7月31日(土)の『週刊フジテレビ批評』は、「五輪ウラで“安全策”!?夏ドラマ辛口放談」の前編を放送した。

今クールの夏ドラマは、刑事もの、医療もの、ラブコメが多く並ぶ。

そんな各局ドラマを、ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、ライター・吉田潮氏、お笑い芸人の橋爪ヨウコ(こじらせハスキー)というドラマ通たちが、忖度ナシに斬った。

まずは、今期の傾向を木村氏が解説。

木村:やはり東京オリンピックということで、通常より見てもらうのが難しい中で、プライムタイムについては、刑事、医療、ラブコメが、ひとつ(のドラマ)を除いて集約されているんですね。いわゆる”安全策”という感じの作品が多いわけですけれども、オリンピックが始まる前に、2、3話放送しておきたいという思惑があるので、スタート時期が異例の早さなんですよね。月9(『ナイト・ドクター』)なんて、6月に放送が始まっている。すごく珍しいことですね。

『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』は、若く年の近い女性同士のバディものが新鮮

その中から、各人がイチオシドラマを2作セレクト。まずは梅田氏、吉田氏、橋爪の3人が挙げたのが、ワケあり元エース刑事の戸田恵梨香と、天然新人の永野芽郁が繰り広げる、やけにリアルな交番エンターテインメント『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ)。

梅田:これ、おもしろいです。若い女性同士のバディものって新鮮ですし、年の近い先輩が後輩を育てるっていう。一般社会ではまっとうなアプローチなんですけれども、ドラマでは意外と描かれてこなかったかなというところで、とても見応えがあるんですよね。世界観も若々しいですしね。この世代ならではの、やさしさとかチームワークというのもきちんと描かれている。で、交番業務に意外と詳しくて、家宅捜索の手伝いとか、検視の補助とか。その交番業務から見える人間模様が、キラキラしたドラマになっていて、おすすめです。

吉田:だいたい”女バディもの”って、おばさんが(年下の女子を)小娘扱いしてケンカする、みたいなので描かれがちなんですけど、この2人がすごくいいんですよ。年が離れてないっていうのももちろんあるんですけど、戸田恵梨香が、まず先輩として、やさしくて、厳しくて、美しくて、おもしろくて。そして、組織に対してちゃんと“絶望”を持っている。ここが、すごく重要な気がするんですよね。今期(のドラマが)ヒドい中で、『ハコヅメ』くらいしかないかなと思って入れてるんですけど(笑)。

橋爪:私、戸田恵梨香さんが、女優さんで一番好きなんです。『野ブタ。をプロデュース』(2005年/日本テレビ)のときから、ずっと大好きで。そこに、刑事ものとして『あぶない刑事』(日本テレビ)と『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日)以来、こんなにハマったのは久しぶりだったので、毎週楽しみにしています。

吉田:だいぶ(期間が)空いてるよ。

一同:(笑)

木村:(おすすめに入れなかったけど)「この次に来る」くらいでいいと思っていまして。普通の刑事ドラマだったら、ただの安全策なんですけど、これは交番で女性バディというところでちょっと変化をつけていて、刑事ドラマと呼んでいいかというくらいのユルユルの世界観なんですよね。コロナ禍で、オリンピックもやっているという時期に、このユルさがちょうど合っていますし、そこに人気俳優をギューッと詰め込んでいるんですよね。そのバランスの良さもいいなと。

オリジナルできっちりラブコメを作ってきている『推しの王子様』

木村が挙げたのは、比嘉愛未が、渡邊圭祐を理想の男性に育てるため奮闘する逆“マイ・フェア・レディ”な日々を描く『推しの王子様』(フジテレビ)。

木村:フジテレビは、月9も木10も、1年以上オリジナルをやってなかったんですよね。僕は、この辛口放談で、いつも「オリジナルを作らなきゃダメだ」と言っていて、やっと作ってくれたと思ったら、今度は出演者の交代(主役が深田恭子から比嘉愛未に交代)があってと、逆境にある中で、それなりのクオリティを出しています。オリジナルにしてはよくやっているというのがありまして。

まあ、キャリアウーマンがポンコツ男子を育てるというのも、ありそうでそんなになかったところですし。もうひとつは、ポンコツの部分できっちり笑わせられているので、ラブコメとしてハマっているんですよね。ここにいる4人はわからないですけど、もう少し下の世代にウケてほしいなという期待もあります。これを、きっちり作ってきたというところを評価しなきゃいけないかなと。

橋爪:私は、今、お仕事ものみたいになっているところが好きなんですよ。1、2話を見たときに、「恋愛で行くのかな」と思ったんですけど。私、女性がお仕事頑張っている系がすごく好きなので、この感じでいくのであれば、「私が好きな感じだな」と。

吉田:まあ、“王子様”って言われてもねぇ。なんか、反応しにくくなっちゃってね、もう加齢が進んだから。

一同:(苦笑)

吉田:ただ、王子様、おディーン様(ディーン・フジオカ)がいるよね!おディーン様の方が王子様じゃないかっていう、私の中では思いがあって、最後まで見続けようかなとは思っています。

