前回、エンドロールの衝撃で全部を持っていかれ、ごまかされそうにもなっちゃったけど、一体全体、結局、瀬野さん(田中圭)、どうなったんだろう…。
って始まった最終回。終了5分前――。
“萬津産婦人科医院”の廊下で仲間たちと話す葵(石原さとみ)。
葵のワンショットの被写界深度がやたら浅い…背景がやけにボケてる…葵のバックショット側は全然そんなことない、背景も全部ピント合ってるのに…葵側の背景だけがやたらとボケてる…うん、絶対来る!…来るよね?…間違いない!!…ピンボケした背景からのシルエット…
瀬野「葵ッ!」
キターーーー!!
瀬野、キターーーー!!
ってなったよね。2週連続でなったよね。そして僕らは心の中で、販田部長(真矢ミキ)のあの言葉を叫んだ。
わかる!
瀬野が生きてたの、わかってる!!
っというわけで、美しく決めたつもりが僕の前段はスベり気味ですが、間違いないのは、その瞬間、視聴者全員、キターーーー!!ってなったよね!ってことです。
だってその予感しかなかったもんね。今回舞台となった“萬津産婦人科医院”が、赤ちゃんが誕生する“生”の場所で、それと対比するようにチラつかせる瀬野さんの“死”?だったんだろうけれど、いやいやそれは考えすぎ…だし。
加えてその背景ピンボケシーンの前に、販田部長が「とっておきの刺客を送っておいた…」とか言っちゃってるからね。もう完全だよね。そうとしか思えなかったよね。むしろ分かり易すぎるくらい!!…とはいえ、そんなこたわかっちゃいるけど、わかっているからこその、キターーーー!!だったよね。
だけど、このドラマが凄いのは、キターーーー!!ってなってるのは僕らがそういう風に、勝手に盛り上がって大興奮しちゃってるだけで、演出自体は“瀬野さんは生きている”を特別にしない、さしてドラマも用意しない、むしろ当然で普通ってな感じで流してるとこですよ。
だって、その終了5分前までは、いつも通りの2エピソード…いや、ファーストカットから大自然の中で自転車を漕ぐ葵…『Dr.コトー』か!!ってな新鮮味、かつ産婦人科へ舞台は移った…っていう画的なニューステージ感はあったけれど、物語自体は何事もなかったかのように、いつものように、なんなら最終回だって言うのにそれすら演出上での盛り上がりをつけるそぶりもなく、最後の最後まで、時間たっぷり2エピソードを丹念に描いた点には、このドラマの覚悟を感じました。
それはつまり、葵という薬剤師は、もうお馴染みの“どんな患者さんであろうとも、同じように、丁寧に接する”という信念に基づいたキャラクターで、それをいかに物語で表現できるかに専念している…ってことなんですもん。だから今回は、最終回前だからって、ちょっとステージが変わったように見せてはいたけれども、それすらも利用する…“どんな場所でも”ってさらに意味を付け加えて見せちゃうんだからね。凄い。
それを象徴するかのようなエピソードが、妊婦の向坂さん(土村芳)が突然破水してしまい緊急手術になってしまう場面…。子宮収縮を抑える“リトドリン”がない!どうする!?っていうアクシデントの中で、葵は機転を効かせて“テルブタリン”を思い付き手配するんだけど(薬名ついつい言いたくなる)、それはこれまで萬津総合病院で培った経験あってのことだよね…、なにより日々あれだけ勉強しているからこその賜物だよね…って、目を細めた次の瞬間、お母さんも連れてくるのがいつもの葵!!どんな場所だって、いつだって葵は知識だけじゃなく、今患者さんに必要なものは何か?ちゃんと寄り添って考えるんだよね…。そしてそれはこのドラマらしさでもあって、知識パートも人情パートもどっちも丁寧に、具体的に展開させるから凄いんですよ。
で、また今回のエピソードもすっごく良いお話。最終回だからって気負いした感じは一切なく、いつも通りではあるんだけど、だからこそ余計に物語が入ってくるし、いい意味で最終回ってことを忘れる没入感。病気である自分を普通じゃないと悩んでいて、“薬を飲まないことで普通の人間になれるのでは…”と思い詰める描写なんて、病気と闘っている患者さんにしかわからない苦悩だな…なんて、考えさせられちゃったりしてるとこへ、そんな娘を過度に心配する母親(朝加真由美)のエピソードと、同室だったことで知り合った同じ妊婦さん(入山法子)との、誰だって悩みは一緒っていう友情物語も絡めて…最後の最後まで、本当にたっぷり、心温まる物語、堪能しました…。
そしていつも通りと言えば、エンドロール。最終回だからちょっと長めに用意されてたんだけど…小野塚くん(成田凌)も心春ちゃん(穂志もえか)も普通に働いてる…胸熱…なのはもちろん、あの不敵な笑みは一体何だったのか!?だった七尾副部長(池田鉄洋)は、実はただただそういう笑み、浮かべがち…っていうオチに笑い、第1話の葵のセリフをそのまま心春ちゃんへ繋ぐ相原ちゃん…もうホントに成長コンプリートじゃん!と感動し、いつの間にか付き合ってて、しかも別れた…という謎に生々しいエピソードが中盤に差し込まれた…んだけど2人の子どもを授かりましたとさ…と華麗にフィニッシュしてくる龍之介(井之脇海)・虹子(金澤美穂)カップルの驚き…等々。
どれも捨てがたいんだけど、やっぱり、俺たちの販田部長!!
もう無理感しかなかった、超巨額予算を投じる“ロボッツ”が待望導入!!!なわけあるかい!って本当ならツッコミしかないんだけど、最終回だからってやたらと見せつけてきた販田部長の辣腕ぶり、そして葵をわざわざ迎えに行った“販田部長の大冒険!”での可笑しさをこれでもかと見せつけられたら、ロボッツ導入おめでとう!!って拍手送っちゃうよね。そしてもう真矢ミキさん見たら「あきらめないで!」より「わかる!」って言っちゃうよね!そんな超愛すべきキャラクターになったよね!!!
っというわけで、始まる前はまた医療ドラマ?って若干げんなり…いや結構げんなりしてた僕でしたが、終わってみればこの通り、初回から大興奮!
これまでの“フジテレビ医療ドラマ”にはなかった新しさは、エンドロールの斬新さも含めて出ていたと思うし、このドラマがきっと目指していたであろう、“薬剤師さんへの目線”が確実に変わりました。
葵=薬剤師がすべてではないにしろ、薬剤師さんのありがたさを本当に実感しました…薬局で処方箋を待つときはこのドラマを思い出して「おっせーな」って絶対思わない、思えないドラマになったし、必ず誰が印を押したか?名前見ちゃうよね!
そういう意味でも、観て良かったなーと思える作品でした。
さてフジテレビ…救命救急、病院内抗争、離島診療、ドクターヘリ…、に薬剤師まで加わりましたが、次はどんな新ジャンルの医療ドラマを開拓するんでしょう?そこにも期待です。
text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)