『やまとなでしこ』(フジテレビ)、『ハケンの品格』(日本テレビ)、『西郷どん』(NHK)など、人気ドラマの脚本を手掛けてきた脚本家の中園ミホが、相性や人間関係にフォーカスした占い本「相性で運命が変わる 福寿縁うらない」(マガジンハウス)を上梓。

脚本家になる前は占い師だった中園は、占いを「未来をより良いものにする手がかりをつかむ上で、とても役立つもの」と解説。自分だけでなく相手のキャラクターや運気を知ることで、人付き合いのコツがつかめ、仕事も恋も回り始めるという。

<【前編インタビュー】『やまとなでしこ』『ハケンの品格』『西郷どん』ほか大ヒットドラマの裏に占いがあった!?脚本家・中園ミホが教える“開運アップ”術>

後編では、自身の運命を変えた出会いと相性がもたらす意味、そして中園が脚本に込める思いを聞いた。

<中園ミホ インタビュー>

――中園さんの占いでは、自分の運気だけでなく、相手との相性を重視されていますね。

占いでは、相性は「良い・悪い」で語られがちですが、相性というのは、その人との出会いの意味を教えてくれるものです。私の占いでは、相手との相性も、運気と同じ12の言葉で表しており、相手の干支によって、その人が自分にとってどんな役割を担ってくれるかがわかります。

日常のストレスって、人間関係のことがほとんどだと思うのですが、相性がもたらす意味を知っていれば、それも楽しく乗り越えられるかなと思います。たとえ上司や同僚、仲間内に、「ちょっと苦手だな」と思う相手がいても、その出会いにはすべて意味があるんです。

――気になる人との相性がいまひとつでも、マイナスにとらえるのではなく、付き合い方のヒントにしたり、学びをもらって成長の糧にすればいいということでしょうか。

そうだと思います。私のケースで言えば、プライベートでも仲良くしていただいている林真理子さんは、私にとって楽ちんな相性ではないんですよ。林さんとは、「不機嫌な果実」という林さんの小説のドラマ化で脚本を書かせていただいたときに初めてお会いしました。

あるとき、私は相変わらずぐーたらと女優さんたちとお酒を飲んでいたら、林さんから電話がかかってきて、「中園さん、今何してるの?」と。「こういう人たちとお酒を飲んでますー」と答えたら、ぴしゃりと「中園さん、人は常に高みを目指さなきゃダメよ」って言われたんです。もうその言葉、一生忘れないです。

楽しく酔っぱらっているときにそんなことを言われて、正直「こわー!」とも思いましたけれど(笑)、その厳しさは私に一番欠けている部分なんです。林さんて私にこういうことを言ってくれるんだ、と思って占いで調べたら、私にとって、人生を生きる上で緊張感を与えてくれて、努力しなきゃと思わせてくれる「未明」という相性でした。そのあとも、ずっと影響を受けています。

林真理子は、常に高みを目指している努力家「林さんのそばにいるだけで、怠け者の自分がちょっと働き者になります」

――2018年の大河ドラマ『西郷どん』でも、林真理子さんとタッグを組まれました。

自分には絶対無理だろうと思っていた大河ドラマを書くことができたのも、林さんに叱咤激励されたからです。林さんは私にとって、愛のムチをくれる方。ご本人がたいへんな努力家で、常に高みを目指してらっしゃるので、林さんのそばにいるだけでも、怠け者の自分がちょっと働き者になります。

――林さんのほかにも、ターニングポイントになった出会いはありますか?

