想像してたのと、全ッ然、違う!!!

40歳の行き詰った冴えないOLが主人公…

自分を変えたい!と熟女バーに飛び込む…

そこには50代から80代までの超高齢先輩ホステスたちがいた…

って、ここまでが自分が事前に仕入れてたあらすじ(原作は未読)。

で、主演の池脇千鶴さんを囲む熟女ホステスが、久本雅美さん、中田喜子さん、草村礼子さん、草笛光子さん…おまけにボーイが品川徹さんって…、あまりにゴージャス&グッドチョイスだし、なぜだか“アベンジャーズ”的な集結感と大迫力も感じるそうそうたるメンバーだし、それに加えて、この放送枠!!だし…。っと言うのも、創設の2016年からどんなドラマが繰り出されるのか最も読めない枠で、毎回どういう企画会議がとりおこなわれてるのか想像できない…でお馴染みの「オトナの土ドラ」ですよ!?そりゃあ前作が“「土ドラ」の良心”『さくらの親子丼』だったこともあって、何事もなく、すまし顔(?)してますけど、昨年の主なラインナップが、爆裂ホームクレイジー『パパがも一度恋をした』(2月)、アットホーム&クレイジー『隕石家族』(4月)、血しぶきorクレイジー『恐怖新聞』(10月)と、どれもクレイジー(“どうかしてる”ってのももちろんあるけど、“夢中” “大好き!”って意味もありますよ?)が付きまとう、超ハイテンションラインナップだったもんだから、「オトナの土ドラ」ד熟女”…いやこれ、やばいな。“熟女クレイジー!”見れるぜッ!!と、発表時、一人で勝手に色めき立って、この試写室を楽しみに待ってたわけですが…。とんでもない!!(そらそうです)

原作漫画をご存じの方はもちろんおわかり。全く、そんな、熟女クレイジー!なドラマじゃあございません!!いやそもそも“熟女クレイジー!”ってどんなドラマだよって話なんですがね…。

っとそんな僕のどうでもいい事前予想はいいとして、このドラマは、行き詰った冴えない40歳のOLが、自分を変えたい!と熟女バーに飛び込み、先輩ホステスたちと出会ったことで、女性として、人として、再び大きな一歩を踏み出す…。そう!“シンデレラストーリー”なんです!!久々になんて全うな“オトナ”の土ドラ!!(失礼)

そして通常のありがちなシンデレラストーリーだと、冴えない主人公でも、ちゃんと“若さ”はあって、その若さというポテンシャルでもってすべてを軽快に乗り越えていくから爽快感が残るんだけど、こちらの“シンデレラ”は、行き詰ってる40歳なもんだから、とてつもない哀しさがまずあって、そっからきらびやかな世界、しかもかなり特殊な“きらびやか”へと突入していくので、爽快感はもちろん、その中に“哀愁”がずっしり乗っかかってくるというこれまで味わったことのない、深み満載のシンデレラストーリーを味わうことができます。

またそのきらびやかな世界=“熟女バー”を訪れるまでの冒頭の描写が秀逸なんです。行き詰ってる冴えない40歳の主人公っていったって、“熟女バー”のホステスになるんですよ?どうしたって飛躍しすぎ、無理が生じるじゃないですか。なんだけど、それを、“40歳の誕生日”、“届いたハッピーバースデーメール”、“日焼け止めとファンデーション”、“防寒重視のジャンパー”、“汚れたぺったんこ靴”、“所持金3000円”、“ウザイ元カレ”、“あり金つぎ込んだ宝くじ”…などなど、哀しいディテールの積み重ねとともに、超高齢熟女バー「OLD JACK&ROSE」の扉を開くまでを、丁寧に丁寧に描いていくもんで、それがすごく哀しくて、だけど素敵で、今後繰り広げられるであろう様々なドラマを予感させる…高揚感がジワジワと高まっていく…そんなシーンに仕上がっているのです。

でもって、僕世代=38歳のテレビドラマっ子の池脇千鶴さんといえば、そう!『リップスティック』(1999年の月9)の真白ちゃん(役名)、ピュアで真っ白な心を持つから真白(ましろ)ちゃんですよ。義父から性的暴力を受けていた少女がその義父にケガを負わせ少年院に収監…だけど出所直後、再び義父から性的暴力を受けてしまい、意識朦朧となり、カーテンをドレスに見立て“空を飛べるかもしれない”と羽ばたいていく…あの真白ちゃんですよ。その時にかかるレベッカの「ヴァージニティ」の歌詞と、その状況が見事にリンクして、映像も美しくて、高校1年生だった僕はVHSに録画してたあのシーン(第11話のラスト)、何度見返したことか…。ってついつい物思いにふけってしまったわ…。そうだ、そういえば、真白ちゃんのお母さん、スナックのママだったっけ…。なーんて、あの“真白ちゃん”の思い出とともに大人になった僕は、40歳になって生きづらさを覚え、かつ熟女バーのホステスになる主人公、それが池脇千鶴さんっていう時点で、もう開始数秒から感情移入しまくってたんですけどね…。とはいえ、そんな邪念がある人はもちろんだけど、そんなこと関係なく、主人公の“哀愁”をとてつもなく克明に演じる池脇千鶴さんの、タイトルが出て来るまでのプロローグ、必見です。

そして「OLD JACK&ROSE」で働く面々が個性豊かで、美しくってかわいいので、歳をとる…いや、歳を“重ねる”ことの素晴らしさを味わえるポジティブさがあるドラマではあるんだけど、“熟女バー”がただの飛び道具、キャッチー先行なだけではない…という“予感”を残しているのも見逃せないポイント。冒頭の故郷の駅に降り立つ場面で、その地が福島・会津で、現在の日本のよう…つまりマスク姿の主人公で、終盤ちょっぴり描かれた、バーは終戦直後の混乱期に立ち上がったという歴史…。過去と現在、戦争と震災、そしてコロナ…。そんなほんの少しずつだけど見え隠れする“リアル”がドキッとさせ、ただただ年を重ねることは素晴らしい!という人生賛歌だけでは留まらない?…よね?…という部分がさらに視聴意欲を高めてくれます。

あ、だけど、冒頭、いきなり登場する主人公の弟が、前作『さくらの親子丼』の、にっくきアイツ…真由子ちゃんのお兄ちゃん(詳しくはFODで前作をチェック!)を演じた金井浩人さんだったから、ちょっとサイコパス感を勝手に感じてしまってドラマのド頭から、どんな修羅場待ってんの…、って別角度からドキッとしちゃったよ。

っというそんなまたしても余計な邪念は置いといて、40歳の主人公が素敵なオトナたちに囲まれ、人として女性として美しくたくましく成長していくシンデレラストーリーと、そこで待ち受ける(であろう)“リアル”を、どのように物語へ落とし込んでいくのか…、じっくり楽しめそうな作品になりそうです。

text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)