梅田:面白いです。深キョン(深田)の代役を引き受けて、比嘉さんのキャリアウーマン像っていうのが、しっかりしていますよね。だからこそ、乙女ゲームとか、私の王子様とか…そういう、深キョン仕様の、シュガーパウダー的なセリフの数々が、ちょっとハマらない感じがするのが(笑)。そこの微調整をしてあげると、もっと見やすいのかなという感じがします。

渡辺アナ:新美さん、このドラマ…。

新美アナ:はい。渡邊さんが演じる役が、少しポンコツで育てていくという楽しみは、私も共感できるところがある。“推しを応援したい”という。その育て欲というのを満たしてくれていて、かつ女性は女性で頑張り続けることの大切さみたいなことを…。

橋爪:お金があったら、ツバメを飼いたいみたいなのは、すごくわかります!

新美アナ:ツバメかどうかは…(笑)。人間誰しも欠点はあるけど、それを変えていくことはできるよっていう見方も、今の時代に合っているなと。「スタートはいつでも切ることができる」という良さに、私はハマっています。

渡辺アナ:新美さんが「ワタナベ、ポンコツ」と言うのを聞いて、私ちょっとドキッとしましたが。

一同:(笑)

吉田:育てて~(笑)。

『シェフは名探偵』は、すごくいいドラマなのに編集がウザい!?

梅田氏がおすすめしたのは、フレンチレストランのシェフである西島秀俊が、人並み外れた洞察力と推理力で、訪れた客たちが巻き込まれた事件や不可解な出来事の謎を解くグルメミステリー『シェフは名探偵』(テレビ東京)。※8月2日で放送は終了。

梅田:イチオシなのでぜひ!ということで挙げさせていただきました。来た人に、ちょっとした幸せを起こすビストロの話なんですけれども。お客さまが、心のトゲみたいにずっと悩んでいたことを、シェフが料理の視点から、「いや、それはこういうことだったんですよ」という謎解きをしてくれるんですよね。で、その人の人生がちょっと軽くなって一歩踏み出すという、きれいな世界観があって。1話完結で見やすいです。あと、ビストロの4人のチームワークが最高なんですよね。

最近のドラマって、やたら登場人物が多すぎたりするので、4人プラスゲストのお客さまという、このワンシチュエーションの世界が、見やすくてほっこりするんですよね。今、飲食店やレストランがしんどい状況にありますけれども、本来、人間交差点で素敵な場所だよねというのを、改めて感じられる作品です。

吉田:すごい、いいドラマで、役者の使い方もいい。ただ、一点だけ、編集がめちゃくちゃウザいんですよ。カッカカッカ切っていく、あのカットのやり方が、本当に私は大嫌いで。あれは、役者を殺してしまうと思っているんです。そこだけ、すごく唾を吐きながら文句を言いたい(笑)!

木村:この枠のひとつ前の作品の『珈琲いかがでしょう』もそうだったんですけど、すごく力の抜けた世界観なんだけれども、よく見ると結構深いんですよね。なので、「この路線で行ってほしいな」と思わせる作品…でした、という感じです。

『漂着者』は、めちゃくちゃ攻めているが、ネットの考察班をバズらせるためのコンテンツか

“安全策”なドラマが並ぶ中、木村氏、吉田氏が推したのが、秋元康が企画・原作・脚本、斎藤工が主演の『漂着者』(テレビ朝日)。

木村:ほかが、あまりにも安全策で行っている中で、これはめちゃめちゃ攻めてるんです。主人公がヘミングウェイって、もう意味がわからないですよね(笑)。記憶喪失で予知能力があるのかないのか、さらにSNSでバズって神としてあがめられるという展開なんですよね。

渡辺アナ:SNSを意識して…。

木村:そうですね。やっぱり、現代性も入れながら、よくわからない話、「次どうなっていくんだろう?」という連続性をうまく使っているので、おもしろいです。

吉田:私は、斎藤工の全裸待ち!でした。最初、海辺で全裸で倒れているんですよ。それを待っていた…っていうのと、ちょっと心配なのは、すごく新しいんですけど、秋元康の作るドラマって、最初のツカミはOKでも、大抵中だるみして尻すぼみになる。

木村:最終回の翌日に荒れるんですよね。

吉田:そうそう。まあ、それも含めてのお祭り的なドラマという意味では、私は全然大賛成なので、挙げました。

梅田:私は…すいません(笑)。まったくハマりませんで。まあ、ようするに、超能力とか遺伝子工学とか、カルトっぽい世界観とか、もうネットの考察班をバズらせるためのコンテンツかなっていう感じがしますね。ネットを中心に「この人が犯人じゃないか」とかって盛り上がる…。私はノーサンキューなんですけど、ただ、ジャンルとしては、攻めていていいと思います。

橋爪:私はノー考察班で、ちょっとまだハマってないんですけど、でも最後まで見届けたいなと思っています。

新美アナ:伏線も多いので、あとで見返して、考察したいと思えるドラマかもしれませんね。

まだまだ注目作が並ぶ今クール。後編は、8月7日(土)に放送。

「五輪ウラで“安全策”!?夏ドラマ辛口放談」前編は、FODにて無料配信中。