脚本家の先輩・大石静さんとの出会いがそうです。大石さんと親しくなったのは、『やまとなでしこ』(2000年)のあとなかなかヒットに恵まれず、焦りを感じ始めていた頃です。当時の私は、頑張っているのにパッとせず、この先どういうドラマを書いたらいいかもわからなくなっていました。

そんなとき、占いがお好きな大石さんが、「ごちそうするから占って」と、食事に誘ってくださったんです。大石さんはとても気さくで話しやすい方で、ほぼ初対面だったにも関わらず、私の仕事のグチを親身に聞いてくださいました。仕事に行き詰まり、何が書きたいかわからなくなっていることや、将来への不安を正直に打ち明けました。

そうしたら、「中園さん、それはNHKね。NHKに行きましょう」と、民放テレビ局での仕事が中心だった私をNHKに連れて行き、プロデューサーに紹介してくれたんです。そこから『下流の宴』(2011年)という林真理子さん原作の連ドラや、『はつ恋』(2012年)という向田邦子賞をいただいた連ドラを書き、朝ドラ『花子とアン』(2014年)、大河ドラマ『西郷どん』の執筆へとつながっていきました。

人生の大恩人は大石静「大石さんがNHKに紹介してくださらなかったら今の私は絶対にない」

――同業のお仲間からの紹介で仕事が広がっていくのは、よくあることなのですか?

普通はありえないです。キャリアは違っても、同業者は基本、商売敵ですから。なのに大石さんは、その後、朝ドラや大河ドラマの依頼をもらって怖気づいていた私を勇気づけ、執筆のアドバイスまでくださいました。

占いでみると、大石さんは私にとって「老熟」という相性の方。自分に実力はついているのに「運気がうまく回らない!」というときに、その人のやるべきことに導いてくれる人です。あのとき、大石さんがNHKに紹介してくださらなかったら今の私は絶対にないですし、大石さんは本当に人生の大恩人なんです。

――中園さんのように、その時々でやるべきことに懸命に取り組んでいれば、人との出会いも運気として巡ってきて、自分の運気をより高めてくれるのでしょうか。

そうかもしれません。でもそれ以上に、私がこうして脚本家を続けていられるのは、自分の運気だけでなく、周りの人たちの運気をすごくもらって生きているからです。

今思うと恥ずかしいんですけれど、子どもの頃の私は、玉の輿に乗ってラクして生きていきたいと思っていました。でも今の私は、まったく逆の人生を歩んでいる。それに、誰かに寄りかかって楽勝の人生送りたいと思っていた頃は、自分のことをあまり好きじゃなかったです。でも今は、なかなかよく頑張ってきたじゃないか、って。

こういうふうに私を修正してくれたのは、ホントに出会った人たちの運気と縁のおかげだし、まさに「縁は運」。幸運とかチャンスって、人が運んできてくれるものだとつくづく思います。

――運気と縁を活性化させるコツみたいなものはありますか?

なりたい自分を思い描くことは、みんなにやってほしいです。やっぱり、自分がどこに向かいたいのかわからないと、運気のつかみ方もわからなくなってしまいます。「なりたいものが何もないんです」という悩みもよく聞きますが、何も浮かばない人は、とりあえず、5年後の自分はどうなっていたらワクワクするか、というのを一度真剣に考えてほしいですね。

そして、なりたい自分が定まったら、それに向かって運気をうまく使っていけばいいんです。たとえば、私が占い師から脚本家に転身したときのように、1ヵ月後から運気の低迷期「空亡」に入るとわかったら、そのまえにやりたいことに挑戦しておこう、とか。すでに空亡に入っていたら、すぐには結果は出ないかもしれないけれど、これを苦労して乗り越えれば、必ずそのあと上がっていける、と気持ちを切り替えるとか。

やりたいことが見つからないという方も、好きなものや得意なこと、努力しなくても人よりうまくできることがきっとあるはずです。そういうことを始めるだけでも、運気は回り始めます。そして、仲間に出会ったら、人に対しても自分ができることをしてあげることが大事です。そうやって動くことで運を人から人へ流せば、私みたいにもともと持っている運が弱い人でも、なんとかなっちゃうという気がします。

