さまざまな作品で輝き続ける宝塚歌劇団の元スターに、その秘訣やこだわりを語ってもらうインタビュー連載「宝塚OG劇場」。記念すべき第1回目は、星組トップ娘役として活躍し、2017年に退団した妃海風が登場。

在団中は「大海賊/Amour それは…」「ガイズ&ドールズ」「桜華に舞え/ロマンス!!(Romance)」などでヒロインを務め、キュートで明るい実力派として人気を集めた。退団後は舞台やミュージカル、朗読劇など活躍の場を広げ、10月9日(土)にはセルフプロデュースライブ「Magic of jazz II」を開催予定。

そんな妃海へのインタビューを前後編でお届け。前編では、随所に魅力が詰まった「Magic of jazz II」の見どころや、大好きだという演出の仕事について聞いた。また、タカラジェンヌOGといえば、オシャレで個性的なファッションも魅力のひとつ。そこで本連載では、それぞれの“こだわりの一着”も紹介してもらう。

<後編「妃海風 退団後は「怖くて怖くて仕方なかった」心を解放するために手放したこと」はこちら>
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お酒を飲んだかのように「うっとり酔える」ライブを

――10月9日(土)に開催されるセルフプロデュースライブ「Magic of jazz II」の見どころを教えてください。

皆さん、コロナ禍で外出が減り、おめかしをしてロマンチックな空間へ浸りに行く機会が、あまりなくなったと思います。私自身も、ずっとこの状況は寂しいなと思っていて。だったら、自分でロマンチックな空間を作ってしまおうと思ったんです。

そこで、今回のテーマは「お酒に合う」です。コロナ禍で、外食してもお酒を飲めないのってやっぱり寂しいですよね。だから、実際にはお酒を飲んでいなくても、飲んだかのような雰囲気になれる“うっとり感”を出したいと思って。

コンサートは大まかに2部構成になっています。前半は、1960年代のアメリカや日本のカルチャーがテーマ。この時代特有の、ロマンスや活力をお届けします。中でもメインは、日本の曲のメドレー。1960年代って「明日があるさ」とか「いい湯だな」とか、みんなが口ずさめる、すごく前向きな曲ばかりなんですよね。ぜひ皆さん、声は出さずに心の中で、その明るい言葉を口ずさんでもらえたらと思います。

後半は、ロマンスに特化しています。ムーディな映画曲を歌ったり、ミュージカルソングや現代の曲をちょっとジャズ風にアレンジしたり…。

今回は、管楽器が3つ入ったバンド編成になっています。管楽器が3つもあると、それはそれは豪華で、酔える音色が出るんです。

ーーこのコロナ禍で、多くの方が「酔える雰囲気」欲していると思いますか?

私自身もそうなんです。毎日、家と稽古場の往復だけで、服もメイクもこだわらなくなっていきました。でもコロナ前だったら、日常の所どころに「友達と表参道へランチに行く」とか「素敵なレストランへディナー行く」という、オシャレをするタイミングが盛り込まれていたはずです。そのために洋服を揃えようとか、ちょっといいリップを買ってみようか。私は、その世界に入り込むための、準備の時間も好きなんです。

だから今回のライブも、皆さんにはおめかしをして来ていただいて、「オシャレして行ってよかった」「今日は良い夜を過ごせた」と、いい感じに酔っていただきたいですね。

――妃海さん自身は、普段からお酒を飲むのですか?

もともと飲むほうでしたが、家で飲む機会は、コロナ禍になって減りましたね。どちらかというと、いい雰囲気の中で、美味しいお酒を飲むのが好きです。

今回のライブでは、私がプロデュースしたノンアルコールドリンクをご提供します。メニュー名は「嗚呼、酔いしれて。」。せっかくなら、本当にアルコールを飲んでいる感覚になってほしいので、スタッフの方に「すっごく強いアルコールみたいな喉越しにしてください」とオーダーをしているんですけれど(笑)、どんな仕上がりになるのでしょう…。ぜひ皆さんには、雰囲気だけでも「今日は酔っぱらったかも」と、思ってもらえればいいですね。

――お客様へのホスピタリティがあふれていますね。

宝塚時代に開催していたお茶会(※)のときから、プロデュースをするのが本当に好きなんですよ。どういう演出をしたらお客様が喜んでくれるか、お客様が入るところから、最後帰っていくところまで想像して考えるのが、すごく楽しくて。

