

松本:オフったね。

石橋:なぜまたそこでスイッチをオンにしたんですか?

松本:うーんと、そろそろ経済的にちょっとやった方がいいかなと(笑)。

石橋:(笑)。ちょっと働かないと、と。

松本:7年くらいブランクあるから、昔売れたと言っても、今売れるとは限らないじゃない。その間に時代もどんどん変わっていったし、「賞味期限あるのかな、切れてるんじゃないかな」と不安に思いながら恐る恐るやったんですよ。そしたら、それまでの僕の作品で一番売れたのが「ルビーの指環」だったのね。それをKinKi Kidsが抜いちゃったんですね。

石橋:「ルビーの指環」は81年ですからね。81年のキャリアハイを、97年にまた塗り替えるという。

松本:しかも、7年ブランクあって。

石橋:すごいな、何だろうな、やっぱり余裕なのかな。

松本:余裕ないよ、全然。

石橋は、「急にバンと止めちゃう、オフっちゃうのは、俺にはすごいことだと思うんだよな~」と松本の行動力に感心していた。

作詞家として「やり残したことはない」

石橋:作詞家としてこれだけはやり遂げるぞというのはあるんですか?

松本:やり残したことはもうないのね。やりたいことは全部やったと思うんだけど、これからできるとしたら、鈴木茂のアルバムとか、南佳孝のアルバムとかはできるんじゃないかなと思うんだけどね。

石橋:また、ここ(初期)に戻るんですね。

松本:渋い方(笑)。はっぴいえんどって、「売れなくても良いから、いいもの作ろうね」ってバンドだったから、そういうのもありかなと思うね。

石橋から「それは匂うんですか?」と聞かれた松本は、「別に匂わない」と笑った。