恋人に限らず、人間関係は「脱皮する」「自分が成長すれば、友達もどんどん変わっていきます」

――では、前向きな出会いとは逆の、いわゆる“腐れ縁”から抜け出したいときは、どうすればいいですか。

そういう相談もすごくよくされるんですけれど、腐れ縁の彼氏とは、「とりあえず一回別れてみれば?」というアドバイスを占い師時代からよくしています。「幸運を入れるためには、何かを手放してスペースを作らないと入ってこない」というのは、私の師匠がよく言っていたことでもあります。実際、腐れ縁を一回きれいにすると、ほかのものが入ってくるんですよね。

恋人に限らず、そもそも人間関係は「脱皮する」もので、自分が成長すれば、友達もどんどん変わっていきます。私は占いをやっていたから特にそう思うのですが、その人の運気が高まると、周りに集まってくる人も変わっていくのはとても自然なことです。

たとえ一度離れても、それぞれの場所でお互いが成長できれば、もう一回出会うこともあります。そのときには、とても豊かな関係を築けるのではないでしょうか。

――自分がどんな状況に置かれても、迷いながらも自分を信じて前に進むあり方は、中園さんが書かれるドラマの主人公たちの姿勢にも通じているように感じます。『ハケンの品格』(日本テレビ/2007年、2020年)のヒロイン・春子(篠原涼子)なども、逆境を成長の糧にしていますよね。

なぜああいうヒロインが生まれたかというと、当時、派遣さんにいっぱい取材を重ねる中で、派遣という立場で頑張る人たちのつらさや本当の思いを知ったからです。みんななかなか本音を言ってくれなくて苦労したんですけれど、何か月も一緒にお酒を飲み続けたら、一人の子がセクハラの話をしてくれて。そのとき、そこにいた全員が泣いたんです。

弱い立場の人たちは、つらいことがあってもそれをプライベートな集まりでも言えないし、もちろん職場なんかじゃ絶対言えない。だったら、みんなが思っているけれど言えない本音を、スーパースキルを持つ派遣の春子に言わせようと思ったんです。スカッとして元気づけられるんじゃないかって。

ドラマが放送されて何より嬉しかったのは、取材した派遣の方たちはもちろん、日本中の派遣の方や働くみなさんから、「このドラマを見たから、明日も頑張ろうと思えます」という声が届いたことです。みんなが言えない本音を書いて、見る人を元気にするドラマをつくりたいというのは、この頃から常に思っています。

――作品によっては、50時間以上も取材をされるそうですね。

私にとっては取材がすべてで、そこで出会った人たちの言葉や経験をそのまま書いていますし、そういう書き方しかできないです。派遣のみなさんともいまだに交流がありますが、みんな年齢も上がってきたし、このコロナ禍で、彼女たちもますます大変です。

企画を考えるときは彼女たちの顔がチラつくし、「これは彼女たちが見てくれて元気になるドラマだろうか?」というのもいつも考えるようになっちゃって。特にコロナ禍になってからは、みんな元気になってほしいなぁって、祈るように書いてますね。

――先ほど、運気と縁を回すには、5年後の自分はどうなっていたら嬉しいか、を考えるとよいというアドバイスをいただきましたが、ご自身も5年後の目標をお持ちですか?

今パッと思ったのは、5年後は仕事をせずに、だらだらごろごろと好きなお酒を飲んでいたいなと(笑)。ところが、ドラマをつくるたびに関係者に取材をすると、話を聞いているうちに、また新たに書きたいものが出てきちゃうんです。

なぜか私、常に書きたいものが3つあるんですね。ずっと温めていた『7人の秘書』(テレビ朝日)というドラマを昨年書いて、ノルマが2本に減ったと思ったら、先日、新しいドラマの取材を通してまた書きたいものが1本増えました。その3つを書き終わるまでは脚本家をやめられないぞと思っているので、たぶん5年後も、「あ~まだ3つある」とか思って書いてるような気がしますね(笑)。

中園ミホ「相性で運命が変わる 福寿縁うらない」(マガジンハウス)
発売中
定価 1,450円(税込)

取材・文/浜野雪江