(※)お茶会:非公式のファンクラブが開催する、タカラジェンヌとファンの交流会

皆さんが喜んでくれる姿を見るうち、調子に乗って…

――「プロデュースするのが好き」という気持ちは、どこから来ているのでしょう。

私、ディズニーランドと、“ミッチー”こと及川光博さんが好きなんです。どちらにも共通するのが、完全なるエンターテインメントを提供してくれること。ディズニーランドは入園してから帰るまで夢の世界を提供してくれて、帰り道も魔法にかかりっぱなしというか、余韻がありますよね。ミッチーのライブもそうだったんです。会場に入ったときから、完全に魔法をかけてもらって。何というか、余白がないんですよね。向こうの世界にどっぷり引っ張られる感覚がすごく好きなんです。

それで私も、ファンの皆さんがお茶会へ来てくれたら、「私の世界に染めたい!」と思ったことから始まりました。皆さんが喜んでくれる姿を見るうち、調子に乗ってどんどんエスカレートして、一回失敗もしましたが。

――どんな失敗を…?

ある年の、ハロウィンの時期に開いたお茶会です。「明日お茶会だ!そうだ、ハロウィンのコスプレを入れなきゃ!」と思って、終演後に必死でドン・キホーテへ行って、ゴリゴリのコスプレ衣装を買ったんですよ。それが結構、肌の露出が多い奇抜な衣装で…皆さん引いていました(笑)。サプライズでコスプレして「ハロウィンです!」って登場したら面白いかなと思ったんですけれど、ちょっと間違えちゃいましたね(苦笑)。

――クリエイターのような心意気ですね。制作に関する仕事のオファーも増えるのではないでしょうか?

私に、何かそういうお仕事ありませんか(笑)?

でも本当に制作側に立つには、まだまだ勉強が必要です。同期の実咲凛音は「あんた、ほんま演出家なったらええやん」って言ってくれますけど(笑)。

セットリスト、MC、休憩…すべて考えるのが好き

――その実咲さんとは、10月29日(金)・31日(日)にジョイントディナーショー「My Dear Diamond」を開催します。この演出は、どのように決めましたか?

まずどんなディナーショーにしたいか、それぞれ紙に書き出すことにしました。2人で持ち寄って、演出家の三木章雄先生に出したのですが、実咲は「ディズニーソングを歌いたい」「こんな曲をやりたい」「こういう雰囲気でやりたい」など、シンプルに箇条書きで記していました。

それに対して私は、もう冒頭からセットリストを作り、ここにMCを挟む、ここで休憩、ここは要相談…と、完パケのように書いていて。そういうのを考えるのが好きなんですよね。三木先生は「2人こんなに違うのも面白いな」と言っていました。結局、ほぼ私の案をベースにして、実咲のアイデアを入れていきました。

――妃海さんと実咲さん、お2人の案で共通していることはありましたか?

だいたい似ていたのですが、具体的に一致したのは、「リベルタンゴを踊りたい」でした。宝塚でもよく踊る男女ペアのダンスで、1曲5分以上もあります。踊り終わった後はまるで血の味がするっていうくらい、しんどいダンスなんですが、それを一緒に踊りたくて。振り付けは、私たちの1つ先輩である風馬翔さんがしてくださいます。2人が頑張っている姿を、久々に皆さんにお見せしたいですね。

<こだわりの一着>轟悠さんのディナーショー鑑賞で着たドレス

私が宝塚に入る前から尊敬している、轟悠さんのディナーショーを観に行ったときに身に付けたものです。私は入団後に轟さんの相手役を務めさせていただく機会に恵まれ、そしてトップ娘役になるためにいろいろ教えていただき、まさに轟さんに“シンデレラ”にしていただいたと思っています。

ディナーショーって、おめかしをして行く特別な空間だと思うんです。そこで“シンデレラ”っぽいドレスを新調しようと思い、あちこち探し回りました。ガラスの靴とピアスもセットで買いました。ピアスは、星と月がモチーフです。轟さんはトップスター時代、雪組に所属されていたので、本当は雪の形が良かったのですが、なかなか見つからなくて。そこで、私が星組だったことと、月組元トップスターの真琴つばささんの大ファンでもあることから、星と月を選びました。

このフル装備で轟さんを応援しに行きましたが、改めて見ると全身キラキラすぎて、すごいですね(笑)。ディナーショーの前後で轟さんに直接ご挨拶したのですが、案外シャイな私は、特に洋服をアピールすることはありませんでした。でも、きっと想いは届いたと思います。

轟さんは今年の10月1日をもって宝塚を退団されてしまいます。もう寂しくて寂しくて…私のときめきは一体どこへ持っていけば…と切ない気持ちでいっぱいですが、本当に感謝しています。

最新情報は、下記公式サイトまで。
妃海風セルフプロデュースライブ「Magic of jazz II」
ジョイントディナーショー「My Dear Diamond」(東京公演宝塚公演

撮影:河井彩美